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壊れないように
ケントは長尾の存在が気になって、いつもならありえないミスが続いていた。
このところ父である親方からの視線が気になるどころか、八つ裂きにされそうだ。
そんな日が続いていたが、秋が終わりに向かう頃長尾が店に寄らなくなった。
暫くケントは安堵して魚の血抜きとうろこ取りに集中ができる。
理由ははっきりしている。
秋季キャンプが始まり沖縄に行ったからだ。
家にいないから宅配もしない。
ケントが宅配を届けに長尾の家へ行くと、よく女性がインターホン越しに対応し扉を開けてくれた。
同じ人が続いたり、違う人だったりした。
その後に長尾が宅配を受け取りに出て来たが、特に動じることも無く、いつもありがとうと微笑む。
あれだけの有名人なら、向こうから寄って来るのだろう。
それでも、ケントには軽く淫らに思えた。
だから、長尾が店に来てゆうの姿を追っていることに気づいた時。
どこからとも無く湧き出した怒りにも似た感情に下唇を噛んだ。
けれどこの感情は長尾に対する怒りだろうか。
「どて煮をお願いします」
ゆうが注文を厨房へ伝える。
親方や職人に負けじとケントも声を張る。
「あいよ!」
ぐつぐつ煮込まれた鍋から器によそいながらケントは、無垢な笑みで日本酒を運ぶゆうを守ることが自分の使命のように思えた。




