表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

体育館

「くそ! 電気はついているのに、鍵がかかってるじゃねぇか!」


 一番にたどり着いた力也が、体育館の大きな扉をガタガタと揺すった。


「乱暴するな。扉が壊れる!」

「壊れるんだったら壊してやるよ!」


 力也と曽我がもめているあいだに、神園が追いついた。

 息を切らせながら、ふたりに声をかける。


「待って待って。体育館の鍵はあるから」

「早く貸せよ! トロいな!」


 暴言とともに、力也は、神園が差しだした鍵を奪うように取りあげる。乱暴に開けると、鍵を差しっぱなしのまま扉を開いて、ずかずかと中へ入っていった。


「どこだぁ! 隠れてんだろ? 出てこい!」


 力也の声はアーチ形の天井に反射して、大きく響いた。

 きれいな列に並べられたパイプ椅子のあいだを、力也は周りを見回しながら突き進む。周囲を気にせずに歩く力也の腕や足にあたって、並んでいた椅子が乱れていった。

 その後ろを曽我が、ずれた椅子をガタガタと元の位置に直しながらついていく。


「佐々木、電気はついていたが、ここにはもう誰もいないと思うんだ。ほら、鍵もかかっていたし。明日の準備も終わっていることだし、もう、ここから出よう」

「うるせえ! 電気がついてんだから、それまで誰かがいたんだろ? まだいるかもしれねぇだろうが!」


 曽我の言葉に耳を貸さず、力也は体育館の一番前までやってくると、両脇にある階段を使わずに、真ん中からステージの上へ身軽にのぼった。そして、何気なく移動式の演台をのぞきこんだ力也が、声を呑みこんだように目を見開いた。

 演台の表面へ、直接チョークで書かれた文章に目を通した力也は、右手を振りあげると、こぶしを作ってドンと叩く。


「舐めやがって!」


 階段を使ってステージに上がった曽我が、慌てて力也の手もとをのぞきこんだ。力也のこぶしでかすれたところがあるが、演台の表面に書かれた文字を、声にだして読みあげる。


「わたしは、遊びという名目で追いかけられた。遊びだったら許されるの? ――これ、どういう意味だ?」


 ようやくステージ上まで追いついた忠太や栞や鈴音、そして神園が、首をかしげた曽我の周りに集まって、演台の文字をのぞきこんだ。

 曽我が読んだ内容が、演台の中央に小さな文字で書かれている。ほかに、宛名や書いた者の名前など、なにも書かれていなかった。だが、あの放送の内容を考えると、無関係ではないだろう。


「バカにしやがって。絶対に捕まえてやる」


 力也は親指の爪を噛みながら、ステージの上からなにか痕跡はないかと睨みつけるように全体を見回す。

 ふと、栞は不安を覚えた。この言葉にしろ放送にしろ、ただ力也を煽るためにだけ、行われている気がしたからだ。それをする七奈美の成りすましは、なにが目的なのだろう?


「――力也くん。わたし、この挑発に乗らないほうがいい気がする。曽我先生も、放送室の録音テープが手に入ったら、力也くんに渡してくれるって言ったんでしょう? だったら、もう帰ったほうが」

「うるせえ! 関係のない奴は黙ってろ!」


 力也の怒号に、栞は首をすくめて身を縮めた。神園がかばうように、そっと栞のそばに寄って肩を抱き寄せる。

 その様子に、力也がイラつくように舌打ちをすると、鈴音がため息とともに口を開いた。


「でも、力也さぁ。七奈美の成りすましを探すあてはあるの?」

「さっきまで、放送室に仕掛けたりしゃべったりしているし。まだ校内にいるんじゃないかな。ねえ、力也さん」


 鈴音の疑問に答えた忠太の言葉に、力也が言い放った。


「――しらみつぶしで、探しだす!」


 力也は神園へ近づくと、ヌッと手のひらを前に突きだし、脅すように口を開いた。


「先生、ほかの鍵も持ってきていたよな。ほら、全部、こっちに寄こせ」

「え? でも」

「寄こせって言ってんだよ! ぐずぐずするな!」


 力也は、恐る恐る差しだした神園の手から、持っていた残りの鍵を、ごっそりすべて奪った。そして、ステージの真ん中から飛び降りると、入ってきた扉へ向かって駆けだした。


「佐々木、待て!」


 力也のあとを、曽我が追いかける。

 そして、不満な表情を浮かべた忠太と鈴音も、仕方がなさそうにあとに続いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
a0139966_20170177.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ