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運動場

 校舎の外へ飛びだしても、スピーカーからの歌声はかすかに続いている。


 放送室の窓の前まで走った栞と鈴音と忠太だが、意外にも、まだガラスは割られていなかった。力也と曽我の姿も見あたらない。

 外は夕焼けが終わり、空の遠くの端から徐々に、暗闇が迫ってきていた。


「あれ? もしかして、放送室の窓側にくる予想が、はずれちゃった?」


 呼吸を整えながら、栞は鈴音たちへ声をかける。


「やだぁ。なんで、よけいな体力を使わなきゃいけないのよ。もう! 栞ったら、しっかりしてよ」


 不機嫌そうに、鈴音が栞を非難する。栞こそ、ついてくるだけの鈴音に、しっかりしてと言いたいところだ。

 そのあいだに、運動場のほうを見回していた忠太が、なにかを発見したように、桜の木がいくつも植えられている、閉ざされた裏門のあたりを指さした。


「あそこ、先生と力也さんじゃないか?」

「あ……。本当だ、先生と力也くんっぽい。なにをしているんだろう?」


 栞は、なにかを探し回っているようなふたりを、遠目に見る。だが、すぐに、ここへ来た目的のひとつを思いだした。


「そうだ。放送室の中! 誰かいた?」


 いまも歌声が流れている。

 栞は慌てて、ガラス窓に両手をあてて、外から放送室の中をのぞきこんだ。


「――誰もいないね」

「それじゃあ、放送を流した犯人は、やっぱりテープかなにか録音しているものを、流しっぱなしにしているわけかなぁ」


 鈴音も栞の横から、放送室の中を眺める。

 放送室の機械を見ても、使い方のわからないふたりは、眺めている位置からは、どれにテープを入れて放送を流している機械なのか見当もつかなかった。


 放送室の中をのぞいているあいだに、力也と曽我が戻ってきた。


「窓を割るのに、手頃な石や棒が落ちてねぇんだよ!」

「ぼくが校長に怒られてしまうから、ガラスを割るようなことはだめだ」

「うるせぇ! 割るったら割るんだよ!」


 ふたりが言い合いながら近寄ってくる様子に、栞たちは状況を察した。

 どうやら力也が窓ガラスを割るために、石や棒を探しに行って、それを曽我が止めようとしているらしい。だが、曽我の制止は、まったく効果がないようだ。


「ねぇ。たとえば運動部の部室なら、バットとかラケットとか、割れそうなものを置いているんじゃないかなぁ?」

「あ、そうか。部室」


 思いついた鈴音の提案に、力也が、ポカンとした表情となった。

 慌てたように、忠太が会話に割って入る。


「鈴音さん!」

「え? あ……」


 鈴音は、うっかり力也に情報を与えてしまったと気づいたようだ。

 口もとに手のひらをあてて、しまったという顔をした。


「バットか……。野球部も、ほかの部と同じところにあったよな」


 すぐに向かおうと、力也が視線を巡らす。

 懇願するように、曽我が力也の両肩に手をおいて引き留めた。


「佐々木。きみが放送の音声にこだわる理由がなぜなのか、ぼくにはよくわからない。だが、放送室の鍵が開いたら、音声は一番にきみに渡すから!」

「いま! たったいま! ここから放送室に入って、ぶっ潰したいんだよ!」


 制する曽我の手を、あっさり振り切ると、力也は部室へ向かって走りだした。振り払われた曽我も、すぐに追いかける。つられて、栞も鈴音も忠太も、あとをついて駆けだした。


 その瞬間。


 かすかな歌声に乗って、小さくも可愛らしい声がスピーカーから流れた。



『佐々木力也くん、なにしとん? わたしは、ここやで?』



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