表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/34

裏切りと逃走

 力也と曽我は、校舎の外へ出て、中庭を歩いていた。

 そのあとを、忠太と英二、そして栞も、仕方がなさそうについて回る。


 放送室には、もう犯人は戻ってこないだろうと、全員が勘で一致する。そこで今度は、全員そろって、しらみつぶしに捜していこうと力也が提案した。力也の提案は、そのまま命令でもある。

 預かった鍵の束を手に、曽我は、乱暴に植木の葉を蹴りながら奥をのぞきこんでいる力也へ告げた。


「あんまり植木を蹴るなよ。枝が折れたら、それこそ修復できないんだから」

「うるせえな。わざと蹴ってんだよ。隠れているかもしれねぇだろ?」

「いや、しかし」

「徹底的に探すんだよ! 思いだしたんだ。一年前の遊びでも、七奈美はきっとどこかに、うまく隠れていたんだ。だから捕まらなかったんだよ。あのころは考えたら、校内ばかり探していて、外は全然見回っていなかったんだ。今日は、なにがなんでも見つけだす」

「しかし、佐々木、聞いてくれ。お願いだ。明日は卒業式なんだ。これ以上、もめごとや事件を起こしたくないんだよ」

「今回は、あっちが仕掛けてきたんだ。売られた喧嘩は買う主義だ」


 調子に乗ったように力也は言う。

 喧嘩を買うことを格好いいと思いこんでいる力也に、曽我は小さなため息をついた。

 無理だと思いながらも、曽我はもう一度、力也を説得しようと考える。


「なあ、佐々木。これ以上、犯人を追いかけていると、一年前の事件が掘り起こされて、警察が絡んでくるんじゃないか? いっそのこと、このまま全員帰って、うやむやにしてしまったほうがいいんじゃないか?」

「うるせぇ。先生は黙ってみてろよ。これだけコケにされて、帰れるわけないだろ」


 そして、力也は曽我を、じろりと睨みつけた。


「女だろうが、絶対ボコる。ただじゃ済まさねぇ」


 そういうと、幹が太く大きな木を、靴裏で思い切り蹴った。ガサガサと葉を揺らし、何枚か、ひらひらと葉が舞って落ちた。小さく舌打ちをしたあと、力也は横柄な態度で、曽我に命令した。


「ほら、先生。次行くぞ、次」

「わ、わかった」


 仕方がなさそうに、曽我も歩きだそうとしてから、ふとなにかを思いだしたかのように、力也のほうへ振り返った。


「ああ、そうだ。ぼくは、神園先生と衣川の様子を見てこよう。ほら、向こうは女性ばかりだし。ここからは、きみたちだけで回ってくれないか」


 一気に口にすると、そばにいた栞へ、自分が持っていた鍵の束を押しつけた。


「え? ちょ、待って、先生?」

「待てよ! 先生!」


 鍵の束を渡されて、栞は戸惑った。忠太と英二も呆気にとられた顔をする。

 そのそばで、脱兎のごとく身をひるがえし、きた道を戻るように駆けだした曽我へ向かって、力也が怒鳴った。


「逃げる気か? 先生よぉ。俺の言うことが聞けねぇのか?」


 だが、すぐに曽我が、暗闇へ姿を消すと、力也が馬鹿にしたような笑い声をあげた。


「曽我の奴、ついにビビッて逃げやがった」

「先生に向かって、その口の利き方はよくないと思う」


 栞が恐る恐る、力也に小さな声で苦言を呈した。

 逆らう彼女に怒りをぶつけるかと思われたが、予想を裏切って、力也は静かに体ごと栞へと向く。そして、力也が可笑しくて我慢ができないといった表情をしてみせた。


「いいんだよ。俺は、曽我の弱みを握ってんだから。バラされたくなきゃ、俺に指図はするな、言うことを聞けって脅してたんだよ」


 その言葉に、栞は驚いた表情を浮かべた。それが面白かったのだろうか。力也は調子に乗って続けた。


「ああ、でも、いま曽我は俺の命令を無視して逃げだしたな。もう曽我の秘密をバラしてもいいってことだ」


 そして、少し栞のほうへ、傾けるように体を寄せる。反射的に首を竦める栞の耳もとで、力也はささやいた。


「一年前の噂、女子生徒と付き合ってる教師のあれな? 付き合ってる教師のほうは、曽我なんだよ」


 そう告げられ、思わず栞は声にでた。


「嘘」

「本当だって。俺はたまたま、曽我が高校無関係の酒の席で、大声で吹聴しているところに居合わせたんだ。そしてすぐに、その場で曽我を問い詰めた。あっさり認めたぞ。それから、曽我は俺の言いなりだったんだがな」

「――噂、本当だったんだ……」


 栞はショックで、呆然とする。

 そんな彼女を、力也は面白そうに眺めた。


「曽我の奴、付き合ってる女のほうが、七奈美だったのかどうかは口を割らなかったけどな。七奈美ももう、いなくなった後だったし。でも、あの様子じゃあ、七奈美だけじゃなくて、数人の女子生徒に手をだしてるかもな」


 そこまで言って、力也は唇を笑いの形に歪ませると、思考停止をしている栞の手から、鍵の束を奪った。そして、中庭の先へ向かって歩きだす。


「逃げた曽我の処分は、後回しだ。放送室の録音を手に入れてから、おおっぴらにバラしてやるよ。ほら、さっさと次を見にいくぞ」


 力也は、忠太と英二を引き連れて、どんどんと先へ進む。

 栞は逡巡したが、ひとりきりになるのは危険だと判断して、彼らのあとを追った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
a0139966_20170177.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ