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事件の手掛かり

「やっぱり、七奈美が生きているのよ!」


 急に鈴音が、金切り声で叫んだ。

 数歩、皆から距離をとるように後ろへさがりながら、一気にしゃべる。


「七奈美しか知らなくて、七奈美しか使わない名前で呼ぶんなら、それって七奈美じゃないの? 七奈美が、あたしらに復讐するために、ここへ、学校へきてるのよ!」

「復讐って、なんだ? 思い当たることがあるのか?」


 険しい表情で、曽我が鈴音に近寄った。

 とたんに、鈴音が曽我を親の仇のように、ぎりっと睨みつける。


「触らないで! アンタには近寄ってもらいたくないわ!」

「衣川! 教師に向かって、その口の利き方はないだろう!」


 言われた曽我も、感情的に声を荒げる。

 詰め寄ろうとしたとたんに、曽我は力也に、二の腕をつかまれた。


「曽我ぁ! 鈴音に近寄るんじゃねぇ!」

「――おまえたち!」


 あとの言葉が続かなくなるくらいに、怒りで曽我は口がわなないた。

 ハッと我に返ったように、神園が慌てて止めにはいる。力也と曽我を引き離し、その真ん中に立ってなだめた。


「みんな、落ち着きましょう! ね?」


 遠巻きになって眺めていた栞と忠太、それに英二が、明らかにホッとした表情になる。

 だが、力也はおさまらなかったようで、曽我に向かって怒鳴るように言い切った。


「とにかく! 俺は、帰らねぇ! こんなことをしてる理由だあ? そんなもん、犯人を捕まえてみりゃわかることだろ? まだ校内にいるって言ってんだ。俺はとことん、犯人を追い詰めるからな!」

「そう、このまま、犯人の挑発に乗って、遊び――ヲワイを続けるということね?」


 おずおずと、神園が皆の顔を見回しながら切りだした。


「だったら、手掛かりが必要なんじゃない? やみくもに校内の中を、ひとりの犯人――女子生徒でしょうか、を追いかけるって言っても、ね……」


 そのまま、少し考える表情になる。やがて、曽我へ向かって口を開いた。


「当時のことを知らない立場だからでしょうか。私、思うんですけれど。その、一年前に七奈美さんが飛び降りをした原因って、今回の遊びと関係があるんじゃないでしょうか」

「なんだと!」


 神園の言葉に、横から力也が噛みつくように反応する。

 その剣幕におののく表情を浮かべながらも、神園は小さな声で続けた。


「えっと。だって放送を聞いていても、その遊びにこだわっている感じがするから。普通に考えて、無関係じゃない気がしますし」


 そのとき、栞が声をあげた。


「わたし、気になっていることがあるの。鈴音に聞いてもいい?」


 話の流れを止めた栞に、皆の目が向く。

 力也は話題が代わったことで、神園につかみかからんばかりの勢いをひっこめた。


「――なによ」


 嫌そうな顔をして唇を尖らせながら、鈴音は返事をする。

 栞は、ちらっと神園や曽我、ふたりの教師の顔を見てから、話を切りだした。


「わたしね。一年前、七奈美が学校内で、教師に迫って交際をしているって噂を聞いたの。その噂を消すために、鈴音が教師と付き合っているって噂を七奈美が広めて、怒った力也くんが、七奈美へ教室で怒鳴ったよね。それは、わたしも教室にいたから見ていたけど」

「ええ、そうだったかな」


 視線をそらしつつも、鈴音は少し開き直った感じで返事をする。

 栞は、そんな鈴音に疑問を呈した。


「でも、それぞれの噂になっていた教師って、結局誰だったのかわからなかったよね? 鈴音、あなたは自分自身のことになるんだけど、噂に関して本当にそれ以上のこと、知らないかな?」


 鈴音が口を開く前に、曽我が会話へ割りこんだ。


「安藤。いまここで、噂の内容は関係ないんじゃないかと思うが? ただの噂だろう?」


 そう口にした曽我へ、今度は神園が問う。


「曽我先生、私は今年からなので、知らなかったのですけれど。去年の噂が立った時期に、職員室で、その話題って問題になりましたか?」

「いや。大きな問題になっていないな」


 曽我はすぐに返事をしたあと、少し考えながら、補足するように言葉を続けた。


「生徒のあいだで流れただけの噂だから、実際に、そんな教師がいたわけじゃない。ただの噂だ。ただ職員会議のときに、誤解されるような振る舞いをしないようにと、教職員全員に通達されたくらいかな」

「そうなんですね」


 その様子を想像できたのか、納得したように神園はうなずく。

 だが栞は、引っかかりを感じた表情のまま、その場にいる全員に向かって言った。


「でも、その噂が原因で、七奈美はクラスから孤立したのよ。それに――そのあとで七奈美は、自分から遠ざかるようにって、わたしに言ったの。巻きこみたくないって。ただの噂くらいなら、そんなことを言わなかったんじゃないかなって、いまなら思う」


 栞は、声のトーンを落としてつぶやいた。


「もしかしたら、そのとき、なにかわたしの知らないことが起こっていたのかもしれない気がして……。七奈美が生きているのか、誰かが成りすましているのかわからない。けど、その真実を明らかにしたいって思っている誰かが、ここにいるのよ」


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