日曜の朝
パスタを打つ音が、心地よくまどろみの中に響く
隣の食事亭の主人は日曜でも、いやだからこそ朝から忙しいようだ
鼻腔をくすぐるのは、一滴のカプチーノがカップに落ちる時の香り
何も予定がない、日曜日の朝
柔らかな毛布が、僕を二度寝へと誘う
寝返りをうつと、幸せから漏れるうめき声が喉を震わせた
肩までずり落ちた毛布を首まで引き上げると、二度寝という甘美な響きに身を沈める
うとうとしていると、隣の家の赤ん坊の鳴き声が僕の意識を覚醒させた
最近、赤ん坊の声や姿に気を引かれてしょうがない
それらは僕の胸の奥に黒いものを注いだ
簡単に言えば、羨望と嫉妬
だが、この気持ちがそんな簡単な言葉で表せられないことは、僕が一番知っていた
家内に対する愛、家族というものへの憧憬
それらが全て合わさると、簡単おいしい、この気持ちが出来上がる
色とりどりの絵の具が、混ざると真っ黒になるように
赤ん坊をあやす女性の声は、やけに甘ったるい
フィナンシェの響きを帯びた子守唄に終わりはない
無条件の愛のキスが、赤ん坊の額の上に落とされる
泣き声はやがて、絶対の安心に包まれた寝息へと変わった
誰かが、階段を上がってくる音がした
寝ている僕を気遣う、優しい家内の足音だ
足音のリズムが、昨夜二人で刻んだ旋律を思い出させる
控えめにドアをノックする手は、真珠のように白いはず
僕を呼ぶ、穏やかな声がした
ドアが開かれ、ローリエの葉の香りが寝室に広がる
重い瞼を持ち上げると、大きなグリーンの目が僕を覗き込んでいた
おはようと目を細める彼女は、世界で最も美しい
昨夜の続きをしないかと、思わず僕は問いかけた
途端に赤らめられた彼女の頬
お互いの存在を確かめ合うように、僕らは肌を重ねあう
神よ、どうか私たちに
きっと僕らは、今日も同じことを願うのだろう