ユリとアウリドの街 居酒屋でひと悶着
朝が来て、ばたばたと宿を後にした。何故か皆爆睡してしまい、寝坊したのだ。
アレイスターだけは明け方に寝たのでまだ寝たりないが、だるい体に鞭打って用意をした。
リリーが慌てて宿にお金を払っている間に、ジークの瘴気の浄化をやっつけ仕事のようにさっさと済ませたユリだった。
四人は乗合馬車の乗り場に走って到着した。
はぁはぁしながら額の汗をぬぐう。ユリはかがんで膝に手をつきながら息を整えた。
「危ない…良かった間に合って…」
リリーがきりっとした顔で乗り場の時計を確かめる。
「お金払ってるんだから、乗り遅れるわけにはいかないわ」
「リリーは案外庶民派だよね、お嬢様なのに」
「あのね、私一応魔術師団の予算管理もしてるのよ。シビアにもなるわよ。あの人たち、そういうことは無頓着なんだから」
「なるほど…」
アレイスターは、それぞれの荷物を確かめ馬車を探す。
「あの幌馬車だな。乗ってしまおう」
「そうだね」
時間がきて、がたごとと馬車は出発した。一緒に乗り合わせるのは旅人風の数人と親子連れだった。
四人は、揺れる馬車の中で朝食をとった。
ユリはちょっと慌てた。予想外に揺れるので、こぼしそうになるのだ。
馬車は途中で小さな村に寄ったり、休憩を入れながら進む。昼食時は馬車が止まってくれたのでほっとした。馬も水を飲んで休まなければならないのだ。
そうして、ずっと馬車に乗り景色を眺めるのにも飽きた頃、アウリドの街が見えてきた。
「お尻が…」
「腰が…」
「背中が…」
「首が…」
四人は馬車から降りるとそれぞれぐーんと伸びをした。
また乗合馬車の確認をすると、カコの街まで出ているものがあるようだ。
出発は明後日。残念ながら明日出る馬車はもう満員だった。
リリーはさっさと予約をとって宿屋街までの道を教えてもらっていた。かなり手慣れてきている。
「よし、まずは宿!宿決めよう!」
「そうね!」
「早くしないとまた埋まる!」
足早に宿屋街に向かうと、サウチの街より人通りは少ないようだった。
宿は幸い二部屋とることができたが、ジークだけが不満そうにしていた。
アウリドの街は、サウチよりは小さいが十分大きく感じる。
中継都市として機能しているようだ。
アウリドの街から、それぞれ他の大きな街へ街道が伸びているのだ。一時的に商品を置いておく倉庫が連なっているところもあった。
宿はまた素泊まり。夕食には近くにある居酒屋を紹介された。
アレイスターが居酒屋と聞き、ちらりと女性二人を見て眉を顰めた。
「あんまりガラの悪いのがいるのは困るんだが」
「時間が早いから大丈夫ですよ」
宿の女将さんの言葉を信じて居酒屋で夕食を取ろうとしたのだが。
「あんちゃんなんでフードなんて被ってんだ?」
「とれよ、うっとうしい」
入って席に着いた瞬間にいちゃもんをつけられた。
運悪く早い時間から飲みだしている荒くれ者たちがいたようである。
屋内に入ってもフードをとらないジークを不審に思ったのだろう。
しかも女連れ。つまらないやっかみだ。
しかし、声をかけられてもジークは完全無視。
「あぁすまない。こいつは人見知りでな」
アレイスターがとりなすが、荒くれ者たちは聞き入れない。
「なんだよ俺たちが怖いのか?」
「姉ちゃんたちも情けない男はほっといてこっちで飲もうぜ」
ジョッキを片手にユリ達のテーブルに来た男が、リリーの手をつかもうとしたその時だった。アレイスターが素早く男の腕をひねり上げてしまった。
「いってぇ!!」
「あいつ!何するんだ!!」
アレイスターはふうとため息をついた。
「聞きたいのはこちらなんだが。我々は食事を取りに来ただけだ」
「このやろう!表へでやがれ!!」
「…まぁいいが…」
アレイスターはしぶしぶ男の手を放してやった。男たちは意気揚々とアレイスターを囲んで店の外へ向かおうとした。
そこで、ジークがのんびりと尋ねる。
「アレイスター、一人で大丈夫か?」
「五人か。まぁいけるだろ」
リリーは呆れ顔でその様子を見ていたが、実は手を取られた瞬間に荒くれ者全員の体に、虫が這うような猛烈な痒みを三時間もたらすという魔法陣を展開させていたのでちょっと残念である。
「ほどほどにしなさいよー」
「ごーごー!アレイスター!」
無責任に煽っているのはユリだ。
十五分後、店から出て行ったアレイスターは何事もなかったかのように戻ってきた。
ジークが少しフードの裾を持ち上げてアレイスターを見た。
「遅かったな」
「あーもう少し早く終わってたんだが、憲兵に引き渡してたら遅くなった」
「もー食べてるよー!アレイスターお疲れ様!」
「私の魔法でどうにかできたのに…」
「リリーあれはちょっとどうかと思うぞ」
すかさずジークがリリーにつっこんだ。
ジークは魔法陣の効果に気が付いていたようだ。リリーはけろっとして答えた。
「愉快な姿が見れるわよ?」
「俺は見たくない」
アレイスターが不思議そうにリリーを見た。
「何か陣を敷いてたのか?」
「なんでもないわ」
アレイスターが戻ってきたのを見て、店主が申し訳なさそうに寄ってきた。
「兄さんたち、すまないね。たまに来るんだあいつら」
「いや。もう静かになったしかまわない」
「お詫びに一杯ずつおごるから、好きな物頼んでくれ」
「いいのか?」
アレイスターはユリに目をとめると躊躇いがちに口を開け閉めしている。
「何?」
「…俺、エール頼んでもいいか?」
「あーじゃあ私はサングリラで…」
「俺はジンで…」
「もう皆飲む気満々じゃん!!いいよ別に…一杯だけみたいだし。私は果実水ね!」
店主はそれを聞いてすぐ飲み物を出してくれた。
大人三人は、魔王城を出て飲んだ以来、一滴もアルコールを口にしていない。
ユリが聖杯で出すのを拒んだからだ。
あの夜は、ユリからしたら人生最悪の一夜だったので、根に持っている。
だが、目の前の大人たちはきちんと今まで我慢していたので、今日くらいはいいかとユリは目をつむることにした。
ユリは美味しそうにお酒を飲むリリーに問いかけた。
「そういえば、もう少しで王都に着くよね?」
「えぇ、カコの街まで行って、もし乗合馬車が出ていればそこから二日もあれば着くかしら…」
「王都に戻ったら、まずどうするの?」
「そうね、まずは陛下に謁見かしらね…」
「あーウィリアム陛下元気かなー!ヘンリーさんもきっと心配してるよね」
「そうでしょうねぇ…」
アレイスターがジークに人物の説明をする。
「ジーク。ウィリアム陛下は国王様で、ヘンリー様は国王補佐官だからな」
「…なぜまたユリと親しそうなんだ…」
「私がこっちに来た時からお世話になってるからね!」
「こっち…?ユリはこの国の人間ではないのか?」
不思議そうにしたジークに、ユリはぽんと手を叩いた。
「あ!ジークにはまだ言ってなかったんだっけ!?」
「そういえばそうかも…」
「知らないのか…」
アレイスターとリリーは顔を見合わせたが、ユリはあっさりと口を開いた。
「私、違う世界から女神様に召喚されたんだよねー」
「は…?」
「だから、私は元々この世界の人間じゃないの。魔王討伐のために勇者として召喚されたの」
「…召喚?」
「そうそう。元の世界に戻るにも、瘴気が無くならないと女神様の力が戻らないって言うからさー」
「元の世界に…戻るのか…?」
「そりゃいずれは…」
「ユリはいなくなってしまうのか?」
「ジークの瘴気を浄化できるのは私だけだから、きちんとそれをどうにかしてからかな!大丈夫だよ!」
「…」
ジークはそれきり黙ってしまった。
不思議そうにしているユリに、リリーは目を伏せて呟いた。
「あーユリ?その話は、なんていうか、もう少し丁寧にしてあげたほうが良かったかもね…」
「ジーク?大丈夫か?」
アレイスターがジークを覗き込むと、ジークはこくりと頷くだけだった。
「全然大丈夫そうじゃないんだが…」
「ユリ、後でもう一回瘴気を浄化してあげなさいよ…」
「そうしてやれ」
「えー!?」
「文句言わない!」
「これはユリが悪いぞ」
「なんで!?」
アレイスターとリリーが無言で睨むので、ユリはしぶしぶ頷いた。
「わかった…」
それを聞くと二人は微妙な表情でジークを見ている。
ユリはそれを見て口を尖らせた。
(なんで怒られなくちゃいけないのー!?ちゃんと説明したのに!)
なぜ二人にこんなことを言われるのか、ユリはさっぱりわからないのだった。




