第3話「人形奪還作戦」その3
「それで、何をすれば良いですか?」
「神聖魔法と風魔法、合わせて4連発だ。イケるか?」
「それに皆さんの生命が掛かっているのなら…私も生命を賭けましょう!」
俺は作戦をプリスに伝える。
それを聞いたプリスは一瞬驚いた表情を見せたが、俺の目を見つめると力強く頷いてくれた。
戦況は、また棍棒をパトルが押さえて力比べになっている。
丁度おあつらえ向きのポジションだ。
「プリス!頼む!」
「はい!!」
プリスは1発目を放つ!
神聖魔法で激しく輝く光源をボスゴブリンの眼前に出現させる。
ボスゴブリンは眩しさに耐えかねて目を覆う。
「パトル!下がって回復しろ!」
それを聞いたパトルは後方に飛ぶ。入れ替わりに俺が走り出す。
加えてプリスは2発めを放つ!
風の魔法で俺の身体に風をまとわせ、守備力を上げる。
そのまま俺はボスゴブリンに突っ込む。
プリスは間髪入れず3発目を放つ!
回復魔法でパトルの回復。その間にプリスはパトルに作戦を伝える。
その間にボスゴブリンは体制を立て直し、俺に棍棒を振り下ろす。
俺はそれをガッシと肩口で受け止めた!!
「うぉおおおおーーーっ!!」
肩がミシッと嫌な音を立てる。ヒビ入ったか?折れたか?
守備力が若干増したといっても、これは我ながら無謀だと言える。
でも、死にさえしなければプリスの回復魔法で何とかなる。 多分。
ここで潰れてはいけない。ここは何としてでも耐えろ!そうすれば必ず…!
そしてプリスは最後の4発目を放つ!
風魔法が駆け出すパトルの足元に発生し、ジャンプと共に彼女を空中高く巻き上げた。
そう、ここは吹き抜けのフロア。高さならいくらでも稼げる!!
飛び上がった高さ限界で、剣を大上段に構えたパトル。
「パトル!いっけぇええーーーっ!!」
「りょーかいっすぅうううーーーーーーっっ!!!」
ボスゴブリンが気付いて宙を見上げたが、もう遅い!
落ちてくる勢いを加えたパトル渾身の一撃が、ボスゴブリンの脳天にブチ当たる!!
激しい光が巻き起こり、
ズッッバァアアーーーーーーーーン!
ダンジョンのボスキャラは砕け散った!!
暫しの余韻と静寂の中、俺は2人にサムズアップして…そのまま倒れた。もう、俺の身体はボロボロだ!
「いっやー、勝ったよ。勝ちましたよ。」
「『勝ちましたよ』じゃありませんよ!骨が折れてましたよ!?」
「あ、やっぱり?」
ボスゴブリンを倒した残骸として転がる鉱石をそのままに、プリスは俺の肩の治療をしてくれている。
プリスもパトルも本当に良くやってくれたよ。
俺も頑張ったよね? …ね?
そうしてると、パトルがあの女の子の人形を持って駆け寄って来て、俺にそれを渡してくれた。。
「はい、ボス!あのこのおにんぎょーっす!」
「おう、サンキュー!…ってか、『ボス』って何だよ?」
「ボスはとーーーーってもたよりになるっす!だから、ボスはきょーからオイラのボスっす!」
「いや、意味分らんし。」
いきなりの展開に戸惑っていると、
「あ!そういうコトでしたか!」
プリスがポン!と手を叩く。
「え?何?教えて、プリスたん。」
「ケインさん、パトルさんと武器の『とりかえっこ』をしましたよね。」
「ん?あぁ。」
「もしかしたら、あれは獣人族にとって、重大なセレモニーだったのでは無いでしょうか?」
「セレモニー!?」
「はい。獣人族は生まれた時から武器と共に生きる種族です。ですから、自分の使い慣れた武器を交換するのは、
自分の半身を交換するのと同意で、互いが身も心も固い絆で結ばれるコトを意味するのでは?」
「えぇ!?」
「そうっす!!もうオイラはボスとずーーーっといっしょっすよーー!!」
パトルは俺に抱き付き、猫のマーキングみたいにグリングリンと頭をこすり当ててくる。
うーむ。幼女にモテたというよりも、野良猫になつかれたみたいな妙な達成感があるのは何故だろう。
まぁ、悪いコトでは無いだろうけどさぁ。
「あ!あと、プリスもオイラのこと『パトル』ってよんでほしーっす!」
「え?呼び捨て…ですか?」
「オイラたちは、いのちをあずけたなかまっすー!!」
「…ふふっ、分かりました。これからもよろしくお願いしますね。パトル。」
「おーーーーーっす!!!」
後は無事に冒険者の町まで戻るだけ。でも気を抜くな。帰るまでがクエストです。
―と、
「あーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ボスゴブリンの鉱石を回収しに行ったプリスが、突然素っ頓狂な声を出した。
「どうした!?」
「これ見て下さい!この宝箱アタリです!!こんなに貯め込んでました!!大収穫ですよ!!!!」
プリスたんが、ボスゴブリンが守ってた宝箱の中身を見て大喜びしてる……。
もうお目々が¥マークになってそうなハイテンションですよ。 えぇ~~~~???
『守銭奴プリス』
お宝を手に取って喜ぶ幼女。
それを呆然と眺める俺の頭に、あの忌まわしき二つ名がグルグルと駆け巡るのであった……。
そして俺達は、どうにかこうにか何事も無く冒険者の町に戻って来れた。
ゲーム的に言うと、ダンジョンでの戦いでレベルアップしたのだろう。
道中の雑魚モンスターなんかは屁でも無いぜ!
…すんません、調子乗りました。モンスター倒してたのはほとんどパトルです。
そのまま真っ直ぐ冒険者ギルドへ。
正面玄関には、あの女の子が座って待っていた。出発する前に予定の日数をあらかた伝えておいたからな。
女の子は俺達に気が付くと、パアッと顔をほころばせて大きく手を振った。
「あ!おにーちゃんとおねーちゃん!」
プリスが俺に促す。
「さ、ケインさん。」
「え?俺が行くの?」
「もちろんです。このパーティーのリーダーなんですから。」
「リーダー!?俺が!?」
「そうっす!ボスはいちばんえらいっす!!」
2人して俺を立ててくれている。ホント、出来た幼女達だよ、まったく。
俺はしゃがんで女の子と同じ高さになり、リュックから丁寧に人形を取り出した。
「はい、おまたせ。お人形、連れて帰って来たよ。」
「うわぁ~~~~~~~~~~~!!!!」
うーん、幼女の笑顔プライスレス。 冒険の疲れも吹っ飛んだぞ!!
「ありがとう!おにーちゃん!!」
「これからも大切にしてあげてね。」
「うん!…そうだ、これ!ほうしゅうきん!」
女の子はお金の入った小箱を差し出した。
人形奪還クエストの報酬金、1000エン。この子が必死にお小遣いをかき集めたお金だ。
これは、何だかいたいけな子供のお金を取り上げちゃうみたいで、ちょっと受け取りづらいな…。
「ケインさん、受け取ってあげて下さい。」
悩む俺を見透かしたかのように、プリスが言った。
「え、でも…。」
「このお金は、この子が自分のお人形に抱く価値に対して、この子が今、用意出来うる最大限の誠意なんです。」
「…誠意、か。」
「私達はこの誠意を踏みにじってはなりません。
だから、このお金を胸を張って受け取らなくてはいけないのです。―冒険者として。」
俺は素直に感動した。
女の子の人形が帰って来て欲しいという本気度。プリスの冒険者としての誇り。そして報酬金の真の意味。
やっぱ俺、冒険者としてまだまだなんだなぁ…。
「分かった。ありがたく受け取らせてもらうよ!」
「うん!」
女の子はニッコリ微笑んだ。そしてちょっと背伸びをして俺のほっぺに…
チュッ
「えへへ、『ついかほーしゅー』だよ?」
「あぁあああああーーーーーっ!?」
「うっひょーーーーーーっす!!」
その途端、後ろの2人が大声を上げた。
「じゃあねー!ありがとう!おにーちゃん!おねーちゃん!」
女の子は人形を大事に抱えて走って行った。
うぉおおお、キスされた。幼女にキスされたよ!
これは1000エンどころか、1000万エン以上の価値があるんじゃないですかね!?
俺、このために異世界に来たのかも知れない!!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーー!!!
うわ!ビックリしたぁ!!
気が付くと、ギルドの冒険者が一斉に騒ぎ出してた。
玄関にいる冒険者は言うに及ばず、建物の中にいた冒険者達も、窓から身を乗り出して鈴なり状態だ。
「憎いぜ、コンチクショー!」
「見せ付けてくれやがってよぉー!」
「パーティーにロリっ子2人も入れてんのに、その上、」
「あんな小さい女の子からキスまでされたとはなぁ!!」
「色男!爆裂魔法で爆発しろ!」
「おまわりさん!コイツです!」
おい!最後のヤツちょっと待て!!
と言うか、そんなんじゃ無いですから!俺、無実ですから!!
「こりゃあ、とんだ幼女ジゴロだぜ!」
「さしずめ幼女殺し…ロリ・キラーってトコロか!?」
「いいぞ!ロリ・キラー!!」
「スゴイぜ!ロリ・キラー!!」
「ロリ・キラー万歳!!」
待てやぁああああああああああああああああああああーーーーー!!!!!!!!!
その二つ名はヤメろぉおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーー!!!!!!!!
マジでヤメろぉおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーー!!!!!!!
俺を讃える冒険者達の大歓声と口笛は、いつまでも止むコトが無かった……いつまでも……。
この日、ヤリ手の冒険者の証である『二つ名』が俺に付いた。