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1クールで終わる異世界冒険  作者: 歩き目です
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第3話「人形奪還作戦」その2



ついに人形を見つけた。だが、そのフロアには『呪い』があって、行けば死んでしまう。

ロープとフックで人形を釣り上げるコトも考えたが、モンスターがすぐに邪魔をするだろう。


「くっそー!どうにかして拾いに行けないかなぁ。拾ってくるだけで良いのになぁ…。」

「にくたらしーっすねー。」

「プリス、その『呪い』って、どんなんだ?もっと詳しく。」

「そうですね…。奇跡的に助かった人も何人かいて、その方達によると、

階下に行くにしたがって気分が悪くなっていったそうです。」

「ふむ。まぁ『呪い』だもんな。」

「その後に頭痛や吐き気、めまい等を起こし、そこで怖くなって最下層を諦めて戻って来たというコトです。」

「ふーむ…………。ん?」

「何か?」

「いや、もしかして……。」


俺の頭に1つの仮説が思い浮かぶ。


「この『呪い』は、ここ数年で酷くなったんだよな。」

「はい。」

「…話は変わるけど、このダンジョンにもう1つ入り口があったって言ってたろ?」

「はい。封鎖されましたけど。」

「それって、いつ?」

「3年ほど前だったと思います。」


俺の頭の中でパズルのピースがはまって行く。

これはそういうコトなのか?

…よし、確認だ。


「プリス、火の魔法は使える?」

「えっと、すみません。火の魔法はあまり得意では無くて…。」

「そっか、なら仕方無いな。」


俺はリュックからロープを出して15センチほどに切った。片方の端を結ぶ。

続いてランタンに使う油を出して、ロープに染み込ませる。


「…なにしてるっすかー?」

「まぁ、見ててくれや。」


そしてマッチでロープに火を付ける。


「パトル!火を追って見ててくれ。」

「り、りょーかいっす。」


その燃えてるロープを、俺は吹き抜けの最下層へと投げ落とした。

燃えるロープは、結んで重りにした側を下にして一直線に落ちて行く。

間もなく火は消えた。


「あ、きえちゃったっすー…。」

「どこまで火が付いたままだった?」

「いちばんしたまではいかなかったっすねー。そのうえのかいできえたっすよ。」

「…やっぱり。」


思った通りだ。ならば解決法もおのずと出て来る。


「みんな、一旦ここを出るぞ。」

「撤退…ですか?」

「まさか。すぐ戻るよ。ちょっとこの『呪い』を解こうと思ってね。」

「え?ケインさん、『呪い』が解けるんですか!?」

「俺の考えが正しければ。」



ダンジョンを出てやって来たのは、ここに来る途中にあった、使用禁止になっているもう1つの入り口。

案の定、アリのはい出るスキマも無いくらいにピッタリと石のブロックと漆喰で封じられている。


「よーし、ここからは土木作業だ。」

「なにをするんすかー?」

「まずはパトル!この石のブロック、叩き壊せ!」

「ひえぇ!?」

「ケインさん!?」

「やれ」

「…りょーかいっす。」


疑問を感じながらも、パトルは封じられた入り口の前に立った。


「うぉりゃああああああああーーーーーっす!!!」


そばに落ちてる余ってた石ブロックを持ち上げ、気合一閃投げ付ける。


ドゴオオオオーーーン!!

大音響と共に、ポッカリと穴が開いた。信じられるか、このパワー。


「次はブロックの撤去だ。あまり入り口の正面にいるな。ガレキ取ったらすぐ横に捨てに行くんだ。」


俺も腕まくりして作業に参加だ。腕力が無いプリスも、自分に持てる大きさの石を撤去してくれてる。


「これで『のろい』がとけるんっすかー?」

「あぁ。」

「どういうコトです?」

「実はこれは『呪い』なんかじゃ無い。澱んだ空気が溜まっていたんだ。」


そう。『呪い』の正体、それは恐らく二酸化炭素中毒だ。

ここの入り口は本当は通風口だったのだろう。二酸化炭素は空気よりも重い。

だから澱んだ空気を出すために最下層からこうして繋がっていた。

当然、ここから入ればダイレクトに最下層の強いモンスターに出会うワケだ。

そしてモンスターは鉱石から生まれたから『生物』では無い。だから二酸化炭素の溜まった中でも活動出来たのだ。


「プリス、『入り口』を背にして風魔法を放ってくれ。念のため、魔法の最中は呼吸は控えてな。」

「?分かりました。ここまで来たらケインさんを全面的に信じます。」


風魔法は魔力で空気の流れを作る魔法らしい。つまり、魔力でプロペラを作って回してるようなモンだ。

前方に風を出すというコトはすなわち、後ろから風となる空気を吸気しているワケで、

この場合その後ろの空気とは、ダンジョン最下層に溜まった二酸化炭素。

つまり、これはプリス印の換気扇だ。


ブオオオオオーーーーー…


プリスの青い髪とローブが前に向けてなびく。通路から中の空気が出て来てる証拠だ。

その後、ダンジョン内でやったのと同じように、火の付いたロープの切れ端を通路奥へと投げ込んだ。

ロープの火は消えるコト無く燃え続けている。


「燃えてますね!」

「よし!換気完了だ!もう入っても平気だぞ!」

「すごいっすー!『のろい』といちゃうなんて、ほんとにほんとにすごいっすよーーーー!!」


「で、だ。ここから入って人形を取り戻しに向かおうと思う。」

「ここからですか?」

「強いモンスターが出るらしいが、どうせ最下層に用があるなら同じコトだろ。」

「…ですね!」

「んん~~~!うでがなるっすー!!」



通風口から突入した俺達をモンスターが待ち構える。その中でも『ノラドッグ』は強敵だ。

この俊敏さはパトルがいなかったら対処出来なかっただろう。俺は何度か噛み付かれたし。

プリスの回復魔法では、服に空いた穴は直らない。それが戦闘の跡を物語る。


立ち止まってると追手が来る。俺達は通路を走り抜ける。

そして見えた通路奥。あれが最下層フロアか!


開けた場所に出た。

と、思った途端、何か大きいモノが上から降って来た。


「あぶないっすーーーーーーーーっ!!!」


ドドォオオオオン!!


俺はフロアの隅まで吹っ飛ばされて転がった。

いや、これはパトルが咄嗟に俺に飛び付いて一緒に転がったのか。


顔を起こすと、俺のいた場所には床にめり込んだ大きな棍棒と……

身の丈3メートルはある巨大なゴブリンが立っていた。


「…ボスゴブリンです!!」


ボスゴブリン!?

いわゆる、ダンジョンのボスキャラか!?

いや、別にコイツ倒そうとは思ってねーよ!こっちは人形さえ取れればそれで良いんだから。

…って、あれ?無い!?

フロアのどこにも人形が落ちてない。パトルが落ちてたの見たハズだろ!?


「あそこっす!!」


そのパトルが指差す方向、ボスゴブリンの背後には宝箱。

その周りに硬貨や宝石、剣やガラクタに混じって、宝箱の上に人形が置かれてる。


この野郎!ゴブリンのくせに整理整頓とかしやがって!!

俺だって年に数回しかやらないコトを!!

くっそー!これじゃコイツを倒さないと駄目ってコトになっちまったじゃねーか!


俺が苦虫を噛み潰してると、また大きな棍棒が飛んで来た。

轟音と共に床が揺れる。

俺達は散り散りに何とか避けたが、これは当たったらオシマイだ。かすっても骨折とかしそうだ。

コイツ、スピードは無いが、一発が怖いタイプだな。


「ケインさん!」

「守勢に回るな!何とかして攻めないと殺られる!!」


再び棍棒が俺目掛けて振り下ろされる。

その時!


「させないっすーーーーーーーーっ!!」


ドォオオオオオオオオンンンン!!!!!


パトルが俺の前に立ちはだかり、下から振り上げた剣撃で自分よりも大きな棍棒を受け止めてた!

その威力と重さでパトルの足が床の亀裂と共にめり込む!!


パトルが動いた!! 自分の判断で!! 俺を守るために!!

こんな時じゃ無けりゃ、抱き上げてクルクル回ってやりたい感動的なシーンなんだが。


「ぐぬぅううううううーーーーっすぅううー!!」


押し込もうとするボスゴブリンに対し、それに耐えて押し返すパトル。

力は拮抗している。やっぱりボスゴブリンを倒せる決め手はパトルしかいない。

だが、このままじゃ駄目だ。何か作戦を考えないと。


俺はそこに飛び込んで、棍棒を持ったボスゴブリンの太い右腕に斬り付けた。

ボスゴブリンは叫び声を上げて俺に向かって棍棒を振り上げる。

俺の一撃じゃほとんど効いていないだろう。だが、狙いはソコじゃ無い!


「せいりゃああああーーーっす!!!」


空いた胴にパトルの一撃が入った!

今のパトルならやってくれると思った。これはキノコマッシュやヘビスネーク戦のトレースだからな。

俺がスキを作ってパトルが攻撃する。

そしてお約束で俺は、がむしゃらに暴れるボスゴブリンの左腕に当たり吹っ飛ばされる。


「無茶し過ぎです!」


プリスが間髪入れず回復してくれる。

こうなるのを予想して、いつでも回復魔法を出せるようにしてたらしい。

あれ?すっごく良いチームワークじゃね?


「ありがと!!でも、勝つにはもうちょっと無茶しないと駄目そうだ。」


見ると、パトルは打たれながらもボスゴブリンにもう一撃を入れていた。

それでもまだ倒れない。流石にボスキャラはしぶとい。

パトルの体力が心配だ。


「プリス、ここからは時間との勝負になるけど良いか?」

「はい!どこまでもお付き合いします!」


頬をピンクのブラシ塗装で染めて頷くプリス。戦場に咲く一輪の花だぜ。


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