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1クールで終わる異世界冒険  作者: 歩き目です
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第3話「人形奪還作戦」その1

※前回までのあらすじ

ワケも解らず異世界に来たら、ロリ僧侶とロリケモが仲間になりました。

そしてこれまた小さい女の子の依頼を受けて、俺は冒険者になり、

モンスターに盗られた女の子のお人形を取り返しに行こうと決意したのでした。



冒険者の町から西に進むこと2日。サンピンゴブリンの巣食うダンジョンがある。

ちなみにダンジョンとは本来、お城の地下牢を指す言葉で、ゲームで広義に地下迷宮、洞窟、塔など、

それ等をひとまとめにそう呼ぶようになったんだよ。挿絵(By みてみん)


ダンジョンを目指し林を進んで行くと、その途中に文字のかすれた立て札とロープが張られた場所があった。


「何だこりゃ?」

「立ち入り禁止の表示です。」

「立ち入り禁止?」

「はい。実はこのダンジョンには入り口が2つあるんです。私達がこれから向かう正面の入り口は

ここからまだ随分と先なので、こちらの近いもう1つの入り口を使おうとする横着な冒険者が多かったんです。」

「それが何か不都合でも?」

「こちらの入り口は、入ってすぐに強いモンスターが出現するんです。しかも複数で。」

「げ。」

「多分、ダンジョンの罠だったのでしょう。被害が跡を絶たないので、ギルドが安全のために

こちらの入り口は使用不可にしたんです。今では石のブロックで入り口が隙間なく封じられていますよ。」


うーむ、『急がば回れ』『急いては事を仕損じる』とは良く言ったモノだわ。

ダンジョン探索に不可欠なのは、慎重さと根気強さだからねぇ。ゲームでは俺も同じようなミスしたよ。

―でも、これはゲームじゃ無い。死んでもリセットは効かないし、セーブも出来ない。

だから常に気を付けて、良く考えて、最善の選択を心掛けなくては。



その立ち入り禁止の入り口を後にして、さらに進むこと数時間。

やっとと言うか、ついにと言うか、ようやくダンジョンの正面入り口に到着した。

ここまで来るにも結構掛かったが、本番はここからだ。


プリスが光の魔法でダンジョン内を照らしてくれる。

これもケガを回復したり敵を消したりした時と同じ、神聖魔法なんだそうだ。

プリス曰く、神聖魔法とはとどのつまり『光をどう扱うか』というコトに尽きるらしい。

聖なる光を身体に当てれば回復に、モンスターに当てれば退魔に、そのまま使えば光源に、というワケだ。

色々な場面でどう応用するか。それがこの神聖魔法を究めていくポイント、とのコト。


隊列は、前から俺、プリス、パトルの順だ。

ダンジョンで怖いのはバックアタックである。前方を俺とパトルで固めていて、

もし敵に後ろから来られたらプリスが襲われる。

回復役がやられたらパーティーはオシマイだからな。

だから、不意打ちされても体制を整えるまでの間、耐えられる防御力を持ったパトルを一番後ろに付けたのだ。


そして、入り口から差し込んでいた外の光が届かない奥まで進んだトコロで、サンピンゴブリン2体が現れた。

俺が牽制してる間にパトルが前に出て来る。プリスは背後を確認する。


「大丈夫です!後ろ、いません!」

「よし!パトル、攻撃だ!そっちのヤツを任せた!」

「りょーかいっす!」


俺とパトルで1体づつ相手をする。

くそっ、しぶといなコイツ。遺跡で拾った『業物』の剣を使ってるのに、なかなか倒れねぇ。

そしてしばらくして…


「ハァ…ハァ…やっと倒せた…。」

「だいじょーぶっすかー?」

「回復は要りますか?」

「いや…そこまで攻撃食らって無い…。けど、コレは…。」

「どうしました?」


ちょっとコレは、あんましよろしく無い。

戦闘に時間が掛かり過ぎだ。攻撃食らってヘバるよりも、長くなる戦闘時間でバテる方が先になりそうだ。

俺の攻撃力が足りないんだよなぁ。この『業物』の剣を装備してても、中級モンスターの並レベル相手だとキツイ…。

ん? ……待てよ、ならばいっそ……、


「パトル、サンピンゴブリン、何発で倒した?」

「3ぱつっす。」

「俺は5発だったな…。よし!」


俺は『業物』の剣を腰から外す。


「パトル、これはお前が使え。」

「えっ!?いいんすかー?」

「あぁ、どうせ俺の攻撃力じゃコイツを使っても使わなくても、倒すのに時間が掛かる。

だったらお前の攻撃力を上げるべきだ。」

「でっ、でもー、ケインさんのぶきがー…、」

「あー、そうか。最初に買ったショートソードは、コイツを拾ったから売っちゃったんだった。」


こんなコトなら、荷物になっても予備として取っておくべきだったか。


「よし。それならパトル、お前の剣を貸してくれ。」

「ふぇ!?これとっすか?でもそれは…ほんとにいいんすかー?」

「あぁ、お前が構わないならな。取り替えっこだ。」

「とりかえっこ…………、わかったっす!とりかえっこっす!!」


パトルの長剣を受け取り、『業物』を渡す。

キラキラした目で『業物』を見つめるパトル。やはり生粋の戦士職だな。良い武器には目が無いと見える。

『業物』の剣はパトルが使ってた剣より少し短い。いわゆる片手半剣という部類だ。

慣れてる武器からいきなり替えると間合いが狂ったりするとも聞くが、どんな武器でも使いこなす獣人族なら平気だろう。


「ケインさんはその装備で大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、問題無い。」


いや、それはフラグだ。しかも悪いヤツ。


「ホラ、俺は元々がヘボいから、何使っても今更変わらんしね。ハッハッハ。」


…泣ける。



それから先の戦闘で、俺の判断は正しかったコトが証明された。

攻撃力がアップしたパトルは凄まじく、サンピンゴブリンを倒すのに3発必要だった斬撃が2発で済むようになった。

しかも最初の一撃で相手はほとんど動きを止めてしまい、2発目はオマケみたいなモンだ。

ありゃオーバーキル(倒すのに必要以上の攻撃)になってるな。


そう思ってたら、今度は一撃で倒した。個体差ってヤツだろうけど、予想以上の上昇だ。

これなら、俺は敵をひたすら押さえておけば良いワケで。そうすりゃパトルが斬ってくれる。

パトルは1体当たりの攻撃回数が減る。結果、戦闘時間が短縮され、危険も減り、俺達は疲れにくくなる。

うん、良いんじゃないですか?

パトルもさっきからテンション高いしな。


「うほーーー!!すごいっすー!このけん、すごいっすーー!!」

「いや、お前がスゴイよ。」


さて、ダンジョン探索も進み、中層まで降りて来た。

ここまでに見つけた宝箱はもれなく確認して来たが、あの女の子の人形は入っていなかった。


「うーむ、無いなぁ。」

「10日以上経ってしまいましたからね。もっと奥の部屋に仕舞いに行ったんでしょうか…。」

「ここから先はどうなってたっけ…。」


ギルドで買った『最新ダンジョンマップ・夏号』によると、通路はまだそんなに複雑にはなってないようだ。

そして、この辺りから出現するモンスターに変化が出るらしい。


「…くるっす!」


噂をすれば何とやら。パトルの鋭い五感が、迫ってくるモンスターを察知した。

そして現れたのは新顔、ヘビスネークとクモスパイダーだ。


「ヘビスネークは毒はありませんが、牙と巻き付きに注意して下さい!クモスパイダーの糸にも!」

「分かった!パトル!クモスパイダーから倒すぞ!」

「りょーかいっすー!!」


クモスパイダーは壁も天井もお構い無しだ。天井の高い部分に陣取られたら剣を突き上げても届かなくなる。

そんなトコロから糸を吐かれて動きを止められ、その間にヘビスネークに迫られるのは勘弁だ。

すばやさも高いな、コイツ。


「プリス!風魔法で天井から振るい落としてくれ!」

「はい!!」


ゴウ!と一陣の風。

タイミング良く、クモスパイダーは自分の吐いた糸が返って来て自分に絡み、天井からドサリと落ちてきた。


「ナイス!!こっちは任せろ!パトルはヘビスネークを!焦らず行け!」

「りょーかいっすよー!!!」


糸に絡まってもがいてるクモスパイダーに剣を突き刺す。2発、3発、4発。まだかコイツ。

そして5発目でクモスパイダーは倒れ、鉱石の姿に戻った。


パトルの方を見ると、苦戦している。

牙をよけつつ、その間にも長い胴がスーッと伸びて、自分を囲いに来るのにも注意しないといけない。


「プリス!風の防御魔法をパトルに!…いや、パトルの前に風の壁を!」

「…!! はい!!」


神聖魔法同様、風魔法も応用で様々な効果が派生する。

敵に纏わせれば動きを封じる風の鎖となり、仲間に纏わせれば敵の投擲を逸らす風の鎧になる。

そして任意の場所から吹き出させれば、強烈なエアーカーテンとなり、


ゴォオオオオオオ!!!

パトルの前に現れた風の壁は、襲い掛かって来たヘビスネークの顎に直撃してヤツに上を向かせた。

そこに俺が下から剣を突き上げる!

ヘビスネークの上顎と下顎は串刺し状態。これで噛み付けないだろ!!


「今だ!パトル!」

「とぉおおりゃぁああああーーーーーっす!!!」


俺は剣から手を放し、パトルが入り込めるように空間を空ける。

すかさず放ったパトルの一撃で、ヘビスネークの首はすっ飛んだ。


「二人ともお見事です!」

「うぉー、上手く行ったからアレだけど、ちょっと焦ったわ―。」

「みんなすごいっす!こんなにたたかうのがたのしいの、ひさしぶりっすよ!!」

「それは何より。」

「えっへっへー。…あ!あれ、みるっす!!」


ん?

パトルが何かを見付けて指をさす。

その方向には、こちらを伺うサンピンゴブリンがいた。


「あ、逃げました!」


サンピンゴブリンは攻撃して来るコト無く、ダンジョンの奥へ逃げて行く。

今のヘビスネークとの戦闘を見ていて、自分では勝てないと悟ったのだろうか。

鉱石から生まれたモンスターでも、そういう判断力は持ち合わせているんだな。


「もしかすると人形盗ったヤツかも知れないな。追ってみよう。」

「りょーかいっす!」

「分かりました!」


さっきプリスが言っていた。日にちが経ってるから、もっと奥の部屋に仕舞い込んだ可能性だ。

これは良い手掛かりになるだろう。

俺達は逃げるサンピンゴブリンを追い続ける。

そしてサンピンゴブリンはあるフロアまで行くと、その手すりを飛び越えて消えた。


「え?」


追い付いてヤツの飛び越えた跡を見ると、そこから階下フロアが広がっていた。

俺達がいる通路はそれをグルリと取り囲むようになっている。

アレだ。丁度デパート中央にある吹き抜けみたいな構造。ショッピングモールがあれば、そのまんまデパートだ。

向こうには下に降りる階段がある。

その階段に向かおうとした時、


「!!行っては駄目です!」

「へ?」


プリスが今まで見せたコトの無い必死な形相で俺に叫んだ。

思わず足が止まる。


「どーしてっすかー?にげられるっすよー?」

「ここまで追って来たのに?」


怪訝そうな顔をする俺とパトルに、プリスは真剣な眼差しを向けて言う。


「ここから下には『呪い』が掛けられています。最下層まで行って戻って来た冒険者は…いません。」

「何ぃ!?」

「物理的トラップも、魔法によるトラップもありませんが、これより下に行くとみんな死んでしまうのです。

何が原因なのかいまだに不明で、『呪い』というのも、その危険を漠然と表現したモノでしかありませんが…。」

「そんなヤバイ場所なのか、ココは!?」

「以前は何も起きなかったそうです。少なくとも私の生まれた頃は被害は報告されてませんでした。

この数年で加速度的に被害が増えたとのコトです。」

「マジか…。あっぶねー……。」


ゲームなら序盤~中盤のダンジョンには、こんな凝ったトラップは仕掛けないだろう。

そんな初見殺しじゃクレーム殺到するわ。

だが、ここは異世界だが『現実』だ。決して手加減はしてくれない。


「あー、ほんとっすー。ひとがいっぱいしんでるっすねー。」


パトルが手すりから身を乗り出し、真っ暗な階下を覗き込んでいる。


「見えるのか?」

「じゅーじんぞくは、めがいいっすからねー!…あれ?なんかちっちゃいひとがいるっす。」

「小さい?…子供か?」

「うーん、もーっとちっちゃいっすねー。こんくらいっすー。」


パトルは手を広げて示す。その幅、約20センチ。


「!!ケインさん!それって…!」

「…あぁ、あの子の人形だ!」


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