第2話「ケモっぽい幼女」その3
パトル
獣人族の戦士で女の子。てか、幼女。
戦士職らしく、俺よりも重厚な装備をしている。
日本では鉢金と呼ばれるタイプの、金属板の付いた皮のヘッドバンド。
鉄の胸当てに腰アーマー。同じく鉄の小手とすね当て。
そして武器はロングソード。見た目140センチ程の小柄な体格に、不釣り合いな1メートル超の長剣だ。
パトルはコイツを軽々と振るう。
獣人族特有のパワーと踏み込みの強さ。鉄製の防具の重さも相まって、身体が武器に振り回されたりもしない。
パトルをパーティーに加えての初日。
まず俺達は、パトルの戦闘力を見せてもらうコトにした。
少し森の奥に入ったら出現する、中級モンスターの中で弱いレベルのモンスターを相手にしてもらった。
これは今の俺が何とか無難に戦える相手であり、その俺を目安にパトルの強さを見てみようという寸法だ。
まずはパトルだけで戦ってもらったが、こりゃ強い。
俺が3~5発斬り付けないと倒せない相手を、わずか2発で倒してしまった。
戦い方にも無駄が無い。俺なんか、焦るとがむしゃらに剣を振り回してしまって空振りの連発なのに。えらい違いだ。
防御力も高いから相手が単独なら大したダメージも負うことは無く、プリスの回復魔法も出番無し。
流石は生まれながらの戦士の一族だ。
「いや~、大したモンだ!」
「素晴らしいです!パトルさん!」
「そ、そーっすかぁー?でへへへへへ…。」
顔をほころばせ、頭を掻き掻き、尻尾をパタパタと振るパトル。
うん、ケモっ子はこうで無くては。
「これなら壁役を任せられるな。俺じゃ壁どころか、カーテンにもならんからなぁ。」
「ふふっ。ケインさん、ご謙遜が過ぎますよ。」
「まかせてほしーっす!じゅーじんぞくは、がんじょーっすから!」
さぁ、次はいよいよパーティー戦だ。複数VS複数。これでパトルの実力が見える。
森の中で相手に選んだ敵は、植物系のモンスター、キノコマッシュ。
コイツは成人男性ほどの全長で、体当たりとキノコのカサで弾き飛ばす攻撃を仕掛けてくる。
さらに時折、胞子を噴射して煙幕代わりにする。毒は無いが要注意だ。
それが3体。 3対3の戦闘だ。
見ると、パトルは緊張で少し戸惑ってる。
戦うことへの不安では無く、またヘマをして足を引っ張ってしまうんじゃないかというトラウマ的な気持ちだろう。
踏ん張れ!パトル!ここが正念場だぜ!
俺はスゥーッと大きく息を吸い、
「パトル!俺がコイツ等の背後に回るまで、この3体を引き付けて足止めしてくれ!!」
大声でパトルに指示を出す。
その瞬間、パトルのケモミミとケモ尻尾がピィイーーーン!と奮い立った。
まるでロボットのスイッチが入って起動したみたいに。
「りょーかいっすーーーっ!!!」
言うが早いか、放たれた矢のようにパトルはキノコマッシュ3体に向かって飛び出した。
俺も後を追って走り、プリスにも指示を出す。
「プリスはいつでもパトルに回復魔法を掛けられる準備を!その次は俺がお世話になる番だ!」
「分かりました!!」
俺がパトルに追いついた時、既にパトルは3体を相手に戦っていた。
中央のキノコマッシュの頭突きを左手1本の剣で受け止め、左右から襲ってくるもう2体に裏拳と蹴りを入れる。
大したダメージにはなっていないが、注意を引く壁役としてはこれで正しい。
あんまり大きいダメージを与えると、敵は警戒して距離を取ってしまうからだ。
『3体でボコれば勝てる』
敵にそう思わせなくてはいけない。当然、敵の集中攻撃を受ける。
だが、それも勝つための作戦としてパーティーメンバーを信じてあえて受ける。受け続ける。
壁役は味方を信じ、自分を信じ、勝利を信じなければ出来無いのだ。
そして俺も、このパトルの信頼を受けている以上、臆するコトは出来ない。
キノコマッシュ達の背後に回り込み、ガラ空きの背中に1発づつ斬撃を叩き込む。
「パトル!離れろ!プリスは回復!!」
背中に不意打ちを食らったキノコマッシュ達は、当然、俺の方に振り向く。
それを見てパトルは後ろへと飛び、距離を取る。
そして着地の瞬間、ソコに待ち合わせていたプリスが回復魔法を掛ける。お見事。1秒のロスも無い。
俺は最後に斬り付けた端っこにいるキノコマッシュの脇をすり抜け、正面に回る。
敵3体は再び方向転換。計画通りの時間稼ぎだ。
さらに、振り向くのが一番遅れた中央のキノコマッシュに剣を突き立てる。
左右の2体は、剣を刺して動きの止まった俺に突進して来た。
グハッ! 猛烈な衝撃。アメフト選手のタックルに挟まれた気分だ。
これを予想していなかったら潰されていたかも知れない。予想して、身体に力を込めて硬直してたから耐えられている。
でも、俺ではここまでが精一杯。
「パトル!真ん中のヤツから倒せ!プリス!俺にも頼む!」
「りょーかいっす!!!」
転がりながらエスケープした俺と入れ違いに、パトルは雄叫びも勇ましく突っ込んで行く。
プリスは俺に駆け寄ってきて、回復魔法を掛ける。
「大丈夫ですか!?」
「くぅ~~、効いたぁ~~~!……あぁ、ありがと!…まだまだ、ココからだ。
プリス、風の攻撃魔法を左右のどっちか1体に撃ち込めるように準備を頼む。」
この一週間以上の付き合いで知ったのだが、プリスは神聖魔法だけでは無く、風の魔法も使える。
僧侶といえど攻撃手段も無いと、冒険者としてやっていけないよな。
「分かりました!ケインさんは?」
「俺は残ったもう1体だ!」
俺がそう言って走り出すと左右の2体がブワッと胞子を出した。
これでは前が見えない…が、こちらにはプリスたんがいるんだよ!
「プリス!今だ!」
「はい!!」
走る俺の背後から突風が吹き、俺を追い越して敵に向かって行く。
風魔法が当たった方のキノコマッシュは、胞子煙幕を散らされて丸見えだ。
そしてその先には丁度、中央のキノコマッシュを斬り倒したパトルが。
「パトル!次はプリスの魔法が当たったヤツに向かえ!」
「りょーかいっすよーー!!!」
残りが2体になれば『勝ち』は見えて来る。
一方はプリスが飛ばした突風で動きが止められ、もう一方の煙幕状態のヤツは俺が引き付ける。
風魔法のダメージ加算を考慮すると、
「だぁりゃぁああーーーっす!!!」
―パトルの一振りで倒れた!!よし!計算通り!!
残った1体は、煙幕の中から俺に突っ込んで来る。それを正面から受け止める。
多分これしか敵の手段は無いだろうと思って、俺は剣をしまって防御に徹して待っていたのだ。
それでも突進の勢いで靴が地面を掘って押し込まれる。キノコのカサを抱え込むように押さえ込み、取っ組み合いだ。
バァアーーン!
キノコマッシュが身体を伸ばして、カサにしがみ付いてた俺を宙にはじき飛ばした。
プロレスで言うと
『おぉーーっと!キノコマッシュの投げっ放しスープレックスーーーっ!!主人公、放り投げられ場外へーーっ!!』
そんな状況だ。
だが、これを待っていた!!
「パトル!胴がガラ空きだ!やっちまえーーーーっ!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーっす!!!」
俺をハネ飛ばしたコトで十分に伸び切ったキノコマッシュの胴体。邪魔するモノは何も無い。
宙に舞い、落ちていく俺の視界に映った光景は、敵の胴体を横一文字に真っ二つにするパトル。
そして草むらが目の前に迫って来て、
ドザザザザーーーッ!!
……俺は見事に墜落したのであった。
見事、パーティーバトルでキノコマッシュ3体を撃破した俺達。
回復魔法をプリスに掛けられながら、俺は確信した。
結論。パトルは役立たずじゃ無い。それどころか、有能な戦士だ。
ちゃんとした指示を与えれば、キチンと的確にこなしてくれる。
考えてみれば、獣人族ってのはケモノなワケだ。
野生の掟というか、上下関係が構築された指示系統の中でこそ、その能力を十二分に発揮出来る種族なのかも知れない。
指示待ち、結構じゃないか。
言ったコトを確実にこなせるなら、言ったコトすらこなせないヤツより何百倍もマシだ。
もちろん、全てが全て、それで良いというワケでは無いけどさ。
パトルはゲームのキャラじゃない。将棋の駒でも無い。慣れて来ればきっと自分の判断で動いてくれる。
そう俺に信じさせるだけのモノを、コイツは持っている。 多分。
プリスが俺の満足気な顔をのぞき込んでひと言。
「思った通り、って顔、してますね。」
「え?分かっちゃった?」
「はい。私もケインさんを信じてましたから。お見事な指揮ぶりでした。」
嬉しいコト言ってくれるなぁ。好感度カンストにまっしぐらだよ!
「どうだろう?ダンジョンに行っても大丈夫だと思う?」
「そうですね。攻撃、回復、司令塔、と揃いましたから、中級モンスター相手になら遅れは取らないハズです!」
「司令塔とか言われると、何だか照れ臭いな…。パトルも、それで良いか?」
「はいっすー!ケインさんのめーれーは、とってもわかりやすくてさいこーっす!!」
さっきからパトルの尻尾が扇風機みたいなテンションなんですけど。
「よし!準備が出来たら、サンピンゴブリンのいるダンジョンに挑戦だ!」
「はい!」
「りょーかいっす!」