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1クールで終わる異世界冒険  作者: 歩き目です
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最終回「魔導都市 大決戦」その2


「―こんな巨大なモノを数百年前に作っていたのか!?」

「中内海から引き上げ、ここに運ぶまでに粗方の修理は済ませました。

当時と遜色無い性能が期待出来るハズですよ。」


魔導巨人は、胴体に付いた不釣り合いな巨砲に魔力を集中させ始めた!

まさか、『遜色無い性能』って…あのエルフの国を壊滅させ、大陸に亀裂を入れた砲撃か!?

ここで俺達目掛けて撃ったら、この魔導都市も、今戦ってる魔族や冒険者達も吹っ飛ぶぞ!?


と、俺の前に4人の幼女が並び立った。

幼女達は余裕たっぷりの口調で俺に言う。


「ケインさん、大丈夫です。」

「え?」

「主よ、我々を信じよ。」

「これくらい、どうってことないっすよー!」

「…マスター、マーシャは今こそ本気出す。」

「みんな、やれるのか!?」

「ケインさんが命じてくれるなら。」


プリスは頬にピンクのブラシを入れて、とびっきりの笑顔で答えてくれた。

パトル、デヴィルラ、マーシャも頷いてくれた。


「よし!このデカブツを倒す!!」

「りょーかいっすよー!」

「あい、分かった!」

「…やってやるぜぇ。」

「行きますよ!皆さん!!」


巨砲の中から光が溢れてくる。発射体制に入ったか!?


「まずは私からです!究極精霊魔法を今ここに!」


その声と共にプリスがスタッフを空に掲げる!

―見る見るうちに装備品に付けていた宝石や貴金属が光となって消えていく!

それだけでは終わらず、胸当ても、ベルトも、帽子も、靴も、ローブも、スタッフも、

プリスが身に付けていたモノ全て、何もかもが光と消える! 全額課金だ!!!


この日のためにプリスは、魔王様からもらった貴金属や宝石を全部、服や装備品に組み込んでいた。

それは正に歩く金庫!戦う銀行!それを今、全て溶かし尽くしたのだ!


淡い光の中で、プリスは全裸になった!

それと同時に、魔導巨人は空前絶後の一撃を放つ!!


プリスの前に巨大な光の壁が出現する!その大きさは魔導都市も覆うほどの極大の光壁!!

魔導巨人の砲撃がその光壁にブチ当たる!!

世界を裂くかのような衝撃と目も眩むような閃光が大地を覆い揺るがす!!


だが俺達にも、その後方にも一切の被害は無い。

究極神聖魔法の光壁が、その威力を一切通しはしない。

砲撃の光束は弾かれて空に四散して行く。 そして砲撃は止んだ。


役目を終えた光壁も虫食いの穴が開くように消えて行く。

プリスは気力を使い果たし、よろめき倒れる。


「おっと、」


おれはすかさず彼女を抱きとめる。

その眼前には、大地をえぐる砲撃の跡がそこにだけ広がっていた。


「止めた!?防いだ!?あの砲撃を!?神聖魔法で!?あり得ない!!」


所長も流石に驚いたか。ざまあみろ!俺だって驚いてるわ!!


「つぎはオイラっすよー!!」


パトルは雄叫び一閃!気合を入れると、全ての『最強装備シリーズ』をキャストオフした!

同時に、着ていたシャツとスパッツも筋肉の隆起に耐え切れずに破れる!

パトルもまた、全裸になった!


そして空中で『最強装備シリーズ』のパーツが1つ残らず合体して行く!


「これが!オイラがじぶんでかんがえた『さいきょーぶき』っす!!」


落下してきた武器を受け止めるパトル!地面が割れ、衝撃で土煙とガレキが舞い上がる!!

その手に持ったモノは…巨大なハルバードだ!!


「…マーシャも行く。」


そう言ってマーシャはジャケットを掴むと、一気に全ての服を脱いだ!!

マーシャも2人同様、全裸になった!


「…神様が言った。『呪いはマーシャを強くする』って。

武器や防具を装備すると弱くなる。…だったら、マーシャは脱げば脱ぐほど強くなる…!!」


そんな抜け穴があったのか!?

マーシャは金色のスパークするオーラに包まれ、まるで『スーパー何とか人』みたいだ!


ドン!と空を裂く音がしたかと思うと、パトルとマーシャはオーラに包まれたまま魔導巨人に突っ込んで行く!

魔導巨人はその高層ビル程もある腕を振り上げ、2人目掛けて振り下ろす!!


だが、その右腕はパトルのハルバードの猛烈な一撃を受け、強烈な光が輝く!!

クリティカルの証の光を放ちながらその一撃は止まるコト無く、

巨大な腕は裂かれ!砕かれ!亀裂が肩まで走って行き、そのまま真っ二つになる!!


そして左腕もマーシャの渾身の蹴りを喰らい、その闘気が伝わる端から

無数の半球状の膨らみが生じ、次の瞬間、腕から幾つもの光の筋を出したかと思うと

一気に粉微塵になって、腕だったとは分からぬ程に破壊される!!


魔導巨人はバランスを崩し、一歩後ずさる。

その足は港を踏抜き、滝が逆さになったかのような激しい水飛沫を空へと登らせる。


「さて、殿しんがりは余となったか。」


デヴィルラは魔力を高めつつ、そこに唖然として言葉も出ない所長を見て言い放つ。


「貴様。先程、魔導の限界がどうとかぬかしおったな?

それは研鑽が足りぬ証拠じゃ。それは常識外への探求が足りぬ証拠じゃ。

余は主に数えきれぬほどの『初めて』をもらった。全てが新鮮で、鮮烈で、衝撃的じゃった!

そして、それが更なる可能性を示唆してくれる!!」


デヴィルラの両手に集まる魔力。だが、まだどの属性にも変換されていない。

―まさか、これは!?


「余が扱えば、無属性魔法もここまでの高みに行き着く!!」


そう言って両の手を振り下ろすと、デヴィルラは無属性の波動に覆われた!

波動に耐え切れずに服が全て塵と化す!

果たしてデヴィルラも全裸になった!


魔導巨人は胸部を開いて、電信柱ほどもある槍を無数に撃ち出す!!

だがデヴィルラは「フン」と鼻で笑うと、宙に舞い、


「余の辞書に限界という言葉は無い!!」


右手をパンチのように繰り出すデヴィルラ!そこから無属性の波動がうねりとなり魔導巨人へと向かう!

無数の槍はその波動の渦に飲み込まれ、ひしゃげ、折れ、バラバラの破片と化して行く!!

さらに左手からもう一発!

その波動は魔導巨人の胸に直撃し、巨大な体中に亀裂を入れながら大きな風穴を空けた!!


魔導巨人は3人の攻撃で呆気無くその動きを止めた。

見ると、所長は頭を抱えて狼狽していた。 まぁ、無理も無いか。

―と、


「ふふふふ…素晴らしい…素晴らしいですよ。魔導の限界を超えたその技の数々…。」


狼狽してると思ってたのは俺の早とちりだったようだ。

所長はプリス達の超絶な技に感動していたのだ。流石、マッド・サイエンティストの鑑だ。


「ですが、それもこの世界の中での話です。」


何処からか低い起動音が聞こえて来る。 何だ?


「! まどーきょじんっす!!」


パトルの耳がその音源を捉える。 半壊した魔導巨人がまだ動く…!?


すると突然、周囲の空気というか、雰囲気というか、気配が変わった。

―これは…どこかで感じたコトのある気配だ。


「私達が手に入れた力をお見せしましょう。」


所長がそう『うそぶく』と、魔導巨人から光球が上空に放たれた!

そして光球は巨大なドーナツ型の光輪へと拡がって、その光に照らされた範囲が…消えて行く!!!!!!


「何だ!?」


建物も、機材も、山も、丘も、その光に照らされると、

光輪の近くにある高度の高いモノから音も無く静かに消滅して行く!!!

決して範囲は広くないが、徐々に下へ、下へ、地上へとその消滅の光は降りて来る!!


「これが異世界の力です!『反マナ粒子』とでも呼びましょうか!」

「反マナ粒子!?」

「この世界の森羅万象は、全て魔力『マナ』を有しています。しかし!異世界にはそれが無い!

魔力の無い世界!マナの無い空間!その中では、この世界の物質はマナを固定させておくコトが出来ない!

マナ濃度の余りの違いに耐え切れず、皆、こうして溶けて消えるのですよ!」


アレか。飽和食塩水の中では、食塩の粒は溶けずにその形を留めるコトが出来るけど、

そこに塩気の無い真水を加えると、途端に溶けて行くようなモンか!?

そうか、さっき俺が『どこかで感じた』気配って、俺の元いた世界の『空気感』か!


「ケインさん!このままだと転送機も消えてしまいます!」

「何より、主も我々も消えてしまうぞ!」

「…まずは転送機を守る。」

「そうっすよね!」


俺達は転送機に向かい走り出す。

しかし、さらに光輪が花火のように散り始め、光の粒がまばらだが落ちて来た!

コイツに当たったら、即消滅か!!!


「任せよ!!」


咄嗟にデヴィルラは上空に無属性魔法のシールドを張る。

消滅の光が当たった部分に穴が空くが、すぐさまデヴィルラの魔力で塞がれる。

だが、こんなコトいつまでも持つワケが無い。


「どうですか!これがこの世界の、魔導の限界なのですよ!反マナ粒子の前では無力なのです!」


狂気に満ちた表情の所長が勝ち誇ったかのように叫ぶ。


「私は争いを起こした人間が嫌いだ!それと戦った魔族が嫌いだ!人間に傭兵として加担した獣人族が嫌いだ!

―そして何よりも、滅ぼされかけても事なかれ主義だった怠惰なエルフが嫌いだ!!

そう!! 無力だったこの世界が嫌いだ!!!!」


悲痛なる叫び。

この所長、こいつはコイツでこの世界を愛していたのだろう。

だが、偏執過ぎた想いがここまでヤツを追い込んだのか。いや、それも魔導大戦を起こした者達のせいなのか。


俺達は何とか転送機のトコロまで来た。屋根と壁があったおかげで転送機はまだ無傷だ。

転送機を取り外して、光輪の範囲外に出られればとも考えたが駄目だ。

機構が余りにも複雑で、うかつに何か外したら『壊れる』かも知れないからだ。


やはり魔導巨人を完全に沈黙させなければ、いずれはこの一帯は全てが消えてしまう。

一旦はこの光で魔導巨人も消えてしまえばそれで終わるかと思ったのだが、そう甘くないようだ。


「…デヴィルラ、シールドどれくらい持つ?」

「正直、我々が消えるのをほんの少し遅らせる程度じゃろうな。

こうして余の魔力を消費する一方で、魔力の補給はほとんど出来ておらぬ。」

「はい。私も魔力が全く回復しません。この反マナ粒子の影響で、周囲の空間のマナが枯渇しているんです。」


くそぅ、まさか俺のいた世界がこんな影響を及ぼすとは…。

俺の世界では魔力の源のマナが無い。

だからその空間ではマナが相互作用を及ぼさず、水に溶ける塩のように霧散して消えて行く。

俺がこの世界に来て、魔法を使えない理由も同じだった。

この世界に生きとし生けるモノならば、多かれ少なかれ持っているはずの魔力。それが俺には無いと。


……あれ? まさか、それって…そういうコト、なのか?


俺の頭にある推測が浮かんだ。 とても単純で、とても危険な推測。

でも、しかし、もし、俺のその馬鹿な考えが合っているのならば…今やれるコトはこれしか無い!

所長は消滅していく一帯を見ながら、歓喜にも似た声で叫ぶ。


「全てがこの光の前では無力です!これを止められる者など、誰もいません!」

「いるさっ!ここにひとりな!!」


俺はマントを脱いでプリス達に掛けて立ち上がり、魔導巨人に向かって走り出す。

デヴィルラのシールドを抜けて、反マナ粒子の空間へ!!


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