最終回「魔導都市 大決戦」その1
※前回までのあらすじ
魔導都市のマッド・サイエンティスト達が魔導巨人を復活させようとしている。
そこには俺をこの世界に転移させた転送機もある。
どっちもこの世界を崩壊させる危険のあるシロモノだ。
俺達は、この世界を救うために魔導都市へと向かう。
魔導都市。
研究員以外は入るコトを許さない、魔導研究のための街。
協定違反の危険な研究を続け、遂には魔導巨人まで海から引き上げた。
だが、表向きは他国との協定を守る体裁から、僅かだが特使として入管を通るコトが認められている。
俺達は魔導都市の入り口でチェックを受ける。
俺の『ロリ・カイザー』の二つ名はここにも知られており、
神が与えた国王級の肩書に、管理局もアッサリと俺達が街に入るコトを認めた。
確かに、この御利益はすごい効果だな。
ちなみに、ここに来たのは俺達5人だけでは無い。
魔王様率いる魔族の軍と中央都市から派遣された冒険者の混成軍が、密かに山間に待機しているのだ。
そりゃそうだろう。もうこの世界の行く末を左右する事案なのだ。
いざ全面抗争になったら、俺達5人だけじゃどうしようも無い。
そこでこうしてまず、どこの国ともしがらみを持たない俺達が、内情を探る役目を引き受けたってワケだ。
「いとも簡単に入れたのう。」
「それだけケインさんの二つ名に威光があったか、
もしくは見られても絶対にバレないと思っているのでしょうか?」
「…今のトコロ、殺気は感じない。」
俺達は今、研究員の1人に街を案内してもらっている。
ちょっとアチコチがスチームパンク的なカンジはするけれど、至って普通の街っぽいな。
ただ、宿屋や武器屋、防具屋の類が無い。閉鎖された街で誰も来ないのだから必要無いのだろう。
「ところでボス。それ、かっこいーよろいっすねー。」
「えぇ?カッコイイか!?これ?」
「伝説の英雄なんかは、女神のレリーフをあしらった装備をしてたりしますからね。お似合いですよ。」
「似合ってるの!?」
「背中のマントじゃが、余はもそっと色気が欲しかったのう。こう、扇情的なポーズで…。」
「外、歩けなくなるからヤメて。」
武器屋のニート息子があつらえた鎧は、4人を始め周りには大好評だ。何故だ。
ん?マーシャが鎧をしげしげと眺めて、難しい表情(無表情)っぽい顔をしている。
「どうした?マーシャ。」
「…この胸のレリーフ、神様?」
「あ、やっぱ気付いたか?」
そう。カイザーアーマー(幼女鎧)の胸には、あの神様の正面顔がレリーフになっている。
つーか、魔王城の一件から1週間も経ってないのに、どうやって設定資料集めたんだよ!
恐ろし過ぎるわ!この世界の板金職人!!
アニメで1カットしか出ていないキャラのフィギュアでも作っちゃう、神造形師の感覚に似ているな…。
俺達は街の研究所の奥へと案内される。
普通なら絶対入れない場所だろうけど、神の加護を受けた特使とあっては邪険にも出来ないようだ。
何せ魔法というモノは、突き詰めればおのずと『神と精霊』の力に行き着く。
神と精霊に見放されたら、魔法は使えなくなると思われている。
だから魔法を研究する彼等に取って、癪だろうけど俺のご機嫌は損なえない、ってトコロなのだろう。
やがてお目当ての場所に辿り着く。 転送機だ。
無数のコードやパイプが接続された一坪ほどの台座の上には、複雑な魔法陣が刻まれ、
その上には数十年前流行ったピラミッド・パワーの骨組みたいなアーチがある。
―神様から聞かされていた通りの装置だ。
俺達がここまで簡単に来れたのは、神様の御加護だけでは無い。
魔導都市の研究員は、目の前にいるこの俺が、
『自分達の仲間を日本に送り込んだ時、それと入れ替わりに日本から来た人間』だとは知らないのだ。
何故って、無作為の偶然で選ばれたし、俺の風貌、髪、目、肌の色もこの世界で良くあるタイプ。
しかもこの世界じゃ日本語で喋っているのが当たり前だ。特定出来るワケが無い。
大方、こっちの世界に転送された後、この厳しい世界で野垂れ死にしたとでも思われてるのだろう。
そもそも向こうの『日本』がどういう世界か知っているのは、向こうに送り込まれたヤツだけだしな。
しかもソイツは、行ったその日に速攻でお亡くなりになってると来てる。
誰も俺の素性は知る由も無い。
「あの装置は何ですか?」
俺はわざとらしく転送機を指さして聞いてみる。
イジられたくなければ『制作途中です』とか『故障中です』とかの差し障りの無い答えが返って来るだろうが、
そうしたらこっちから根掘り葉掘り聞いてやる。 さぁ、どう出る?
案の定、案内役の研究員は言い淀んでいる。
そこに別の声がした。
「転送機ですよ。」
!? ズバッと言いやがった!?
俺達が声のした方を見ると、フードを被った老人っぽい人物がこちらへ歩いて来るトコトだった。
「神の御加護を受けしロリ・カイザー様、そしてその御一行様。ようこそ。」
その人物は恭しくお辞儀をした。 が、フードは取らなかった。
「貴方は?」
「私はこの研究所の所長を務めております。以後よろしくお願いします。」
「いえ、こちらこそ…よろしく…。」
必要以上とも思える仰々しい態度が、どうにも気に掛る。と言うよりも、鼻に付く。
「この装置は転送機…とのコトですが、」
「左様です。この世界とは異なる世界に人や物を送り込めるのです。」
「それはスゴイですね…。しかし一体、何のために?」
「魔導の力に限界を感じたからですよ。」
「限界?」
ここまで神様から聞いてた通り、一言一句違わない内容だ。
どういうコトだ?この所長、こんなにベラベラ喋って何を考えている?
「そうです、限界です。地水火風聖闇の6属性は、もう全て研究し尽くしました。
私は、いや我々は、6属性に限らない更なるパワーと可能性を求めているのですよ。」
「それで、異世界の文明を参考に?」
「そういうコトです。ロリ・カイザー様。」
うっ、いちいちその名で呼ばないで欲しい…。
ここまであけすけに語られるんだったら、こっちも更に攻めてみるか。
魔導巨人のコトもそれと無く聞いてやろう。
「実は、魔導対戦時に作られた兵器を回収されたというウワサを聞いたんですがね…。」
「あぁ、魔導巨人のコトですか。」
うわ!ワザと曖昧に聞いたのに、今回もズバリ『魔導巨人』って答えやがった!?
そこへプリスが詰め寄った。
「何故、その名前を?数百年前に国家間で禁忌とされ、普通なら知る由も無いはずです!」
「えぇ、そうですね。普通なら誰も知らない名前です。でもね、私は知ってるのですよ。」
「どういうコトですか?」
所長はニコリと笑うと、そのフードに手を掛けておもむろに外す。
「だって、私は数百年前の当時を知る者…エルフですから。」
…その所長にはマーシャと同じ、長い耳があった。
「エルフ!?迷いの森からこっちにエルフがいたのか!?」
「えぇ。90年ほど前にエルフの地を出まして、ここに隠居していました。気付かれないのも無理はありません。」
「…90年前…!!」
その言葉にマーシャがハッとして、珍しく大きな声を上げる。
「…今判った。どこかで見た顔だと思っていた。」
そう言いつつ、マーシャも自分のフードを外す。
「…お前、マーシャのパパに呪いを掛けたヤツ。そして、…マーシャをエルフの地から追放したヤツ。」
「何だって!?」
マーシャの顔と、同じく長い耳を見て、所長は驚く。
「これは…!!…あの男の娘でしたか!?…いやはや、数奇なコトもあるモノです。」
魔導対戦時、最終兵器だった魔導巨人の誤射によりエルフの国は壊滅的被害を受けた。
生き残ったエルフの中から人族に戦争を挑もうという者達が現れたが、それを未然に防いだのがマーシャの父親だった。
彼は好戦派の恨みを買った。そして、魔法が使えなくなり、どんな装備も役に立たなくなる呪いを受ける。
だが、精霊の加護があった彼は呪いを受けず、後から生まれたマーシャにその呪いが引き継がれてしまった。
好戦派はマーシャを呪われた忌み子としてエルフの地より追放し、マーシャの父親に長きに渡る復讐を果たしたのだ。
その好戦派の1人が、この所長…この男だと言うのか!!
「私はですね、我々の国を滅ぼそうとした人間に復讐したいと思っていたのですよ。」
「過去形?」
「そうです。今ではそれはどうでも良くなりました。その時に生きていた人間達はみな死んでしまいましたからね。
時間というモノはあらゆるしがらみを氷解させて行くモノですねぇ。」
「では、今こうして研究している理由は…、」
「んー、純粋な知識欲、ですかねぇ?」
研究者らしい意見だな、全く。
「それが、この世界を崩壊させる危険があってもか?」
「そうならないように、さらに異世界の研究をすれば良いのではありませんか。」
「だから、それが原因で崩壊するって言ってんだよ!」
駄目だコイツ。思考がループしてるのに気付いていない。
家が崩れそうだから、その家の柱を抜いてつっかえ棒にしましょう、って言ってるようなモンだぞ。
これは話し合っても無駄そうだな。
「魔族の王様からも、危険な研究は協定違反だと再三の勧告を受けていたはずだ。
それが守れないのなら、俺達はその転送機を潰すしか無い。」
「そうですか。でも、これを壊すというコトが何を意味するのか、お分かりですか?」
「何?」
「これは言うなれば、世界の因果律を変える装置です。
この世界の成り立ちは、この装置が作動して異世界と関わり合いを持ったコトで
人も、物質も、時間も、空間も、その全てが今こうして存在しています。
これを壊せば因果律は解消され、今までの『この世界』は無かったコトになり『元の世界』に戻ってしまうのです。」
!! それって、俺が消えるってコトか? ―いや、元からいなかったコトになる…のか?
「ケインさんが…いなくなる!?」
「そのような世界、余が承諾出来るワケ無かろう!!」
「あぁ、その点は心配ありません。だって、皆さんは元から一切『会っていないコト』になるのですから。」
「ボスのこと、わすれちゃうっすか!?」
「…マスターがいなくなる…マーシャもそれを覚えていない…。そんなの嫌。」
ヤツの言ってるコトが本当なら、転送機を壊したら俺はこの世界から消える。
今までこの世界で暮らした毎日が、プリスやパトル、デヴィルラやマーシャとの思い出も一緒に、
―跡形も無く消える。
しかし、放置すればまた俺の世界から誰かが犠牲となってこの世界に連れ出される。
そして世界は矛盾を抱え切れなくなって崩壊する。
どっちも出来ない相談だ。 ならば、答えは1つ。
「みんな!転送機を無傷で奪取する!!」
「そうですか。やはりそう来ましたね。」
所長はサッと手を上げる。 その合図でけたたましいサイレンが都市中に鳴り響く。
奥から鎧を付けた兵士達が雪崩れ込んで来る。 たちまち俺達は包囲状態になる。
斬り込んで来た兵士から身をかわし、マーシャの蹴りが兵士の頭部に炸裂した。
兵士の頭はすっ飛び、床に落ちる。
「げ!」
「…やってしまった。」
殺してしまった!? ―と、思うも刹那。頭の無くなった兵士は更に攻撃を仕掛けて来た!
「何ぃ!?」
「アンデッド?でも、モンスターが魔族以外の言うコトを聞くなんて!?」
その攻撃を避けて、パトルが大剣で兵士の胴を突く。
鎧は砕け、中から骸骨が転がり出す。 …これは、ドクロスケルトンじゃないか!?
「上級モンスターのドクロスケルトンじゃと!?うぬら、何をした!?」
「まさか、合体モンスターと同様に改造したのか?」
「その通りですよ。ずっとこの都市の警護をどうしとうかと考えていましたが、
我々はインドアのデスクワーカーですからね。肉体労働は不向きです。
そこで、有り余っているモンスターを再利用しようと、そう考えたワケです。」
「つまり、この鎧がドクロスケルトンを従属させているのか!?魔族の従属のプレートのように?」
「察しが良くて助かりますよ。さぁ、邪魔立てするなら物理的に消えてもらいましょうか。」
所長は自分の手前にズラッと鎧兵士を並べ、守りを固めた…つもりらしい。
「フッ…フフフフフ…ハーッハッハッハッハッハ!!笑止!!」
久々にデヴィルラが王族流の笑い声を披露した。他のメンバーも余裕がある。
「余を見くびるで無いわ!」
「…ヒトじゃ無いなら気楽。」
「そうっすねー。」
「!?何を言っているのです…?」
その所長の声を聞くよりも早く、パトルとマーシャが左右に分かれて鎧兵士の群れに身を躍らせ飛び込んだ。
デヴィルラは両手の指に10の火球を作り出し、指をすぼめて行く。
その直後、猛烈な魔導バルカンの斉射音が辺りをつんざく!!
元々、魔導バルカンは素抜けの骸骨相手に、命中率と連射性を両立させるために編み出した技だ。
それが、相手のドクロスケルトンは隙間無く鎧を着込み、的が大きくなっている。
そんな連中、今のデヴィルラにはナメプ対象でしか無い。
パトルもマーシャも、鎧を着て素早さが下がった相手に遅れを取るコトは無い。
次々に2人の剣と拳の前に砕け散って行く。
魔導バルカンが止む。パトルとマーシャも攻撃を止める。
―静寂が訪れる。
そこに立っている鎧兵士は、ただの1体もいなかった。
「あの技は一体!?魔導の限界を超えている…!?」
焦燥の顔を見せる所長。やおら外が騒がしくなっている。
どうやら鎧兵士の大郡を見て、魔王様達の混成軍団が都市に突入したらしい。
しかし、その騒ぎすら我関せずといった具合に、所長は自分の世界に入って淡々と語る。
「貴方達は大変に興味深いです。こうなれば、是非とも『これ』の相手をして頂きましょう。」
機械音と共に天井が開いて行く。そして、俺達がそこに見たモノ、
あの合体モンスターよりも遥かに巨大な人型兵器『魔導巨人』!!




