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1クールで終わる異世界冒険  作者: 歩き目です
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第12話「初めての共同作業」その1

※前回までのあらすじ


神様から聞かされたコトで、衝撃の事実が判明。

このまま魔導都市の転送機を使い続けると、世界が崩壊してしまう。

俺達は魔導都市に入るための助力を得るため、デヴィルラの父である魔族の王に謁見した。

そして、開催中のモンスターバトルで、モンスターが合体して襲って来るという事件が。



俺達の前に立つ巨大な合体モンスター。

最上級モンスターの中でも身体の大きい種類同士の合体なので、15メートル以上になる。

もう、モ◯ルスーツとかが欲しくなるよ、コレは。


「ケインさん!指示を!」

「攻めたいのはやまやまだけど、もう少しヤツの手の内を見たい。」

「―というコトじゃ。皆の者、良いな!?」

「りょーかいっす!」

「…任務了解。直ちに開始する。」


4人は散開して攻撃を始める。

パトルは数発おきに武器を換装し、どの武器が最も有効か俺に見せてくれる。

マーシャはあえて合体モンスターの目前まで迫り、ヤツの反撃法と反応速度を確かめる。

デヴィルラは魔法の全属性を駆使して、弱点と耐性を見極める。

そしてプリスは、ヤツの攻撃からパーティーの体力の減り具合を把握する。


合体前のそれぞれ単体のモンスターなら、性質も弱点も判っている。

しかし、それがそのまま通用するならば、わざわざ合体した意味が無い。

ただデカいモンスターが欲しいなら、コイツよりもっと大きいヤツだっていたハズだ。

この合体モンスターの陰には、明らかな誰かの『実験する思考』が感じられるんだ。


ゲームなら、まず第一戦目は負ける覚悟で挑み、相手の行動パターンや技を知るのに費やす。

そして二戦目以降、試行錯誤を何度も繰り返し攻略する、ってのが王道だ。

だが、ここではそれは出来ない。現実で死ねるのは1回切り、しかもそこで終了だ。

だから浪費や無茶は出来ない。限られた情報から倒せる糸口を掴まなければ…。



合体モンスターから離脱した4人が、次々に戻って来る。最初はデヴィルラだ。


「報告じゃ!こやつ、弱点の属性が変化しておるな。」

「やっぱりか。」

「あの頭部のムクロワイトは死霊系ゆえ、本来ならば火が弱点のハズじゃが、

炎系魔法を撃ち込んでも、与えたダメージが他の魔法とほぼ変わらぬ。―と言うより無属性化しておる。」


合体して属性無しに変化か。各モンスターで弱点を補い合ってるのか?

次にパトルがやって来た。


「ボスー!きるのはだめっすねー。ぶったたくしかないとおもうっすよ。

ちょっときったぐらいじゃ、すぐになおっちゃうっす。」


ムクロワイトが回復魔法を使うので、多少切ってもすぐに回復する。

回復が追い付かないくらいのダメージを与えないと効果が無い、ってコトだな。

それなら、手数は減るが打撃武器の一撃に賭けた方が良い…か。

マーシャも帰って来て報告する。


「…マスター、あの腕の鎌がウザイ。8本もあると死角が無い。」


腕となったトウロウマンティウスは、前脚と中脚が鎌になっている。だから左右2体で計8本の鎌。

それが全て独立して襲って来る。と言うか、それを全部避けてるマーシャが凄いよ。

あれさえ無ければ、上半身に攻撃を集中出来るかも知れないな。

最後はプリスからの報告だ。


「今のトコロは回復は大丈夫です。ただ…、」

「何か気になるコトでも?」

「デヴィルラが言っていた『無属性』が気になります。あのモンスターの攻撃も無属性だった場合、

風の防御魔法の効果がほとんど期待出来なくなる可能性が…。」


うぬ、防御系が効かないのはボス戦では辛いな。

みんなの話を総合すると、分かってはいたけど、かなり厄介な相手だぞ…こりゃあ。


ーと、合体モンスターの目が光り出した。何だ!?

それを見てデヴィルラが叫ぶ。


「無属性波動じゃ!主!皆の者!耐えよ!!」


次の瞬間、フラッシュのような閃光と共に、風でも炎でも無い衝撃波が襲う。

俺達はデヴィルラの声で身構えていたが、見事に散り散りに吹っ飛ばされた。


合体モンスターは動きを止めている。周りを見ると、4人全員が倒れている。

この中で一番貧弱な俺が生きてるんだ。死んではいないと思う。


「主よ…無事か?」

「あぁ…、今のは…?」

「無属性魔法を用いた波動じゃ。あれは火、水、風、土に変換する前の魔力そのものを放つ。一度放たれれば相殺も出来ぬ。」

「無属性魔法同士でも相殺しないのか?」

「属性が無い魔力は術者のマナや体質がモロに出る。

故に、無属性魔法は個人個人で質が異なり、言わば千差万別の、その術者だけの属性を持つのじゃ。」

「柱や壁に隠れれば…、」

「無駄じゃ。属性を持たぬ故、どんな障壁もすり抜ける。」


プリスの懸念が当たった。デヴィルラが『耐えろ!』と言ったのはそのためか。

パトル達もようやく起き上がって来た。


「いまのは…きいたっすー。」

「…アレ、連発されたらヤバイかも。」

「動きませんね?警戒というより、停止…いえ、休止?」


全員に回復魔法を掛けながらプリスはモンスターを凝視する。


「無属性魔法は対処が出来ぬが、本来、属性が無い故に威力は小さい。攻撃魔法として進化して来なかった理由もそこにある。

じゃが、今の一撃は常軌を逸しておる。恐らくは相当に溜めて圧縮したのであろう。」

「つまり…チャージ時間が必要で、連発は出来ない?」

「十中八九は。」


ならば今のうちに攻撃したいが、ダメージが予想以上に大きかったか、回復がまだ終わらない。

クソ…これは最悪、もう一発来るかも知れないじゃないか!?


「みんな、ヤツの目を狙ってくれ!あの攻撃をさせるな!」

「りょーかいっす!」

「あい、分かった!」

「…マカセテ。」


パトル、マーシャ、デヴィルラの3人が攻撃を始める。

合体モンスターはそれに気付いて動き出す。

再起動まで自分からは攻撃はして来ないが、防衛はするぞってコトか。


パトルはブーメランで、マーシャは飛び蹴りで、デヴィルラは氷の槍で合体モンスターの目を狙う。

やはりそこを攻められるのは嫌なのか、身をよじり、手で庇い、一歩二歩と後退する。

―このまま押し込めるか?

しかし業を煮やしたか、合体モンスターは翼を広げ上空にエスケープしてしまう。


「くそぅ!また空か!」

「ずるいっすー!おりてくるっすー!」

「…ムカツク。」


ここで時間を稼がれたら、また無属性の一撃が来る。

何としてでも、ここはヤツを地面に釘付けにしないと…!


「デヴィルラ!ヤツの翼をどうにか出来ないか?地面に引きずり下ろしたいんだ!」

「うむ、任せよ。」


デヴィルらは歩き出し、上空の合体モンスターを見据える。


「『最強装備シリーズ』の神殿での戦い、余もあれで色々考えさせられてな。

命中率と連射性を両立するには、如何にしたモノか?とのう。」


素抜けの骸骨剣士を相手にした時だ。100を超えるモンスターの群れに苦戦したっけ。

狙えば命中率は上がるが、その隙に敵に囲まれる。かと言って連射は命中率を低下させ、骨の間をすり抜けてしまう。

あの二律背反に解決策を見付けたっていうのか!?


「その答えが、これじゃ。」


デヴィルらは拳をナナメ上に突き上げる。そして人差し指を伸ばす。

すると、人差し指の先に光る火球が生まれた。さらに中指、薬指、小指と、同様に指先に火球を生み出し、

最後に親指で、5本の指全てに火球が燃えている。


何だ!?『フィンガー何とかボムズ』か!?生命縮める魔法とかじゃ無いだろうな!?


と、さらにその指先を揃えて筒状にすぼめ、


「はっ!!」


ドゥラララララララララララララララララララ!!!!!!!!!!!


指先から光と共に超高速で連射される火球、火球、火球!!

これは…バルカン砲だ!! 魔導バルカンとでも言うべき技だ!!

デヴィルラは、命中率と連射性の両立を『弾数をべらぼうに増やす』という、

しごく単純で力押しの手段で解決したのだ。


魔導バルカンの軌道は上空の合体モンスターを捉え、空を爆炎に包む!

しかし、敵はそこから横に飛び逃げようとする。


「しぶといのう。ならばもう一丁じゃ。」


そう言うとデヴィルラは左拳も同様に突き上げ、両手で射撃を始める。凄まじい轟音!!

二基の魔導バルカンからは、さしもの合体モンスターも逃げるコト叶わず、

背中のヒリュウワイバーンの翼は、見る見るうちにボロボロになって行く。


翼を失い、遂に合体モンスターは地面に墜落した。地面が揺らぐ。


「ふん、手こずらせおって。」


斉射を止め、腕を振り下ろすデヴィルラ。その指先からは魔力の煙がたなびいている。

もう、まんまバルカン砲だよ!!


「凄いです、デヴィルラ!」

「ふふん、正妻争いしておっても認めるモノは素直に認める。余はお主のそういうトコロが好きじゃ。」

「何を言ってるんですか。」


デヴィルラはさらに手から長大な魔力の剣を作り出し、


「これはオマケじゃ。」


合体モンスターの両腕…8本の鎌を斬り落とした。


「おいおい、もうお前一人で良いんじゃないか?って活躍だな!」

「あの鎌にマーシャが難儀しておったからのう。」

「よし、今のをもう一発、頭に…、」

「無理じゃ。」

「へ?」

「魔力が底を突いた。暫く休ませてくれぬか。」


デヴィルラの魔力は『無尽蔵』が売り文句だ。しかし、現実には限りはある。

それは単に魔力回復量が著しく多いから、普通の魔法を普通に使っているならば気にしなくて良いというハナシだ。


無理もない。上級魔法クラスの火球を何百発、何千発と連射したのだ。

普通の魔法使いが真似しても10秒と持たないだろう。…いや、真似すら出来ないだろうな。


「だいじょーぶっす!あとはまかせるっすよー!」

「…お茶でも飲んでいれば良い。」

「うむ、ならばそうするかのう。」


デヴィルラがパチンと指を鳴らすと、執事っぽい魔族がお茶を持ってきた。

…本当にティータイムと洒落込む気かよ。

ガレキに腰掛け、脚を組み、優雅に茶を愉しみ出すデヴィルラ。

まぁ、魔力が戻るまでは出番無いから、それでも良いんだけどさぁ。こういうのも泰然自若って言うのかな?


デヴィルラの活躍のお陰で、マーシャの攻撃がモロに入るようになって来た。

パトルも武器をハンマーに換装して振り回している。


『最強装備シリーズ』のハンマーは、腰アーマーの草摺を組み合わせ円筒形にしたモノに、

シールドで両側を塞ぎ、ロッドを柄として接続する。

メイスの鉄球と同じく中空だが、魔力の充填をするコトで重さをどんどん増やせる。

装備の中では最大の威力があるが、メイスよりもさらに大きく重い。

従って大振りになりがちで空振りも多いが、当たればかなりの割合でクリティカルになるギャンブル要素の強い武器だ。


もう数発はクリティカルが当たっているのだが、合体モンスターはまだ倒れない。

今度はハンマーが空振りし、敵の蹴りでパトルは吹っ飛ばされた。

ゴロゴロとティータイム中のデヴィルラのトコロまで転がって行った。


「む?平気か?パトル、悪いがもう暫く待っておれ。」

「ひ…」

「ひ?」

「ひとくち、ほしいっす。」

「おぉ、そうか。ほれ。」


デヴィルラはパトルに自分のカップを渡す。

パトルはそれを一気に飲み干した。ガチン!という歯が当たる音がしたが、お構い無しだ。


「っぷはー!ごちそーさんっす!」


そう言うとパトルは戦線復帰して合体モンスターに向かって行った。


「ひと口で全部飲みおった…。」


案の定、ティーカップは端が歯形に欠けていた。

そこに今度はマーシャが弾かれて落下して来た。砂埃が舞う。


「おう、今度はお主か。」

「…マーシャにも、欲しい。」

「分かった、ほれ。」


執事に代わりを注がせた茶をもらって、マーシャはひと口目で口を濯ぎ、ペッと吐き出す。

それには血が混ざっていた。

そして残りをゴクゴクと飲む。ティーカップにも血の跡が付く。それを受け取るデヴィルラ。


「どんな塩梅じゃ?」

「…今のままならジリ貧。…決め手が無い。」

「ふうむ、主はどう出るかのう?」


そう言うとデヴィルラは、マーシャの血が付いたカップで再び茶を口にする。

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