第11話「幼女×幼女×幼女×幼女」その2
「これって、つまり…、」
「うむ、魔導都市の転送機を潰すか鹵獲するまで、この事態は収拾せん。」
「ど、どうするっすー?」
みんなも問題の大きさに気付き、困惑している様子だ。
『どうしますか。』
神様が漠然とした、しかし大きな質問を投げ掛けて来る。
戻るのか、戻らないのか。これ以上の被害を放置するのか、しないのか。転送機を壊すのか、壊さないのか。
そして、それを俺がやるのか、やらないのか。
そうだ、別に俺がやる必要は無い。
この一件をギルドに話して、強力な冒険者達で大パーティーを編成し、魔導都市に攻め込むコトだって可能だ。
デヴィルラだって、魔族が武力介入する予定があるとも言っていた。
いまだ上級モンスターにだって手こずる俺に、果たしてどれだけのコトが出来るんだ?
―それは分かってる。嫌ってほど分かってる。
でも、これは俺の世界に関係したコトだ。むしろ、関係しまくりだ。
その世界の人間である俺が、ただ傍観していて許されるのか?他人任せで良いのか?
無謀なのは百も承知だ。 だが、それでは『俺の気持ち』がイヤなんだ。
「―魔導都市に行って、転送機を破壊する!」
俺は迷い無くそう言う。
「うむ!やはりそう出たか!そうで無くては面白く無い!」
「ボス!ぜんりょくで、てつだうっすー!!」
「…マスター、今のでマーシャ、キュンと来た。…好きにして。」
プリスが一人、戸惑った顔で俺に問う。
「良いんですか?戻れなくなるんですよ?」
「いや、みんな、さっきまで戻って欲しく無さそうにしてただろー?」
「それは…そうですが…。」
俺は軽く笑いながらツッコミ調で返す。
プリスも自分の言ってるコトに矛盾があるのは分かっているようだ。
それ故に、そこから先の言葉が出ないでいる。
うん、ここは俺達全員、覚悟を確認しておくべき時だ。
「それじゃあ、ここで決を取る!!」
「えっ?えっ!?」
「俺とずっと一緒にいたい、ってヤツは挙手!!」
「え?あ、あっと、その…はいっ!!」
―全員が手を挙げてくれた。
パトルは剣を握った手を高く挙げ、デヴィルラはさも当然といった表情で。
マーシャなんかは両手を挙げて万歳になってるし。
そしてプリスも思わず手を挙げて、顔を真赤にしている。
『決まったようですね。』
「えぇ、俺達は魔導都市に向かいます!」
この挙手で全員吹っ切れたのか、もうプリスの表情にも迷いは無かった。
「ならば主よ。一旦、余の国に寄るが良い。魔導都市は研究員しか出入りを許さん場所。
されど、父上にこの件を話せば、魔族の国の特使として入れるよう便宜を図ってくれるじゃろう。」
「おぉ!流石はお姫様!そちもワルよのぅ!!」
「いやいや、主には敵わん。ハッハッハッハッハ!!」
うん、やっぱりこのフレーズもこっちで使えるんだな。
今まで日本のギャグまでは分からないだろうと思って、遠慮して来たのが馬鹿らしく思えて来た。
―あ?それで思い出した!もう1つ聞くコトがあった!
「神様!この世界に、俺の世界…日本の影響が見受けられるんですが…。」
『それは貴方がこちらに来た影響です。』
「え?つまり、俺がこっちに来るまでは、それらは一切無かった…と?」
『そうです。』
それを聞いて驚いたのはプリス達だ。
「そんな!?だって、この世界の文字も、言葉も、お金も、ずっと昔からあったじゃありませんか!?」
「うむ、余も生まれた時からそれらに囲まれて育って来た。その記憶が紛い物と申されるか?神よ?」
『いえ、貴方達の記憶も、歴史も、また正しいのです。』
「…イミフ。」
「あたま、こんがらがってきたっすよー?」
神様は淡々と説明する。
『本来のこの世界は、貴方のいた世界『日本』とは何の共通性も無いものでした。
しかし、その理を破り、無理矢理に2つの世界を繋げたために、この世界は歪みを生じました。
世界は崩壊する亊を拒みました。そしてその歪みが、矛盾が、最小限に留まる世界のあり方を探しました。
それが『日本』の文化が僅かに息づく、本来の世界に極力似た、今のこの世界なのです。』
つまり、パラレルワールドなのか。
無限の可能性が分岐した世界から、本来の世界と日本の影響を受けた世界との両方に似ている世界を探した。
そんな都合の良い折衷案の結果が、今のこの世界ってコトか。
だからプリス達の人生や記憶も、折衷案のこの世界での紛れも無い事実なのだ。
本来の世界からちょっとシフトしたとは言え、これは改竄でも上書きでも無い。
あえて言うなら、重なり合いダブっているような状態か。
神様はさらに続ける。
『ですが、転送されて来る『異邦人』が更に増えれば、その歪みは大きくなり続け、
いずれ、この世界は抱えた矛盾に耐え切れなくなり…崩壊するでしょう。』
「!!」
『この世界が内包出来る歪みは、貴方1人分が精一杯なのです。』
もう決まりだ。この世界を壊さないためにも、転送機を使わせてはいけない。
『最初にこの話をしなかったのは、貴方達に自分達で考え、自分達で選択をして欲しかったからです。』
「うむ、結果として同じになるだろうとは言え、与儀の無い選択はつまらんからのう。」
「はい。自分達の出した決断ならば、責任を持たなくてはいけません。」
「ボスがきめたことっす!まちがいないっす!」
「…この世界無くなる。マーシャがマスターの赤ちゃん産めなくなる。…ゆ゛る゛ざん゛!!」
一人、すっっごく利己的な理由あげてるヤツがいるけど、ここはスルーしておこう。
「よし!これからデヴィルラの故郷、魔族の国に行こう。」
「ケインさん…それですが、魔王の城近辺には最上級モンスターがひしめいているのでは?」
「あ、…そうか。…デヴィルラ、どうにかならない?」
「済まぬが、どうにもならぬな。モンスターは魔族には向かって来んが、他種族には見境無く襲い掛かるからのう。
それに生物では無いから、従属のプレート無しには誰の命令も聞かんのじゃ。」
「そのぷれーとをいっぱいもっていけば、いいんじゃないっすか?」
「簡単に言うでは無い。あれは、余がカードに封印したモンスターの分、5つだけのレアアイテムじゃ。」
「…大丈夫。全部マーシャが倒す。」
「いやいや、無理すんな!それに、マトモに相手してると、それだけでえらい時間食うぞ。」
いつまたマッド・サイエンティスト達が、俺の世界に研究員を送り込むか分かったモンじゃ無い。
1日も早く魔王の城に着きたいんだよなぁ。
こういう時、ゲームだと町や村に一瞬で行けるワープ呪文があるのになぁ…。
『そうですか。そういう呪文があるのですね。』
「え?」
神様、今、俺の心読みました!? 読みましたよね!?
『私の力で魔王の城まで送りましょう。直接、貴方達に協力する事は出来ませんが、これならば構わないでしょう。』
「本当ですか!?」
『―貴方達に期待しましょう。』
神様がそう言った瞬間、自分の身体の中身が外にスライドして飛び出るような感覚がする。
それはすぐに収まるが、何とも言えない感覚に目をしばつかせ頭を振る。
―そして、次に俺達の視界に入って来たのは…
「……魔王城。余の国じゃ…。」
魔族の国の王、魔王がいる城『魔王城』だった。
俺達はその城の正面である城門前にいた。神様、ワープアウト地点がピンポイント過ぎます。GJです。
「信じられません…。本当に一瞬でここまで来たんですか?」
「どーなってるんすか…?」
「…今までで一番、びっくり。」
「デヴィルラ、間違いは無いんだな?」
「いくら何でも、自分の家を忘れる頓痴気はおらぬわ。」
そう言ってると、城の門の上にある警備の詰め所から蛇の頭と、鳥の頭をした魔族が2人?顔を見せた。
俺達が騒いでたから気付いたんだろうな。
「おう、お前達か。門番御苦労。」
「ひ、姫様!?少々お待ち下さい!今、門を開けます!」
やがて跳ね橋が鎖のガラガラという音と共に下がって行く。うん、西洋のお城って言ったらこのイメージだよな。
すかさず魔族の警備2人?がやって来て、デヴィルラの前に跪く。
「お帰りなさいませ、姫様。いつお戻りになられました?」
「たった今じゃ。早速だが父上に会いに行くので通せ。」
「は!…して、そちらの者達は?」
「この女子ら3人は余の友人。そして、こっちは余の主じゃ。」
「あ、主!?」
「うむ。余はこの主とやんごとなき関係での。くれぐれも粗相の無いようにな。」
「え…は、ははっ!!」
うん。門番さん、色々疑問はあるだろうけど、権力で押し切られたな…。
正面門を抜け、下中庭を進み、城門棟に入る。さらに中庭を通って宮殿へ。
デヴィルラのひと言が効いたのか、俺達は国賓級の扱いを受け、魔王の御膳へと歩いて行く。
城の外も中も、これと言ってグロテスクなモノも無いし、暗くも無い。
ちょっとデザイン感は異なるモノの、白と銀で彩られた場内はむしろ厳かで清潔感があった。
そしていよいよ謁見の間だ。
デヴィルラを除き、俺達は国王に会うのだから一応跪いて、頭を下げて待つ。
玉座に誰かが座る音がして、低く落ち着いた声がする。
「良く戻った、我が娘よ。そして勇者達よ、良くぞ参られた。」
「ただいまじゃ、父上。」
魔王は謁見の間の玉座に座って、俺達を歓迎してくれた。
まだ頭を下げたままなので、魔王の姿は判らない。
―ってか、勇者って何!?いつから俺は勇者になったの?
「あぁ、主も3人も、もう面を上げても良いぞ。余がいるのじゃ、無礼講で構わぬ。」
身内は気楽に言うよなぁ! ―俺達は静かに頭を上げる。
―そこには、身の丈3~4メートルはあろうかと言う体格で、筋肉隆々、頭に巨大な角、
荒ぶる白い髪、金に光る目、牙の生えた口、肩や肘から突き出た角というかトゲというか、
もう、どこからどう見てもRPGのラスボス的な存在がそこにあった。




