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1クールで終わる異世界冒険  作者: 歩き目です
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第1話「青い髪の幼女」その3

階段を降りて、ギルドの1階。


「それで、ケインさんはどうします?冒険者登録しますか?」

「うーん…ひとまず今日はパスかなぁ。ゆっくり考えてみるよ。」

「そうですか。確かに、人それぞれですからね。」

「プリスは新しいクエスト受けなくていいの?」

「はい。私も今日はゆっくり休みます。」


守銭奴と言われる程なら、引っ切り無しにクエスト受けまくるかと思ったけど、

そうだよなぁ、休むコトくらいはするよなぁ。

下手な誘導尋問は失敗に終わった。


俺達はギルド正面口から出た。

すると、そこに小さい女の子…プリスよりも幼い、歳5つか6つの女の子が階段に座り込んでいた。

…何かグスグスと鼻を鳴らして泣いている?


それを見たプリスがその子の前にしゃがんだ。


「どうしましたか?」

「……」

「何かお困り事ですか?」


その光景を見て、俺は、プリスが僧侶なんだって再認識した。

優しく誰にでも救いの手を差し伸べる。その顔は幼女なのに慈愛に満ちている。


「…おねーちゃん、ぼーけんしゃ?」

「はい、そうですよ。」

「くえすと、うけてくれる?」

「そうですね、まず、お話を聞かせて下さい。」


女の子はベソかきながら話してくれた。

それによると、両親と一緒に山のふもとを馬で荷車を曳き、移動していた時、モンスターに襲われたらしい。

モンスターは『サンピンゴブリン』といって、手練の冒険者なら苦も無く倒せる相手だが

奴等は徒党を組むし、一般の村人ではとても危険だ。


そこで生命からがら逃げてきたが、荷車が揺れに揺れたコトで女の子が大切にしていた人形が落ちてしまったのだそうだ。

過ぎ去る景色の中、落ちた人形をサンピンゴブリンが拾うトコロまでは見えたらしい。

すなわち、女の子が依頼する『くえすと』とは、その人形の奪還、というワケだ。


だが、この子が用意出来た報酬金は1000エン。

当然のように、どの冒険者も取り合ってくれやしない。

そりゃそうだ。薬草や食料、1000エンじゃ探してる間の雑費にもなりゃしない。

幼い子供が一生懸命集めた価値ある1000エンだが、危険なクエストには現実的な金額がモノを言う。

両親も「もう諦めなさい」の一語でにべもなし。

それでここに至る、という具合か。

プリスが口を開く。


「サンピンゴブリンは奪う、拾うに関わらず、人間の物を集める習性があるんです。」

「じゃあ、食われたりとか壊されたりは…」

「してないと思います。」

「どこに集めてるんだろ。」

「サンピンゴブリンは昼間は屋外に出て、夜は洞窟やダンジョンを住処にしていますから、恐らくはそこに。

きっとダンジョン内のカラの宝箱とかに仕舞いこんでるのでしょう。」


おぉ!ゲームで『宝箱の中身って誰が置いてるんだよ!?』って、ずっと思ってたけど、

こうしてモンスターが拾い集めてたのか!!

事実は小説よりも奇なり!


でも、ダンジョン内だとかなり難易度高そうだ。ますます『くえすと』受けるヤツはいないだろうな。


いや、俺だって何とかしてやりたいよ?

だけど今の俺、無力だもんなぁ…。

俺がそんなウジウジした考えで悩んでいると、


「わかりました。」


プリスが優しくも毅然とした口調で言う。


「そのお人形、私が探して来ます。」

「ほんと!?」

「え?ちょっとプリス、それ本気か?」

「はい、こんな小さな子供が困っていて、助けない道理はありません。」


うわ、プリス△!!カッコイイよ!マジで!!

つーか、君が子供だろ!でも、そこまで言えちゃうトコに痺れる憧れるぅ!

これがオッサン達の言ってた『守銭奴プリス』か?金の亡者か?

いやいや、そんなワケねーだろ!


情報が足りなくて色々疑心暗鬼になっていたとは言え、これを見て気持ちが固まった。

プリスは良い子だ!!


そうだよ、もしプリスが本当に守銭奴だったら、最初に会った時、俺を起こす前にサイフは盗られてたハズだ。

クズスライムを倒して謝礼金を取ってたハズだ。

町まで一緒に歩いたら案内料を取ってたハズだ。

コーヒー代だって持とうとしなかったハズだ。

そして、こんな赤字覚悟のクエストなんか絶対に受けないハズだ。


他の誰がどう言おうとも、俺には今日これまでに見たプリスが、唯一本当のプリスだ。

可愛くて素直で謙虚で優しい幼女僧侶だ。


プリスは女の子と指切りをする。


「必ず見付けてきますから、もう泣かないで下さいね。」

「うん!」


俺よ、

こんな彼女を単身ダンジョンに向かわせるのか?

俺はそれで平気なのか?

俺に出来るコトは何か無いのか?

男だろ!オトナだろ!変態という名の紳士だろ! いや、そうじゃ無くて!!

そう思った時、すでに俺は立ち上がって、プリスに向かって言葉を発していた。


「俺も行く。―俺、冒険者になるよ。」


驚いて俺の顔を見るプリスの頬に、ピンクのブラシがかかったように見えたのは、気のせいだったか?



「とは言ったものの…」


どうすりゃ良いんだ……。

ケンカすらマトモにしたコトの無い俺が、モンスターと戦えるのか?

何を用意して、何処に行きゃ良いんだ? 教えて!プリスさん!


「何は無くとも、まずはギルド登録です。」

「1万エン取られるんだっけ…。絶対に登録しないとダメなのか?」

「絶対必要というワケではありませんが、その場合、トラブルが起きても自己責任になります。」

「自己責任?」

「そもそもギルドに依頼したクエストを部外者が解決しても、イレギュラー扱いされるのがオチです。

下手をすれば、慈善事業と決めつけられてタダ働きにされるかも知れません。

ギルドが仲介してくれるお陰で、依頼条件や報酬額を誤魔化されたり値切られたりしないワケです。」

「うむむ、それは大きいなぁ。この先のコト考えたら、バックが付いてるってのは安心感あるよなぁ。」



そうして俺の冒険者としての準備が、プリス教官指導の元、進められた。

ギルドへの登録を済ませ、武器屋と防具屋に。

物価が安いこの世界だが、それでも無駄遣いは禁物だ。

プリスと話し合った結果、ショートソードと皮の胸当て、皮のすね当て、皮の手袋、短目のマントを買った。

いわゆる『冒険者スターターキット』みたいなモンである。

ナイフやダガーにしなかったのは、戦闘に不慣れな俺のリーチを長くして、敵が懐に飛び込んで来る危険を減らすためだ。

かと言ってロングソードじゃ、今の俺には重過ぎて扱い切れないからな。

マントは自分の身体を大きく見せて威嚇したり、逆に的を大きく見せて攻撃の当たるポイントを見誤らせる効果があるらしい。

今までただカッコイイだけだと思ってたよ。ゴメンよマント。


次に道具屋。

薬草と食料、コンパス、ランタン、油、蝋燭、マッチ、水筒、ロープ……結構と色々要るんだな。


「万が一はぐれて単独になってしまった場合、無いと有るとでは雲泥の差ですからね。

例えパーティーを組んでいても、誰か1人にまとめて持たせるのは感心しません。自分の命綱は自分で管理するべきです。」

「なるほど。」


プリス教官のお話はタメになるなぁ。


「それで、これからの数日間ですが、いきなりサンピンゴブリンの巣食うダンジョンには赴かず、

ケインさんは近場で低級のモンスターを倒す経験を積んだ方が良いと思います。」

「だよなぁ。初心者風情が行ってもズタボロにされるだけだろうしなぁ…。

でも、あの女の子のクエストを放置してて大丈夫なのか?」

「あの子は特に期日に関しては何も言ってませんでした。どれだけ掛かっても、お人形が帰って来れば良いのでしょう。

もちろんそれに甘えてはいけませんが、今は地道に土台を固める時だと判断します。」

「…だな。うん、異議無し!教官、ノロマな亀の俺をビシバシ鍛えてくれ!」

「ふふっ、何ですか?その『教官』って…。」


苦笑したプリスも可愛い。

ただ、こうしてる俺達を見る町の住人や他の冒険者の表情が、さっきから非常~~に微妙だ。

恐らくは、俺が悪名高き『守銭奴プリス』の口車に乗せられて、哀れにもボッたくられてるとでも思ってるのだろう。


『おいおいおい』

『死ぬわ、アイツ』

『ほう、守銭奴と買い物ですか…。大したモノですね。』


とかいう目で見てるんだろうかね?

てか、プリスは平然としてるよなぁ。まさか、自分がどう思われてるのか知らないのかな?

知らないなら教えてやるべきか? いや、そりゃ余計なお節介かも…。

今は自分自身が強くなるのが先決だ。 そう思うコトにしよう。


「さぁ、買うべきモノは買いました。明日に備えて宿を取りに行きましょう。」

「え?一緒に来てくれる…の?」

「?当たり前じゃないですか。パーティーなんですから。」


うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!

ロリとお泊り会キターーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!


いや、騙されるな!これはプリス教官の罠だ!どうせ別部屋に決まってる!

期待させておいて突き落とす手口だ!世の中そんなに甘くないんだ!

惑わされるな!ノーモアお色気詐欺!!!



…………世の中、意外と甘かったよ。


「どうしました?ケインさんも脱いで下さい。」


マッパの幼女がいますよ。目の前に。

そのマッパ幼女が俺の服を脱がしてるんですよ。ニコニコと笑顔で。

そしてお湯の入った桶でタオルを搾ると、俺の身体を拭いてるワケですよ。

え?ここ、天国? 俺、いつの間にあの世に来たの?


「プリスさん、ええと、その、あの、これは何てプレイですか?」

「ケインさんって、時々分からないコト言いますよね。んふふ。」

「いや、だから、何でこんなコトを?」

「だって、背中は一人では拭きにくいじゃないですか。…はい、次は私の背中をお願いします。」

「いいの!?」

「…駄目ですか?」

「とんでもない!!!」


ヤベェ、被り気味に即答しちゃったよ。

うわぁ、小さい背中…。力入れたら折れちゃいそうだ…。

無心だ、無心。

間違っても


『あっ、手が滑っちゃったぁー!』


は無しだ。まだ慌てる時間じゃない。

いや、そういうスケベな意味では無く、出会った初日の夜にいきなりコレとか、

もう何を言ってるんだ。自分でも分かってないわ。俺の思考回路はショート寸前です。

俺、我が生涯に一片の悔いなし!!


「…ケインさん、どうして右腕を上げてるんですか?」

「いや、何でもない。ちょっと感極まっただけ。」


そして就寝。

このまま行き着くトコロまでイッてしまうのかーーーー!? と思ったら、

ベッドは2つありました。流石に一緒じゃ無かったよ…。

いやいや、ここまでだって十分過ぎるでしょう!

むしろ謙虚にここまでの幸運に感謝すべきだ。明日から頑張れる気がモリモリするぜ。


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