表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1クールで終わる異世界冒険  作者: 歩き目です
28/39

第10話「温泉回と神様」その1

※前回までのあらすじ


『最強装備シリーズ』の残り1つを遂に発見。

何と、それはエルフの幼女が持っていた。彼女は以前、俺がダンジョンで助け助けられした仲だった。

そして待望の温泉回へ。挿絵(By みてみん)



「やっぱり、エルフって肌が綺麗ですよねぇ…良いなぁ。」

「みみのうしろも、よーっくあらうっすよー。」

「ほれ見よ、お主は素材は良いのじゃから、も少し気を使えい。」

「…くすぐったい…。」


えー、現在、我々は露天風呂に来ておりまーす。

混浴で、効能は肩こり、腰痛、神経痛。切り傷や打ち身、捻挫にも良く効きまーす。

そして向こうでは、ウチのメンバーがエルフの幼女を3人掛かりで洗っていまーす。

泥と汚れにまみれた身体が、みるみるうちに真っ白に。


いや、もう何て言うか、幼女が4人でキャッキャしてると、こっちは達観しか出来ませんよ。ええ。

何だか、妹の世話をしてるお姉ちゃん達、みたいな構図だな。


ざばーーーー


頭からお湯を掛けられるエルフの幼女、マーシャ。


「はい、終わりましたよ。」

「…おー、ぴっかぴか…。」

「なかなか、てごわいよごれだったっすねー。」

「…いつもすまないねぇ。」

「それはいわないやくそくっすよー。」

「大方、お主、今まで風呂など入ったコトが無いのであろう?」

「…うん。ずっと水浴びだった。」


おい、ちょっと待て!

その『おとっつあん、おかゆが出来たわよ』の一連は、この世界でも通じるのか!?

文字や言語、通貨だけで無く、そんなトコまで日本文化が浸透してるのか!?


俺が複雑なカルチャーショックを受けていると、

4人が露天風呂の湯船に入って来た。

そして、俺の前で並ぶのだが…何故、立ったままなの君達!?タオルも付けずに!!

湯の深さは、俺が座って肩まで程度。だから子供だと股間ギリギリからチョイ下なのだ。

プリスがポン!と手を叩き、仕切り出す。


「はい!それでは自己紹介の時間でーす。」

「おー、いいっすねー!」

「うむ、親睦を深めるための第一歩じゃ。」

「…ひゅー、どんどんどん、ぱふぱふ。」


ちょっとマーシャちゃん、そのフレーズもこの世界で使えるの?

何か、俺が思ってるより日本の流儀がすんなり通りそうだなぁ…。

『実はコンビニのカード使えます!』とか、そんな気がしてきたぞ、俺。


「私はプリスです。僧侶を務めています。」

「オイラはじゅーじんぞくのパトルっす!ぶきならなんでもつかえるっすよ!」

「余は魔族を統べる魔王の娘、デヴィルラ。今は主の性奴隷じゃ。」

「おい!『性』は付けるな!ヤメろ!!」

「…マーシャ。エルフで格闘家…。」


それぞれが自己紹介をしたが、そう、その『エルフで格闘家』ってのが不思議なんだよ。

エルフは直接攻撃には向いていない種族で、魔法に秀でているハズだ。


「マーシャ、その、何故エルフが格闘家なんだ?」

「…マーシャが呪われた子だから。」

「それ、さっきも言っていましたが、詳しくお聞きしても良いですか?」

「話したく無いコトもあろう。無理にとは言わぬが。」

「…別に構わない。もう気にしていない…。」


マーシャは俺達を一様に見ると、語り出した。


「…マーシャはエルフ。だけどマーシャは魔法が使えない。」

「え?」

「…魔導大戦の終わり頃、人間の作った兵器がエルフの国を襲った…。」

「誤射とのコトだったのう。エルフにして見れば、結果が全てじゃろうが。」

「…それで、怒ったエルフの何人かが、人と戦うって言い出した…。」

「そんな事実が?エルフは戦わずに別の地に移ったとばかり思っていました。」


数百年前の種族内の揉めゴトだから、風化して公の歴史には残らなかったんだろうな。

でも、どんなに温厚な人でも、理由もなく国が襲われたら怒って当然だよな。


「…それを止めたのが、マーシャのパパ。」

「そーだったんすか!」

「…だけどパパは恨まれた。人間と戦うと言ったエルフ達に。…それでパパは呪われた。」

「ん?呪われたのは、お主なのであろう?」

「…パパは呪われた。だけどパパには精霊の加護があった。…だからパパは呪われたけど、呪いは起きなかった…。」

「それって、つまり…」

「…うん。その呪いは、数百年後に生まれたパパの長女…マーシャに起きた。」


うわぁ、完全なとばっちりだな。

日本の怪談で『親の因果が子に報い~』って一節があるけど、正にそれだわ。


「ふむ、それが『魔法が使えなくなるという呪い』か…。確かに、エルフに取っては死活問題よのう。」

「…もう1つ。」

「まだあるんすか!?」

「…どんな武器や防具も役に立たない呪いも掛けられた。…装備したら返って弱くなる。」

「えぇっ!?」


魔法が得意なエルフが魔法を封じられたら、武器を持って戦うしか生き残る道は無い。

だけど、装備しても役に立たないなら、その道も絶たれるってコトだろ?

すっごく用意周到でイヤらしい呪いだなぁ!!


「それ故に基本、武器や防具が要らぬ格闘家になった、というワケじゃな?」

「…うん。」

「迷いの森よりこちら側にいたのも、その呪いと関係があるんですか?」

「…マーシャは呪われて生まれた。だから…忌み子としてエルフの地を追い出された。」

「ひどいっす!!」

「大方、その父親に対する復讐じゃろう。呪いが本人に効かなかった悔しさに、

生まれた娘を手元から切り離すコトで悲嘆に暮れさせ、それで溜飲を下げたのであろうな。…下衆よのう。」


何て酷いハナシだ。どんなトコロにも心の醜い連中はいると頭では理解していても、

目の前にその被害者がいると、そういう薄汚い存在にムカッ腹が立ってくる。


「それで、今までずっと独りで暮らしていたんですか?」

「…うん。」

「どのくらい過ごしたのじゃ?」


その問いにマーシャは小首を傾げ、しばらく考えて、


「…90年…くらい?」

「「「「えーーーーーーっ!?」」」」


思わず俺は湯船から立ち上がってしまった。

ーと、4人が一斉に目線を下に向け、俺のある一点を凝視する。

反応は様々で、プリスは顔をピンクのブラシで塗り潰されたようになり、パトルは「ほー。」と感心し、

デヴィルラは目を細め笑顔で何度も頷き、マーシャは無表情のまま、もっと良く見ようと顔を前に出す。

俺は慌ててザボン!と湯に浸かり直す。…はー、これ、マジ事案ですよ。


「きゅ、90年って、どういうコトだ?」


俺は必死に話に戻そうとする。


「主よ、エルフは寿命が長いと申したであろう?子供時代ならば大体、エルフの10年が人間の1年ほどじゃ。」

「じゃあ、マーシャは人間で言えば9歳ちょっとか。」

「そのあいだ、ずーっと、かくとうかだったんすかー?」

「…うん。」

「そうだったんですね。…これで、あの最上級モンスターも素手で倒せるほどの、強さの謎が分かりました。」

「うむ。他の種族ならば武術を極めようとしても、寿命がその障害となる。

どんなに鍛えた肉体も、やがては老いさらばえる。若い頃は経験が足りず、歳を取れば身体が付いていかぬ。」

「そうっす。だから、ほんとーにつよくなるまえに、みーんなしんでしまうっす。」

「しかし、じゃ。エルフならどうか?エルフの長い寿命をもってすれば

他の種族が決して辿り着けない『時間』という縛りが立ちはだかる境地にも行き着いてしまう。」


納得だ。 90年間老いない身体で、生きるためにひたすらに真面目に研鑽を積み続ければ、

どんな格闘家よりも強くなれる。いや、これからだって、もっともっと強くなって行くだろう。


エルフは怠惰だとデヴィルラは言っていた。寿命の長いエルフは物事の解決を焦らない。だから発展しないと。

しかし、マーシャは魔法も武器も使うコトを封じられた。だから生きるためには怠惰ではいられなかった。

それが、エルフの長い寿命が、エルフとしての全てを奪われたコトが、逆にマーシャを強くしたのだ。


「―そっか。俺みたいな若造が言っても何の説得力も無いだろうけど、…大変だったな。」

「…そんなコト無い。ケインはマーシャのコトを思って言ってくれた。…歳は関係無い。」


マーシャはニコリと笑った。

と思ったら、


「…くちゅん。」


可愛いくしゃみが出た。

当然だ。こいつら、まだ立ったままで俺に下腹部を見せ付けていたんだから。


「ほ、ホラ、湯船に浸かれ。…大体、何でずっと立ってたんだよ!?」

「…誰も浸かろうとしなかった。」

「いや、そんな日本人的協調性はいいから!」

「余は、主に包み隠さず全てを見せるのが、奴隷の義務であろうと思うてな。むしろ、もっとジックリ見よと言いたい。」

「わっ、私は…デヴィルラがジワジワとケインさんに下腹部を近付けているのが分かったので、

負けてはいられないと…あっ、そうでは無くて、その…。」

「オイラは、だれがさいごまでがまんできるか、きょーそーだとおもってたっすよ?」


とりあえず、全員で湯船に浸かって一息だ。

みんなの顔が、ほややや~~っと呆ける。…マーシャの表情は今イチ分かりにくいが。


「さて、主よ。このマーシャがおれば、主の悲願、叶えられるのでは無いか?」

「え?…あ!そうか!迷いの森!!」


デヴィルラの言葉でハッとした。

そうだ、迷いの森を抜ければ『神々の住まう場所』に行ける。

幻惑魔法が掛かっていて普段は通り抜けられない迷いの森だけど、エルフの案内人がいれば…!

マーシャの身の上話があんまりショッキングだったので、忘れてたよ。


「…迷いの森?」

「あぁ、エルフならそこを惑わされずに抜けられるって聞いたんだ。」

「…ケインは森を抜けてどうするの?」

「神様に会おうと思ってる。」

「……びっくり。」


いや、びっくりって、相変わらず眉ひとつ動いてませんが?

そこにプリスが質問する。


「気に障るコトでしょうが、すみません。マーシャさんは―、」

「…マーシャ、で良い。」

「あ、はい。―マーシャはエルフの地を追われたんですよね。そのマーシャが迷いの森を抜けるのは

追いやったエルフ達にとってはどうなのでしょう?攻めて来るコトは無いのでしょうか?」


あ、これはあり得るコトだ。呪った連中にとっては、マーシャは帰って来て欲しく無い存在だもんな。


「…平気。エルフの住んでるトコロにさえ行かなければ。…今までも、何度か通った。」

「流石、エルフは怠惰じゃのう。閉鎖的なのが幸いしたか。」


デヴィルラは苦笑いする。

うん、なら、何の問題も無さそうだ。


「マーシャ、迷いの森の案内を頼めるか?」

「…ケインがそうしたいなら、マーシャはそうする。」

「本当か!ありがとうな!」


すると、マーシャはフルフルと首を振り、


「…マーシャはケインに生命を救われた。生命には生命で恩を返すのがエルフの掟…。」

「いや、そんな大げさなコトじゃ無いよ?」

「…もう決めた。マーシャはケインが死ぬまで、ずっとケインの手足になる。ずっと一緒にいる。」

「死ぬまでって、何十年になるかワカランぞ!?」

「…たかだか100年。あっという間。」


そうだった。エルフにとって100年は長くない。せいぜい俺達の10年ほどでしか無い。

プリスが聞く。


「それは私達のパーティーに加入、というコトでしょうか?」

「…ケインがそうしたいなら、そうなる。マーシャはケインに従う…。」

「意思は固いようじゃな。うむ、余はマーシャの加入に賛成じゃ。」

「オイラもっす!」

「はい。私も異議はありません。」


で、全員がこっちを向く。…分かったよ。実質上、俺に聞く前に結論出てるし!


「よし!マーシャ、俺達の仲間になってくれ!」

「…うん。」

「よろしくな!」

「…うん。ケインの子供、いっぱい産む。」


…………はぁ!?

マーシャを除く全員が呆気に取られて、口をあんぐり開けて固まった。


「どーして、そーなる!?」

「…ケインはマーシャの命の恩人。生命には生命で報いる。だから新しい生命、マーシャが産む。」

「いや、そのりくつは おかしい」


その隣でそれを聞いたプリスが、


「お、落ち着きましょう…これは想定内です…こうなるコトは分かっていたハズです…むしろ当然の成り行きで…」


と、念仏のように早口でブツブツ言い出す。


マーシャは俺の脚に跨って、胸にもたれ掛かって来た。

それを見たデヴィルラが参戦する。もう一方の脚に跨がり、同じようにもたれ掛かると、


「ほう、新入りのクセになかなか、ぬかすでは無いか。」

「…後も先も無い。気持ちが大事。」

「うむ、然りじゃ。だが、余も魔族の王女。ここで引くワケにはいかぬ。」


と、デヴィルラは湯からザバッと立ち上がり、足を開き手を腰にやるいつもの居丈高なポーズを取り言い放つ。


「皆の者、よーく聞けい!余はこれから最低向こう10年、毎年、主の子を産んで見せようぞ!」

「 何 言 っ て ん だ ! お 前 !? 」

「ボス!じゅーじんぞくは、ふたご、みつご、あたりまえっすよー!!」

「お前も乗らんで良い!!」

「…100人産んでも、だいじょーぶ。」

「物置か!お前は!!」

「皆さん!控えて下さい!ケインさんが困っています!」


プリスの一喝。静まる3人と俺。

サンキュー!プリスたん!一時はどーなるかと思っ、


「わっ、私は1人でも2人でも構いません!絶対、元気で良い子に育ててみせます!」


…ブルータス、お前もか!!

こうして温泉宿は夜明けを迎えるのであった。…夜通し入ってたのか、俺達…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ