第9話「長い耳の幼女」その2
さて、お次はパトルの番だ。
まずは、神殿で収集出来た『最強装備シリーズ』を並べてみる。
【斧】刃だけで柄が無い
【ダガー】短剣
【鉄球】柄も鎖も無い
【盾】トレイほどの大きさの正六角形のモノが2つ
【腰アーマー】草摺が付いている
【膝下のアーマー】膝やスネが鋭くなっている
【左腕】小手で四角い穴が開いている
【シザース】クワガタの顎のようなハサミだが柄が無い
【胸アーマー】末広がり型で分厚い
の9つ。持ってる剣とロッドとブーメラン合わせて12種類。
ここに無い右腕を含めれば、『最強装備シリーズ』は全13種類か。
「でも、おのとかの『え』が、ないっすねー?」
「うーん、これで本当に全部なんだとしたら…。」
俺の頭に1つの答え…というか、イメージが浮かんで来る。
「よしパトル、そこに立って俺の言う通りに身に付けて行ってみろ。」
「りょーかいっす。」
まずは胸アーマーと腰アーマー。そして脚に膝下のアーマー。ここまでは順当だ。
次に左腕の小手をはめて、そして、
「右肩にはこいつが付くんだろう。」
右肩に斧をハメ込む。同径の穴と突起があるので間違いないだろう。
「鉄球はここに分割ラインがあるな。ここから外れそうだ。」
鉄球はバスケットボールくらいの大きさがあるにも関わらず、ヤケに軽かった。
案の定、それは中空で、4分の1と4分の3の大きさに分かれた。
そして4分の3のパーツを左肩へ、残り4分の1のパーツは左の肘に。
「おう、これは肩当てであったか!」
デヴィルラが目を丸くして食い入るように見ている。
次は、ダガーとシザースだ。ここまで来れば消去法で付く位置は判る。
ダガーを股間の前に。これは腰アーマーの前垂れになる。
シザースは尻に。ロボットでいうスカートの後ろ部分だ。
そしてブーメランをヘッドギアにして、ロッドを背負い、剣を腰に付ける。
シールドは2つが連結するので、まとめて持っても良いし、2つにして腰サイドに付けても良い。
これで右腕を除き完成だ。
「すごいっす!よろいになったっすよー!!」
「ケインさん、これ、どうやって分かったんですか?」
「ん?あぁ、こういうパズルは得意なんだ。」
日本は変形合体メカのオーソリティーだからな!はめ込み穴を見て閃けば一発だ。
「いやはや何とも、主には感服するのう。こう一度に沢山の初めてを見せられては、腹がくちくなってしまうわ。」
えーと、訳すと『珍しいモノでお腹いっぱい』か。
デヴィルラが満足で俺も嬉しいよ。
「でも、おのとかてっきゅーとか、『え』がないっす。どーつかえばいいんすかねー?」
「単純だ。柄が無いなら柄を付ければ良い。―ロッドがあるだろ?」
「―あ!ロッドは、それぞれの長物武器の柄でもあったんですね!」
プリスはポン!と手を叩く。
「恐らく、鎧の各パーツは無駄なく何らかの武器になるはずだ。さらに組み合わせれば変幻自在。
どんな相手にでも最も相性の良い武器で対応出来るのが、この『最強装備シリーズ』の真価だったんだ。」
「ほえー!ボスはすごいっすー!このぶきよりすごいっすよー!」
早速パトルは右肩の斧をロッドの先端にはめ込み、戦斧に変形合体させていた。
うん、飲み込みが早いな。流石は武器と共に生まれ育った獣人族だ。
「ただ俺にも、この左肩の鉄球が中空の『がらんどう』なのが気になるんだよ。
これをロッドに付ければメイスになると思うんだけど、殴打武器は重さが無いと駄目だからなぁ。」
「それに関しては余が答えようぞ。皆、表に出るが良い。
パトルは実際に動いて覚える方が早かろうしの。」
そう促され、俺達は街の外へ。近くにある、大きな岩が点在する荒野に来た。
「まずはパトル、左肩と肘を外し、鉄球に戻せ。ロッドを付けてメイスにしてみよ。」
「わかったっす!えっとー…」
カシャカシャと、取り外し合体させる音が鳴る。初めてなので確認しつつの作業だが、
パトルのコトだ、慣れたら瞬時に換装出来るようになるだろう。
と言ってるウチに、メイスが完成した。
「できたっす。…やっぱ、かるいっすねー…。」
「うむ。では、その柄から魔力を鉄球に流し込むイメージで持ってみよ。」
「え?…うーんと、えーっと、」
「なるほど、分かりました。―パトル、難しく考えずに『鉄球よ、重くなれ』というカンジで握ってみて下さい。」
「わ、わかったっす。………ん!?…ぉおおおおおおおおお!!!!!????」
パトルが驚く声を上げた次の瞬間、メイスが地面に落ちズシン!という音が響く。
鉄球は地面にめり込んでいる。
これは一体?
「おもくなったっす!!これ、どーなってるっすかー!?」
「鉄球の中に魔力が詰まり、それが重さを変えているんです。」
「左様。魔力の詰め方で、ある程度自在に重さは変えられるハズじゃ。
これと似たような武器が魔族にもあってのう。それで閃いたのじゃ。」
おぉ!そういうコトか!魔法、便利!
この世界では魔法の使えない者でも、誰でも多かれ少なかれ魔力を有してるからな。
つーか、これってつまり、この世界の住人じゃ無い俺には魔力が無いから使えないってコトですよね。ガックシ…。
「つぁあああありゃあああああーーーーーっっす!!!!」
ドゴーーーーーーーーン!!
メイスの一振りで岩は上半分が砕け散った。
しかもクリティカルの光が出て無いから、通常の威力でこれか。どんだけ重くしたんだ…。
「うほおおおおおーーー!!これ、たっっのしいっすーーーー!!」
うーむ、武器に通じてる獣人族には、この『最強装備シリーズ』は格好のオモチャだな。
その後、日が暮れるまで俺達は『最強装備シリーズ』の拡張性を探っていた。
各パーツを外しては他のパーツに組み合わせ、さらに伸ばしたり開いたり。
その都度みんなで驚いたり、喜んだり、面白がったり。
…まぁ、どっちかと言うと、変形合体で遊んでいたというカンジが強かったが…。
「あ!」
「どうした?主よ?」
「いや、ホラ、俺達が神殿から帰還してるって、関所のメイドさん、分かってるのかな?」
「…おう!そうであったな!忘れておったわ。」
俺達を神殿まで飛んで送ってくれたメイドハーピー。
神殿に着き中にに入る前に、メイドさんには3日後に向かえに来てくれと言ってあった。
あれこれあり過ぎてウッカリしてたけど、それって今日じゃね?
「今から西の関所に向かっても1日掛かりになってしまいますよね。」
「それじゃ、いきちがいっすよー。」
「かと言って、メイドさんに無駄足踏ませるのも可哀想だよなぁ…。」
「心配要らぬ。今知らせる。」
「え?」
そう言うと、デヴィルラは空に向けて魔法を放った。
空高く登っていった魔法の光束は、緑の光と青い光を交互に明滅させて、やがて消えて行った。
「これで良し。さ、帰るとするか。」
「今のって、信号か?」
「うむ。人族が戦争中に使っていたのを真似した、魔族の簡単な通信手段じゃ。
単純な内容しか表わせぬが、今のは『健在なり』の信号での。これでまぁ通じるじゃろう。」
アバウトだな!おい!
そりゃあ、あれだけ光ってたらどこからでも良く見えて分かるだろうけどさ…。
……ん?
あ、今の『光って分かる』で思い出した!!
「みんな、明日、魔眼を使おうと思う。」
俺は魔眼の使い道をようやく思い付いたのだ。
と言うよりも、この状況になるのを待っていたのだ。探す部位が残り1つになるその時を。
あ、もう1つ思い出した!!
関所に門番代行で置いていた武器屋のニート息子がそのままじゃねーか!
それをデヴィルラに話したら、
「まぁ、メイドが何とかするじゃろ。馬車もあるコトだし、豚でも一人で帰って来れよう。」
放置プレイかよ!上級者向けだな、おい!
次の日の朝。
俺達は旅支度を整えて、街を出た。
ある程度開けた場所に来たトコロで、いよいよ魔眼を出す。
『最強装備シリーズ』も、残すは右腕の小手1つのみ。
魔眼は探しモノを確実に見つけ出すが、その対象が複数の場合、地図上の2点間が一番近いモノに反応する。
そこが山あり谷ありで実際は延々と迂回しなければならない場所でも、単純な直線距離で決まってしまう。
仮に、そこよりも遠い地点だけど楽に行ける場所があったとしても、その難易度の高い地点が優先されるのだ。
だから『最強装備シリーズ』のように複数ある装備品の場合、極めてギャンブル性が高く、今まで使う気になれなかった。
だが、もう残りは1個だ。探すモノが絞り込めていれば、魔眼を使わない理由は無い。
心に念じて魔眼を空に放り投げる。
魔眼は赤く激しく光ったかと思うと、1つの方向目掛けて飛んで行った。
…何か、7つ揃うと願い事が叶う玉が、役目を終えて散らばる時みたいだな。1つだけだけど。
「ほれ、遠くで光ってるであろう?あそこの下に探すモノがあるワケじゃ。」
魔眼は遥か彼方の空中で、自分を誇示するかのように赤く輝いている。
あの光の下に、右腕の小手があるってコトだ。
その光を目指して俺達は歩き出す。
地形の関係上、どうしても真っ直ぐ進めない場所も多い。その都度、地図とにらめっこだ。
半日も歩いてると、ふと妙なコトに気が付いた。
最初に言い出したのはプリスだった。
「うーん…さっきから気になってたのですが、光っている場所、前よりも微妙に北に寄ってませんか?」
「あ、やっぱり? 良かった、そう思ってたの俺だけじゃ無かった!」
「みぎうで、うごいてるんすか?」
「不気味な言い方をするで無い。―大方、既に誰かが手に入れて装備しているのであろう。
獣が咥えているという可能性もあるが、食えないモノをこう、長時間持ってはおるまい。」
誰かが装備してるとなると、ちょっと厄介だな。
業物ばかりの『最強装備シリーズ』。一度その素晴らしい威力を知れば、手放すハズが無い。
それをどうやって手に入れる?頼み込むか?お金を出して買うか?最悪、戦うか?
『殺してでも うばいとる』
『ねんがんの 小手をてにいれたぞ!』
これは避けたいよなぁ。特に冒険者同士だったら。
そして二日後。日も暮れてきて、暗くなった森に差し掛かる。
赤く輝く魔眼は、この森の上だ。
「ここですね。」
「あぁ。夜も近いってのに森から出て来ないとか、どうなってんだ?」
「よるはあぶないっす。けものも、もんすたーも、きょーぼーになるっすよー。」
「…魔眼がチラチラ動いておる。この森でまだくたばってはおらぬ、というコトじゃな。」
魔眼GPSはかなりの精度だな。10センチ単位くらいで目標物の動きに反応するみたいだ。
「どうする?朝まで待ってみようか?」
「その間になにか起きて、遠くに行かれても困りますね。」
「危険な場所故にな。十分あり得るコトじゃ。」
「もりに、はいってみるっすかー?」
俺達が今後の行動で迷っていた、その時!
ドザザザザザァアアーーーーッ!
森の茂みを突き破って、何かが目の前に転がって来た!
驚く俺達の前で、『それ』は唸り声と共に立ち上がる。
夕焼けに照らし出されるその姿…これは、トラタイガーだ!!
デヴィルラのカードにも封印されていた、最上級モンスターだ!




