表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1クールで終わる異世界冒険  作者: 歩き目です
21/39

第7話「探しものはなんですか」その3


音が収まり、少し顔を上げる。 と、部屋がほのかに明るくなっている。

その光の方向を見ると、そこには驚愕の光景が。

この部屋の壁が壊されて、ダンジョン内の灯り火が差し込んでいたのだ。


「一体、こりゃあ…」


すると、ボロボロのフードを着た『何か』が、その空いた穴から今まさに出て行こうとしているトコロだった。

そいつは立ち止まり、こちらに背を向けたまま


「…探し物…近くて遠い場所にあるから…。」


そうひと言俺に告げると、穴から出て行った。

何が何だか分からないが、とにかくここから出られるようだ。

この穴はあいつが空けたのだろうか?こんな分厚い石の壁を…?


俺も脚を引きずりながらその穴から出る。うん、確かにダンジョン内に戻れている。

―と、足元で金属音がした。

見ると、脚の添え木にしてた剣に何かが触ったようだ。

それは…鋭利なM字型をしていて、うん?何だコレ?


―!! あ!剣と同じ刻印がある!?

じゃ、これは『最強装備シリーズ』の1つか!?

えぇ!?何でここに? 落ちてたのか…?他のダンジョンや遺跡で見付けた時のように?

それとも……あのボロフード被ってたヤツが? 

まさか、あいつがあちこちにこのシリーズを置いていたのか? でも、何のために!?


あー、もうワケ分らん!!



その時、ドスン!という音がダンジョン内に響き、横の通路からモンスターが出現した!

『イノシシボア』だ!


あの密室から出られたのは良いが、ここはダンジョン内。

当たり前にモンスターが出現する。脚を負傷した今の俺では、逃げるだけで精一杯。

いや、それすら出来るかどうかさえ怪しい。 恐らく出来ないだろうな。

どうにかこうにか歩くために剣を脚の添え木にしている以上、武器はナイフしか無い。

ここいらの敵に、そんなモンが通用するのか?


クソッ!一難去ってまた一難。むしろ今度こそ本当の本当にヤバイ。

イノシシボアは直線的な突撃が主体だ。一回目なら避けられるかも知れない。

だが、この脚じゃ俺は十中八九転倒する。そうなれば、二回目の突撃をかわす手段が無い。


ええい!ままよ! まずは一撃目を避けてからだ!それが出来なきゃ次さえ無い。

覚悟決めるしか無いぜ! 来い!イノシシボア!!


前足を数回蹴り、イノシシボアは俺目掛けて突っ込んで来る。

俺はギリギリを見定めて横に飛んだ。そのまま直進して壁に激突するイノシシボア。


初級や中級のモンスターならこの自爆で倒れるんだろうけど、そこは上級モンスター。

平然とガレキを振るい落として、こちらへと向き直った。

案の定、俺は転んでしまい、次の突進に備えられない。


そして今の1発で分かった。すり抜けざまにナイフで一撃を見舞うなんて無理だ。今の俺にそんな芸当は出来無い。

何か無いのか?何か……


イノシシボアが再び突っ込んで来る!

俺は反射的に、手に握ってたモノをそいつに向かって投げた。

そう。さっき拾った、何の装備か判らない『最強装備シリーズ』の1つだ。

転倒した俺の、とても満足とは言えない体勢から投げられた『それ』は、

イノシシボアに当たるコトも無く、呆気無くあさっての方向に飛んで行った。


ーと、あさっての方向に飛んだM字型をした『それ』は、空中でカシン!と音を立ててV字型に変形した。

そのまま綺麗な弧を描き旋回する。

そしてイノシシボアの後ろから、ヤツの牙をかすってそのまま俺の手元に戻って来た。

イノシシボアは今の予想外の攻撃に狼狽え、足を止めている。


…これ、ブーメランだったのか!!

この土壇場で一本の蜘蛛の糸を掴んだ気分だ。

これならこの状況の俺でも、十分に威嚇として使える。

わずかだが生存確率が上がったな。 多分。


イノシシボアは低く身構え、三度、突進の体制を取った。

俺もブーメランを構える。ブチ当てる必要は無い。今はただ、ヤツの気を反らせるコトが出来れば良い。

そう思ったその時、


ビシャァアアアアーーーン!!!


猛烈な凍気が押し寄せる!

何事かと思った俺の眼前で、イノシシボアは半分凍結して宙に舞った。


「うりゃああああああああーーーーっっっす!!!」


聞き覚えのある威勢の良い声がして、宙に舞ったイノシシボアの首がへし折られる。

床に激突したイノシシボアに氷の槍が連続で突き刺さる。間髪を入れない連携攻撃。

―そしてモンスターは光と共に消え、鉱石の姿に戻った。


「主よ、大事無いか?」

「ボスー!たすけにきたっすよー!」


デヴィルラ!パトル!

お前達、絶好のタイミング過ぎるぜ!!

俺は2人の顔を見て安堵した。と、その奥からプリスが猛然と走って来て俺に飛び付いた。

思わず倒れ込む。 うぐっ!脚に来る!!


「ぷ、プリス!?」

「ケインさん!…ケインさん!ケインさん!ケインさん!!」


プリスは大号泣だ。


「お、おいおい…。」


ガッシリと抱き付いて離れようとしないプリス。

デヴィルラは腰に手を当て、これまでの経緯を話し始めた。


「大変だったのじゃぞ。主があの穴に落ちてからと言うモノ…。

プリスが主の後を追って、穴に飛び込もうとしおってのう。それをすかさずパトルが抑えたのじゃ。

既に床はブロックで塞がりつつあって、あのまま飛び込めばブロックに挟まれておったからのう。」

「そっか、うん。良い判断だったよ。」

「じゃが、こやつはもう半狂乱でのう。抑えたパトルを殴り飛ばして、床を素手で掘ろうとまでしたのじゃ。」

「なんちゅーコト…。」

「うぐっ…だって…だって、ケインさんが……ぐすっ…。」

「その後も、すぐ主を探すのだ!ダンジョン中を探すのだ!と喚き散らしおって大変じゃったわ。」

「あんなこわいプリスみたの、はじめてだったっすよー。」


その後も2人は鬼気迫るプリスをなだめ、何とか落ち着かせたのは良いが、

デヴィルラが一旦ダンジョンを出て街に戻るコトを提案して、また逆上。デヴィルラに掴み掛かったらしい。


「その時点で食料もほぼ尽きておったからのう。このまま主を探し見付けたとしても、そこで食料が無ければアウトじゃ。

まずは救助のための用意を整え、挑むのが王道だと説いたのじゃが…、

今思い出しても、その時のこやつの顔はなかなかに迫力があったぞ?」

「あー…、うん。それも正しい判断だったと思うよ。」

「ま、それ故、丸3日ほど掛かってしもうた。待たせて済まなんだの、主よ。」

「いや、とんでも無い!本当に良く来てくれたよ!ありがとうな!」


そっか、あの密室に落ちて3日も経ってたのか。あぁいう環境だと時間経過が判らないもんなぁ。

この世界に飛ばされた時に腕時計はしていたけど、壊れてしまっていたのか動いていない。

ビルの上から落としても壊れないと評判の腕時計も、異世界転送の影響には勝てなかったようだ。

スマホも充電中だったから元の世界に置きっ放しで、本当に現金くらいしか持って無かったんだよ。


それにしても、いつも冷静沈着なプリスが…。そんなに心配させちゃったのか。

プリスはようやく顔を上げる。もう涙でグシャグシャだ。可愛い顔が台無しだぜ。


「ケイン…さん…。」

「ん?」

「もう、どこへも行かないで下さい…。お願いです…。私の…たった1つのお願いです…。」


唇を震わせ、また涙を目に溜めるプリス。

俺が元の世界に帰れるかどうか、まだ分からない。帰るかどうかさえ決めていない。

いや、帰りたく無いワケじゃあ無い。

ーそれでもさ、


「うん…。どこにも行かないよ。」


その顔を見た俺には、他のセリフを言うという選択肢はあり得無かった。



プリスの回復魔法で脚を治し、みんなの持ってきてくれた食料とで、俺はようやく完全復活した。

それにしても謎の多い事件だった。

あの青い目をしたあいつ。新たに見付かった『最強装備シリーズ』のブーメラン。

そしてあいつの残した『探し物…近くて遠い場所にあるから…。』という言葉。

俺は、何かの歯車が徐々に噛み合い回り出して来たような、そんな不思議な感覚を覚えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ