第7話「探しものはなんですか」その2
―とは言ったものの、この『最強装備シリーズ』も大概に情報が少ない。
何せ、今まで冒険者の町や中央都市で「おっ!その剣は、あの有名な!」とか、言われたコトが無いからな。
一般の冒険者レベルじゃ、知らないくらいのレアアイテムだってコトだ。
そんなモノをどうやって探したら良いのかねぇ。
「魔眼を使いますか?」
魔眼か。どんな探しモノも見付けられるという魔道具。だけど1品1回限りの使い捨て。
かなりの博打だよなぁ。
「いや、まずは可能な限り自分で探したい。魔眼はどうしようも無くなって、行き詰まった時の為に取っておく。」
「それが懸命じゃろ。ま、主ならそれよりも先に2個目、3個目の魔眼を手に入れるかもしれんしのう。」
そう言ってデヴィルラは至極楽しそうにクククと笑う。
いやー、そんなスーパーレア、ホイホイ引けませんって。
「剣を拾った時は、以前に行ったダンジョンで見付けたんだ。もし誰かが故意に置いて行ってるのなら、
今まで行ったダンジョンも、もう一度確認してみる必要はあると思う。」
「ですね。タイミング良く行けば、その誰かさんに出会えるかも知れませんし。」
プリスたんも、平然とスーパーレア引けるかのような発言をするようになったなぁ。
何か、パーティー全員が自信持ってるって言うのか、
…いや、違うな。みんな、このトライ・アンド・エラーの展開を楽しんでいるみたいだ。
もっと大まかに言えば、それ込みの冒険を楽しんでるカンジかな。
とあるダンジョンでそれは起こった。
このダンジョンは巧妙なトラップが多く、パトルの超越した目や耳すら欺くようなモノの連続だった。
モンスターの出現も頻繁で、数も多い。
手数が必要となってきたのでデヴィルラにも参戦願い、俺もパトルに渡していた『業物』の剣を久々に手にしていた。
だが、ダンジョンではデヴィルラの最上級攻撃魔法は使えない。
使えば、余りの破壊力にダンジョンが崩壊する危険がある。それでは本末転倒。
こういうトコロがゲームとリアルとの差だ。楽は出来ない。
モンスターとの戦闘でも、なかなか敵の動きを上手く封じられなかった。
一箇所に集められずに、逆にこちらがバラバラに散開させられていた。
連携が取れず苦労したが、何とか地道に敵の数を減らして行き、もう少しで全て倒せる。
そんな時だった。
俺は落とし穴のトラップに掛かり、深層階へと真っ逆さまに落ちてしまったのだ。
穴に落ちて行くその瞬間、プリスが駆け寄って来たトコロまでは見えた。
だが、穴はすぐにブロックで塞がれ、ブロックの隙間から覗いていたプリスの顔も暗闇に消えた。
そして着いた先が、今いるココ。
一体どのくらいの間、気を失っていたんだろうか?
真っ暗で何も見えない。脚も痛む。落ちた時にヤッちまったらしい。
とりあえず、背中のリュックから手探りで携帯用のランタンとマッチを出して、火を点けた。
辺りがぼーっとほのかに照らし出される。
脚の具合を見ると、どうやら折れてるカンジだ。
剣を添え木代わりにして、布とロープで巻いて固定する。
周りを見ると、骸骨がちらほらと見える。先着された冒険者か…。
部屋を眺めると、大きな石壁、窓も穴も無い。唯一、落ちてきた天井の穴を除いたら、この部屋は完全に密室らしい。
その天井の穴はとても高く、登れるようなモノでは無かった。
…ヤバイ。これはヤバイ。
トラップには色々なパターンがある。
こういう『部屋に閉じ込める』にしてもバリエーションは多い。
満ち潮になったら部屋ごと浸水して溺れさせる、壁が動いてペシャンコにする、
蛇や猛獣のいる部屋で連中のエサとなる、出られるような仕掛けがあるけどフェイクで心を折る、とかね。
そしてこの部屋は、何の仕掛けも無い『ただ餓死を待つ』タイプだ。
脚が折れてるこの身で出来るコトは限られているし、俺だけの力でここから出られるだろうか。
いや、それは物理的に不可能だな。
となれば、プリス達がここを探し出してくれるのを信じて待つしか無いか…。
だとすれば、もうこれは体力の温存が生き残る鍵になる。
なるべく動かず、持ってる食料でどれだけ長く食い繋げるかだ。
そうなると寝て待つしか無いか。凄く自堕落っぽくて気が引けるけど、これは遭難者のセオリーだしな。
俺は脚の痛みを堪えながら、ランタンを消して壁際で身体を横たえた。
……ゴソ…
………ゴソ……
! ―何かいる!!
静まり返ったこの部屋の中で、何か『俺以外のモノ』が動いている!
マズイな。てっきり餓死パターンの部屋だと思ってたのに、蛇とかサソリとかいるのかよ?
いや、もっと大きな…モンスターだったら、今のこの状況はかなり絶望的なんじゃねーか?
俺は恐る恐る、もう一度ランタンに火を点ける。
そして、謎の音が聞こえた方へ灯りを向けた。
…ゴソッ!…
いた! 何だ?…黒いカタマリのような…丸めた毛布みたいな、ボロ布の山のような…。
唾液をゴクリと飲み込み、それと対峙する。
―!! 目だ!! 目がある!!
その黒いカタマリの中から、青い目が2つ。ランタンの光を受けて不気味に光っている。
どうやら『何か』がフードを深く被っているようだ。
だが、お互いに警戒してるからか、俺とその『何か』の距離はそれ以上縮まらない。
俺の持ってる携帯用の小さいランタンでは光量不足で、『何か』の顔?が見えない。
俺の押し殺した呼吸と、緊張する心臓の音。密室にそれだけが聞こえるような錯覚。
こっちは脚をヤっちまっていて動けないし、向こうは向こうで攻撃してくるような気配も無い。
声を掛けてみようとも思うが、もし、それに反応して襲って来られたら藪蛇だ。
今のこの均衡がベストな選択、という可能性は大いにあるのだ。
……………………。
沈黙が続く。
こりゃ、体力よりも精神が先にまいるかもな…。
そして、どのくらいの時間睨み合っていたか。突如その静寂は破られる。
ぐぅううううう~~~~~~~~~
!? 唸り声!? ―いや、腹の虫だ。 でも、俺じゃない。
…じゃ、コイツか?
コイツの腹が鳴ったのか? 腹すかせてるのか?
…今ここまで俺が食われてないってコトは、少なくとも俺を襲う気は無い、というコトか?
さて、ここで選択肢だ。
俺の持ってる食料を、コイツに分けてやるべきか否か。
プリス達が俺を探し出してくれるまで耐え続けるならば、食料は無闇に減らさない方が良い。
だが、目の前には腹をすかせた正体不明のヤツがいる。
俺だけが食っていたら、それを見て今度こそ襲って来るかも知れない。
そうでなくても、だ。このまま棚上げしてても、いずれ空腹に耐えかねてガブッ!と来るコトだって考えられる。
もうこれは出たトコ勝負だな。
俺はリュックから乾パンを出した。冒険者御用達の大きめサイズ、食べごたえアリの高栄養食だ。
それを1枚差し出し、
「食うか?」
爛々と光る青い目の『何か』に向けてチラ付かせる。
俺のその声を聞いた途端、その目の輝きは増した。 そして、
「…いいの?」
答えが返って来た。
おい、喋れるのかよ。良かったー、モンスターじゃ無かったよー。
こわごわとフードの裾が伸びてくる。
俺はそこに乾パンを近付け、手?に持たせてやった。
その『何か』は、取った乾パンをジロジロ見て、青い目の下にあるであろう口にそれを持って行き、
ポリッとひと口囓った、ようだ。
次の瞬間、青い目がキラーンと潤み光る。ハートマークになってそうなカンジだ。
そしてポリポリと、乾パンを削岩機で砕くような凄い勢いで食い出した。
「急いで食うなよ。むせるぞ。水はそんなに残ってないんだ。」
目の光が上下してる。多分俺の言葉に頷いてるんだろう。
「お前もここに落ちちゃったのか?」
「…探し物してた。ここには3日くらい…。」
「そっか、じゃあ腹すいてたよな。」
声は中性的で淡々としていた。無感情キャラっぽいヤツだな。
でも、コミュニケーションが取れて敵意が無いとなると、捨て猫か何かを見てる気分になる。
甘っちょろいと言われるかも知れないが、結局、俺は乾パンを全部そいつにあげてしまった。
「ふう…。」
腹一杯…にはならなかっただろうけど、胃の中に久し振りの食い物が入って、そいつは落ち着いたようだった。
落ち着いて余裕が出たのか、俺の方をジロジロ見回してる。闇の中で青い目があっちこっち動いている。
と、その目はある一点で止まった。
「…それ…」
フードの裾で俺の脚を指差す。折れた方の脚だ。
「これか?ここに落ちた時にヤッちゃったらしい。」
「…ちがう。…そっち…。」
「ん?…あ、この剣のコトか?」
添え木にしていた剣の方に興味があったらしい。
「…うん。」
「これはここから南の大陸の遺跡で見付けたんだ。これと同じ印の入ったロッドも見付けたな。
何か、世界にはこの剣と同じシリーズの装備品がまだあるんだとさ。」
「……!………そう。……探してる?それ…。」
「うん。でもなかなか見付からないんだな、コレが。で、ココにも探しに来て、このザマってワケさ。」
「…そう……。」
そこで会話は途切れた。
そして、おもむろにそいつは立ち上がった。…んだと思う。目の位置がスゥッと上がったから。
そのままそいつは、ランタンの光の届かない部屋の奥に行く。おぼろげな姿が闇に消えそうになる。
俺が声をかけようとした、その瞬間、
ドッゴォオオオオオオオオーーーン!!!!!
部屋中に炸裂する爆音!
思わず俺は身を伏せた。 今度は何が起きたんだ!?