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1クールで終わる異世界冒険  作者: 歩き目です
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第7話「探しものはなんですか」その1

※前回までのあらすじ


『神々の住まう場所』に行くにはエルフの案内が必要と分かった。

ひゃっほー!エルフだー! と、喜んだのもつかの間、

プリス達3人は、一斉に アチャー(ノ∀`)ノ∀`)ノ∀`) だったの巻。



「主よ…これは…無理じゃ。」

「ケインさん、何といいますか、その…。」

「ボス…これは…だめっす。」


どうした!?お前達!? 全員否定かよ!?

お婆さんを含めて、俺を除いた4人が苦虫を噛み潰したような顔で黙ってしまった。

何?どういうコトだよ?


「ちょっと、何でエルフだと駄目なんだ?」

「えっと…説明しますね。」


プリスが気乗りしなさそうに話し始めてくれた。


「数百年前にあった魔導大戦のコトは少しお話しましたよね。あれは人族と魔族との戦争でした。

では、その戦いにおいて他の種族はどうしていたか?という問題です。」

「あ、そういや他の種族が出て来なかったな。パトルみたいな獣人族はどうしてたんだ?」

「オイラたちじゅーじんぞくは、よーへーになってヒトにみかたしてたそうっす。」

「傭兵か、なるほど。じゃ、エルフは?」

「エルフはどちらにも組みせず中立を…というよりも、『傍観』の立場を取っていたそうです。」

「傍観?何もせず見てるだけってヤツか?」


そこにデヴィルラがため息混じりに口を挟む。


「エルフは怠惰じゃからのう。」

「怠惰?」

「エルフは戦いを好まん。いや、正しく言うならば戦う気力が無いのじゃ。」


気力が無い?怠け者ってコトか?それってエルフのイメージじゃ無いけどなぁ。

…あくまで俺の中でのイメージだけど。


「エルフは寿命が長いからのう。数百年、千年、余裕で生きられる。だから物事の解決を焦る必要に迫られんのじゃ。

主のような人族などはせいぜい生きて100年。だから時間を惜しみ解決を急ぎ、文明も効率化を図るワケじゃが、

エルフにはその必要が無い。今日出来ないコトは明日で良い、明日出来なければ一週間後でも良い、

それでも出来なければ一年後、十年後でも構わん。長寿のエルフにとって、それは大差無いコトなのじゃ。」


うむむ、時間の感覚が違い過ぎるんだな。

何かで読んだけど、ネズミ等の寿命が短い生物は、他の動物の動きを恐ろしくスローに感じてるらしい。

逆にゾウガメとかは、他の動物の動きが早送りのようにチャカチャカしたイメージに感じるとか。

エルフもそんなカンジなんだろうか。


「それ故に、エルフは戦争にも興味を示さん。連中にしてみれば、

わずか100年ほども傍観しておれば、双方共に勝手に息絶えて終わるワケだからのう。」

「凄いスルーりょくだな。」

「問題はここからじゃ。詳しいコトは伝えられておらぬが、魔導大戦も終わりに近付いた頃、

人族は誤ってエルフの国を攻撃してしまったらしいのじゃ。」


何と!?

プリスがその後を続ける。


「戦場からはるかに離れ、全く関係無いはずの自国を攻撃されたコトで、流石に温厚で気の長いエルフの民も怒りました。

しかし、先ほどデヴィルラが説明した通り、エルフに戦争という選択肢はありません。 ですから…」

「…どうしたんだ?」

「新たな土地に移り住み、そこに引きこもって、全ての種族と完全に交流を断絶したのです。」


うわー…。気持ちは分かるけど…。


「そうか…。それでエルフの協力を仰ぐのは難しい、と。」

「はい。でも、それだけではありません。」

「まだ何かあるのか!?」

「その移り住んだ土地こそが問題なのじゃ。」

「エルフは平穏を求め、『神々の住まう場所』の隣で新たな暮らしを始めたのです。」


ほう!俺の目的地の隣か!

信じてなかったワケじゃ無いけど、『神々の住まう場所』は確実に実在するって証拠だな。


「うん、神様が隣にいるなら、平和な生活に持って来いだな。」

「ボス、ちがうっすよー。」

「ん?」

「主よ、これまでの話を総合して、何か気付かぬか?」


え?…えーと、『神々の住まう場所』に行くには、迷いの森を抜けないといけない。

で、その迷いの森にはエルフが幻惑魔法を掛けてある。

その魔法を解くには、エルフの案内が必要不可欠。

でもって、そのエルフは『神々の住まう場所』の隣に住んでいる…。


あれ?

エルフは自分達の土地に引きこもったから、迷いの森よりこっち側には住んでいない。

つまり、迷いの森を抜ける為に必要なエルフの案内人は、エルフの土地から連れて来るしか無い。

でも、その為には迷いの森を抜けなきゃいけなくて、それには向こう側に住むエルフを連れて来ないと……、


駄目じゃん!!!!!!

何だこれ!?バグでループしてる出来の悪いゲームかよ!?

『宝箱の鍵が、その宝箱の中にある』とか、どーすりゃ良いんだよ!?


「そういうコトさね。だから無理なのさ。」


お婆さんが『判っただろう?』という顔で俺を見る。

それで3人とも アチャー(ノ∀`)ノ∀`)ノ∀`) だったのか…。

茫然自失とはこのコトだよ……。



中央都市へと戻る俺達の足取りは重かった。

折角、関所を突破して北の大陸へ来たと言うのに、目的地に行く手段が無いとか。

プリス達も下手な慰めはしなかった。それでどうかなるモノでも無いコトは、全員が分かっていたからだ。


野宿で火を囲んでいても雰囲気が重い。

寝転がり、夜空を見る。見知った並びの星は1つも無く、ここが異世界だと改めて思う。


このままじゃあ色々と駄目だよなぁ…。この雰囲気とか、旅の目的とか。どうしたら良いかなぁ…。

でも、悩んでいても仕方無いんだよな。だって、今のトコロ『神々の住まう場所』には行けないんだからさ。

行けないのは仕方が無い…。


ん?……

そうだ、『仕方無い』んだ!!

ハッと閃いた俺は、やにわに立ち上がっていた。


「よし!決めた!」

「うわ、びっくりしたっす!」

「何を決めたんですか?」

「『仕方無い』から、頭を切り替える!」

「どうするのじゃ?」

「現状として『神々の住まう場所』に行く方法は無い!だったら『仕方無い』から他のコトをしようと思う。」

「何をするんすか?」

「まずは…、この世界をもっと見て回りたいな。そして、もっと冒険者としても強くなりたい。」

「ふむ、しかしてその意図は?」

「色んな所で、もっと多くの情報を集めたいんだ。もしかしたら『神々の住まう場所』に行ける他の方法があるかも知れない。」

「おおー!あきらめてなかったんすね!」

「勿論だ。今すぐに行けないっていうなら、今は『仕方無い』。いつか行くための努力をするだけだ。」


うっ、ちょっとカッコ付け過ぎたかな?

プリスがクスクス笑い出した。 あっちゃ、やっぱクサかったか?

―と思ったら、


「やっぱり、ケインさんって私の思ってた通りの人です。」


そうニッコリ微笑んだ。頬にピンクのブラシ付きで。


「さっすがボスっす!そうこなくちゃっすよー!」

「うむ、それでこそ余の主じゃ!諦めの悪さは天下一品よのう。」


パトルもデヴィルラも笑って応えた。


外国語で表現出来ない日本語の1つに『仕方無い』がある。

災害や不幸があっても、それを天命だ、運命だと諦め、己の心に区切りを付ける言葉だ。

だが、それは決して逃げでは無い。新たに前へと進むための仕切り直しなのだ。




さて、そんなワケで気分一新。

とりあえず俺達は強化特訓も兼ねて、片っ端から色々なダンジョンに挑戦するコトにした。

この北の大陸、あちこちに洞窟はあるのだが、塔とか遺跡とか、そっち系が無い。


「魔導大戦が終わった時、地上はほとんどサラ地になってたそうですので…。」


とは、プリスたん情報。

どんだけ派手にやらかしたんだよ、魔導大戦!?


俺達も(主にプリスとパトル)日増しに強くなってるのが感じ取れる。

上級モンスターとも、そこそこ戦えるようになって来た。

ここら辺でよく出て来るのは『イノシシボア』だ。

突進攻撃が得意で岩をも砕く破壊力だが、直線的な動きが主体なので、落ち着いて観察すればかわせない程では無い。


「しっかし、モンスターの名前って安直過ぎないか?イノシシとボア足してイノシシボアとか。」


俺はこの世界に来て、ずっと思ってたコトを口に出してみた。

すると、


「え?どういうコトですか?」

「なにいってるんすか?ボス。」

「珍妙なコトを申すでないぞ、主よ。」


全員にアウェーの洗礼を受けた。

え?だって、イノシシ+ボア=イノシシボア、なんだろ!?

サメシャークとか、ゾウエレファントとか、ヘビスネークとか、そんなんばっかじゃん!?


「何を言っておる。イノシシボアはイノシシボアじゃろう?」

「そうです。イノシシとは関係ありませんよ。」

「ぜんぜんちがうっすよー?」


え?そうなんですか?俺が間違ってるんですか?


うーん、どうやら『イノシシボア』はイノシシと名が付いてはいるが、イノシシとは無関係のモンスターというコトらしい。

『イノシシ=ボア』では無くて、あくまでも『イノシシボア』という1つの単語ってコトか。

あれだ、ナシと付いててもナシゴレンは梨とは関係無い、って、そういうカンジなのかね?

この世界のネーミングセンスは、今イチ謎だ…。


ちなみに、ナシゴレンはナシ(ご飯)=ゴレン(揚げる)という意味らしいよ。うん、梨率0%だ。



で、そのダンジョンの1つで武器のロッドを見付けた。

宝箱や最深部に飾られていたモノでは無く、俺がパトルと交換した剣と同じで床に転がってたのだ。


「ほう、これは『最強装備シリーズ』の1つじゃな。」

「え!?マジかよ!?」

「ほれ、剣と同じ刻印がされとるじゃろ?いやはや、まさかこんな短期間に2つも拝めるとは。

これだから主と一緒だと堪らぬわ!」


そう言われて確かめてみるとデヴィルラの言う通り、ロッドの柄に剣の刀身にある刻印と同じモノがあった。

剣を拾った時とシチュエーションが全く同じってのが、ちょっと気味悪いな。


「こうなると偶然とは思えません。」

「うーん、でも、誰かが故意にやってるとしても、これほどの武器を置いていく理由がワカラン…。」


あれこれ考えるが、まだ情報が少なすぎて推論すら立たない。

ま、少なくとも良いモノを手に入れたコトには変わりは無い。

俺はそのロッドをパトルに渡す。


「ほら、これはお前が持ってろ。」

「えっ?いいんすか?オイラ、けんももってるっすけど…。」

「俺は長物の扱い方を知らないからな。お前なら使いこなせるだろ?相手に合わせて使い分ければ良いさ。」


以前の、自信が無くて指示待ちだった頃のパトルならいざ知らず、

今の自発的にどんどん動いてくれるパトルなら、安心して渡せる。


「あ、ありがとうっすー!ボスー!だいすきっすよー!!」

「よせやい、照れるぜ。」


パトルはピョン!と俺に抱きつき、グリングリンと頭をこすり付ける。おー、よしよし。

これでパトルは腰に剣、背中にロッドという出で立ちになった。

しかし、何だな。2つ目が出ちゃうと、ちょっと欲が出て来るな…。


「ふむ、主よ。何を考えておる?また面白いコトでも思い付いたか?」

「いやぁ、このシリーズ、もういくつか集められないかなぁ~?って、ちょっと思ってさ。」

「何じゃ、随分とみみっちいのう。」

「え?いや、『最強装備シリーズ』だぜ?みみっちくは無いだろ?」


そこでプリスがクスクス笑いながら話に入る。


「ケインさん、デヴィルラが言ってるのは、そういうコトでは無いんですよ。」

「へ?」

「左様。余が言いたいのは、目指すならフルコンプじゃ!!」

「うえっ!?」


予想してなかった言葉を聞いて、俺は声が上ずった。

『最強装備シリーズ』は魔導大戦時にドワーフの名工が作った武器と防具。

だが、大戦のドサクサでその所在は不明になり、全部でいくつあるのかも判らない。

それをフルコンプ、全種類揃えるだと!?

俺は戸惑いつつもデヴィルラに言った。


「デヴィルラさん、大きく出ましたね!?」

「当然じゃ。余は魔王の娘ぞ。その器に足らぬようなチンケな旅、中途半端な探求は願い下げじゃ。」


彼女の言葉を聞いて、俺はハッとした。

限界を決めてはいけない。出来ないと決め付けてはいけない。

今、こうして色々やってるのも、不可能と思える『神々の住まう場所』に行く方法を探してのコトだもんな。

うん、男ならどーんと行けるトコまで行ってみなくちゃな。


「分かった!やってみるか。フルコンプ!」

「チッチッチ、『やってみる』では無い。『やる』のじゃ。」

「おう!やるぜ!」

「オイラもやるっすー!」

「また1つ、新しい目的が出来ましたね。」

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