第6話「中央都市セントラル」その3
そんなこんなで、さらに10体ほどモンスターを倒したところで、デヴィルラを除き、皆グロッキーになった。
今日はここまでにして、宿に戻って食事して一休みだ。
「さて!」
宿屋の部屋、ベッドに腰掛けたプリスがポン!と手を叩く。全員が注目する。
「デヴィルラさんが新しく加入されたので、改めてこのパーティーの決まりを伝えておこうと思います。」
おい、まさか、プリスたん?
「ほぉ、そのようなモノがあるとはな。よかろう、余は新参者ゆえ、ここは真摯に教示を仰ぐかの。」
「難しいコトではありません。この後、お風呂に入ろうと思うのですが…、」
ちょっとプリスたん! それ以上 いけない。
「決まりとは、私達3人で、ケインさんの身体を洗って差し上げるコトです。」
「そうっすー!ボスをみんなでごしごしするっすー!」
「おい!背中だけじゃ無かったっけか!?」
内容がパワーアップしてるぞ!!
「ふむ。確かに、主の身体を洗うのは奴隷の役目であり、また譲れぬ権利じゃな。
これは然り。余は感銘を受けたぞ。 ―ところで、その洗い方は決まっておるのか?」
「いえ、そこまでは別に…。」
「何じゃ、折角3人もおるのだ。ならば、我等の身体を持って洗ってやらねばなるまい?違うか?」
デヴィルラまで何、言い出してんだ!?このエロ褐色ロリは!!
「……デヴィルラさん!貴方は天才です!!」
「ないすあいであっすー!」
お前らも乗るんじゃねぇよーーー!!
「はっはっは、そう褒めるで無いわ。それと、余のコトは呼び捨てで構わん。奴隷に敬称は不似合いじゃ。」
「分かりました。デヴィルラ、私達でケインさんの全てを洗い尽くしましょう!」
「デヴィルラー!どっちがボスをきもちよくできるか、きょーそーっすよー!」
「ふふふ…。主よ、余の身体を存分に味わうが良い。他では満足出来ぬようにしてくれようぞ。」
だめだこいつら 早く何とかしないと。
結局、俺は強引に服を脱がされ、これまた強引に風呂に入れられた。
だって、ホラ、仕方無いだろ!パトルの馬鹿力には敵わねーよ!!
プリスのお願いオーラには勝てねーよ!デヴィルラの小悪魔フェロモンには抗えねーよ!!!
俺は風呂に入る前よりも疲れて風呂から上がり、早々にベッドに潜り込む。
すると、窓の外の通りから、冒険者たちの話し声が聞こえて来た。
「おい、さっき宿の風呂場が騒がしかったな。」
「知らないのかい?ロリ・ブレイバーが泊まってるんだとさ。」
「何!?じゃあ『守銭奴』と『駄犬』と『隷姫』も一緒に風呂に…?」
「当たり前ですよ。何と言ってもロリ・ブレイバーですからね。」
「幼女3人と混浴どころか、従属させて身体を洗わせるとか…スゲぇ奴だぜ、ロリ・ブレイバーは…。」
いや、語弊があります。無理矢理に『洗われた』んです。そこ間違えないで下さい…。
翌日から、俺達は午前中は街の中で『神々の住まう場所』についての情報を集め、
午後は、日が落ちるまでモンスターを倒す強化特訓が俺達の日課となった。
中央都市はとても大きな街で人も多いが、それでも俺達が知っている以上の情報はほとんど出て来ない。
それだけ辿り着くのが難しく、行こうとした者さえいないというコトなのだろう。
そうしてあちこと回る内、俺達はあのニート息子がいる武器屋の近くに来ていた。
丁度良い。ここ数日間で倒したモンスターの鉱石を買い取ってもらおう。プリスがいれば買取額アップだしな。
ついでにダメ元で『神々の住む場所』のコトも聞いてみるか。
「そ、それなら某、聞いたコトがありますぞぉ。」
「マジかよ。」
犬も歩けば何とやら、だ。
「某のお婆ちゃんが、小さい頃…そう、ラヴリーな幼女だった頃に、幼女…でゅふっ!でゅふふふっ!」
「戻って来い!」
「はっ!あ、危なかったですぞ! そ、それで、お婆ちゃんが子供の頃に、
その地に赴こうとした旅人に会って、その話を聞いたというコトですぞ。」
「そのおばーちゃんは、どこっすかー?」
「こっ、ここから東に行ったトコロにある、漁村に住んでおりますぞ。」
「この家にお住いでは無いのですね。」
「そっ、某の親父は、漁師を継ぐのを嫌がって、武器屋になるために、こ、この中央都市に来ました故。」
俺達はニート息子から、彼の祖母の家がある場所と特徴を細かく聞いた。
今は他にこれと言った情報が無いからな。このお婆さんに会ってみるべきだろう。
「よし、今日の午後はその漁村に行く準備に当てよう。買い物とかあるだろうしな。
で、時間があったら少しモンスターとの戦闘だ。明日に疲れを残さない程度に。」
「はい。」
「りょーかいっす!」
「あい、わかった。」
次の日、夜明けと共に俺達は東に向けて出発した。
地図で見ると、漁村は中央都市からやや北東に位置する。
北寄りというコトで、上級モンスターが出るのではないかという俺は危惧したんだが、
『北に行くに従い強いモンスターが出る』というデヴィルラの説明は、簡潔に言った大雑把なモノであり、
正確には『魔王の城を中心にして、同心円上に配備されている』とのコト。
つまり魔王城から遠い地域なら、少々北上しても上級モンスターは急激に増えたりしないそうだ。
そして2日を掛けて俺達は漁村に到着した。
ここまで大した問題も無く無事に着けたのは、まず、俺達がかなり強くなっているコトが理由の1つだ。
中級の強い奴相手でも、ほとんど手こずらずに倒せるようにまで成長していた。
…主に、プリスとパトルがね。 俺はまだまだ足止めが精一杯だ。
「主よ、胸を張れ。このパーティーはなかなかに良いぞ。物理攻撃、魔法攻撃、回復・支援と揃っておる。
これを生かすのは有能な指揮官ぞ。主はでんと構えて、我々に命を与えておれば良いのじゃ。」
デヴィルラはそう言ってくれるけど、やっぱ俺もモンスターを一刀両断!とかしてみたいんだよなぁ。
男の子だからさぁ。
武器屋のニートから聞いた家を探す。
そんなに大きい村では無いので、すぐに見付かった。
お婆ちゃんも在宅しており、ニート孫のコトを話すと迎え入れてくれた。
「そうかい。『神々の住まう場所』にねぇ。」
「お婆さんが子供の頃に、そこに行く人の話を聞いた、というコトですが…。」
「あぁ。でもねぇ、あんましアテになるかどうか…。」
「と、言いますと?」
「その人も、行くのに難儀していたっけねぇ。結局、着けたかどうかは分からず終いで…。」
「それでも構わない。知ってるコトがあれば教えて下さい。」
お婆さんはお茶をひと口飲んで、湯呑みを置くとぽつりぽつりと語り出してくれた。
「何でもその人が言うには、『神々の住まう場所』に行くにはいくつか条件があると言ってたね。
まず悪人で無いコト。野望や野心を持っていないコト。」
うん、それはプリスからも同じような内容の話を聞いた。
『5000兆円欲しい!』とか『世界を征服したい!』とか、そういった利己的な願いを持った者は
神様に会うどころか、その住まう地にすら行けないのだそうだ。
「そしてもう1つ。」
そう言うとお婆さんは、ふぅ、とため息をついた。
「そのもう1つは?」
「…迷いの森を抜けるコトだよ。」
「迷いの森?」
「『神々の住まう場所』の手前にある森さ。ここを抜けなければ到底辿り着けないだろうねぇ。」
「そんなにふかいもりなのかー?」
「いや、極々小さな森だよ。でもねぇ、そこには魔法が掛けられていて、
入った者は皆、森を抜けられずに、いつの間にか森の入り口に戻ってしまうのさ。」
あぁ、ゲームでも良くあるよね。マップが無限ループになってたりするヤツ。
実際の遭難だと、山や森は景色が似てるから見誤ったり、人が無意識に左側へ曲がって歩いて行く習性があるらしく
それでグルっと一回りして来てしまうらしいけど、魔法でそんなコト出来るんだな。
「ふむ、幻覚の魔法じゃな。森全体を覆うとはかなりの術師であろうな。まぁ、神々ならばそれも可能であろうが…。」
流石デヴィルラ。魔法に詳しい。
「いやいや、その魔法を掛けたのは神様じゃあない。」
「え、違うんですか?」
「この森を抜けるには、森にその魔法を掛けた者達の案内が要るだろうねぇ。
だけど、その者達に会うのはちぃとばかり無理な話かも知れないよ…。」
「どういうコトなんだ?」
お婆さんはまたお茶をひと口。口を湿らせてから、こう言った。
「その者達っていうのは…エルフなのさ。」
うぉっ!!エルフだと!?
思ってみればこの異世界、何かが足りないと思ってたんだよ!
モンスターいるだろ?獣人いるだろ?魔族いるだろ? だったらここにエルフ欲しいじゃないですか!!
エルフ無しの異世界なんか、牛肉抜きのすき焼きですよ!!
やったね俺!!エルフはいまぁあああーーーす!!
ん?何? 何で俺、こんなに浮いてるの?
あれ?みんな沈んだ顔でどうしたの?
プリスとパトルとデヴィルラで3人して アチャー(ノ∀`)ノ∀`)ノ∀`) みたいになってますけど?
「主よ…これは…無理じゃ。」
「ケインさん、何といいますか、その…。」
「ボス…これは…だめっす。」
えぇええええええ~~~~~~~~っっっ!?




