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1クールで終わる異世界冒険  作者: 歩き目です
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第4話「褐色の幼女」その3

「こんな夜中にご苦労なことじゃ。冒険者よ。」


褐色の幼女は尊大な態度で言い放つ。その体躯の小ささからは似つかわしくない程に、

その子から広がって来る威圧感は半端無くデカイ。

ダンジョンで出逢ったボスゴブリンなんか比較にならない。


屋外に作られた野晒しの台座と、高さ3メートルはある玉座。

そこに褐色の幼女が腕を組み、脚を組み、こちらを見下ろしている。

褐色の肌、白銀の長い髪、金色の目、紐水着のような衣装、そして頭の立派な角。

玉座に座っててよく分らんが、プリスより小柄そうだ。

…今、気が付いたが、玉座には石材で組まれた簡易的な階段がある。そっか、やっぱ登るのは大変なのか。

こんな状況だが、ちょっと微笑ましいぞ。


「―お前は、一体!?」


俺が問うと、幼女はおもむろに答えた。


「余はデヴィルラ。この関所の門番にして、偉大なる魔族を統べる魔王の一人娘。」


…魔王の娘!? 魔族の王女ってことか!!


「…門番は巨大な竜人と聞いていたんだけど…。」

「それは余の爺やじゃ。寄る年波には勝てなくなっての。暇を与え、代わりに余が赴いてやったというワケじゃ。」


なるほど、全ての謎は解けた。

これだけ聞くと、何か爺や思いの良い子そうだけど…多くの冒険者が犠牲になってるんだよな。


「お前が冒険者達を…殺してたのか?」

「その言い方には少々語弊があるが、間違ってはおらぬ。」

「語弊?…誤解があるってコトか?」

「余はここで『ふるい』を掛けているに過ぎん。」

「『ふるい』?」

「うぬら、この先の北の大陸が如何なトコロか知っておるか?」


この世界に疎い俺が答えに窮していると、プリスが問答を引き継いでくれた。


「とても厳しい土地だと聞いています。モンスターも桁違いに強いとか。」

「左様。北の大陸には余がいた魔族の国、魔王の城があり、その近衛として配備されたモンスターは

ここいらの雑魚とは比較にもならん強者揃いじゃ。」


そう言うと、デヴィルラはキッと見据えた目になり、


「―そんな大地に駆け出しの冒険者がノコノコ出向こうものなら、…答えは言わずとも解るじゃろう?」

「敢え無く、全滅するでしょう…。」

「魔導大戦終結後、魔族と人族は幾つか協定を交わした。

これ以上、モンスターの犠牲者を出さぬようにするのも、その1つじゃ。

それ故に、北の大陸へと進める実力が有るや無しか、ここで見定めさせてもらっている、というワケじゃ。」


む? というコトは?


「それって、この先へ進んだ者もいる、ってコトか?」

「数組な。」

「…それ以外は?」


デヴィルラが口角を釣り上げ、ニタァっと笑う。

その笑みは、俺の背中に氷が入れられたような錯覚を起こさせる。


「己の弱さも理解せぬ愚か者共が、飽くこと無く無謀にも余に戦いを挑む。そうして、その結果が…、」


デヴィルラは両腕をゆっくりと広げ、両の手の平に巨大な火球を作り出した。

その赤々と燃える火球は、左右の絶壁まで辺り一面を煌々と照らす。


「これじゃ。」


そこには躯、躯、躯。

白骨化した者からミイラ化した者、手足や首の千切れた者。

そこら中に数十体の死体が地に伏し、岩にもたれ、崖に串刺しになっていた。


俺達はその光景に言葉を失う。


「さて、うぬらは如何に? もう理解したであろうが、余は強いぞ?

 攻撃魔法であれば神聖魔法を除く全属性の最上級呪文までを扱える上、

それ等を一日中撃っていても余の魔力は尽きん。」


マジかよ!!これ、ゲームのボスキャラだったら無理ゲー&糞ゲー認定されるわ!!


「果敢に余に挑むも良し、怖気付き戻るも良し。

但し、町に戻っても余のコトは他言無用じゃ。悪戯に見物人が増えるのは好かん。」


あぁ、そうか。これがギルドにコイツの情報が行かない理由か。

この死体の山を見せられたら、バラしたらどうなるかなんてバカでも分かるもんな。

だからウワサ話にしかなってないんだ。


デヴィルラに挑み、実力を認められた冒険者は北の大陸へ行く。

実力に満たない者は、こうして喋るコトの無い死体となる。

そして、怖気付き戻った者は誰にも話さない。ここに来たコトさえ話さない。

『帰還率0%』となるワケだ。


そして他言無用となれば、俺がギルドから依頼された調査報告も遂行不可能ってコトになる。

いや、そもそも俺は、俺達はここを通って北の大陸へ行くのが目的だ。

かと言って、勝てるのか?デヴィルラに。

この躯の群れをこさえた魔族のプリンセスに。


落ち着け。ここはもっと色々情報を探るべきだ。

幸い、相手は結構お喋り好きな様子だし、調子を合わせて何か通過させてくれそうなヒントを聞き出すしか無い。


「あー、もし、挑む場合だけど…、」

「『もし』?…随分と歯切れの悪い奴じゃのう?」

「いやぁ、ホラ、だって、君ってすっごく強そうじゃない?何も考えずに挑んだら絶対負けるかなぁ、って。」


すると、デヴィルラの目がキラリンと光った。


「ほう!余が強いか!強そうに見えると申すか!アッハッハッハッハッハ!!」


何か知らんが、ツボ突いたセリフだったようだ。これは好感度+3くらいイッた気がする。


「お主、なかなか見る目があるのう!ここにくたばった愚者共は、どやつもコヤツも余のコトを侮った。

ただの子供だと、褐色ロリだと、そう軽んじた。そう油断して死んでいったのじゃ。

しかるに、お主は子供だからだと決して侮らぬ。お主みたいな奴は初めてじゃ!ハーッハッハッハッハ!!」


なるほど。確かに、自分の腕に自信のある冒険者達ならつい、子供相手なら楽勝とか考えそうだよなぁ。

でも、俺は子供だからと言って偏見は持たない。

それが証拠に、俺の仲間の幼女達は有能な子揃いだからな!


「―話を戻そうかのぅ。もし挑む場合、何じゃ?」


デヴィルラは笑うのをやめると、脚を組み替えて身を乗り出し気味に言った。


「どういうコトで君に認めてもらえるのかな、って。」

「ふむ、『るーる』というヤツじゃな。よかろう、教えてやろうぞ。」


さっき好感度を稼いだからか、デヴィルラは機嫌良さそうに教えてくれる。


「なぁに、簡単なコトじゃ。余と戦えば良い。余が認める一定以上の戦い振りならば、そこで戦闘をやめて終了じゃ。」

「君が認めるって…それって随分とハードル高くないか?」

「うむ。故に、ハンデをやろう。」

「ハンデ?」


デヴィルラは懐から何かを取り出すと宙に放った。

それは数十枚のカードで、カードはデヴィルラと俺達の間で、空中に垂直に立って止まった。

何だ?まさか『俺のターン!』とかやるのか?

俺のしょーもない考えをよそに、デヴィルラがパチンと指を鳴らす。

するとカードが俺達にオープンされた。


「そのカードには1枚に1つ、戦闘の役に立つ、この世界でも名立たる品が封入されておる。

どれでも1つ、好きなモノを選ぶが良いぞ。

そして、それを余と戦う時に使用するコトを許そう。これがハンデじゃ。」


恐る恐る近付いてカードを見る。


武器【雷神剣】攻撃が当たると同時に激しい雷撃が敵に落とされる。

武器【双撃剣】攻撃力が2倍になる。


おぉ!結構良い効果のある武器ばっかだ!そんな素晴らしい武器カードが5枚。


「こっちも凄いです。」


防具【生命の鎧】戦闘中、体力が徐々に回復する。

防具【防魔の鎧】あらゆる属性魔法を完全に封じる。


防具カードも5枚。


「ボスー!こっちもみるっす!」


道具【超エリクサー】パーティー全員の体力と魔力を完全回復させる。

道具【奇跡のしずく】一定時間の間、攻撃力と防御力とすばやさと回避率が跳ね上がる。


どれもレアアイテム級の一品揃いだな。これも5枚か。

そして次は…奴隷獣?


「ん?コレ何だ?」

「奴隷獣か?その絵のモンスターの首にプレートが掛けられとるじゃろう?

そのプレートの効果でモンスターを従属させ、自在に操れるのじゃ。プレートを外すか、倒されるまで有効じゃ。」


奴隷獣【ゾウエレファント】攻撃力と防御力に秀でる。

奴隷獣【サメシャーク】相手に食い付いたら食い千切るまで離さない。


どれも見たコトの無いモンスターだ。恐らく、コレが北の大陸に住んでるという強力な連中なのだろう。

サメシャークとか、サメ分200%だな。アメリカ人大好きそうだろ、コレ。

これも5枚ね。


武器、防具、道具、奴隷獣、それぞれ5枚で計20枚。

この内、好きなモノ1つ選んで良いってコトか。

大盤振る舞いだな。


「さ、どれでも好きに選ぶが良いぞ?」


―うん、気味悪いくらいに大盤振る舞い過ぎる。

まるで、冒険者がデヴィルラを子供と侮ってたみたいに、これがあれば勝てるとでも思わせたいかの様に。

何か引っ掛かる。凄く落とし穴的なカンジがする。


「あのー、ちょっと良いかな?」

「何じゃ?まだ分からぬコトでもあるか?」

「いやぁー、こう、見たコトの無い素晴らしいモノばかりだと、目移りしちゃってさぁ。

町に一旦戻って、じっくり考えたいんだけど……。」


プリスとパトルは息を呑んで俺とデヴィルラのやり取りを見ている。


「ここでは選べぬと申すか?」

「ゴメンな、優柔不断なモンで。ほら、ここで男がウジウジ悩んでる姿とか、魔族の王女の君が見るモンじゃ無いだろ?」

「ほう……。」


伸るか反るか。

俺は作り笑顔でデヴィルラを見る。

数秒とも、数分とも思える沈黙。

そしてデヴィルラは不敵な笑みを浮かべたかと思うと、ポン!と膝を叩いて言った。


「良かろう。」

「本当か!?」

「そこまで上手く言い回られては、断る理由も無いからのう。

こんな奴もまた初めてじゃ。ここはその酔狂に乗せられてやろうぞ。」


王女の尊厳に触れたのが効果あったようだ。これで断ったら自分を卑下するコトになるからな。


「ありがとう。必ずまた来るから。」

「分かってるとは思うが、」

「『他言無用じゃ!』だろ?」

「うむ、物分かりの良い奴は好きじゃ。」


よし!さらに好感度+1!!



俺達はデヴィルラのいる関所を後にして、町への道を歩む。


「流石ですね、ケインさん。いつ戦いになるかとヒヤヒヤしました。」

「あぁ、俺も生きた心地しなかったよ。」

「オイラもしっぽのふるえがとまらなかったっすよー。あいつ、ぜーーーーったい、すっっっっごくつよいっす!!」

「それで、これからどうします?」

「ギルドには報告出来ないけど、幸いまだ依頼を受けるとは言ってないからな。

だからしばらくは、関所には行って無いコトにする。」


元々、ギルドにも、プリスやパトルにも黙って独りで行くつもりだったからな。


「分かりました。」

「りょーかいっす!」

「でも、これから行くのはギルドだ。」

「え?」

「みんなでデヴィルラ打倒の作戦会議だ。」


それを聞いたプリスは立ち止まり、目を点にして俺を見ていた。

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