第4話「褐色の幼女」その1
※前回までのあらすじ
ロリ僧侶とロリケモ戦士を引き連れて、俺は見事にクエストを達成。
お礼にこれまたロリのキスをもらうコトで、ロリ・キラーの二つ名をも手に入れたのだった。
俺達は(主に俺が)逃げるようにして宿に滑り込み、部屋に入り、扉を閉めた。
つ…疲れた。 ある意味、ダンジョンよりも疲れた。
「もてもてだっだっすねー!さっすが、オイラのボスっす!」
「いやいやいや、ヤメろよ!お前、」
「ちょっと!ケインさん!」
「え!?あ、ハイ!!」
あれ?プリスたんが怒ってる!?俺、何かやらかした?
「ケインさん!油断し過ぎです!!」
「え?」
「いえ、分かっています。私も悪かったんです。私も油断してたんです。迂闊でした。不注意でした。
こうなるコトは予想出来たハズなんです。想定内だったんです。計算に入れておくべきだったんです。」
プリスたんは俺を見るでも無く、床を見るでも無く、独り言のように、呪文のようにつぶやき続けている。
すごい集中力だ。もう自分の世界に入っちまっている!
こんなトコロが俺とは違うんだな…。
でも一体、何がお気に召さないのか、俺には全然ワカランのですよ!?
コンコン
と、ノックの音だ。
ヤベェ。五月蝿いって苦情かな!?こういうのって、アパート暮らしの癖でビクッとしちゃうんだよな。
そっと扉を開くと、宿屋の女将さんがいた。
「さっき帰って来たの、アンタ達かい?」
「アッハイ。」
「…………そうかい。こりゃあもう、あの子達は帰って来ないかねぇ…。」
「え?どうしたんですか?」
「なんすか?なんすかー?」
気になったのか、パトルがこっちに来た。
その後から、独り言ゾーンから再起動したプリスも来た。
「いやね、隣の部屋に泊まってたパーティーだけどさ……
帰って来ないんだよ。数日前『北の関所』に行ったっきりね。」
「『北の関所』!? あそこに行ったんですか!?」
「プリス、何だい?その『北の関所』って…。」
「この冒険者の町の北の奥、山に挟まれた谷に魔族の幹部が居座っているんです。」
「魔族!?」
「ソイツが門番のように立ち塞がっていてねぇ。絶対そこを通しやしないんだよ。
北の大陸に行く道はそこしか無いから、人も荷物も行き来が出来なくて困ったもんさ。」
「それで、冒険者が門番の魔族を退治しに行った、というワケか…。」
「あぁ。でもね、駄目なんだ。これまで挑んだ冒険者はもう数十人…50人とか聞いたっけねぇ。
だけど誰一人、帰って来ちゃくれないのさ。」
女将さんは隣の部屋の扉を見ながら、残念そうに首を振る。
「騒がせちまったね。アンタ達も生命は大切におし。」
そう言って女将さんは階段を降りて行った。
―と、思ったら戻って来て、
「そうそう、ウチは賑やかなのは結構だけど、張り切り過ぎるんじゃ無いよ。ロリ・キラー。」
「何故その名を知っている!?」
女将さんはケラケラ笑って去って行った。
うぉおおおおい!!!
何?もうここまでウワサ届いてるの!?
さっきギルドで騒ぎになって、ダッシュでこの宿に逃げ込んだのに!?
まさかこの世界、ツイッターとかあるのか!?
それともウワサ話って量子テレポーテーションでも起こすのか!?
見ろよ!プリスたんが顔真っ赤にしちゃってんじゃないの!
…パトルは分かってなさそうな顔だけど。
「と、ともあれ、その魔族の門番ってのは初耳だったな。」
「え、ええ。最近は冒険者の間でも話題を避けるようになってました…から。」
モジモジするプリスたんも可愛い。
「確か、魔導大戦が終結して、魔族とは和平協定を結んだんだろ?それなのに何でそんなヤツがいるんだよ?」
「和平協定と言っても、それは国と国の間でのコトですからね。個人間の軋轢はいまだにあるのかも知れません。
それに、もっと単純に盗賊みたいなモノだとすれば、種族は関係ありませんから…。」
確かにそうか。
人間だって善人と悪人がいる。それは魔族だって同じだよな。
「北の道を通らないと、他の大陸には行けないのか。」
「いえ、船で内海を渡ったり、そこから外海に出て北へと辿るコトも出来ますが、それはあまりにも遠回りです。
生鮮食料品の運輸はとても出来ません。海にもモンスターは出ますし、危険の方が大きいです。」
「じゃあ、俺達は陸の孤島に閉じ込められてるってワケか。」
「そういう言い方も出来ますね。幸い、地産地消、自給自足でやっていけるだけの土地の広さがありますし、
生活して行くだけなら問題はありませんが。」
また1つこの世界の秘密を知ってしまった。…いや、俺が知らなかっただけか。
難しい話が続いたせいか、パトルはベッドですっかり高イビキだ。
そっかー、遺跡やダンジョンとか色々な場所に行ったぜ!とか思ってたけど、北にはもっと広い大地が広がってるんだなぁ。
世界を見て回ったら、もっと多くのコトが分かるだろうか。俺自身のコトとか…。
うん、考えていなかったワケじゃ無い。いつも頭の片隅にはあった疑問。
『俺は何故、この世界に来てしまったのか?』
『俺はこの世界で何をしたら良いのか?』
『何故、この世界で日本語と日本円が使われているのか?』
―そして、
『俺は元の世界に戻れるのか?』
冒険者になったり、クエストこなしたり、怒涛の展開続きだったから、ゆっくり考えるヒマが無かった。
ベッドに転がり、天井のランプを見つめて考えてると
「難しい顔、していますね。」
プリスが俺のベッドの端に座って、優しい声で俺にそう言った。
どうしよう。
俺が違う世界から来たって、話すべきかなぁ?
いやね、プリスを信用していないワケじゃ無いよ?互いに生命を預けた冒険をして来たからな。
むしろ、誰よりも信頼してる内の1人だ。
でも、この話は切り出しにくい。
『プリス、僕は…僕はね、この世界の人間じゃないんだ。 地球から来た、日本人なんだ!』
背景にアルミホイルが広がって、シューマンのピアノ協奏曲が鳴る。
『…びっくりしただろう?』
『いいえ、地球人でも、異世界人でも、ケインさんはケインさんに変わりないじゃないですか。』
『ありがとう、プリス…。』
―こうはならないだろうなぁ~。
『は?頭でも打ちましたか?回復魔法かけますか?』
こう言われるのが関の山だよ。
ここはまた、ちょっと遠回しに聞いてみるしか無いかなぁ。
「うん…、あの…さ、自分では分からないコトって…あるじゃん? どれだけ考えても、本を読んで調べても、
誰に聞いても分からないだろうなぁー、っていう、悩み?みたいな…。」
「あぁ…はい。それは、人ならば誰しも何かしら必ず直面する問題だろうと思います。」
「うん。で、さ、そうして人知を尽くしても分からないコトを、それでもどーーしても知りたいって場合、
…どうしたら良いんだろう?」
「哲学的な問い、ですねぇ…。」
年端も行かない幼女に何を聞いてるんだ?と思われるかも知れないが、
プリスはそんじょそこらの大人よりも知識も経験も豊富で理知的だ。
ウチのパーティーのアーカイブ担当、知恵袋お婆ちゃんならぬ、知恵袋幼女だからな。
「そうですね…。哲学的な問いに、哲学的な答えで返すのは卑怯かも知れませんが…、」
「うん、」
「人に聞いても駄目なら、神様に聞いてみては如何でしょうか?」
……。
は?頭でも打ちましたか?回復魔法かけますか? 俺、使えないけど。
いやいやいや、プリスたん!その返しはちょっとアレ過ぎません!?
はっ!?これって宗教の勧誘!?
でも、すっっっっごく真面目な顔でこっちめっっっっちゃ見てるし。
「か、神様ぁ?…本当にいるの?」
「はい。いらっしゃいますよ。」
「 」
「ケインさん、神聖魔法って、何だと思います?」
「…………あ!!!」
その時!俺に電流走る!!
そうだよ!神聖魔法!『神』って文字が付いてるじゃん!!
普通ならそれは宗教的偶像だけど、この世界には魔法がある!モンスターがいる!
だったら神様だっていてもおかしく無いのか!
「いるんだ…。」
「はい。この世界の北の果てに『神々の住まう場所』という地があります。
そこから神様方は私達を見守って下さっているとのコトです。」
「行けば神様に会える!?」
「それは分かりません。まず、そこへたどり着くのも困難ですし、着いたからといって直にご神託を授かれる保証もありません。
記録には何人か、神様とお会いしたと言う賢者様もいらしたようですが、真偽の程も定かではありません。」
それでも『いる』んだよな。
雲を掴むような話、ってよく言うけど、少なくとも存在はしてるんだ。
そこに行って、神様に聞けば分かるのかな。俺がこの世界に来た理由…。
ランプを消して毛布をかぶっても、俺は窓から差す星明かりで照らされた天井を見て、悶々とそんなコトを考えていた。
でも、『神々の住まう場所』とやらがある北の大地に行くなら、魔族が居座っている北の関所を超えなくてはならない。
挑んだ者は誰も帰って来ない、ハードルの高過ぎる超難関…。
どーすっかなぁー…。