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1クールで終わる異世界冒険  作者: 歩き目です
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第1話「青い髪の幼女」その1

「……もし……もしもし?……大丈夫ですか?」


「………う…ん?」


―誰かが俺を揺さぶってる。

それに起こされて目を開けた俺が見たモノは、抜けるような青空。

それと…

俺を心配そうにのぞき込んでいる、

広がる青空に負けないほどの綺麗な青い髪をした少女だった。


「あぁ、気付かれました?よかった…。」


その少女はホッとした表情で俺に微笑みかける。


「えっと…ここは何処かな?」

「ここは、冒険者の町から少し外れたトコロですよ。」

「…冒…険者の……町…?」


身体を起こすと、目の前には川原。その川の土手に俺は寝ていたらしい。


「心配しました。てっきり行き倒れかと。」

「あぁ、うん…平気…。」


生返事で返すが、状況がさっぱりワカランので許して欲しい。


えーっと、


俺はアパートの家賃を大家さんに渡すため、金を引き出しに駅前のATMまで行って、

家賃と生活費の分を下ろして玄関まで戻って来たんだった。

…玄関まで戻って来て……それから?

それから……この少女に出会った。


いやいやいや、スッ飛ばし過ぎでしょ!

でも何も覚えて無いし!


立ち上がり、辺りを見ると、土手から向こうはどこまでも続く草原と岩山。

土手に沿って舗装されてない土の道が延びている。

そして見慣れない格好の服に身を包んで、不思議そうにこちらを見ている青髪の少女。


あー、アレかな。 まさかとは思うけど、アレなのかな。

そんなコトって起きるワケ無いと思ってたけど、でもコレはやっぱアレしか無いわ。


『異世界だわ……ココ…。』




「どうしました?どこか痛みます?」

「あ、いやいや…」


さぁ、どーする!?

今、この場で頼れるのは目の前の少女だけ。

果たしてどこまで話すべきなのか?それとも秘密にすべきか?


彼女に身の上を明かしますか?

 〈はい〉 〈いいえ〉


そんな気分だ。

まだこの子が、完全に味方と決まったワケじゃ無い。

下手すれば仲間の盗賊とか出て来たりして、いきなりバッドエンドだ。

ここは慎重に行くべきだ。


「えっと、あてども無く歩いてて、疲れて寝ちゃったみたいでさ。もう方角も何も判らない有り様で…。」

「そうでしたか。旅のお方ですか?」

「そんなトコロかな…。」

「でしたら冒険者の町までご案内します。私もそこに帰る途中でしたので。」

「え?…じゃあ、君は冒険者…なの?」


冒険者の町に住んでるなら冒険者に決まってるだろう、という短絡的発想だが、

でも、そうだとしたら、この子は幼過ぎやしないか?

今まで少女と言ってきたが、よく見りゃ背は140センチも無い。10歳以下だろ。

これは少女じゃ無くて幼女だ。うわ、『ょぅι゛ょ』ですよ。

俺、ロリコンで良かったー。 いや、落ち着け俺。


すると『ょぅι゛ょ』はニッコリ笑って言った。


「はい。そうですよ。冒険者です。ちゃんとギルド登録もしてますよ。」

「マジか…!!」

「今もクエスト完了して、町に戻るトコロだったんです。」


とりあえず、騙されて盗賊のアジトに連れ込まれる可能性は、ほぼ無くなったか。

なら、冒険者の町に行くのが今一番の安全策だろう。


「分かった。じゃ、町まで頼むよ。」

「はい。お安い御用です。」


土手に沿った道を歩く俺達。

周囲は一見、平和そのものだ。


「そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。私はプリスと言います。ヨロシクお願いしますね。」

「プリスか。俺は…」


さぁ、また来たよ選択肢!!

ここで本名を言うべきか?偽名にすべきか?

いきなり聞き慣れない日本人の名前出したら、怪しまれやしないか?

『ょぅι゛ょ』に不審者と思われて防犯ブザー鳴らされやしないか?

それは死ぬ。社会的に死ぬ。

いや、落ち着け。ここは異世界だ。防犯ブザーは無い。 多分。


どうせ異世界だ。誰も俺の本名を知らないなら、偽名だって同じコトだ。


「俺は…ケイン。ケインだ。ヨロシク。」


そこで俺は、咄嗟にMMORPGで遊んでた時に世界観に合わせて名乗ってた名前を出した。


「ケインさん、ですね。カッコイイ名前です。」


やった!乗り切った!しかも好感度+1だよ!


と、突然、草むらから「何か」が道に飛び出してきた!

それは半透明の平べったい団子みたいなモノで、モニョモニョ動いている。

コレって…『スライム』的なヤツか?


ヤバイ、今の俺は丸腰だ!

俺がアメリカ人だったら銃を持ってただろう。丸腰でも俺が中国人なら功夫を使えただろう。

インド人ならヨガで炎とか吹けるだろう。 多分。

でも俺は、世界一治安の良い国、日本にいた普通の男。ケンカだってマトモにしたコトが無い。

だけどプリスは守らないと!ロリコン紳士として!


「ケインさん!下がって!!」


と思った刹那、前に立っていたのはそのプリスだ。

プリスは服の内側から銀の棒を出すと、それを伸ばしてスライム的なヤツに向けた。

その瞬間、激しい光が溢れて柔らかな音が響き、その音と共にスライム的なヤツは光となって消えていった。

…戦闘は終了した。


「―怪我はありませんでしたか?」

「あ…うん。」


プリスは俺が無事なのを見ると、戦闘中に見せた険しい顔を崩し、ニコッと笑顔を見せた。


「今のは…、」

「クズスライムですね。人が通るのを待ち伏せていたんでしょう。」

「魔法…っぽいの使ってたけど…。」

「そうです、神聖魔法です。あのくらいのモンスターなら戦わずに消すコトが出来ますよ。」

「プリスは冒険者って言ってたけど…、」

「はい。私は僧侶です。」


あー、なるほど。この青色と白色、ツートンカラーのローブは僧侶だったか。

使った武器は銀の杖、スタッフか。

そして彼女はモンスターとも戦える立派な冒険者なのだ。

うわ、ょぅι゛ょ つよい。

俺より強いじゃないか。一人でクエストこなしてたのも納得だ。


しかし…それにしちゃ、派手だな…。


そう、確かに『派手』なのだ。

金のベルトや帯、銀のスタッフ、帽子や服のボタンに付けられた宝石。

同じく宝石の付いたイアリングに髪留め、ペンダントと、高価そうなモノばかりだ。

とても慈善を旨とする僧侶のイメージとは程遠い。

俺が最初にプリスを見て、彼女が何者なのか判らなかった理由もソコにある。

この世界の僧侶職はこんなカンジなんだろうか…?


再び俺達は歩き出す。

俺はまた変なモノが出て来ないかビクビクだったけど、プリスは余裕の表情だ。

ここはナメられてはいけない。いや、ナメて欲しい。ナメたい。 違う、そうじゃない。

オトナとして、落ち着いた雰囲気を演出しないと。

会話だ、会話。差し障りなく冒険者のコトとか聞き出せるような、自然な会話。


「―クエストをこなして来たって言ってたけど…。」

「ええ、今回は海辺の村まで手紙の配達でした。村長さん宛の手紙でしたから、報酬も良かったですよ。」

「へぇ、そうなんだ。」

「はい。12800エンも貰えました!」


ほう、この世界の通貨は『エン』か。『円』と同じなんて偶然だな。

するとプリスは懐から茶封筒を出して、その中の報酬金を俺に見せてくれた。


…………え?


俺は、歩みも思考も呼吸も止まった。

心臓も止まるかと思った。


プリスが笑顔で俺に見せたモノは……

1万円札と千円札2枚に、500円玉と100円玉3枚だった。

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