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†:告発者の詩 9


 だけど、和希くんとわたしの行動が「逸脱」として扱われることはありませんでした。下で作業をしていた清掃スタッフが全てを目撃していたのです。


 最初、屋上から突き落とされそうになったのは和希くんのほうだったようです。そこで体勢を入れ替え、琉架くん、シンジが次々と落下してきたと彼は証言しました。


 その証言は監視カメラのログによって裏付けられ、正当防衛が認められた和希くんは無罪放免となりました。むしろ虐待の事実が重く見られ、学校側の話し合いでは、シンジの行き過ぎた指導のほうが問題視されたと聞きます。


 またH組生の事情聴取から、康介くんの意志を継ぐ者を炙り出そうとする集団暴行の有様が露見し、わたしと和希くんは一転、悲劇の被害者という正当なポジションを手に入れました。


 臨時の担当官が副校長である荒巻先生になるなど、学校側の待遇は突然よくなり、和希くんは焼けただれた顔面を治すべく、整形手術を受けられることになったほどです。あれだけ怖れた奉仕先の変更もなく、わたしたちは地獄から天国へ昇りつめたのです。ただ一つ、凄惨な虐待を起こしたクラスメートや友人との仲が、永遠に元通りにならないだろうことは残念でなりません。


 シンジが死んだ今、彼が首領様に替わる「王様」だったという確証は美琴先生のメール以外にありません。

 だけど、これは事情聴取でも述べたことですが、彼というクラスの独裁者がいなければ、こんなことにはならなかったでしょう。彼はあきらかにわたしたちを煽動し、お互いに傷つけ合うことを容認しました。


 その意味では、わたしは琉架くんを憐れんでいます。屋上での乱闘の際、彼は和希くんに告白したそうです。臓器提供者となるという使命を。そんな受け容れがたい使命に抗うべく、暴挙に出たことを。だから傷つけられはしましたが、琉架くんのことを恨んではいません。それさえも心の余裕から出る考えではありますが、わたしは彼がセレブレ計画の失敗によって命を絶たれたと思っています。


 でもそれだけでは、琉架くんが死に到った理由にはなりません。わたしが思うに、H組に起きた悲劇の原因はシンジ一人にはありません。和希くんの気持ちを逸脱へと導き、遺恨の種をバラまいたという点で、美琴先生のとった言動は本当に罪深いと思っています。


 連帯責任が予想されていく中、クラスの大勢は暴力的に変化しました。本当に先生がやるべきだったのは、連帯責任が生じないよう、学校側に体を張って働きかけることだったのではないでしょうか。


 外の世界からこの学校を支配し続け、今まさにこの詩を読んでいるだろう首領様――あなたはもしかしたら、美琴先生なのではありませんか? もしそうだとすれば、この告発は握り潰されてしまうのかもしれません。ですが、あなたがもし美琴先生なら、どうかわたしの声を聞き取ってほしいと思います。


 今、クラスのみんなは和希くんに恐れをなしています。その空気の支配は、康介くんの頃とも、シンジの頃とも異なっています。

 正当防衛だとはいえ、二人の人間を殺した張本人として、触れてはならない存在と化しています。彼はその立場を受け容れているようですが、決して心地よいものではないでしょう。卒業式までの短い間、彼はわたし以外の人との会話ができなくなっています。学校側の厚遇をよそに、孤独を味わっています。


 翻ってわたしですが、この詩をしたためることができたことで目的をほぼ達成できたと思っています。やるべき瞬間に、それをやり損ねないこと。足りないのはほんのちょっとの勇気でした。


 わたしはそれを和希くんに分けてほしいと願いました。彼は、殺人という逸脱を怖れず、勇気を行動で示してくれました。だからわたしはこの詩を書こうと思えましたし、告発を実行に移すことができました。


 わたしはやるべきことをなし終えたと思います。最後に、学校の監察官であるあなたに訴えかけさせてください。わたしたちを人間らしく育てたなら、どうか最後まで人間らしい扱いをしていただけないでしょうか。そうでなければ人間性など、あなたたち役人が生み出した机上の空論です。


 もうじき卒業が迫っています。次の逸脱者騒ぎが起きず、無事奉仕先へと赴くことができるように、あなたも行動を起こしてください。あなたが和希くんを操っているのなら、彼を解放してあげてください。実験材料みたいな扱いはもうたくさんです。わたしたちが本当に必要としているのは人間性ではなく、未来を受け容れる強さなのですから。

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