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†:告発者の詩 5


 どうして琉架くんがこのような暴挙に出たのでしょうか。

 いくらシンジの指示という後ろ盾があったとはいえ、彼の行動は常軌を逸していました。


 ターゲットが和希くんと渚くんの二人だった理由はかろうじてわかります。康介くんが弟のようにかわいがっていた渚くんは、幼い顔に似合わずとても正義心が強い人でした。康介くんの処分に対して激しい怒りを覚えるとしたら彼以外にいなかったと思います。


 そんな渚くんを痛めつけて、逸脱に走らせない。やり方こそ非道でしたが、連帯責任を負いたくない人びとにとっては整合性のとれた行動でした。


 だけど感情優先の渚くん一人では、実効性のある逸脱ができたかはあやしいものです。その意味で琉架くんは、過剰防衛をしたと言われても仕方がないでしょう。彼を後押しした人びとも同罪です。渚くんに狙いをつけた人びとは、可能性のある芽は全部つんでおきたいという強迫観念から、彼を虐待したのだと思います。


 でも、和希くんについては多少事情が異なります。わたしの見たところ、彼は感情によって行動を起こすタイプではありません。抑制のきいた精神性という部分において、彼は康介くんよりも大人だったと思います。


 義憤(ぎふん)にかられることもなく、もし琉架くんが追及しなければ、彼はセレブレ計画に叛逆の意を示さなかったのではないでしょうか。自制のきいた彼ならば、康介くんの意志を継がなかったとしても不思議はありません。


 にもかかわらず彼が激しい暴力のターゲットにされたのは、琉架くんの抱く嫉妬心にこそ理由があったのではないかと思います。

 和希くんは学年一位の秀才でした。そうした特別な生徒が恵まれた奉仕先を得たと勘ぐられるのは自然なことでした。


 クラスの少なからぬ人びとが、自分の奉仕先に不満を持っていたと思います。なにより虐待の首謀者だった琉架くん自身が、そうした不満の持ち主だったようです。これは推測ではなく、悲劇が起こったあと、和希くんから直に聞きました。


 琉架くんは学年二位という実績を持ちながら、とある大学病院に内定していたというのです。この事実は、琉架くんが臓器提供者になる使命だったということを意味していました。初等科卒業時にこの学校に残った生徒のことを美琴先生は「公共資産」と言いました。


 あなたもその呼称はご存知でしょう。臓器提供者が辿る人生をわたしはよく理解できていません。ただ、推測することはできます。


 腎臓を一つとるだけなら、人間は死ぬことはないでしょう。ですが次に肺、次に膵臓といった具合に内臓を切り刻まれれば、提供者となった人体は生存に耐えられないのではないでしょうか。

 もしそうだとすれば、彼ら彼女らを待っているのは、誰かの命を助けるために自分の人生を捧げる、短い生涯でしかありません。


 戦争の最前線に送られることと何が違うのでしょう。琉架くんは自分が避けたかった未来に直面し、そのやりきれなさを渚くん、そして和希くんにぶつけたのだと思います。

 あわよくば奉仕先を変えられるのではないかと思って、シンジにしたがった可能性もあります。


 月並みな言い方になりますが、琉架くんもまた、セレブレ計画の被害者だったのだと思います。そのときそう考えることができたのは、わたしに余裕があったからです。わたしはおそらく他の誰よりも恵まれた奉仕先に内定しており、そのことを人知れず喜んでいました。だからこのあとに落とし穴が待ち受けていたとしても、結局は自業自得だったのだと思います。

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