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東への旅路

 北の街『ラムカンドル』から東南方向に数十キロメートルの場所には大洞窟の村『ピューノ』が存在する。


 まだ村に灯りが点いていない明け方。一人の旅商人がピューノの村から出て行った。男の年齢は40代前半。180センチメートルはある身長に妙に厚い動物の毛皮でできた上着を羽織っている。髪はボサボサの焦茶色が背中まで伸び長期間散髪をしていない事が見て取れる。髭も同様だ。名前はヒルヒラ。旅商人らしく荷車に大量の荷物を積んでいて、アウバトマと言う種の四足歩行でリトル・ダンジョン出身の動物がそれを引く。名前を付けておらず二人称はお前、三人称はあいつだ。


 ピューノが大洞窟の村と呼ばれる理由は、村が洞窟内に存在するからだ。その洞窟はとても広く、今も拡大し続けているピューノだが未だに調査の進んでいない空洞が大半。大きな鍾乳洞なども多いため観光のために訪れる者も少なくない。


 ヒルヒラが洞窟を出ると、そこは草木の生えない荒野だった。平な道が整備されているためアクセスはしやすい。

 ラムカンドル程ではないが鳥肌が立つ程の冷気にヒルヒラ両の腕をさする。それと正反対に荷車を引くアウバトマは平気な顔であった。


「さすがは『雪降る峡谷』出身だな」

「…………」


 ヒルヒラがアウバトマに声をかけると沈黙のみが返ってきた。『雪降る峡谷』とはアウバトマの故郷のリトル・ダンジョンの名前である。


「お前も可愛くねえな。捨てちまうぞ」

「…………」

「もうちょっとでも愛嬌が持てたら毎朝の干し草も量が増えるのになあ」

「……ッ!バヴバヴ!」

「……コイツ可愛くねえ」


 態度を一変してヒルヒラに擦り寄るアウバトマだがヒルヒラは二つの意味で否定した。

 その後、アウバトマがやっと諦めを覚え、ヒルヒラはピューノを背に東南へと歩みを進める。目的地はラミュール。今日中には辿り着ける距離だ。


 途中、いくつかの村を横切り、リトル・ダンジョンの入り口や地上に出て来たモンスターなどを避け、ラミュールを囲む壁が見えてきた。ピューノに居た時の様な寒さは全く無く、辺りは草原。穏やかな気温に既に毛皮の上着は脱いでいる。

 更に進み、小麦色の壁がその迫力をました頃、日は傾き辺りは朱色に染まり始めていた。


 ヒルヒラがラミュールに足を運ぶのはこれが初めてなので、噂に聞いていた街の入り口となる『収穫の大門』の位置が分からない。とりあえず道なりに進んで来たものの、ラミュールを囲む様に左右に分かれた三叉路で止まってしまった。

 ラミュールはとてつもなく大きな円の形をしているため、どちらへ行っても大門に着くのだが、なるべく日が沈まない内にラミュールに入っておきたい。もし正反対にあれば止まっている時間が惜しいのだが。

 ヒルヒラが三叉路のど真ん中で停止していると、道の隅でこちらを見ている少女を発見した。


 少女は痩せた白い肌をしていて、漆黒のストレートヘアはとても長く表情は伺えない。身につけているものは白のワイシャツ。それもあちこちほつれたもの一枚だけで他は何も着ていない。


 ヒルヒラはどう声を掛けるかを迷った後、間違えた選択だと思いつつも道を聞く事にした。


「すまないが道を尋ねてもいいかい?」

「…………」


 少女は頷いて返してくれた。


「感謝する……この道なんだが、どちらへ行けば収穫の大門に近いのかな?」

「…………」


 少女は右の道を指差す。ヒルヒラが「右でいいんだね」と再度確認すると彼女はまた頷いて返した。

 ヒルヒラは少女に礼を言い道をすすみ出す。が、やはり放っておけない状態だと彼は思った。

 質素な服の少女が一人でこんな時間に街の外にいる。誰がどう考えても普通ではない。


 ヒルヒラはすぐにアウバトマを止め、後ろを振り向く。少女はその場で彼を眺めていた。


「所で、ここで何をしていたのかな」

「…………?」


 今度は首を傾げ、その後横に振る。

 ヒルヒラはその意味が全く理解できず、勝手な解釈で話しを進める。


「何もしていないなら早く街に入った方がいい。いくら街の近くはリトル・ダンジョンが無いとはいえ、モンスターにとっても地上を移動する事なんて造作もないんだから。よかったら乗っていくかい?」


 誘拐にも見えなくはない事がヒルヒラの心を痛めつけるが実際、街の外は夜になるとモンスターが活発化してモンスターと冒険者の戦争が多発するので、少女の安全を考えるとこうした方がいい。

 しかし、少女は首を横に振りヒルヒラが来た道に走って行った。


「あー。フラれたよ…………お前何でもいいから反応を示せ」


 アウバトマに向かって冗談を口にするも、アウバトマは草原に生えた草をむしゃむしゃ咀嚼していてヒルヒラの声など聞こえていない様だ。


「こんなペットは恥ずかしいな。あの子を見習ってほしいものだ」



 収穫の大門は予想よりも早くに見つかった。どうやらこの門は5時時から24時まで開けられているらしい。

 ヒルヒラは賑やかな広場とメインストリートで宿屋の位置を訊きながら初めて訪れる街を楽しんだ。



 埃の匂いのする少年と出会ったのはその次の日の事だった。

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