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S級カレー

 マナはラミュールのスラム街を歩いていた。

 服装はマナの一番のお気に入りで手には買い物袋を下げている。

 袋の中はターメリック、カイエンパウダー、クミンパウダーなどのスパイスに、玉ねぎ、鶏肉etc……。


 マナはたまに酒場でなくとある家に向かう事がある。

 そこにはイナビという名の治癒魔法を使う青年と破壊魔法を使うメルという少女が住んでいる。

 マナが聞いた話によると、ブラッドスカイの日に、イナビが街の外に捨てられていたメルを助けたらしい。


 この話を聞いた時、マナは凄く驚いた。

 ブラッドスカイというのは、十数年に一度空が赤く染まる現象のこと。このブラッドスカイが起こっている時は、リトル・ダンジョンから生まれる生き物が好戦的になり、あらゆる能力が数倍に跳ね上がる。

 S級冒険者のマナだが、ブラッドスカイの日は大人しく街に籠っている。それほど危険なのだ。

 しかし、イナビはたった一人でメルを助けた。

 マナは悔しかった。負けた気がして仕方がなかった。冒険者でもないイナビがS級冒険者の自分よりも大きく見えてしまった。


「……あぁ、だめだ。こんな事考えちゃ」


 不意にキャラメルの匂いがして、マナはいつのまにか目的の家に到着している事に気がついた。

 入り口の扉の横にある突き出し窓は開けられていて、長い白髪の少女が窓の縁に止まった小鳥を眺めている。


「メルちゃん。来たよ」


 マナが声をかけると小鳥が逃げてしまった。

 メルは小鳥を目で追っていたが、目線がマナに向くと笑顔を見せた。


「マナさん、入ってください」


 メルに促されてマナは家におじゃまする。

 いつものことだが、厄介な扉に苦労するマナであった。




「…………死ぬ…………やべえ………」


 イナビはいつものように今際の際の帰路についていた。

 イナビは今日、瀕死の人間を三人も治療し、結果自分が瀕死に陥った。


「くそ……三人も助けたのに……1日50MGって……こんな仕事辞めてやる!」


 イナビ渾身の叫びは掠れて終わった。そして、フラストレーションが溜まるので二度としないという信念を持った。


 イナビが自宅に着くと、家の裏から程よくスパイスの効いた匂いがする事に気がつく。

 メルは一人じゃ料理ができないので、マナが来ていると容易にわかった。

 ちなみに、この家はキッチンはあるが、水道もガスも使えない。料理は裏庭のかまどと井戸を使っている。


 イナビは自宅の扉を軽々開けると、「ただいま」と、いつものように言う。

 玄関には予想通りメルとマナの靴があった。

 イナビが靴を脱ぎ始めると、奥の扉が開いてキャラメルの匂いと共にメルが出てくる。

 メルはいつものように「手伝いましょうか?」と聞くが、イナビも「大丈夫」と、いつもどおりの返答をする。


「……今日はマナさんにスパイスカレーを作ってもらいました」

「ああ、匂いでわかったよ…………メル本当に食べられるの?」

「うー。私もスパイスカレーくらい食べられますよ!」


 イナビは「あはは、わかったわかった」と言って、靴を脱ぎ家に上がる。

 奥の部屋リビングルームにはいると、短い茶髪の少女、マナが机の上に人数分のスパイスカレーを並べていた。


「あ、おかえり。メルちゃんと一緒にカレー作ったんだ。冷めない内に食べてよ」

「ああ、いつも悪いな」

「ううん。料理好きだし、家に誰もいないから食べてくれる人が居てくれる事が嬉しいから…………さ、カレーが冷めるよ」


 そう言いながらマナは3つある椅子の1つに座る。

 イナビはいつも通り買った弁当をキッチンに置いて席に着くと、早速匙を手に取りスパイスカレーを口に運ぶ。


「…………美味い!」


 深刻な語彙力不足の感想を言ったイナビは、スパイスカレー夢中で食べ始めた。

 実際、マナは料理がとても上手い。親が夜遅くまで働いているので自然と身についたのだ。


「ああもう。先に食べるなんてずるいですよ」


 頑張って扉を閉めたメルはそう言いながらトテトテと歩いてきて、自分のぶんのカレーを食べる。


「〜っ!辛……ぃ」

「ご、ごめんね。そんなに辛かった?」

「大、丈夫です。辛いけど、すごい美味しいです」


 涙を浮かべながら言うメルはその後必死でスパイスカレーを平らげた。

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