第9話 正月早々の遠征(遠足)
205年の元日。
おせちもなく、昨日の片づけがある以外は、至って普通。
「もらっていいの?」
「ダメー! 漫画は一日23時間までにするから、あげないで!」
漫画読みから帰ってこないハコネを強制的に連れ出して、ハンスの遊び相手をさせる。逃げたら漫画抜きと言ったら、諦めてくれた。
マルレーネの願い事、魔法の道具はあげられないが、マリッカお婆ちゃんに相談しようって話になってるそうだ。姉は聞き分けが良い。
そんな一家団欒に、お客さん。
「こんにちは、昨日ぶり。ギードさんにイーリスさん、頼みがあります」
やって来たのは、エリオさんだった。
「もし村に何かあったら心配なの。子供たちもいるし」
「すまないな、今の俺じゃ、イーリスの代わりに村を守るってのは、荷が重くてな」
彼らの用件は、キマイラ探索の手伝い。パーティーメンバーに攻撃的な魔法使いが欲しかったが、それが出来る人は町にも見つけられず、イーリスに参加を頼みに来たのだった。エリオにとっては元パーティーメンバーで、頼りになることも分かっているイーリスが、目的地付近のマコ村に居るとなれば、メンバーに入れたくなる。
「そうか。うちのクリスは、治療は出来るけど、攻撃魔法は苦手でね。イーリスさんが居てくれたら、とてもバランスが良いパーティーとして行けそうだったんだけど。でもしょうがないね」
「そういう事なら、サクラが行くってのはどうかしら?」
「えっ?」
いきなり巻き込まれる。いや、もしかしたらとは思ってたよ。攻撃魔法、杖がある場合限定で使えるし。キマイラ倒してるし。
「サクラちゃん、レベルは?」
「えっと、4です」
「4、でもエルフだから5倍の20相当と考えて、なんとか出来るかな」
「この子も一緒に行くの? 大丈夫?」
後ろから、多分メンバーと思われる女性。
「この前キマイラを倒したのは、このサクラよ」
「イーリスさんじゃなかったの?」
推薦したイーリスさんのフォローに、驚かれる。
「じゃあ、どのくらい出来るのか、魔法を見せてもらってから決めましょうか」
魔法練習に愛用してる河原へ。イーリスさん、エリオのパーティー:アルゼントのメンバー4人と、マルレーネ、ハンス、そしてサクラ。マルレーネ、ハンスは「私たちも!」とついてきた。魔法出来ても連れてはいかせません、とイーリスさんは言っている。エリア達も特にそのつもりもない。
メインの俺の魔法の前に、ハンスがやるらしい。
ゼロの杖があると邪魔するので、影響ないところまで離れる。年末にイーリスさんとどのくらいが影響範囲か調べたら、およそ10m程と分かったので、その分はハンスから離れて見守る。
「行くよ、見てて。火よ 球となり 飛べ!」
火の玉を上へ打ち出す。水平にやると対岸の森を焼きかねないから。
「うそ!? 8歳で出来るレベルじゃないわ」
続いて、マルレーネは氷の刃。
「イーリス、君んとこの子たち、どうなってんだい?」
「魔法は教育次第よ。3年後が楽しみでしょ」
子供を褒められて、親バカが出てきてるイーリスさん。
「ちょっと驚きで、何しに来たのか忘れるところだったよ。サクラちゃんのを見ないといけないんだった」
忘れられかけてたのか。それはともかく、やって見せますか。
「氷よ 刃の如く嵐の如く 切り裂け!」
「多い!」
「それが使えるのね。すばらしいわ。それに個数がえらく多い」
これまでは、「刃の如く風の如く」としていた第二句を、「刃の如く嵐の如く」と変えた。この前のレベルアップで、サクラの賢さが100を超えたから出来るはずと教えてもらった、一つ上位の魔法。同時に多数の氷の刃を出して、回避を困難にする。個数が多いのは、賢さに比例するから。
実際は350ある中の人の賢さで発動させているのだから、本来はサクラの賢さ104程度にセーブした方が良いけど、一瞬で正しく数える人もいないだろうから、誤魔化せる。
「訳あって、この杖がないと当たらないですけど」
ノーコンとそれへの対策の件も説明。それを考えても、サクラは戦力になるとの判断で、今回はアルゼントの臨時メンバーとして参加する事になった。
「今回の仕事は、マコ村の近くに他にキマイラが居ないかの確認だ。はじめて一緒に仕事するサクラちゃんに、メンバー紹介を兼ねて、どうするか説明しよう。まずは、私はエリオ、このパーティー、アルゼントのまとめ役をやってる。昔ギードさんととイーリスさんには鍛えてもらった、仲間だ。この中では足が速い方なんで、おびき寄せ役もたまに引き受ける。ちなみにレベルは41だよ」
エリオ、チャラい兄ちゃんっぽいけど、リーダーらしい。Lv41ってのは、この前聞いたイーリスさんより結構上だ。ギードさんとイーリスさんの脱退後も続けてるんだからそうなるか。
「俺はアレックス。リーダーが引っ張って来た敵とぶつかるのが仕事だ。キマイラとぶつかっても止めてやる。だが後ろから魔法ぶつけるのは勘弁な。レベルは33だ」
アレックス、金属鎧を身に着けた戦士。手には斧。
「僕はジム。ダンジョンだと罠の解除や不意打ちを仕掛けるのが役目です。レベルは28だよ」
「ジムは索敵の魔法が使える。これがあると、ダンジョンで視野に入る前に敵の場所が分かるから戦いを避けたり、不意打ちを仕掛けたりと、とても便利だ。今回はどこに居るか分からないキマイラを、ジムの索敵の魔法で探して回ることになる」
ジム、ゲームだとシーフ系ってのか。今回の役割をエリオさんが補足。
「私はクリス。治療の魔法を得意としてるわ。攻撃魔法はそんなに得意じゃないから、魔法じゃないとどうにもならないのが出た時だけ。このパーティーで私だけ女なので、女の子が入ってくれるのは嬉しいわ。レベルは30よ」
「私はサクラです。記憶をなくしてこの付近に居たところを、マコ村で保護されました。攻撃魔法を練習してます。あと、この杖なんですが、私の魔法は狙いが全然外れるので、それが外れなくなるこの杖を持ってます。かわりにこの杖の近くでは、他の人は魔法は狙いが外れるようです。クリスさんにはご迷惑かけるかもしれません」
「狙いが狂うのは、どんな魔法?」
「場所を指定する、氷の刃とか土壁とか。冷凍したり防御力上げたりするのは、影響ないです」
「あとで私の治療魔法に影響ないか、確認しておきましょう」
「うん、大丈夫そうね。サクラちゃん、頑張って。エリオっち、よろしく」
ちょっと珍しい砕けた感じのイーリスさん。元はこうだったんだろうか。
出発は翌朝となった。彼らは今日は他の村の人にも聞き取りをするなど、村の中での用事をこなすそうだ。まあ元日から遠征に出ることもあるまい。
「この前キマイラを見たってのは、この辺りかい?」
「そうです。この辺で、シカを追いかけて現れました」
翌日の朝、合流してキマイラを見た森へ。
「どの位の大きさだった? 体の一部を何か持ってないか?」
説明するより実物をと思って、ストレージから取り出す。尻尾だった蛇を。
この前倒した後、この尻尾と体内にあった結晶の様なものは俺がもらった。保存が利くし、どこかへ行ったら換金できるからと。後の部分は、村人の胃袋。
「尾がこの長さって事は、普通のタイプだな。メナカとネオで出たのと同じくらいか」
「そうだな。メナカのは南へ逃げられたって話だから、そいつかもしれん」
「傷がないです。生み出されてからの時間が短い。ネオのに近い特徴です」
「ラガシアの東で、このサイズが2頭あるいは3頭出たって事ね。それもつい最近発生。何が起きてるのかしら」
ラガシアと言うのは、この地方を治める貴族、ラガシア辺境伯の領地。マコ村はその東端、ここは辺境の辺境だ。
「ちょっと借してもらっていいかな? 何も持たずにと違って、特徴となるものを使えば、ヒット数が絞れるから、少し広い範囲の索敵が出来るんだ」
ジムさんにキマイラの尻尾を渡す。
「天にある あまたの目を持つ者よ この印のありかを示したまえ」
「どうだ?」
「この辺りにはいないみたいです。もっと北に行きましょう」
「ダンジョンでは、さっきの魔法を魔石でやるんだ。魔石ってのは、キマイラから取って見たかもしれないけど、魔物が体内に持っていて、魔素を食べて生きられるのと何か関係あるんじゃないかって言われてる」
「魔素がない場所で魔物を閉じ込めてると、魔石は小さくなって行くってある賢者さんが試したことがあって、魔素を体内に貯蔵している物質じゃないかって言われてるわ。魔道具がMPを使わずに使えるのは、中の魔石がMPを肩代わりしてれるからね」
歩きながら、ジムさんに索敵魔法の事を教えてもらう。魔石の知識はクリスさんが詳しい。
「その賢者って、もしかして」
「大賢者のマリッカ様よ」
やっぱり出てくる、あのお方。魔法に関する色々な研究は、マリッカさんが大体関わっているらしい。
「その魔素がない場所ってのも、マリッカさんが創ったんですか? 魔物が弱体化したり、役立ちそうですね」
「さん付け? 会った事あるの? イーリスさんの親戚だそうだから会えたのかしら? まあそれは良いとして、作ったのはその通り、マリッカ様。魔素をどんどん吸収して魔石にため込む人工の魔物を作ってね。勇者王がトロメダンジョンを攻略した後、ダンジョンを浄化するために。魔素がない場所ってのは、そのトロメダンジョンよ」
マリッカ様、チート過ぎます。その気になれば、魔物のいない安全な世界を創れるんじゃないか? 勇者なんかいらんかったんや!
さらに北へ、西へ。索敵範囲外に出たら、都度索敵魔法。
途中休憩も入れつつ、出て来た獣をついでで狩りもする。どこかの村に近いところでの狩りは村の許可が居るそうだが、今いる場所は離れているので問題なし。
日が暮れるまでにマコ村に戻ろうって事で、帰路に就いた。野営でもするのかと思ったら、「決まった目的地に向かうんでなければ、拠点に戻る方が楽」という、当たり前の事だと。野営しながらの活動なら、常時2人以上が警戒に当たって、交代で回して全員が休息をとれるように、最低8人必要と教えてもらった。
マコ村到着は、日暮れ間際。休みも入れつつ7時間くらいは歩いてるな。かえって来た村は、何も変わりは無し。平和そのもの。
「明日は、今日行った場所より先に行くから、マコ村にじゃなくメナカ村に泊まることになると思うんだが、それで良いかい?」
「わかりました。大丈夫です」
ギードさん宅の前で分かれる。そうか、明日は初めて、他の村に行くことになるのか。この村の様に良い人ばかりだと良いが。
「見つからなかったのね。あの1頭だけだったのかもしれないし、居ないなら居ない方が良いわ」
「明日はメナカ村か。最近行ってないが、こことそう変わらない普通の村だ。色々見てくるのは良い事さ」
ギードさんとイーリスさんに、明日の外泊を伝える。エリオの事をよく知ってるから、あまり心配はしないみたいだ。
その夜、
「ん? そんなの入ってたっけ?」
「ああ、買っちゃった」
「買った? しまった、ロックしてなかった。まさかショップの入り方わかるとは思わんかった。というか、勝手に買うなよ! だれが払うと思ってるんだ。まったく」
「この400円って高いの?」
「値段の問題じゃない! 買うのは禁止!」
なんで買えるんだ。というか、繋がってるんだ、回線。
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