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第8話 初めての魔物(※ただし自分を除く)

「おはようございます」

「あら、ハコネちゃんは?」


 12月28日の朝。今朝はイーリスさんが朝食準備。

 夜中起こされ、もう一度寝たら少し起きるのが遅くなった。

 ハコネは夜通し漫画を読みまくり、あるキャラの独特の立ち方をしている。出てくるつもりは無いらしい。階段を好きなだけ上り下りしてくれ。


「ハコネは何か用事があったら出て来ます。呼びましょうか?」

「いえ、昨日マリッカお婆ちゃんから逃げてたみたいだったから、マリッカお婆ちゃん絡みの面白いお話でもあったら、マルレーネに聞かせて欲しいなと思って。でもマルレーネにはハコネちゃんの声は聞こえないんだったわね」


 てきぱきと料理。その様をぼんやり見てるふりで、ハコネに話しかける。


「マルレーネと話せるように出来ないのか?」

「私を見えない人には私の声は聞こえない。でも、私が書いたものは、読むことが出来るわよ」

「じゃあ絵本でも描くか」

「めんどくさいわよ、そんなの」


 漫画を読むのに忙しいハコネはやる気がない。そのスマホの電気代、誰が出してると思ってんだ。あれ? 誰が出してるんだ?




 昨夜の食後、子供たちの勉強の時間、何かを書いてるなと思ったら、その成果が扉の前にあった。カドツリと呼ばれる旧年を送るための木に、願いを書いた札が下げられていた。門松に七夕が合体しているのか。

「まほうのどうぐ」「ハコネ」

 ハコネはハンスにあげた方が良いのだろうか。部屋でマンガ読んでるだけの引き籠り妖精でいいのか?




 今日も朝は狩りついでの魔法の練習。当てることはとりあえず諦め、他の面を鍛えたい。


「さて、また見せて頂戴。その杖の効果を!」


「氷よ 刃の如く風の如く 切り裂け!」


 昨日と同じ、ちゃんと狙い通り。


「じゃあ私も。氷よ 刃の如く風の如く 切り裂け!」


 イーリスさんがかわりにノーコン。


「あらら、言ってた通りね。でも、困るわね。その杖が無いと、サクラは魔法が当たらない。その杖があると、私の魔法が当たらない」

「あ、そうか」


 つまり、一緒に行動すると、どちらかの魔法が使い物にならない。これ、パーティー組む時に困るってことじゃないか?


「しょうがないわね。もう慣れて来たでしょうから、別行動しましょう。その杖もそんなに遠くまで効果無いでしょうから、同じ森に居ても少し離れてれば大丈夫でしょ」




 別行動で魔法の訓練、兼、狩り。

 当てられないという問題が解消したので、色々試す。狙い通りに当たるって素晴らしい。狩りが便利になるな。狩人になるかは決めてないけど。


 最初の獲物はイノシシ。イーリスさんと一緒の狩りで狩っているのを見たが、果たして狩れるだろうか。咄嗟に杖の先を眉間に当てて、呪文を唱える。


「氷よ 刃の如く風の如く 切り裂け!」


 足に1発当て突進を封じ、二発目を頭に。見事撃沈。マリッカさんありがとう。とても役に立ちます。




「サクラちゃん、そっちにイノシシ行かせたけど大丈夫だった?」


 獲物はイーリスさんが追い込んでくれたらしい。練習のために。


「一人だと怪我が心配だから、守りに役立つ魔法も教えるわね。これは場所じゃなくて対象を決めて使う魔法だから、一緒でも出来るでしょう」


 そう、この杖があると、イーリスさんに場所指定の呪文の実演はしてもらえない。


「魔力よ 守る壁となれ!」


 教えてもらった防御魔法は、術者の魔力を防御したい対象の防御力として上乗せする。ちなみに、物理防御である。魔法だろうと、飛んでくるのは物質である。この場合は。


「使えてるか、見せてもらっていいかしら? あ、レベルアップね、おめで…… あれ? なんでこんなに上がったの? 賢さ分だけ上がるはずなんだけど。それにMP減ってないわね」


サクラ

 種族 クスノキ

 Lv    2

 HP  152/152

 MP  152/152

 力    32

 守り   32+200

 速さ   32

 器用さ  56

 賢さ   56


 昨日、マリッカさんに言われたことを思い出す。魔法は中の人が使っている。だから、基本の効果は中の人の力が左右する。そして、MPは中の人のを使う。見事にそれが表れた。


「もしかして、その杖の効果かしら? ゼロの杖って言ってたし、消費MPがゼロ?」

「試しますか? どうぞ」

「じゃあ、ちょっと借りて、魔力よ 守る壁となれ! うん、そうね、消費MPがゼロだわ。マリッカお婆ちゃん、とんでもないもの貸してくれたわね」


 そんな効果の事は言っていなかったが、MP消費の件はカモフラージュされるってことだな。ありがたい。もしや、これも狙った?


「魔法が使い放題よ。いくつかの魔法が使い物にならなくなるけど、凄い杖だわ。効果をあまり知られちゃだめよ。命がいくらあっても足りないわ」




 狩りの続き。また散開。

 さっきのサクラのレベルアップ、気になって中の人のも見たけど、変化なし。魔法を使ってるの中の人なんだけど、サクラの経験になるって事か?


 考え事をしていたら、不意にシカが飛び出してきた。とっさに氷の刃で討ち取ったら、そのすぐ後を別の獣が追いかけてくる。シカはこれに追われて飛び出したのか。


「グルルル」


 ライオン? いや、尾が蛇。こんな謎の生物が出るなんて。シカを追いかけてたのだから、肉食獣だろう。こちらを新たな獲物と認識しているのかもしれない。


「氷よ 刃の如く風の如く 切り裂け!」


 先手必勝。イノシシの時と同じく足を狙ったが、飛んで避けられ、体当たり。避けるのと攻撃を兼ねて来るとは、そこらの獣とは違うってことか。重量で負けるため、態勢は崩されたが、ケガはない。


「土よ 壁となりて 現れよ!」


 間に壁を作り、一旦視界を遮り隠れ、離れる。回り込んで来るだろうと、待ち構え、


「氷よ 刃の如く風の如く」


 そこで呪文を一旦止めて、見えた瞬間に、


「切り裂け!」


 一旦中断でも、魔法は発動した。

 動けなくなったところを、氷の刃を連発して、ついに倒した。




「なんでキマイラが……」


 次に合流した際、イーリスさんに見せたら驚かれた。


「キマイラは、獣じゃなくて魔物よ。普通はこんな所に出ないわ。ダンジョンならともかく。とりあえず、帰りましょう。まだ居るとしたら、警戒しないといけないわ」




 キマイラ討伐は、結構な経験値だったらしい。サクラはまたレベルアップ。


「何よこの上がり方、ずるいわね。私もエルフに生まれたかった!」


サクラ

 種族 クスノキ

 Lv    4

 HP  232/232

 MP  207/232

 力    56

 守り   56+200

 速さ   56

 器用さ  104

 賢さ   104


 今のイーリスさんには及ばないが、サクラはもう一人立ち出来る冒険者に匹敵するらしい。この前聞いた、エルフのレベルは5倍相当って言うから、他の人のLv20相当か。それは羨ましがられるだろう。


 イーリスさんには知らせないが、心の中でガッツポーズ。さっきの戦闘で、中の人のレベルもアップした。


ジョージ

 種族  未定義

 Lv    2

 HP 1625/1625

 MP 1625/1625

 力   200

 守り  200

 速さ  200

 器用さ 350

 賢さ  350

 MP    2/2


 ごめんなさい、今のイーリスさんを超えました。




 その後、キマイラが出た事を町に知らせるために使いを出し、様子が分かるまでは村の外で単独行動はしない事になった。狩りだけじゃなく、ギードさんの様な農作業についても、イーリスさんや俺が護衛することになった。おかげで、村人との接点が増えて、よりこの村に馴染むことが出来た。




 危険な魔物はそのまま現れない平穏な日が続き、ついに大晦日。

 先程から、各家のカドツリを広場に集め、燃やす行事が始まった。着火にはここぞとばかりにハンスが登場。盛大に着火してくれた。威力は大きすぎたが、ノーコンではないので大丈夫。

 この行事、一年の厄を払い、願いを神様に届け、明日の朝には子供の枕元にプレゼントが。クリスマスまで混ざっとっったんかい! そしてお年玉はクリスマスプレゼントと兼ねられたか。


 普段は早く寝る子供も、今日は起きていていいらしい。でももう眠そうだ。

 お祭りというより大きめの宴会という規模だが、村で数少ない娯楽行事だそうだ。もちろん大人は飲んでいるし、飲んで赤くなるが言動が変わらないサクラは「飲んでよし」とされた。お酒は二十歳から、でも中の人はとっくにそれ以上なので問題ない。


「あんたがサクラか? イーリスに聞いたよ、期待の新星って」


 突然知らない人から声を掛けられる。30歳前くらいの男性。この数日村に居て初めて見る人だ。


「私はエリオ、昔ギードやイーリスとパーティーを組んでた冒険者だ。キマイラの報告を受けて、この村に来た。君がサクラで合ってるかい?」

「そうです、サクラです」

「キマイラが出たって聞いて、他3人とこの村の辺りを調査する依頼が出てるんだ。何もいなければそれでよし、居たら可能なら討伐、ってやつだな」


 話していると、イーリス(顔が赤い)がやって来た。


「エリオ、また悪い癖が出てるのかしら? ビアンカに言いつけちゃおうかしら」

「いや、違う、誤解だ。あくまでもキマイラの発見者にだな」

「サクラちゃん、こいつは昔の仲間なんだけどね、もう結婚してるのに、たまに遠征に出るとすぐに女の子に声かけて。ビアンカ、こいつの奥さんだけど、私頼まれてるの。こいつが女の子に声かけてたら、痛い目見せといてって」


 珍しいことに、イーリスさんが酔っ払い。ただでさえ祭りで盛り上がってるところに、かつての仲間が来て、ちょっとタガが外れてるのかもしれない。


「違うからな、本当に。な、サクラちゃん。ビアンカに有る事無い事、吹き込まないでくれ」


 有る事なら仕方がないんじゃないのか? 中の人としては「一緒に飲みたいな」、と思いつつ、目の前のやり取りを眺めていた。




「お帰りー」


 ハコネはちゃんとこちらを見もしないで、漫画を読み続ける。そういう娯楽がない世界だってのは分かるけど、その塩対応はどうなのさ。


 まあ、いいや。俺も楽しみが一つある。大鍋いっぱいのスープ。ただしサクラのスケールでそのサイズなので、俺のスケールからすると普通のスープ皿に半分以下。それでも初めてちゃんと食べられる、この世界の食べ物。お祭りで大量に作るから、どさくさで大鍋一つ分もらって来た。


「調味料に頼らない素朴な味だけど、これがこの世界の味か」


 いつか、大鍋単位で注文できる店を見つけたら、食べ歩こう。125人前を頼んだら、俺の1人前になる。ちょっと無理かもしれないが。




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