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第2話 Giant in the elf(かわいい)

 真っ白な部屋に、青い服に黒い髪の小人こびと少女がこっちを見ていた。

 目の前のこびとは、執事風。男装執事少女。


 目が合った! さっきの一味か?


 「あなた」


 新たな追撃者を前に、回れ右して走る。真っ白な部屋を。いや、部屋って言っても見渡す限り白くて壁はないから部屋じゃない。


 「逃げなくても良いでしょう。危害は加えません」


 急に目の前に現れた。追いかけてきてなかったのに。ダメもとで、急旋回して逃げる。しかし、結果は同じだった。


 ゲームのイベントなら、2回逃げるを選んで逃げられなければ、ボスキャラである可能性が高い。


 「なんなんだ? 一体」


 男装執事少女。こいつは話を聞いてくれるのかもしれない。相手が逃げられないボスキャラなら、戦闘前のイベントかもしれないが。


 「逃げる必要はない。助けに来た」

 「助けに? 逃がしてくれると助かるんだが」


 弱気モード。逃げられる状態に無いので、男装執事ボスキャラの話を聞く他ない。


 「あなたはだれ? どこから来た?」

 「ヒスギジョウジ、23歳、普通の大学院生。川の向こうから来た」

 「いや、どこの出身かと聞いている」


 このファンタジーな世界、日本の地名を言っても仕方が無いかとは思いつつ、


 「横浜から」


 ちゃんと答えた。日本国神奈川県横浜市って答えた方が良かっただろうか。あるいはブリティッシュ?


 「ヨコハマ? あなたは迷宮の魔物?」


 横浜にメイキュウ? マモノ?


 「メイキュウってなんだ? マモノ? なんだそれ?」


 言語明瞭、意味不明瞭。言葉は通じたが、会話は通じない。


 「迷宮は、地下。魔物は、人類を脅かす存在」


 なんとなく解説された。マモノが人の敵。

 ゲームの世界を参考に考えれば、意味が通じる。メイキュウがチカというのは、地下ダンジョンか。そんな物が横浜にあるとは、聞いたことは無い。地下街なら分かるが。彼女の言うヨコハマは、横浜ではないのだろう。


 ちょっと混乱から立ち直り、少し前に考えた『ここはゲームの世界』という仮定で、聞いた言葉をゲームの用語として漢字変換していくと、理解出来ることが分かった。


 横浜はダンジョンで、魔物が居るらしい。人類を脅かすとなれば、甲子園の魔物みたいなのじゃなくて、リアルにモンスターなんだろう。ベイスターズが9回に逆転負けするやつとは、多分関係ない。


 「あなたは巨人と呼ばれるモノ。この地の人々には、危険な魔物として敵視される」


 はい、されました。さっき。ところで、その、「あなたは巨人」、ちょっと嫌な響き。


 「でも、あなたは魔物とは違って見える。迷宮の巨人とも異なる」

 「魔物じゃない。巨人でもない。人間だ。あと学生」

 「学生? 人間として生きるのを望む巨人?」


 学生が通じるらしい。魔法学とか教えてるんだろうか? その方が就職に役立ちそうだし、ぜひ習いたい。


 男装執事少女は少し考えると、


「巨人が学生をしている、そんな遠い場所から流れ着いた。そういうことにしておく」


 なんか適当なところに理解が落ち着いたらしい。でも「あなたは巨人」という言葉にまだ引っかかってたりする。

 だって、カープファンだし。


 自己紹介は終わったので、最初の話に戻す。


 「それで、俺を助けるって、どういうことだ?」 

 「あなたに選択肢を提供する。1つは、このまま。巨人のままでは出会えば戦う事になり、あなたが生きるには、この地の人から多くを奪わなくてはならなくなる。戦いの道」

 

 「もう一つは、共存の道。この地の人と共に暮らせるよう、あなたには巨人で無くなってもらう。」


 俺も小人になる? まぁ、周りと同じ容姿になれば、コミュニケーションには適するだろうから、それは構わない。


 「戦いの道は望まない。それで、巨人で無くなる、どうやって?」


 彼女が両開きのドアを開けるようなジェスチャーをすると、急に景色は、真っ白な部屋から、さっきまで居た森へ。でも夜になってる? あー、満月(・・)が綺麗だ。天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも。


 いや、さっきの森みたいだけど、巨大な木がある。神社でご神木になってそうなやつ。5分の1サイズじゃなく、大きい。大人10人で手をつないでも一周繋がらないかもしれない。


 「この樹を使う」


 彼女が俺に手を伸ばすと、その指先に光る文様が宙を巡る。すると指さされた先の俺の体から、謎の光が。そしてその光はゆらゆらと巨木に向かい、そして、その幹に溶け込んだ。

 何が起きたんだ?


 すると、幹の手が届きそうな高さの場所が、光を放ちつつ盛り上がる。光るコブ。その大きさは、バスケットボール。

 そのコブ、ポロリと幹から離れ、ドシっと地面に落ちる。落ちた衝撃でヒビが入る。そのヒビに彼女は手を掛け、二つに割ると、

 なんと、中から人間が!

 木から人が! 赤ん坊じゃなくて、中学生くらい。青緑の髪、尖った耳の小人!

かぐや姫でも桃太郎でも子供からなのに、もう育ってるよ。あれとかこれとか、すっ飛ばしすぎ。あんた神様かい?

 て、言うかね、なぜ、植物から作るのさ? 人間を材料にしたら人間もっと簡単に出来るんじゃないの? 意味わからないね。ちょっと頭おかしい。植物を人間にする魔法とか出てくるんなら、畑から人間が取れるとか言う某国の比喩がリアルになっちゃうよ。銃剣持ってУраааа!!って突撃してきちゃうよ。おそろしあ。


 それに、いろいろまずい。何がまずいって、この子、マッパですよ。そして、この子、エルフ?の、女の子ですよ!!! こんなの見たら、Ураааа!!って突撃しちゃうよ。


 変なテンションになったけど、ロシアまで2往復して来て、ちょっと落ち着いた。


 「この子が、あなたの器。樹を材料に、あなたを模した器。あなたはこの子に入り、動かす」

 「模した? 色々違うところだらけだ。それより、入るってのは、どうするんだ? そんな小さな体に、俺が入るってのは」


 入れません、大きさ的に。入っちゃダメです。犯罪なのもダメです。


 「空間魔法で、あなたの居場所を作る。あなたはそこから、この子を動かす」


 空間魔法ってのが分からないが、なんだか中から操縦出来るらしい。何そのロボットアニメ感。でも、ロボットが搭乗者より小さいロボットアニメってあり?


 「空間魔法は使える?」

 「魔法を使うとか、出来ないぞ、そんなこと」


 科学の世界の人だもの。奇跡も魔法もないんだよ。


 「それだけの魔力を持っているのだから、出来てもおかしくない。必要なものは教える」


 ん? それだけの魔力?


 「それだけの魔力って、俺に魔力ってのがあるのか?」


 男装執事少女かみさまは不思議そうな表情をしている、様な気がする。あまり表情が無く読めないが、分かるようになってきた気がする。


 「あなたの魔力は、人よりもはるかに大きい。エルフの領域」


 さすがはファンタジー。そして、もしや帰って来た俺tueee? 潜在的には。

 というか、エルフいるのか。いや、いる、目の前に。


 「魔力ってものは知らないし、魔法なんて使ったことない。見たのも今日が初めてだ」


 10年位前に使おうとしたのはノーカウントだ。黒歴史だ。


 「では、必要な魔法を今から教える」


 と言うや、さっきの様な光る文様が出て、光の玉が俺に飛び込んで来て、消えた。

体に入ったんだろうか。突き抜けて後ろに飛んで行った様子は、無い。


 「あなたの魔法記憶にいくつかの魔法を追加した」


 ふむ、どれどれ。


 「ファイアー!」


  ………。

  ………。


 黒歴史レベルがあがった!

 かしこさが、1さがった!

 はずかしさが、2あがった!


 「使うのは、空間魔法。何もない部屋を想像して、そこへの扉を開けることを想像して」

 

 両開きの引き戸を開けるような動作


 「こうか? っと、なんだこれ」


 真似してみると、目の前に謎の空間。何もない部屋。


 「それが魔法。異世界の空間への入り口を開く。魔法使いは、そこに荷物を入れて運んだりする」


 覗き込む。広い。床はある、10m四方くらい。


 男装執事少女は出来立てエルフの頭に手を置き、

 「あなたはそこに入り、この子の体を操る」


 繋がった空間との出入り口を、入ったり出たりしてみた。空間の入り口の開け閉めは、両開きの引き戸を開け閉めする動作で出来た。


 「次は、体を動かすための魔法。これも動くさまを想像する」


 緑の子の手を上げようと念じた。動け、動け、動け、動け、動いてよ!

 と思ったら、手が上がった。挙げる手が逆かと思ったが、あってた。鏡じゃないし。右上げて、左上げて、右下げないで、左下げない。間違えた。


 立ち上がろうってのも、立ち上がる時の体を動かす動作を想像したら出来た。でもふらふらして、倒れて尻もちをついた。


 「安定しないのは、目で見る事や他の感覚があなたに繋がっていないから。それを次に教える。見る、聞く、感じる魔法」


 目をつぶって、そこで周りが視えるイメージをしたら、本当に見えた。エルフっ子の視野。今度は安定して立つことができた。

 あと、耳をふさいでも音が聞こえる。エルフっ子の聴覚だろうか。そして、風に揺れて額に架かる髪の感覚も分かる。頬をつねると、ちゃんとつねられた感覚がある。


 「あなたは空間魔法で隠れて、そこからこの子を動かしてほしい」

 「そうだった、そのためだった」


 今俺は、魔法空間にいる。視点はエルフっ子。なるほど、こういう組み合わせか。

 違和感はほぼ無い。視点が低い事くらい。どうも体が同時に動いてしまってるようで、俺の体も立ったり座ったりしてしまってるけど、障害物がない魔法空間だから問題ない。慣れたら別々の動きを出来るらしい。


 「これ、すべての感覚を受け取れるのか?」

 「触った感覚、肌に加わる痛みは感じられる」

 「味は?」

 「無理」


 残念。異世界食道楽紀行はできないのか。いや、中の人が食べればいい? 小さすぎで味が分からないだろう。

 キスで舌を入れられても気付かない? それは味覚じゃなくて触覚? ちょっと試させて…… くれませんよね。


 「あー、あー」


 今度は、エルフっ子しててしゃべってみた。問題ない。声が高い。


 とりあえずこれで、エルフっ子として生活は出来そうな気がする。


 「いくつか話しておく事がある」


 もう少し、教えてくれるらしい。魔法を知らない俺のために。

 この世界の人、動物、魔物には、魔法を使える者がいる。ずっと、ずっと昔からそうであった。

 魔法を使うには、魔力が要る。魔力は生物にも、石にも、空気にも、全てのものが持つ物で、それ自体は目に見えない。魔法を使うのに使ってしまった魔力を、人は生きている限り回復できる。

 魔物も、ずっと、ずっと昔から存在する。魔物は動物とは違い、有機物からエネルギーを得るのではなく、魔力からエネルギーを得ることができる。人や動物を襲うのは、その体に宿す魔力を取り込むためだ。

 俺が魔法を使えるのは分かったが、エルフっ子は使えない。そもそもが人の形をしているが、木から作った意識を持たない体なので、魔法は中の人である俺が使うことになり、使うのも俺の魔力だそうだ。


 あ、そうそう、エルフっ子に服をもらった。今までマッパだったし。布に穴をあけて、そこから頭を出すやつ。貫頭衣って言うんだっけか。これがこの世界では普通な服なのかね。


 この先どうしたらいいか、そんな事を訪ねたところ、


 「好きなように」


 素っ気なく返された。せめてここがどんな場所なのか、色々教えてもらいたかったけれど、


 「私の認識とこの地の人の認識は一致しない。この地の人に教えてもらうべき」


 だそうだ。


 ところで、大事なことを聞いていなかった。


 「あんた、何者だい?」

 「ルア・ヒューイ」




 ルアと名乗った少女は、それ以上の事は話さず、瞬きの間に消え失せていた。何だったんだろう。そもそも一回も触っていないから、そこに実在したのかさえ分からない。

 

 夜だ。良く見えないし、そもそも俺がうろついたら元の木阿弥。エルフっ子として活動するためには、やはり俺は魔法空間に身を隠さなくてはいけない。

 魔法空間に入り、扉を閉じた。


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