第16話 5倍世界のジパング大陸( /^o^\ )
突然見えなくなって、何が何だか分からない。
「何これ? どうなったんだ?」
「何? どうかしたの?」
「サクラの視界が見えてたのが、何も見えなくなった。見る、聞く、体を動かす、肌の感覚、全てが無い」
ハコネが居てくれなければ、突然一人になるところだ。
「ちょっと様子を見に…… あれ? 出れない」
ハコネも異常に気付いた。
「この空間は特に変わりは無いけど、出入りが出来ない」
「見えない聞こえないとかと関係あるのか?」
「分からないわ。その見えない聞こえないって、そもそもなぜ見えてるのか、分かってるの?」
困った事態なので、さっきの事、これまでの事で言わなかった全部を話すことにした。ルアとの出会い、サクラのはじまり。
「ルア様って本当に居るのね。居るように感じられてはいるのだけど、会った事は無いわ。そんで、この魔法空間はルア様作成、サクラの目で見たり動かしてたりしてるのは、ルア様に与えられた魔法か。そういう事なら、今起きてることを簡単に説明出来るわね」
「簡単に?」
「あんた今、魔法を封じられたのよ」
え? マ〇トーン?
「だって、サクラの目で見ることが出来る魔法をもらった。動かす魔法をもらった。全部魔法でやってるのよね。そこで、魔法が使えない、あるいは使った効果が出ない状態になったら、どうなる?」
「見えないし、動けないのか。そういえばさっき、向かって来る奴を落とし穴に落とす土魔法を仕掛けたら、発動しなかった」
「じゃああんたが使えないというより、そいつの周りに魔法が働かないフィールドがあったんでしょうね。そういう道具も知られてるし」
なんてこったい。サクラを動かすという魔法の欠陥を突かれたか。向こうはサクラが使う魔法を封じたかっただけだろうが、意図せず俺には特効の手段だったと。
「でも困るわね。この空間はルア様が作ったとなれば、実世界じゃなくルア様の領域の一部だから影響範囲外でしょう。でも、出口が影響範囲内だったら出入りは出来ないわね。閉じ込められたわ」
「いつまでこのまま?」
「原因が魔道具なら、その魔道具の魔石が効果を失うまで。もっと現実的なのは、その道具の影響範囲からサクラが出るまでね」
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何も動きが無い、動けないジョージとハコネから視点を移し、サクラの世界。
「おい、しっかりしろ」
彼らは、ある隠密任務でここを通っていた者。人族には魔族と呼ばれるものの、一集団。
脈をとって生きている事は確認したが、サクラは目を覚まさない。
「意識が戻らんな。サスケ、気付け薬を持ってこい」
「抵抗するなと呼びかけようとしたのだが、その前に倒れてしもうた」
「誰かこいつに魔法を掛けたものは居るか? タツ、お前の魔法か?」
「違います。仕掛けてません。それに、そいつが意識を失ったのは、七郎様がお持ちの静魔玉環の影響範囲に入った頃。そこでそれがしの魔法で意識を刈り取るなど、有り得ません」
「魔法じゃ無いか。しかし、外傷も無い。ただ勝手に、意識を失った? そういう病もあるかもしれんが」
「だめだ、目を覚まさないな」
気付け薬も効果を示さず。それは当然である。元々意識があって動いていたのでは無いのだから。意識があるふりをしていただけ。
「見られたからには、申し訳ないですが……」
「我らの大義を汚す事はならん。それに、エルフを殺めたとなれば、盟約は遠退く。致し方ない。バンテゴまでは連れて行こう。サスケ、そのまま負ぶって行くぞ」
――――――――――――――――――――
それから2日。ジョージは時々サクラとのリンクを試みるも、成果は出ず。
「おお、芽が出たな。マコ村の種」
「あんたが色々話してくれたのだから、私も言ってなかったことをいくつか話すわ。良く聞くがいいわ。私の本当の姿は……」
「お前は、温泉の妖精、違うか?」
「違わい!」
マコ村から持ってきた種が発芽して、可愛げな芽が出たのを愛でていたら、何か言い出したのでボケてやったら、違ったらしい。ボケで当たりを引くと思ったんだけどな。あの温泉が栄えることへのこだわり、そうだと思ったんだが。
「私は元々は、文明神に都市への加護を委ねられた存在。神への信仰が私の元に蓄えられて、都市の危機には貯めた信仰を消費して奇跡を起こすことを任せられてるわ。都市の守護霊、それと同じものよ」
実は偉い霊だったらしい。いまさらそういう扱い出来そうに無いが。だってこいつは、温泉妖精。
「そして、私が委ねられていた都市ってのは、ハコネ市。最初の住民が神に名付けを願い、ハコネという名を得た。そうして、私という存在が生まれた。そのハコネ市は、今はもうない。ずっと昔、かつての文明が滅ぶ際に、人はその地を捨ててしまった。そして誰もいなくなった場所が、さっきの温泉」
偶然の一致じゃなければ、その神、日本人だな。温泉がある場所に、箱根と名付けるなんて。そうで無ければバーデン=バーデンだったかもしれない。そしてここはバーデン辺境伯が治める。あれ? こっちが正解だったんじゃないか?
「温泉で言ってた、人が沢山来るようになって欲しいってのは、都市の復活を願うって事か?」
「そうよ。私はまだ諦めてないわ。諦めたらそこで試合終了よ。まあ、一度はあきらめて、ダンジョンにしてしまおうかとも思ったけど」
「ダンジョン?」
「ダンジョンってのは、人間と言う住人の信仰を諦めて、魔物という住人で都市を持つことを考えた私たちの仲間の姿よ。この通った、廃都、あそこにダンジョンがって言ってたでしょ。あれは、元々はオダワラ市があったのだけど、去ってしまった人間を諦めて、魔物で都市を再生しようとした結果。皮肉な事に、ダンジョンになったら、また人間がやって来たけど。可哀そうな、私の姉」
「ところで、バーデンに改名しないか?」
「茹でるわよ!」
温泉の妖精だから、いや温泉都市守護霊だから、お湯は使い放題らしい。よし、ここの風呂、温泉にしてもらおう。ハコネの湯だ。
「さて、そろそろ…… おい、ハコネ、回復したぞ」
「マジで!? 行くわよ!」
ハコネの視界がつながった。外は大変な事になってる。
出口を作って、ハコネが飛び出す。俺も温泉入浴以来ずっとここにあったゼロの杖を取り出し、ハコネに持たせて、動き出す。
「嬢ちゃん、やっとお目覚めか。でも運が無かったな。最悪の状態だ」
状況は、温泉で襲来した奴らが、ドラゴンとしか言いようのない巨大なものと戦っている。うわ、超ファンタジー。
「私を襲撃した事と言い、この状況と言い、あなた方は一体何なんですか? ここはどこなんですか?」
「ここは嬢ちゃんが倒れた温泉から北西。バンテゴに向かう峠だ。俺は、クボー様の家臣、サスケだ。嬢ちゃんを害する気はなかった。本当だ。見られてしまったから、少しの間黙って居てくれる様にお願いするつもりだった」
そのお願いってのが、友好的にお願いされるのかどうか分かったもんじゃない。
「で、この状況は?」
「峠を越えようとしたら、ドラゴンの襲撃を受けた。湖に住むドラゴンがこんな所まで来るなんて、とんだ見込み違いだった。こんな状況に巻き込んじまったことは、本当に済まないと思っている」
「勝算は?」
「勝算? ドラゴンだぞ? 戦っていい相手じゃねえ。逃げるしかねえ」
まだこいつらを信用できないが、ドラゴンよりは交渉が出来そうなだけマシだ。
「七郎様!」
彼らのリーダーが、ドラゴンにやられた様だ。噛み付きで片腕を持って行かれている。あれは出血で助からないパターンだろう。
「魔力よ 守る壁となれ!」
防御魔法でどの程度行けるか?
「ハコネ! あいつの攻撃、今のサクラに通るか?」
「一撃で胴体真っ二つ、にはならない程度よ。かすった程度なら、致命傷にならないわ」
ドラゴンがこちらに向かって来る。大きさが半端ない。凄い威圧感だ。
「あ、これは、チビる。やっぱり逃げよう」
ちょっと足ががくがくするが、逃げに入る。何人もいるから、他の人に行ってくださいと願っていたら、こっちに来やがる!
走る。前方のきれいな山が見覚え有りすぎて気になるが、それどころじゃない。
おい、ドラゴン、飛ぶのは卑怯だ! こっちは地面走ってんだぞ!
その直後、まただ。サクラの視界で見えなくなった。
タイミング的に、最悪だった。あの状態で気を失ったサクラはどうなっただろう。
サクラが食われでもしたら、俺はどうなるんだろう? 死にはしないだろう。サクラが作られる前から居たのだし。
まあ考えても仕方がない。今度はハコネは外のまま。入って来れないだろう。何かとても疲れた。座ろう。
手が出しようもない物は、とりあえず保留にして、視界が失われる直前の景色。
あれは誰でも知っている山。富士山だった。
一人生活は3日くらい。その間に、色々分かった。
ネット使えるじゃん! すばらしい。暇つぶしが捗る! ハコネが電子書籍買ってダウンロードしてたから、出来そうとは思ってたけど、今まで試してなかった。目の前にあんな遊び道具があるのに、ネットで遊ぶなんて時間がもったいない。
買い物は、クレカで可能。もちろん物は届かないが。
そして、とても大きな事が分かった。ネットが使えるとかより、大きな事。
外の世界で見た景色に富士山、もしやここ日本? と思って、索敵魔法使って見える地図と比較すると、地理院の電子地図がばっちり一致。緯線経線が25°ほど傾いていて、あと距離がこの世界は5倍長い。
マコ村は大磯町高麗、ノニの町は二宮。メナカ川は金目川、ワカサ川は酒匂川。はい、前後逆転です。誰だ、こんな事したやつ。
ちなみに、ラガシアは足柄か。妙高型の3番艦、いや明治初期の足柄県。
「あんた!」
ハコネの声がした。
「おかえ……」
振り向いた。ハコネが居た。ハコネが泣いていた。
「しゃくらが、しゃくらが」
「ダメだったか?」
こくりと頷く。
サクラはドラゴンの胃袋らしい。あーあ。あのエルフ美少女姿、何気に気に入ってたんだぞ。ドラゴンめ、いつかステーキにしてやる。俺の大きさでも十分なステーキになるだろう。
それにしても、あの視界と感覚の遮断、結果として良かったのかもしれない。同調したままで食われるなんて、中の人の体は無事でも、心が無事かは自身が無い。
さて、これからどうしようか。
「あんた、また外で活動したい?」
「ああ、したい。でもサクラが、ダメだったんだろ。あ! サクラを創るのに使った木と同じのがここにあるじゃないか。ルア様を呼び出して、そこの木から」
「やめなさいな。ルア様、ホイホイ呼び出しちゃダメ。それに、ここは私が何とかするわ」
何とかする? サクラ再生?
「ハコネ、お前もルア様みたいなこと?」
「木から人をなんて無理よ。私が委ねられてる力にそう言うのは無いわ。ただ、前に言ったわね、貯めた信仰で奇跡を起こせるって」
「聞いた、聞いた。お湯が出せるんだっけ?」
「まじめな話よ! まあお湯も出せるけど」
この前から真面目モードのハコネが多い。地元で気合入ってるのか?
「うん、それで」
「ここは私の都市、一応。そこではいくつかの事が出来るの。例えば、信仰力を消費して、建物が建てられたり、あと、ユニットが作れたり」
「ユニット?」
「その都市を治める文明が作成可能なユニットを、1ターンで完成させられます。以上、ヘルプより」
「どこのゲームだよ!」
という事で、ユニットの作成とやらをやるらしい。
「それで、今の私が作れるのは」
「エルフ出ろ! なんなら、サクラ出ろ!」
「今の私が作れるのは、ドラゴン! 以上!」
異世界で魔物扱いされたので、魔物のふりして生きなくちゃならないようです。意味ないじゃん!