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第15話 〇〇温泉××事件(主演:俺)

 最初に行く場所は、ラガシアハンターギルド。報酬をもらっておきたい。

 道行く人に尋ねつつ辿り着いたのは、コンビニくらいの大きさの建物。扉は開かれている。「ここは嬢ちゃんの様なのが来るところじゃねえ」とか絡まれたらどう返そうとか考えて、足を踏み入れる。しかし、特に声もかけられない。人が少ない。

 入って左手にカウンターと人が1人、右手に掲示板と色々な品物が陳列されている棚。奥にも部屋があるらしい。ファンタジー小説のテンプレの様に酒場があったりはしない。


「ハンターギルドに御用ですか? こちらで受け付けますよ」


 カウンターにいる受付らしきお姉さんに声を掛けられた。入ってきてきょろきょろしてる少女が居たら、当然の対応だろう。


「報酬を受け取りに来たのですが」


 アルゼントのメンバーとキマイラを討伐した事、名前を伝える。


「エリオさんから承っています。ギルド加入の仮手続きと、報酬の口座入金がされています」


 ちゃんと処理してあった。信じてなかった訳じゃ無いけど、持ち逃げされても、俺が倒した証拠も無い。戦力としてパーティーに欲しいと言われてたんだから、そんな事はされないか。


「今から加入手続きを行ってよろしいですか?」

「はい、お願いします」


 加入手続きは、名前と出身地、あるなら住所を書き、ステータスを開示する。名前の本人確認と、どの程度までの依頼なら受けさせて良いかの判断材料らしい。本人がどうしてもと言えばギルドは止めないらしいが、ギルドとしては無事に生還して次の仕事を受けてもらえることが望ましいため、無理そうな仕事はなるべく受けない様に説得する。

 ステータスを鑑定した受付さんが、書類に記入する。


「このステータスなら、前衛職の方と一緒であれば中級まで、そうでなければ初級までの討伐クエストをお勧めします。ところで種族のクスノキって何ですか?」


サクラ

 種族 クスノキ

 Lv    7

 HP  352/352

 MP  352/352

 力    92

 守り   92

 速さ   92

 器用さ 176

 賢さ  176


 今日のクイーン退治でLvは1アップ。前回は2アップだったから、上がりにくくなった。中の人の魔法で上げられる守り、実際は中の人が魔法を使う賢さは、実質どうでもいい。


「他にスキルなど、これは開示してもしなくても結構ですが、開示していただけると、クエストをおすすめする際の精度が上がります」

「では、索敵魔法、防御魔法、氷魔法、土魔法としておいてください」


 「冷やされること」が弱点の相手には、手段は水だろうと氷だろうと冷凍だろうと、冷やせれば同じように効く。「手段で魔法の分類をした魔法学者は現場を知らない」と、クリスさん談。確かに、起こせる現象で分類した方が良いのかもしれないが、使い道が多い魔法の扱いが難しくなりそう。それに、冷える魔法とかこういう場面で言うの、格好良くない。


「では、これがギルド員証です。無くさないでくださいね」

「あと、新規の討伐報告と、前回の報酬ですが」

「新規ですか? 証拠の品はお持ちですか?」


 今日倒したキマイラクイーンの件と、前回の報酬受け取り。氷漬けキマイラと言ったら、別室に連れ、少し待つように言われた。


「ギルドマスターのビリーだ。アルゼントからも話を聞いているが、また東でキマイラか。ここで出せるか?」

「サクラです。大きいので、下がってください」


 置く場所のためにマスターと受付さんが端に寄ってくれたので、ストレージから取り出す。


「この大きさはクイーン亜種だな。他にはあるか?」

「これだけです。その時同行していたエルンスト・タキマヤ様お付きのオットーさんが2頭小さいのを仕留めていました。あと、同行者の騎士テレーゼさんが魔族を倒しました」

「繋がったな。これはその一行にも話を聞きに行かないとな」


 アルゼントの持ち込みから調べていて、何者かがキマイラをあの場所に配した事が推測されたそうだ。キマイラに周囲から魔素を集める魔石を埋め込み、集めた魔素で上位種に成長させた。そいつはキマイラを次々生み出し、人がいる地域に現れたという。本来1つの魔石が2つになっていて、そう言う推測に至ったそうだ。

 話をしながら今持ち込んだキマイラを切ると、魔石は2つだった。


「テレーゼが倒した魔族が、ラガシアでキマイラを繁殖させる工作をしていたのだろう。破壊工作とは奴らのやりそうなことだ。だが、都でなく東を狙うとか、目的が読めん。それに、最初のキマイラをどうやって持ち込んだのか。魔族の持ち物が気になるんで、俺は男爵邸に行ってくる。後は任せた」




「前回分と今回分で、金貨19枚です」


 ギルドマスターの解説タイムが終わり、報酬を受け取る。1頭入荷後、2頭目は値下がりか。需要と供給があるのなら、仕方がない。


「アルゼント一行と合流したいのですが、居場所をご存じないですか?」

「エリオさん達は―――― サクラさんへ行先の開示を言われてますからお教えできます。今は、タキマヤ方面で討伐クエスト中です。いつ戻られるかは分かりませんが、クエスト締め切りがあと今月末ですので、それまでには戻られるでしょう」


 まだ12日。結構あるので、その間に一仕事受けようかと思ったが、


「エリオさん達と合流予定なら、それからになさった方が良いでしょう。サクラさんは前衛の方と組んだ方が活躍できそうですから」


 ソロ狩りは基本薦めないそうだ。事故率が高いと。特に初心者は。




 ギルドで思ったより時間がかかり、夕方になってしまった。今日の所はもう良いかと、ギルドを出て宿を探し行く。風呂付の良い宿をと聞いて行ったら超高級宿だったので、もう少しグレードを落としてノニの町で泊まったくらいの宿をセレクト。




 そして、魅惑の入浴タイム。食事も部屋も触れるまでもないが、入浴は特別だ。これだけは、中の人の欲求にも通じる。


「またお風呂? 好きなのね」


 魔法空間からハコネがそんな事を言う。好きに決まってるじゃないか、裸。


「そんなに風呂好きなら、西にある温泉に行ってみるのはどう?」

「温泉! 行こう、ぜひ行こう!」

「何その食いつき」


 明日は温泉に行こう。決定だ。




 翌日、一刻も早く温泉へ! ってことで、また馬車の旅を選ぶ。昨日の様な駅馬車じゃなく、薄い銅板を張った重武装。南西のラワガユに向かうには、野営が必要だかららしい。乗客は5名ほど。目指す温泉はこの馬車の行き先よりは手前なので、途中下車予定だ。


 都を西へ出てしばらく、大きな川に差し掛かった。新幹線で渡る富士川以上だ。そこを渡し船で渡る。


「このワカサ川のおかげで、魔族の連中も都まで攻めては来れんのさ」


 勇者の御代には、この川から南西に100里先まで人族の住む地だったらしい。それが魔族の攻勢に徐々に土地を失い、100年前にはワカサ川の向こうに有った当時の都さえ脅かされるようになり、辺境伯はワカサ川の東岸に都を移動。それ以降は南西方面にいくつか拠点があるが、東方の開拓に力を入れている。

 エルンスト君一行は貴族だから言わないが、実質人族側はやられっぱなし。ラガシアは削られ続ける壁の様だ。以上が、乗客のおじさんが語る、ラガシアの歴史。


 川を渡り馬車は道を進む。打ち捨てられた畑を望む道を進むと、話に出ていた廃墟に差し掛かった。


「ここは廃都って呼ばれてる。都に小さいダンジョンまであって、国の中枢としてと迷宮都市として昔は栄えてたそうだ」


 迷宮都市ってのは、ダンジョンという資源で潤う都市。ダンジョンには階層によって強いのから弱いのまでいろいろな魔物が居て、駆け出しからベテランまでのハンターが生計を立てられる狩場。魔素が濃いらしく、魔物は勝手に沸いてくるので、掘っても尽きない鉱山の様なものだ。


「次はここに来るかな」

「嬢ちゃん、やめときな。出たところに人が住んでないダンジョンなんて、何かあったら助からねえ。そもそもここに潜るやつがほとんど居ないから、中での助け合いも期待できん」


 廃都を通り過ぎ、また川。ここはそれほど広くない。そして、ここが馬車を降りる予定地点。


「はい、ありがとよ。気をつけてな」


 馬車はサクラを降ろしたら、川を渡って行った。浅い場所を選んで渡れるのか。




 馬車が去ったのを見届けてから、ハコネを呼び出す。


「川沿い、5里くらいよ」


 馬車を降りたところは海に近く平地もあったが、進むと山に挟まれた谷。川の両岸の平地は少ない。


「この川の上流には火山があってね。温泉もそこら中にあるのよ」


 ここまで来て気付いたことがある。こんな秘境じゃ、他に誰も居ないのでは? 温泉に期待していることは、温泉その物じゃなく、そこに居る人なのに!


 今更引き返すのもばからしいので、一応行ってみようと進む。休んで宿のサンドイッチをつまんだりしつつ、いつもは引き籠ろうとするくせにめずらしく案内をしてくれるハコネを頼りに進む。


 目的地に着いたのは、夕方。温泉は宿も無い、無人だった。


「折角良い温泉があるのに、誰も来ないのはもったいないわよね。宿とか作ったらいいのに」

「ここまで来たくないだろ」

「さっきの廃都があった頃は、この辺も栄えてたのよ。その頃が懐かしいわ」




「火よ 静かに留まり 出でよ!」


 段々暗くなってきたので、適当な枯れ木を持って来て、即席のかがり火にした。装備をストレージに入れ、温泉へ。河原のところどころから湯気が立ってるので、魔法で穴を作って川の水を導き、適温になる浴槽を作る。かがり火で入る温泉、そしてエルフの少女。幻想的だ。


「中の人は男だから、その体に欲情したりしないの?」

「もう慣れた。それにお前に見られて、何をするんてんだ」


 それにしても、人がいない。


「天にあルア(・・)またの目を持つ者() この印の(・・・・)ありかを(・・・・)示したまえ(・・・・・)


 人が居ないのを確認。索敵魔法で使う印は、宿で拾った誰かの髪の毛。これを使えば、周りに人がいないのかを確認できることはテスト済みだ。そして、近くに人がいない事を確認した。

 という事は――――


「土よ 穴となりて 現れよ!」


 でっかく穴を開け、巨人サイズの温泉が完成。やることは、そう――――


「温泉だー」


 サクラだけで味わうのはもったいない。誰もいないなら、中の人が出てきても問題ない。


「温泉なんていつぶりだろう。そうだ、魔法空間の部屋にお湯運んで、あっちの風呂も温泉にしよう!」

「はいはい、好きにしなさいな」


 堪能した。人の居なさ、逆に良かった。こういう使い方が出来るなんて。このまま俺専用温泉として、さびれたままでいてくれ。




「満足したみたいね。私は、人が沢山来るようになって欲しいけど、あんたはその逆みたいね」


 冷えて来たので、魔法空間に入る。ハコネはまた漫画読み態勢に戻ってる。


 さて、サクラも温泉に浸けっぱなしだった。ふやける。服を着せて、今日の泊りをどうしようかと考えていたら―――― 突然、大人数が斜面を駆け降りてくる。索敵では引っかからなかったが、いつ現れた?

 敵意があるのか分からないため、もし攻撃を仕掛けられそうであれば穴なり壁なりで防いで、反撃するというプランで行く。念のための防御魔法もかけ、余程なことでないと怪我しないようにはしておく。


 かがり火に近づいたので姿が少し見えるが、これまで見ていた冒険者の装備、テレーズさんの様な騎士の装備と異なり、大河ドラマで見た足軽の胴に近いイメージ。山賊?


 防御魔法で守り+500。これを打ち破られることは無い……とは思うが、殺到してくる人間てのは不安感を起こさせるもの。


「土よ 穴となりて 現れよ!」


 牽制のために魔法を、あれ? 発動しない。

 それに、ゼロの杖がストレージの中! 出さないと――――


 その直後、何も見えなくなった。


「あれ?」


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