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第14話 逢魔が時(夕方とは言ってない)

「サクラはどんな事をやって来たんだ?」

「普段は狩りをしてましたが、キマイラが現れたので倒した事があります」


 駅馬車の乗客は私たち3人。ちょうど他に客が居なかったのか、貴族との同行を他の客が嫌がったのだろうか。


「オットー、キマイラはどんな魔物だ?」

「数種の生物が融合した形の魔物で、頭が獅子、尾が蛇というものが良く知られます。通常は、ダンジョンに棲む魔物です。昨今、ネオ村やマコ村で討伐され、何故ラガシアで散見されるのか、調査中です」


 知りたい盛りのエルンスト君。クイーンの討伐は、アルゼントの4人がギルドに報告したと思うが、その時点でラガシアを離れていた貴族が知るのは難しいか。魔物対策の担当などでもない限り。


「これが、倒した記念に持っている、キマイラのたてがみです」

「へぇ。でも、ただの毛だな」


 ただの動物の毛だ。ちなみにキマイラクイーンの毛である。メスライオンはたてがみが無いはずって? ライオンじゃなくてキマイラだし、関係ない。


「天にあルア(・・)またの目を持つ者() この印の(・・・・)ありかを(・・・・)示したまえ(・・・・・)


 キマイラクイーンの毛を出したついでって事で、近くにキマイラが居ないか索敵…… なぜいる!


「オットーさん、近くにキマイラが居ます!」

「なんじゃと! どこにだ?」

「右手の方角、距離は半里。数は不明」


 御者台への窓を開けて、オットーさんが馬車を止めさせた。


 この世界での距離の単位、1里ってのは歩いて1時間程度。4kmちょっとくらい。日本と同じ単位だが、同じ距離なのかは知らない。里とか日常で使ってないし。それが、この世界では使ってるってので、変な物だ。

 数は不明ってのは、キマイラクイーンが1頭と分かっているが、キマイラが一緒に居る可能性があるから。それに、他の魔物が一緒に居たりしたら、1頭と思って乗り込んで大変な目に遭うかもしれない。


「魔物が近くに居るってのに、止めるんですかい? 行った方が良いじゃありませんか」

「民と所領を預かる者として、大事な街道の近くに居る魔物を見過ごす事は出来ない」


 坊ちゃんは立派な心掛けだ。ノブレス・オブリージュだ。


 車輪の不具合で速度を落として入っているテレーゼさんが乗る馬車が追いつくのを待つ。前回は5人で戦ったので、1対1という戦いやすい状態でやり合えた。人数は重要だ。

 テレーゼさんを待つ間も、索敵を行う。動きはない。


 しばらくして、テレーゼさんが到着。状況を説明する。


「キマイラ1頭なら、私が対応できます。それ以上なら、撤退して応援を頼みましょう」

「私も行きます。以前狩っていますので、対応方法を知っています」

「御者殿、馬車を頼む」

「方向はこっちです。」


 正直、坊ちゃんは足手まといかもしれないが、貴族の義務を果たす役割を邪魔しちゃいけない。お供の2人が同行を止めないのだから、こういうものなのだろう。


「索敵で、分かっている事があります。キマイラクイーンが1頭います」

「キマイラよりさらに強いのですか。手はありますか?」

「狩った事はあります。その時の手を試してみたいと思います」

「では、サクラ殿は前じゃな。テレーゼも前を頼む。儂はエルンスト様を守りつつ、可能なら手を出す。ゼロの杖の範囲外からな」

「分かりました。サクラさん、行きましょう」

「その前に。魔力よ 守る壁となれ!」


 守りステータスの上昇に驚く3人だが、これで安心して戦える。そして、オットーさんはゼロの杖の効果をご存じで、底が見えないとともに仲間として頼もしい。


 道と交わる小川。その少し上流行ったところに、ターゲットは居る。


「クイーン…… どれ程強いのですか?」

「その時は必死でしたので、何とも。キマイラクイーンには、氷の嵐を何発撃ったか分からないほど打ち込んで、やっと黙らせました」

「さっきの魔法で、サクラさんが普通の魔法使いでないことは分かりました。それでも苦戦するのですから、厳しいかもしれません」


 いや、実は苦戦してないですが。


 あと僅かで接敵という時に、


「あれは!」


 テレーゼさんが走り出した。そんな目立つ突撃したら、何頭居るか分からないキマイラ達に奇襲が出来ない!


「裁きの刃を受けよ!」


 テレーゼさんが斬りかかった相手はキマイラでなく、そこに居た黒髪の誰か。不意打ちに背中を斬られ、倒れ伏す。


「その首、もらった!」


 一気に首に刃。血の海に沈めた。

 いや、それはそうと、キマイラは? 居る! 大きなクイーンが1頭。小さいのが数頭いるが、背中を見せて逃げ出している。逃がしはしn――――クイーンがテレーゼさんに襲い掛かる!


「ぐはっ」


 前足の一撃で、飛ばされるテレーゼさん。防御魔法が守ってくれると信じ、クイーンを何とかしなくてはいけない。


「土よ 穴となりて 現れよ!」


 同じ手が通じるかと思ったら、足元の魔法発動と同時に避けられた。この前倒した奴が鈍くさかっただけか?

 こちらへ飛び掛かって来るクイーンに対して、


「土よ 壁となりて 現れよ!」


 間に壁を作る。初めてのキマイラ戦でやった手。これは自らを守ると同時に、目くらまし。そして、壁の出現に方向転換を強いられ、勢いが落ちる。


 奴はどこから来るか。右から、左から、上からの3択。3択なら任せておけ。マークシート試験は得意だ。


「氷よ 刃の如く嵐の如く 切り裂け!」


 以前よりさらに広範囲攻撃に進化した氷の嵐は、右左上の全てを的にする。3択全部塗れるマークシート。ただし、一転集中より密度は低いので、大したダメージは与えていない。しかし、氷の散弾から身を守るために目を閉じ動きが止まった瞬間、


「土よ 穴となりて 現れよ!」


 結局、穴に落とすのである。


 穴に落ちたキマイラクイーンにやることは、ただ一つ。


「氷よ 刃の如く風の如く 切り裂け!」


 一撃の重さでは、散弾よりもこちらが上。数発で頚をズタズタにして、沈黙させた。




「2頭は仕留めたが、他は逃げられてしもうた」


 絶対この人、風魔小太郎だ。逃げたちびキマイラを、いつの間にか狩っていたオットーさんに戦慄しつつも、テレーゼさんは無事か? と見ると、もう復活して血の海に沈む男を何度も刺していた。何この人、怖い。


「テレーゼ、もう良いだろう?」


 エルンスト君に止められる。


「テレーゼよ、あの場面で、そいつよりキマイラであろう。それに同時に奇襲を加えれば、そいつもキマイラも一網打尽に出来たはずだ」


 男は何者だったのか。こちらに危害を加える素振りも見せない内に、テレーゼに斬られた。キマイラと一緒に居たとは言え、解せない。


「そいつは、魔族です。我々人族の不倶戴天の敵。そいつも魔物をけしかけて、人を襲わせるつもりだったのでしょう。未然に防げたことは幸いでした」


 魔族? 人にしか見えないぞ?


「テレーゼは故郷を魔族に奪われたのじゃ。その恨みの深さは、我らの思い知らぬまでであろう。だが、その恨みより、指名を優先すべきではないか?」

「申し訳ありません」

「本当に反省しておるのかのう。そなた、エルンスト様の守りを任せられておっても、突っ走ったかもしれん。未熟者め」

「オットー、その位で良い。無事であったのだし」

「ありうがとうございます。エルンスト様」


 テレーゼにとっては不倶戴天の敵な様だが、人族の敵であることはあと2人も一致する所だそうだ。いきなりの殺人そのものを咎めてはいない。


「彼らは、それほどまでに憎むべきものなのですか?」

「これはエルフのサクラには分からないだろうけど、僕らは勇者様の時代から魔族と戦い続けている。ある時は村を町を城を焼かれ、多くの物が命を落とした」

「サクラ殿、なぜ我らが主君はラガシア辺境伯と呼ばれるか。それは、魔族の住処と接していることを意味しておる。勇者王の御代に魔族から人族を守る盾となるため、辺境伯は設置されたのじゃ。その務めは、今も果たされ続けておる」


 魔族と言うが、人種が違うだけの同じ人間に見える。余程、耳の形が違うエルフの方が別の生物に見えるのだけど。


 ちびキマイラはオットーさんのストレージに、キマイラクイーンは俺のストレージに入れる。きっといきなりキマイラクイーンを入れられた向こうで、ハコネは文句を言ってるだろう。嫌なら引き籠ってないで出てこい。


「これは、魔石か?」

「奴らの目的が分かるかも知れん。儂が持って行こう」


 テレーゼさんが男の遺留品を探って、多数の魔石を見つけた。これもオットーさんのストレージへ。男の遺体もオットーさんのストレージへ。人間に死体を落ち歩くとか、かなり引く。




「よくぞお戻りで」


 結局、それ以上の収穫は無く、馬車に戻る。馬車2台は先程と変わりはないが、騎士が増えていた。


「ヅフコ砦のイルゼです。御者にタキマヤ家の馬車と駅馬車が止まっている事情を聞いておりました」

「エルンスト・タキマヤだ。お勤めご苦労。街道山手にキマイラを発見、討伐して来た」

「小さいのを取り逃してもうた。注意の触れと、討伐の依頼を頼む」

「了解いたしました」


 これから向かう先は砦。そこの騎士だそうだ。


「では、後は任せる」

「承りました」




 ここまで来る時と同じように、馬車で西へ向かう。


「さっきのサクラ殿は見事だった。あの距離の敵を見つけることはまず出来る者はおらぬ。とっさの判断、死線をくぐって来た者の如しじゃった」

「このまま雇われないか? 父上に紹介状を書くぞ」

「マリッカ様の元で色々とやることがありますが、そのあとの事は決めて居ません」

「なら、ぜひ来い。正騎士になって、僕の護衛を務めて欲しい」

「エルンスト様、そんなことを言われては、長い努力で今の立場を得たテレーゼの立場が」


 本人の居ないところで職を失う危機のテレーゼさん。


「すぐにとは言わないが、マリッカ様の元で用事が済んだら、ぜひタキマヤに来てくれ」


 公務員と言ってしまえば、羨ましい身分かもしれない。




 あの騎士が居たヅフコ砦を通過。山が海の近くまでせり出して、軍の要衝である事が素人にも分かる。その砦を通過すると、山は右手に離れて行き、平野が広がる。


「ここがラガシアの地だ」


 馬車の中で昼食の弁当を食べながら、エルンスト君がドヤ顔だ。いや、君のじゃないでしょ? サクラも、宿で作ってもらってあったサンドイッチを食べる。


「都に向かい、儂らはそこで馬車の修理じゃ。サクラ殿はしばらくは都かね?」

「そうなると思います」

「では、我が屋敷に来てはどうだ? 歓迎するぞ」

「ありがたいお話ですが、かつての仲間と再会しようと思いますので、またの機会に」

「そうか。数日は居るので、その間であればサクラが来たら通すように言っておくからな。門番には、その杖の特徴を伝えるから、それを見せてくれたらいい」




 都の門に到着。門でチェックなどもなく、すいすいと入る。入る入らないの悶着とかあるのかと思ったが無縁だ。まあこっちには貴族もいるし、楽に解決の見込みだったけど。


「ご利用ありがとうございました」


 深々と頭を下げる御者に見送られる。2人はここでテレーゼさんを待ち、屋敷に向かうらしい。


「待っているぞ、サクラ」

「それでは、ごきげんよう」


 ごきげんようなんてお嬢様挨拶がすらっと出た俺って、そろそろおかしくなってるのかも知れない。


 さあ、近隣ナンバー1の大都会を楽しもう。



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