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第12話 いい日旅立ち(11日だけに)

 あれから数日、目新しい出来事と言えば、イーリスさんに治療魔法を習ったこと、索敵魔法を使って狩りが楽になったことくらいだ。魔物は出ていない。いや、治療魔法を《《くらい》》で済ますのは良くない。とても重要な魔法だ。人命救助にも使える。


「癒しの種よ あるべき姿に戻せ!」


 この治療魔法の意味、癒しの種とは何だろう? あるべき姿って?と考えたら、未解明との事。あるべき姿を、本来と異なる姿を想像したら変身するのか?


 そして、先日のキマイラクイーン討伐のおかげで、レベルアップ。低レベルだから、上がるのが速い。


 鑑定してもらったサクラのステータスは、このくらいになった。


サクラ

 種族 クスノキ

 Lv    6

 HP  312/312

 MP  312/312

 力    80

 守り   80

 速さ   80

 器用さ 152

 賢さ  152


「サクラちゃん、一般のLv25相当ってところね。HPとMPはLv60相当だけど」


 エルフ5倍則、しっかり仕事してくれてる。あれだけ強い敵を倒したら一般でもかなりの高レベルに上がるそうで、経験当たりの強くなり具合は良いのか分からない。


 そして、魔法で活躍した事を話したら、一人前の魔法使いらしい服装をという事で、魔法使いの帽子とマントをもらった。イーリスさんは「もう着れない」のだそうだ。年齢的に。 ハロウィンのコスプレ衣装?って感じだが、イーリスさんの服からいろいろ着せ替え人形されて、選んだ。普段着も最初の1着では不便という事で、一つもらった。


 そして、これは中の人のステータス。大物討伐は、中の人のレベルも1つ上げた。


ジョージ

 種族  未定義

 Lv    3

 HP 2000/2000

 MP 2000/2000

 力   275

 守り  275

 速さ  275

 器用さ 500

 賢さ  500

 MP    2/2


 さらに上がった賢さで、防御魔法がさらに鉄壁に。龍が踏んでも壊れない?

 しかし、賢さって何だろう? 頭脳が明晰になったりしていないので、魔法威力係数とかそんな名前が正しい気がする。


「ラガシアのギルドに行くんだったわね。報酬も受け取れるんだっけ?」


 穴を掘り始めるくらい酔ってたイーリスさんだが、記憶を飛ばしたりはしてないらしい。


「はい。そのあと、エリオさん達と時々パーティーを組もうかと。ところで、キマイラクイーン討伐分の報酬って、どのくらいになるんでしょう?」

「金貨10枚は行くわね」


 お金の価値については、エリオさん達との旅で知った。銀貨は千円の価値、その下の銅貨は100枚で銀貨1枚だから10円。その上の金貨は銀貨100枚だから10万円。日本の10円玉が銅、記念コインで銀貨が千円、金貨が10万円だから、日本と同じともいえる。

 つまり、キマイラクイーンの討伐で100万円。バイト経験しか無い身としては、中々お目にかからない額だ。


「いつ行くかはまだ決めてません。どんな準備が必要なのかも知らないので」

「ラガシアまでなら、歩きだと三日、馬車なら一日半ってところね。途中の町で宿もあるから、大した準備も要らない楽な旅よ」

「馬車も使えるんですか?」


 この村で馬車は見た事無い。この前のメナカ村には隊商が馬車で来るって話はあった。橋がある場所だから、馬車が川を渡りたい馬車が通るとか。


「そろそろマルコさんが来る時期だから、同行させてもらえたら楽よね。頼んでみましょうか。マルコさんってのは、行商に来る商人さんね」


 マルコさんは、ラガシア東部の町や村を回って商売してる行商の商人。月に一回は来てくれているそうだ。同行させてもらえたらありがたい。




 ギード宅へ帰ると、マルレーネがお出迎えしてくれた。


「お母さん、お姉ちゃん、おかえりなさい」


 お姉ちゃんってのは破壊力がある。お兄ちゃんだったらなお良かった。なぜマルレーネが「お姉ちゃん」と呼ぶようになったのか、それは数日前に遡る。

 俺がキマイラ討伐に向うと決めた後、マルレーネはとても心配してくれた。とても強い父でさえ魔物との戦いで危なかったという話を聞いていたから、ひ弱そうなサクラが無事に帰って来れるだろうかと。その祈りがどこでどう発酵したのか、帰宅時にはサクラはお姉ちゃんになっていた。やはり、良く分からない。そして、それはその後も定着。まあ嫌ではないので、いいのだけど。




 その翌日、イーリスさん、マルレーネ、ハンスと一緒に、彼らが勇者の樹と呼ぶ大樹の下へ来ていた。今回は、ラガシアでしばらく活動、その後はマリッカさんとの日々が来るとしたら、長くこの村を離れる。いや、この村には戻ってこないかもしれない。


「村の人が旅に出る前には、この樹に祈って行くの。この樹を植えた勇者様に、危険からお守りくださいって」

「私もお姉ちゃんが無事に戻ってきてくれる様に、一緒にお祈りしたかったの」

「大丈夫、無事に帰ってきますよ。また年越しの祭りは、一緒に祝いましょう」


 1か月も一緒に居なかった彼女たちが、俺の無事を祈ってくれる。それが、こんな嬉しい事だとは。ところで、今の返しは未帰還フラグになったりはしないよな?




 村に戻ると、馬車があり、荷物を降ろしている人がいた。


「マルコさん、お久しぶりです」

「イーリスさん、マルレーネちゃん、お久しぶり。頼まれてたもの、あとで持って行きます。そちらのお嬢さんはどちらさんで?」

「サクラと言います。先月からこの村でお世話になっています」


 ギードさん宅に戻ってしばらくすると、マルコさんが衣類を持ってきた。


「マルレーネちゃんに合う帽子、ローブ、マント、ありましたよ」

「ありがとうございます」

「私に?」

「今年で10歳でしょ、魔法使い見習いとして、形から入ろうかとね」


 そんなやり取りの後に、俺の同行をお願いしてくれた。


「サクラちゃんは魔物討伐の実績もあるのか。それは頼もしいね。今回はラガシアに戻らないが、ノニまでは海街道を行くんで、そこまで一緒に行くかい?」

「お願いします」


 ラガシアは、東西に延びる海岸線に沿って街道が通っている。その名は海街道うみかいどう。シンプル イズ ベスト。マコ村から西へ、マヤロシ、ノニ、ヅフコ、都となる。半分まで一緒に行けるって事だ。


「ノニから先は、ラガシアまで駅馬車もある。歩いても一日で行ける距離だ。出発は明日の朝だ。朝、村の入り口で待ってるよ」




 いきなり別れが明日になってマルレーネが動揺していたが、その夜はいつもの勉強の代わりに、一緒に居た。

 サクラとマルレーネ、お互いマントにワンポイントの刺繍をしようって事になった。これはマントが自分の物と分かりやすくする目印である。

 普通は本人が縫うものだそうだが、マルレーネが縫ってくれるというので、お返しにマルレーネのを縫う。とは言え、裁縫なんてたまにとれたボタンをつける程度なので、まともな図柄など出来ない。その点、彼女らには当たり前の技能。衣服は自分で直すものだ。

 マルレーネだから、丸と零ってことで、〇を真ん中を重ねて2つ。どっかの高級ブランド品のマークに似てる。我ながらひどい発想だが、この位しかできない。ごめん。


「これなに?」

「マルとレイ。簡単なことしか出来なくて、ごめんね」

「かっこいいよ。ありがとう」


 こんな簡単なのでも喜んでくれた。ほんと良い子。こういう妹が欲しかった。


「お姉ちゃん、私は何を縫ったでしょう?」


 大きな○の右上と左上に△が2つ生えている。


「猫?」

「違うよ。お姉ちゃん」

「答えは?」

「だから、お姉ちゃん」


 そうだった。とがった耳、今の俺はエルフだった。


「ありがとう」


 その夜は、いつもよりマルレーネも夜更かしだった。




「ハコネ、これなんだけど」

「食べてもおいしくないわよ」

「食べないさ」


 今日の勇者の樹に行った時、根元に種が落ちていた。記念に持ってきた種をストレージに入れていたのだが、村の思い出に、どこかに植えたい。鉢植えは、なぜか持ってる。あまり枯れないはずなのに枯らしてしまった観葉植物、その鉢。

 夜こっそり村を出て、土と落ち葉を持って来て入れた。そこに種を植え、水をやった。無事に芽が出てくれるといいのだが。




 翌朝、いつもより少し早い目覚め。

 いつも通りの朝食の後、出発準備。持って行くものは、元々来ていた服に、イーリスさんからもらった帽子、服とマント。今日はその帽子、服、マントを身に着ける。マルレーネの刺繍は、肩の部分にある。

 他の持ち物は、ゼロの杖、毛皮が8枚ほど。この毛皮は、俺が狩った分だとイーリスさんが渡してくれた。換金して宿代や馬車代になると。


「あとこれ」


 手渡された袋には、銀貨がざっくざく。


「旅にいくらかのお金は必要でしょ。餞別よ」

「そんな…… ありがとうございます」

「マルレーネの姉なら、私たちの子供みたいなものよ。すぐにクイーンの報酬でお金持ちになっちゃうんでしょうけど、それまでの繋ぎに使ってね」


 ギードさん、イーリスさん、マルレーネ、ハンスは村の門の前まで見送りに来てくれた。


「元気でな」

「お姉ちゃん、無事に帰ってきてね。あ、でも、私がマリッカお婆ちゃんの所に行くのもありかも」

「帰って来るよ。大丈夫。ありがとう」

「サクラお姉ちゃん、。行ってらっしゃい」


 あれ? いつの間にか、ハンス君にまでお姉ちゃんが伝染してる。


「じゃあ、行ってきます」




 西へ向かう馬車。御者台に並んで座る。道はちゃんと整備されていないので、揺れが酷い。歩くより少し速い速度で進む。


「サクラちゃんは、慕われてたんだね」

「マルレーネとハンス、年の離れた妹と弟みたいでした」

「サクラちゃんは本当の兄弟は?」


 記憶を失ってマコ村で保護されていたという《《設定》》を説明した。行く先々で、助けてくれる良い人に嘘をつき続けるのは心苦しいが、こればかりは命懸けだ。


「そうか。商売で行った先で、行方不明の家族を見かけたら知らせて欲しいって頼まれることがあるんだが、ここらのエルフの里でそういうのは聞いたことがない。どこかでそういう話を聞いたら、覚えておくさ」

「ありがとうございます」


 正解は絶対出ないはずだけど、違うと言うわけにもいかない。




 旅立ちの日。205年1月11日。


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