白 2
…ぼやけた視界
……引き裂かれるような激痛
…焦点が合わない。
なんでこんなことになったんだっけ。
回らない頭で考える。
「うっ…ぐ」
食いしばった歯の隙間からうめき声が漏れた。
…苦痛
突然襲ってきた苦痛
なんともなかったのに
いきなり窒息しそうなほどに息が苦しくなった
頭の中に手を突っ込まれたかのような
ギリギリした感覚
体の内側からナイフを突き刺されているような
のけぞるほどの痛み
「効いてきた?」
アイルの声が降ってきた。
「いいねぇその顔。それ、それが見たかったんだ。」
「うう…っつ」
「結構効くでしょぉ?」
俺が考えた、と自慢気に言うとアイルは、セアの震える腕を捻り上げた。
またセアの声が漏れる。
「あはは、苦しい?苦しいよねぇ?さっさと吐いちゃえよ、マーファイの石の在り処。」
セアの整った眉が中心に寄る。
なんとか苦しみから逃れようと悶える。
アイルに掴まれている方の手が軽く痙攣を起こした。
床の上で転がるセアの耳元で、アイルはそっとささやいた。
「もうやめてほしい?」
「……」
「ねぇ、助けてほしい?」
「……」
アイルはふっと笑うとセアの手を離し、ドアの向こう側へ姿を消した。
戻ってきたアイルの手には、パンと水、そして袋に入った白い粉が握られていた。
「ほら、口開けて。」
ちぎったパンの表面にまんべんなく白い粉をまとわせると、アイルはそれを無理に口に押し込んできた。
今のセアには、抵抗する体力も気力も残っていない。
口の中のそれをなんとか飲み込む。
水を飲まされ、仰向けに寝かされた。
身体が熱を持っている。暑い。
いつのまにかアイルはいない。
それに気づいて緊張が解けると、急に怠さに襲われた。
なぜか痛みも苦しさも感じない。
わけのわからない恐怖に怯える暇もなく、セアは意識を失った。
…………
アイルはニヤリと笑うと、手に持った袋の中身をのぞき込んだ。
白い粉。
軽く振ると、さらさらと流れるように揺れる。
「いつまで持つかな、あいつ。」
白い粉…これは、強い中毒性のある薬物だ。
口にすれば、夢の中でその人の望む世界を見せてくれる。
だが目覚めてから一定期間を過ぎると、身体が引きちぎれるのではないかと思うほどの激痛に襲われる。
そして恐ろしいのは、再びこの粉を体内に入れると苦しみがおさまってしまうことだ。
そして幸せな夢を見て一定期間を過ぎると、また苦しみが訪れる。
粉を摂取する。夢を見る。苦しみ悶える。その繰り返し。
そして最後は臓器が犯されて、苦しみもがきながら死に至る。
「そろそろ来るかな。」
誰ともなくそうつぶやいて、アイルは粉を懐にしまった。