白
みんな…笑ってる。
それは幸せな夢だった。
仲間たちが同じ食事を食べながら、同じ話に花を咲かせている。
『それにしてもマヤの料理はうまいよなぁ。』
『俺はパスタが好きだな。』
『私はシチュー。とくにニンジン!』
『『ニンジン!?』』
みんなが笑っている。
『セアは何が好き?』
俺は…全部。
『全部!?確かにセア、何でも食べるよね!』
仲間たちの笑い声が響く。
ずっと続けばいいのに。
このままずっと。
ずっと。ずっと。
幸せな気分に浸りながら、セアは願っていた。
もう少しこの夢の中にいたい。
少しでも長く、ここでみんなと話していたい。
仲間が笑う姿を見ていたい。
ズキッ………!
ズキッ……!!
ズキッ…!!!
突然頭痛がした。
だんだんと痛みは強くなっていく。
っ…!
はっと目を開けると、そこには暗い天井。
頭痛はおさまり、体力も戻っていた。
夢…
少し残念な気もしたが、起き上がった。
そっと目を閉じる。
深く深く、深呼吸。
自分の心臓の音が低く響く。
頭の中がすっとクリアになる。
何かが聞こえてきた。
「…が……てた……白い…な………ちゃ…と……」
結界が張ってあるのだろうか。はっきりとは聞き取れない。
もう一度試したがダメだった。
諦めて、セアは軽く伸びをする。
うっすらと太陽の光が差し込んできた。
夕方?いや、朝か。
鳥の声が聞こえる。
脱出するための作戦を考えることにした。
きっと仲間がもうすぐ来てくれるだろう。
せめて足を引っ張らないようにしなければ。
………
「もう!どこにいるのよ!」
メドリアは苛立っていた。アルゴ内に備え付けられている図書室の、地理書が並ぶ棚の前。
地図とのにらめっこも三日目となると、さすがにイライラしてくる。
「こーんな分厚い身体して、一人の人間の居場所も見つけらんないわけ?ほんとにもう!」
八つ当たりは地図に、そして行方不明の張本人へ。
「何いなくなってんのよセア!私は地理が苦手なの!セアのバカ!バーカ!!」
「おーい落ち着いてって。」
突然聞こえた声に驚いて、手に持っていた地図を落としてしまった。
「わっ!な、なに?」
入口に立っていたのは、ティムだった。
「なにも。近くを通りがかったらいつもは聞かない声が聞こえてさ、つい…ね?」
ティムは、セアやメドリアと同じ17歳。
明るい茶色の髪の毛に、オレンジ色でデザインされた服。
よく笑いよく喋る、はつらつとした少年だ。
「手首のケガ、どう?」
「平気だよ。左手だしあんまり使わないから。」
3日前の爆発に巻き込まれ、手首をケガしたティム。
大切なブレスレットが無くなってしまった、とずいぶん落ち込んでいたのを思い出す。
「そう…」
「メドリアこそ、あんまり根詰めてると身体壊すよ。」
メドリアとティムは同じ孤児院出身だ。
同じ時期にMOVEに来たせいか、メドリアを何かと気にかけてくれていた。
「大丈夫。」
「大丈夫そうに見えなかったけど。」
ぷうっと膨れるメドリアに、ティムは吹き出した。
メドリアの頬がぽっと赤くなる。
「なによ、もう!」
「…俺も手伝うよ。」
「いいよ、私一人でできる。」
「んじゃ、手伝わせて。」
ティムは軽く微笑んで続けた。
「君を、手伝いたいんだ。」
「……わかった。」
案外押しが強い。
ため息をついて、メドリアは落ちた地図を拾った。