戦いの風 2
風が吹いていた。
仲間と共に走る。
風はMOVEの味方だ。
前を進んでいた仲間が左右に分かれて進み始めた。
そっと列を抜けると、伝達部隊と共に岩陰に隠れる。
荒くなった息を整えると、目を閉じた。
腹式呼吸に集中する。
「ふぅー」
何度目かに息を吐いたとき、頭の中に声が聞こえてきた。
『右の部隊の人数を増やせ。』
『左から攻めるぞ』
セアは瞬時に味方の伝達部隊に小声で伝えた。
「右に人数増やせ!左から来る!」
セアの能力、それは盗聴だ。
無意識的に必要な情報を選んで引き抜く。
透視とよく似た能力で、頭の中に直接声が聞こえるため、相手とどれだけ離れていようが関係ない。
だが相手が能力を防ぐ「何か」をしていれば話は別だ。
大抵の組織では、盗聴及び透視を防ぐために何かしらの策を練っている。
数で勝てると思っているのか、何の策もなしに飛びかかってくるところもあるが。
「セア!そっちに行ったぞ!」
はっとふり向くと、鎧を着た敵がニヤリと笑って立っていた。
腰の短剣を引き抜く。
そろりそろりと後ろに下がった。
「怖いのか?」
敵のその言葉を合図に、セアは舞うように切りかかった。
右に跳ぶ。かと思えば次は左。
相手を殺したくはない。同じ人間なのだ。
短剣の柄で首筋をゴツンと打った。
あっけなく倒れる敵。
しばらくすると伝達部隊の一人が戻ってきた。
「セア!大丈夫か?」
「大丈夫。そっちは?」
「うまく追い返せたよ。一旦戻ろう。」
どうやら相手は退散したらしい。いつものことだがほっとした。
仲間はみんな無事だった。ケガも酷くはなく、歩いて“家”に戻れるほどの軽傷だ。
早く戻らねば。マーファイらが待っている。
………
セアは走っていた。
視界が低い。夢…か?
森の中を、何かに付いていくように走っていた。だが前に何がいるのかはわからない。
緑の香りが鼻につく。土から出た新芽を蹴って走る。走る。走る。
途端に開けた場所に出た。
広場?手入れがされている。周りには民家。
ここはどこだろう。
誰かが名前を読んでいた。
『セア!セア!』
誰?
振り向くとそこには…
はっと目が覚めた。
やはり夢だったのだ。でも最後の人物は見られなかった。
ん?…人物?あれは人だったのか?
起き上がるとかすかに首が痛んだ。寝違えたらしい。これではうまく戦えないではないか。
よくわからない夢のせいで朝だというのにイライラする。
今日はいつもより少し早く、下の階へ降りた。