戦いの風
人身売買が行われている広場の裏にある大きな建物…「人体実験施設」
狭く暗い鉄格子の内側
緑色の目をした少年が、そこにはいた。
髪は真っ黒。目だけがサファイヤのように妖しく光る。
「お前、私と来い。」
まぶしい太陽に照らされて、セアは呻きながら起き上がった。
夢を見た気がする。が、思い出せない。
仕方ないか。手早く身支度を整えると、ドアを開け、ワイワイとにぎやかな下の階へ降りた。
「まったく。朝からうるさいな。」
カウンターの席に座ると、給仕係のマヤにクスリと笑われた。
「もうセアったら。いつもしゃべんないくせに、こういう時の文句は言えるのね。」
そう言って紅茶をトンッと机に置く。
「今日はサンドイッチよ。」
新聞を開きながらセアは紅茶を一口飲んだ。
ん、今日もおいしい。
この国の地下には、不老不死の薬が作れるという石が埋まっている。
そのため、以前まで他国に攻め込まれてボロボロだった。
だがあるとき、ある男がやってきて、国を守るための国家組織を作ろうと提案した。
この国では突然変異は珍しくなく、珍獣や、超能力を持つ人などが普通に街を歩いている。そのなかでもとくに能力の強い人たちが集められて、「MOVE」という組織が作られたのだ。
組織の仲間は「アルゴ」と呼ばれる建物で一緒に生活している。セアもマヤもその一員だ。
ガチャッと音がして振り返ると、そこにはマーファイ…MOVEのリーダーが立っていた。
「おはようございます。」
「おはようございまーす。」
挨拶が飛び交う。
そう。この男こそ、国家組織作りを提案したこの国の英雄だ。
銀色の長い髪と髭。日に焼けた大きな手には美しい彫刻の施された杖を持ち、足首まであるこの国の民族衣装をアレンジしたものを身にまとっている。
活発的で紳士的で少し雑なところもあって、親近感のわく魅力的な人だ。
見た目は60歳くらいに見えるが、実際の歳はわからない。細身の体に似合わない驚異的な身体能力を持ち、ときどき少年のような柔らかい笑みが顔を出す。
不思議な人だ。でもこの人を、ここにいる全員が慕っている。
「リーダー!最近また隣の国が戦争ふっかけてきてるらしいッスよ。」
「そうだな。計画はもう立っているさ。」
隣の国、リアゼナ王国は、この国に最も被害を与えたといっても過言でないほどに多様な武器を持って襲ってくる。
最近になってやっと、互いの国民に被害を出さないという条約を結べたところだ。
お互いに国家組織同士で戦い、決着をつけることで折り合いがついた。
だがいつ襲ってきてもおかしくない油断ならない敵。
「いつ頃来るかな〜」
「今月中には来そう。」
「弾丸余ってたっけ?」
さり気なく会話を耳に挟み、情報を収集する。
セアは今年17歳になったが、年齢に合わない落ち着きと良く切れる頭で仲間から一目置かれていた。
この組織に入ったのは6歳のとき。マーファイに連れて来られたのは覚えているが、それまで自分がどこで何をしていたのかは全く覚えていない。
マーファイ直々に訓練を受け、常人なら3年かかる訓練を1年で終わらせてしまった。
訓練中は隔離された部屋にいたため、今の仲間と対面したのは7歳の時だ。もっとも、すごい奴が来る、と、セアのことは知れ渡っていたが。
突然、警報が鳴り響いた。
「おいまだ朝だぜ?早起きな敵は困るよ。」
「場所は南門側の見張り小屋裏だ。いくぞっ!!」
セアは無言で席を立ち、左腕の刺青に一瞬触れて仲間の後に続いた。