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流星の彼方  作者: 大典太アスラ
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ここはどこ


「ここ……はどこ」


 差し込む光がまぶしくて目を細める。私はこんなにあたたかい場所は知らない。ふかふかのベットに、おひさまの匂いで満たされた部屋。いつもは堅い板の上で埃っぽい空気で充満した部屋に隙間風だった。


「私の家よ」


「わたし、生きてる?」


 ぽろぽろ泣きながら蚊の鳴く声で美鈴に問う。


「うん、生きてるよ」


 美鈴が星夢の左手を握ると右手で川のように流れる涙をぬぐった。

 無我夢中で山道を走り続け助かったんだ。死んでない。生きてる。それだけでうれしかった。生きてる、ただこれだけでこんなにもうれしいなんて思ったこと今までで一度もなかった。


「ここは、戦わなくても生きられる世界なの?」


「ええ、もちろんよ。約束したでしょ。もう星夢は戦わなくていいのよ。あ、ほら喉乾いたでしょ?冷める前に紅茶飲んで」


 そういって目の前に差し出すと星夢は理解できなかったらしく首をかしげた。


「こお……ちゃ……」


 差し出されたカップの中は透き通った茶色で差し込む光できらきらと光っておりそこから立ち上る白い粒子は空気に溶けていった。甘い匂いに誘われおそるおそる口にすると全体に甘さが広がりあたたかさが体にしみてあまりのおいしさにごくごくと飲み干してしまった。そんな様子を見た美鈴はくすくすと笑った。


「あらあら、気に入ってもらったようね。よかった。もう一杯いれてくるね」


 星夢からカップを受け取ると部屋を出てキッチンへと向かった。

 紅茶を飲んで少し落ち着いたせいかそのまま眠りについた。目を覚ましたのは太陽の光が傾きかけたころだった。

 しまった、寝過ごしてしまった。隊長に叱られる鞭打ちの刑だどうしよう、起きようと勢いよく上体を起こすと痛みが走りおもわず声をあげてしまった。


「痛っ……」


 星夢が自分の体に目をやると腕、足、頭、腹に包帯が巻かれていた。それをほどいて近くのテーブルに置こうとしたとき先ほどのカップが目に入った。


「こお……ちゃ……」


 ああ、そうか。私は美鈴の家に来たんだった。あれでもどうやって来たんだろう。たしか森で美鈴たちと別れて……次第に全身から汗が吹き出し、息も苦しくなっていった。

美鈴はどこ、美鈴がいない。私は本当に戦わなくてもいい世界に来たのだろうか。ただの夢なのではないのかと不安になる。


「美鈴!美鈴!」


 もはや錯乱していた。その叫び声が聞こえたらしく美鈴が飛んできて星夢のベットにすわりそっと抱きしめた。


「私はここにいる。大丈夫よ」


 星夢は手を美鈴の背中に回しぎゅっとしがみつき怯えきった声で話始めた。


「サガンに追われて意識消えそうになってなんとか川にダイブした。怖かった。死ぬかと思った。怖かったよぉ」


 星夢は水の匂いをたどってごつごつした岩のある急流に突っ込んだのだ。その時のことをありありと思い出すと怖くて怖くてしかたがなかった。


「そして言われた。私はヤユ人だと。ヤユ人はいらない人なの?」


 藁をもすがる思いで尋ねた。美鈴は頭をゆっくりと撫でると目を閉じた。


「たとえ星夢がヤユ人だとしても星夢は星夢。私の大事な妹。今日から星夢は私の妹よ」


「いも……おと……」


「そう。妹。だからなんでもお姉ちゃんに言ってね。もう一人じゃないからね」


 これが星夢に初めてできた家族だ。きっと自分にも本当の家族がいたんだろうがその記憶が無い。もう二度とそんなものは持てないと思っていたからうれしいけどまだ実感がない。星夢は再び手に力を込めて泣きじゃくった。そんな二人の姿を西日が照らしていた。

 その頃にはもう空は半分闇に支配され東のほうでは早くも一番星が輝いていた。


 『一人じゃない』そう思えるだけで人は強くなれる。それにあなたが誰であろうと何であろうとあなたはあなた。たった一つの個であってそれ以外の何物にもなれないんだよ星夢。美鈴は窓から一番星を眺めていた。




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