たどり着いた場所
無事に町に着いたチェリー達は翌日警察に事情聴取され夕方まで及び、終わって警察署を出ると辺りはオレンジ色に染まっていた。チェリーと美鈴は近くの公園の人気がないベンチに腰を下ろし、休憩した。四時間にも及ぶ事情聴取にぐったりしたらしく二人ともベンチにもたれ掛かり下を向いていた。
「美鈴ごめん。私のせいで危険な目に合わせて」
「誰だって間違えるものよ。それに助けてくれてありがとう」
美鈴は軽く笑みを浮かべチェリーの方を向く。
「その犠牲が多かれすくなかれ。ね?でもこれで気づけたこともあったでしょう?」
「うん。かたき討ちの事で頭がいっぱいでまさかサガンに利用されてたなんて気づかなくて……私のせいで関係のないいろんな人を傷つけて、星夢もいまだ行方不明。確かに間接的にはラマルに仇うったけどなんだろう……すっきりしないなぁ」
チェリーは肩を震わせその目には涙を溜めていた。
「仇討ったのにだれも褒めてくれない。お父さん、お母さん、あたし……あたし……今までよくやったよね?頑張ったよね?だっだれかぁぁぁぁぁぁ」
額を両手でおおい泣き崩れた。その様子を傍らで美鈴が辛そうな面差しで見つめる。
「だって辛くて苦しくて悲しくてたまんなくて、なんの罪もない父と母を殺したサガンが憎かった。憎かったんだよぉぉぉぉぉぉぉ!かたき討ちなんて馬鹿げてる、それで死者は喜ばないって頭ではわかってたけどだけど、だけどぉぉぉぉぉぉぉ」
嗚咽が指の隙間から漏れる。美鈴はそっとチェリーを抱きしめ頭をなでる。
「辛かったね」
そう一言だけ耳もとでつぶやくとチェリーは美鈴にしがみつき、関が切れたようにわんわんと泣き続けた。その場を悲しさが支配した。
数日後、美鈴は警察に呼ばれ父親が迎えに来た。感動の再開を果たしたがまだ手続きが済んでいないので父はそそくさと行ってしまった。父によると手続き完了まであと数日かかるからそれまでここにいなくてはならないらしい。星夢と別れて町に降りてからはチェリーの家に泊めてもらっている。あれからチェリーは部屋に籠っている。父と母を亡くし今までいろんなことがあったから一人で落ち着く時間も必要だ。そんなチェリーほ陰ながら支えようと毎食美鈴がご飯を作っているのである。
「ただいま」
「やぁひさしぶりだな、美鈴ちゃん」
「ジャックおじさん!」
美鈴は目をまんまるにしてその場に硬直し危うく買い物袋を落としそうになった。
「二人が心配で来たんだよ。大丈夫かい?」
「あ、はい。父に会えましたから。あと数日で家に戻れます」
「そうかい。それはよかったな。」
ジャックは緊張が少し解けたらしく頬を緩めたが美鈴は顔を暗くしてうつむいた。
「でもチェリーが……」
「そうか……無理もねぇな。美鈴ちゃんが気負う事はないんだぜ、あれはあいつの問題だからな。美鈴ちゃんはこれからのこと考えておけよ。きっと忙しくなるんだろうからよぉ」
美鈴の肩をぽんと叩くと、美鈴は元気のない顔で「はい」とその手を見ながら返事をした。
美鈴はそのままキッチンへ向かい夕食の支度をはじめた。一方ジャックはチェリーの部屋へ向かった。部屋をノックするも返事はなくドアノブを回すと鍵はかかっていなかった。ドアを開くとそこは真っ暗で電気はついておらずカーテンも閉めっぱなしだった。ジャックが電気をつけるとチェリーは部屋の隅っこにうずくまっていた。美鈴が作った食事も食べなかったせいか少し顔がこけている。
「チェリーちゃん少しは何か食べないとげんきでないぞ」
パンを差し出すも首を横に振る。そしてうずくまったままぽつりと漏らした。
「父と母のようになりたかった。でもなれなかった。私これからどうすればいい?何を信じて生きていけばいい?」
「両親は情報屋としてみんなの役に立とうとした。でもチェリーちゃんは父と母とは違う人間だろ?だからチェリーちゃんなりに生きればいいと思うぜ。情報屋じゃなきゃみんなの役に立てないこたぁねぇんだからよ」
チェリーは顔を上げジャックの顔をまじまじと見つめていると次第に顔が崩れて涙をぽろぽろと流し始めた。
「ジャックぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
泣きながら叫ぶんでいるのをぎゅっと抱きしめた。この子ならきっとこの壁を乗り越えられると信じて。どうか天国にいる両親よ、どうかチェリーを見守ってあげてくれ。
キッチンのほうから食事ができたわよという声が聞こえジャックはチェリーを連れて向かった。
「おお。シチューじゃねぇか。うまそうだな。美鈴ちゃんは料理が得意なのかい」
四角い木のテーブルにはシチュー、サラダ、スープが用意されており部屋中にシチューの匂いが広まっていた。
「ありがとうございます。一通りは勉強しましたから」
ジャックは口いっぱいにサラダを含め、チェリーもおなかがかなりすいていたらしくペロリとシチューをたいらげてしまった。
「この野菜は新鮮だなぁ。どこから買ってきたんだい」
「町の商店街です。みなさんいい人でおまけまでつけてくてたんですよ。この町の人々はみなさんやさしいくって心が温かくなりました。だからチェリーがこの人たちの役に立ちたいっていう気持ちがよくわかります」
「また、いつかこの町に遊びに来いよ。その時はおじさんにも連絡くれよな。おいしいもの用意してまってるからよ」
「ありがとうございます」
美鈴はとても心が温かくなった。この町は先日ラマルに多大な被害を受けたにもかかわらずみんな優しい。そんな人達にまた会いに来ようと心に決めた。
「美鈴帰るの?」
「うん。でも数日はここにいられるの。帰ったらやることあって忙しくなるぞー」
両手を上に伸ばしてそういうとチェリーが悲しそうな顔をした。
「そっか、帰っちゃうんだよね。いままでありがと。楽しかったよ」
「ううん。お礼を言うのは私のほうよ。助けてくれてありがとう。養成所に一人でいた時はとっても怖かったどチェリーが話しかけてくれたから頑張れたの。チェリー今日は来てくれるかな。それだけを楽しみに生きてたの。だからあんまり自分を責めないでね。チェリーに救われた人がここにいる。それを忘れないでね」
美鈴はチェリーの手を取った。自分の気持ちが伝わるように。それが伝わったのかチェリーの目から涙がこぼれる。それを手でこすりながら「うん」と返事をした。
突然ジャックの電話が鳴った。
「ジャックだ。ああ、そうだが。え?わかりましたすぐに向かう」
かなりあわてた様子だったのでチェリーと美鈴は何事かと顔をあわせた。
「美鈴ちゃんも一緒に来てくれ!」
強引に手を引く。
「ちょえ?な、なんですか?」
「いいから」
そういって二人は車に乗って行ってしまいチェリーだけが一人その場に残された。
部屋にもどりこれからのことを考えていた。私のしたいこと……望むこと……わからない。ずっとかたき討ち一心だったから。いざ何かやろとしても思いつかない。でも今回の事でわかったことがある。それは自分にはまだ知識が足りないことだ。そうか……もう一回学校に行こう。アルバイトをしてある程度金がたまったら行こう。そうしてさっそくアルバイト探しを始めた。
別れの日。とうとう美鈴がチェリーの家を発つ日がやってきた。少ない荷物をまとめ玄関に出るとジャックとチェリーがお見送りのために立っていた。
「じゃあな美鈴ちゃん。またな。げんきでよぉ」
「美鈴、私もう一回学校行くことにしたの。そこで自分のやりたいこと見つけるんだ」
「そうなんだ。道が見つかってよかったね。ジャックおじさんもチェリーもいままでありがとう。落ち着いたらまた来るね」
二人にハグをして父のいる警察所へと向かった。
目を覚ますとそこは優しい空気で満ちていた。暖かな陽の光が窓から差し込み外にはイングリッシュガーデンが広がっていた。きしむ上体を起こし部屋を見渡すと一面におちついたピンクの壁紙が張ってあり、アンティーク家具がいくつか置いてあった。その時ドアがひらいた。その先には金色のカールした髪を柔らかな風になびかせ美しく凛とした顔立ちの少女が入ってきた。
「あら、起きてたの星夢」
少女はそういってお茶を星夢の近くにある白いテーブルに置いた。少女が美鈴だとわかり、懐かしい声が響き瞳から涙がこぼれた。
第一章 end
さてさてさて第一章も終わりました。はじめての長編なのでこれからどうしようかと悩んでおりますが、二章は楽しい話にしようかな(一章シリアス過ぎたかも)~。てか主人公あんましゃべんないから書きにくい。ちょっと後悔。