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流星の彼方  作者: 大典太アスラ
3/6

それぞれの思い

あらすじ

 ラマルのゲリラ兵養成所が敵襲で混乱しているのに乗じ主人公ら身代金目的で捕まっていた美鈴、今日から新しく入った美鈴のルームメイトで記憶喪失の星夢は情報のチェリーに連れられ養成所から逃走。だがその途中に星夢の記憶が戻り彼女はラマルの敵であるサガンから来たと告白する。

 

 その場の空気が一瞬凍りついた。

「サガン……はぁっ………………ああああああああっ………………!」

 ーー頭がはちきれそう。何か他に思い出せそうで思いだ出せない。思い出そうとすると頭がずきずき痛みだし心がざわつくーー

 苦しそうなうめき声は空しく響き、三人はその様子にびっくりしてただただ囲んでみていることしかできなかった。

「わたしっ……わたしはぁっ…………ちがっ…………あああああああああああ!」

 その場に頭を抱えたまま四つん這いに倒れこみ発狂し続けた。美鈴とジャック豹変した星夢を静かに見守っていたがチェリーだけは動揺を抑えられずに勢いよく質問を投げかけた。

「サガンから来たってどういうこと?なんで敵であるラマルに来たの?記憶がないって嘘ついてたの?スパ……」

「チェリー!動揺するのはわかるわ。でも今一番つらいのは星夢なのよ。」

 パニックになっているチェリーを落ち着かせようときつい口調で言った。

「……」

 制止されたとはいえチェリーの頭の中は混乱してしばらくそこに立ち尽くしていた。

ーーなぜサガンから?……そんな情報聞かされてないーー

 なおも発狂を続けている星夢のもとに美鈴が腰をおろし膝をついて優しく抱きしめた。

「大丈夫、大丈夫だからね。思い出したくないことは無理に思い出さなくていいのよ」

ーー記憶がなくなり、おまけにさっきまで敵地にいたなんてすぐには信じられるはずもないわ。なんとか落ち着いてもらいたい。そのために私ができることはーー

何回も何回も頭を優しくなでると叫び声が泣き声に変わり胸の中で泣きじゃくった。

ーー私があなたを戦わなくても生きられる世界に早く連れてってあげるからーー

「おそらくこれは薬切れだぜぇ。」

 この様子を傍らで見ていたジャックはそういうとリュックから水を取りだし美鈴に渡した。

「たぶん記憶を消すたぐいの薬でものまされたんだろ。それが切れて禁断症状がおきたんだろ。まぁ水でも飲ましてしばらく安静にしてればよくなるだろう。」

「でもどうして記憶を消す必要があったの?」

「そのことについてチェリーちゃんに聞きたいことがある。こっちへ来てくれねぇか」

 そういって二人を後にしてジャックは静かに森の中へと進んでいきすこしひらけた場所に来るとランプを置いて座った。わけがわからずチェリーもそのあとに続きランプを挟んでジャックの正面に座った。

こうこうとランプが二人の顔を照らす。しばらく黙っていたジャックが重い口を開いてどす黒い声で静かに問ただした。

「サガンにラマルの位置教えたのチェリーちゃん、おまえだろ」

 真剣な目で見つめる

「そっそんなこと……してないっ。ラマルに父と母を殺されたのは憎いけど」

 ランプに照らされオレンジ色の頬をさらに赤くして反抗した。

「いや、さっきの星夢ちゃんに対する顔つきは尋常じゃなく怯えていた」

「だって星夢が突拍子もないこというから……」

 手に嫌な汗を握る。

「違うな。小さいころからチェリーちゃんを見ているからわかる。嘘をつくな。おじさんの目はごまかせないぞ。」

 これでチェックメイトだという目でみる。それをチェリーは涙目でジャックを睨む。

「サガンにラマルの居場所を教え、スパイとして契約した。表向きは情報屋でも実はサガンのスパイとして活動していた。情報屋ならラマルに潜入捜査のために近づいても怪しまれないからな。そしてありとあらゆるラマルの情報をサガンに流していくうちに美鈴という女がラマルに身代金目的でつかまっていると知る。彼女と接触していくうちに仲良くなってここから救いたいと思ったお前はサガンにお願いした。この子を助けたいと。そしたら承諾してもらえて今ここでおまえが美鈴を連れている。そうじゃねぇのか」

 がくっと肩を落とし手を下にくんでうつむき、髪の毛の間からは唇をかみしめているのがのぞいた。

「そうよ。ほぼ合ってる」

 そのままの態勢でくやし涙を流しながら吐き出すように言った。

「だってなんの罪もない父と母を殺した奴らを許せない!あたしひとりじゃ復讐できないから彼らの力をかりたの。仇を打って何が悪いの?それにしかもこの地域からラマルを追い出せば町の人たちが安心して暮らせる。あたしはいいことをしてるんだよ?わたしはなんで悪いの?」

 ジャックはものすごい顔で睨みつけ怒鳴りつけた。

「仇討ちほど愚かなことはねぇんだよ!何が町のためだ!そんなのただの偽善だ!」

 その辛辣な言葉がチェリーの胸に刺さり顔がくしゃくしゃになり涙をぬぐってもぬぐっても頬へと流れ続けた。

ーーそうだ。私は地域の人、町のためと言ってかたき討ちを正当化してたんだ。結局は町も助けることなんて出来なくてむしろ悪い方向にまきこんでしまった。おかしいなぁこんなはずじゃなかったのに。仇を打ってもすっきりしないよーー

 「ごめっ…………な……さい。でも…………父、母いない……つらい……そのやり場なくて…………」

 肩を上下させ嗚咽を漏らすように吐き出した。

 ジャックは自責の念に駆られていた。

 小さいころのチェリーは無邪気で明るくて誰かを憎むなんてことは一切しなかった。両親といつも仲良く休日にはピクニックにもよく行っており、いつもその家族には笑顔が絶えなかった。そんな彼女を知っているからこそチェリーの辛さがわかるのだ。もはやわが子のように昔から接してきたものだからより一層胸が痛む。

 ーー俺がきちんとチェリーちゃんの面倒をみてやっていればこんなことにはならなかっただろうに。どうして俺はもっとちゃんと気持ちをわかってあげなかったんだろう……ーー

 無言でうつむいて自責の念にさいなまれていると後ろからガサガサっと音がした。すぐにランプを消し、耳を澄ますと一……いや二、三人だ。

 「チェリーちゃん、おまえ、はめられたな」

 さっきの会話で混乱して頭がいっぱいで動けなくなっているチェリーの手をひっぱり美鈴たちのもとへと急いで向かった。

 息を切らしているジャックと打ちひしがれているチェリーを見て美鈴は不思議な顔をした。

「何かあったんですか?」

「美鈴ちゃんも星夢ちゃんもいそげ。サガン兵に見つかった」

 そんな……と言いかけた時叫び声が聞こえた。

「いたぞ!つかまえろっ」

「ちっ、ここに気づいたか。二人とも早く俺についてこい!」

 美鈴は星夢の手を取り急ぐ。さすがの美鈴も状況が理解できずジャックに尋ねた。

「どうしてサガン兵が追いかけてくるんですか?」

「チェリーちゃんは美鈴ちゃんを捕まえるためのおとりだったんだ」

「ええっ?」

「詳しい説明は後だ。しゃべってるヒマがあったら走れ」

するりと星夢の手が美鈴から抜けた。

「どうしたの?走るの辛い?速度おとそうか」

「戦う、生きるために。このままじゃやられる」

 そういって発作をなんとかおさえている苦しそうな目つきで言い残すと駈け出していった。

 美鈴は大人三人対子供一人なんて勝ち目がないのに迷わず戦いに身を投げ出すなんて信じられずまた、そんな星夢が心配で背後を切ない顔で見つめていた。

「急げ美鈴ちゃん」

「星夢がまだ戻ってきてないのに」

「戦うと決めたのは星夢自身だ。俺らには止められねぇ。それにここで待ってても俺らにはサガンに対抗できる力もねぇんだよ」

 悔しさが残るがジャックの言うとおりだと思い車へ急いだ。

 ーー銃を持ち剣を構え、でなければ戦場で死んでしまう。リーダーのいうことには絶対服従それを破ったものには鞭打百回、水、電気、ガスも身近になく衛生状態は劣悪、宿には穴からの隙間風ーー美鈴は日本の事を思い出した自分はなんて恵まれていたんだろうと思った。日本では平和な生活が当たり前だったことに当たり前ではないところに来て身に染みた。星夢には今のあなたが置かれている環境を受け入れてはならない、仕方がないって、それしか生きるすべがないとあきらめないで欲しい。それは違うんだと教えてあげたい。だから……

「お願い。生きて」

 ぎゅっと両手をあわせて祈った。今の私にはこれしかできないから。

車は険しい山道を急いで下りて町へ向かって行った。

第1話も終盤を迎えました。

このまま星夢は死ぬのかチェリーたちはこのまま無事に町へたどり着けるのか?

次回第1話ラストの予定です。

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