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流星の彼方  作者: 大典太アスラ
2/6

チェリーの夢

「敵襲だぁ、敵襲だぁ、応戦しろぉぉぉ」


 声が宿中に響き廊下が騒がしくなる。


「え?あたし?」


 チェリーはそのままの態勢で地面を見下ろすと宿から次々と兵が出てきて森の中へ消えていった。その様子を窓から見た美鈴はふぅとため息をつき不敵な笑みを浮かべた。


「どうやらおよびじゃなかったみたいね。私たちはこの隙に急いでここから出ましょう」


 三人は外に駈け出して兵が入っていった森とは反対側の森へと消えていった。そこはうっそうと樹が茂っておりじめじめしていた。道ならざる道をチェリーを先頭としてどんどんと進んでゆく。


「どこへ向かっているの?」


 後ろから美鈴が尋ねた。


「町だ」


 静寂が支配する夜の森には三人の足音と風が吹き抜ける音しか聞こえない。


「獣道でもないところを迷いもなく歩けるわね。チェリーはここらへんに住んでるの?」


「そう。生まれも育ちもこの山麓の町。父も母も情報屋だったからここには仕事でよく来てて、見晴らしがいいからってよくここに遊びに連れてきてもらってた。だからここには詳しいってわけ」


「……だった?」

 

 美鈴が不思議そうに聞くと少しためらいながらも答えた。


「ああ……うん。数か月前に仕事中に戦闘で死んじゃってさ。そんでもって収入ゼロになったから学校も辞めてジャックおじさんっていう、父と母が仕事で出会って仲良くなった写真家の人に助けてもらいながら一人暮らし中ってわけ」


「そう……だったの……変なこと聞いてごめんね」


 罰がわるそうに無言でチェリーの後をついていくと重い雰囲気を払おうと話を再開した。


「たしかに何の罪もない父と母を殺した奴らは許せないけど、こうして憧れの情報屋として働けてるからいいいの」


「憧れ?」


「そう!父と母は戦闘を無くそうと各地をまわったり、地元の人の生活に役立ちそうな情報持ってきてはそれを地元のみんなで共有したりして感謝されてる姿を見て私もいつかそうなりたいなぁって思った」


 美鈴はチェリーが両親が死んで辛いのをなんとかこらえようとしている様子がひしひしとその言葉から伝わってくるのを感じた。何か言葉をかけてあげたいけどなんて言えばいいか言葉が浮かばない。ただただ聞いていることしかできずもどかしくて胸がちくちく痛み、夜の風がよりいっそう冷たく感じられた。

 小一時間歩いた頃だろうか、不意にチェリーが足を止めてその場にしゃがみこむとするどい目つきで前方を見つめ、星夢の顔も強張り美鈴だけが状況を理解できずにきょろきょろ辺りを見回していた。


「どうしたの?」


 小声で尋ねる美鈴にしゃがむよう合図をして口に人差し指をあてる。


「しっ、誰か来る」


 何かがこちらに向かってきてその音がどんどん大きくなる。星夢が腰のベルトに隠していた小型銃を構えた瞬間


「ジャックおじさん?!」


 チェリーがいきなり立ち上がって叫んだとき物陰の動きが一瞬止まりこちらに小走りで向かってきた。


「おお、その声!チェリーちゃんじゃねぇか!」


 低く太い声でそう言うと筋肉がみっちりついた腕でハグをしながらおおきなごっつい手でヨシヨシとチェリーの頭をなでた。強面のおじさんの顔がみるみるとゆるみだしてく様子に二人は唖然としていた。


「おじさんはどうしてここに?」


「あぁ、ここらでラ・マルセイーユ通称ラマルとタルバーン・サ・ラガン通称サガンの戦闘があるって聞いたから写真を撮りに車で来たんだ。最近はにらみ合いですんでたんだがよぉ、まさか戦闘になっちまうとはなぁ、さっき入った情報によると被害は麓の町まで広がって死者も多数でてるそうだぜ。チェリーの両親ならきっとこの戦闘を止められたんだろうけどなぁ。っとすまねえ。今のは聞かなかった事にしてくれ。ところで後ろの二人は誰だ?」


「金髪の子はラマルに身代金目的で誘拐されてた美鈴で、黒髪も子は今日からラマルに入った星夢で記憶喪失中」


 ああそうかい、と、腕を組みながら怖い顔でじろじろ二人を見ていると突然星夢の顔が真っ白になった。


「おじさんの顔が怖いからおびえちゃってるよ」


 茶化してそういうと星夢がガタガタと震えだし頭を抱えて樹にもたれかかるように倒れてしまった。


「大丈夫?おじさんそんなにこわかった?」


 星夢の顔を覗き込むようにチェリーが尋ねると星夢は首を横に振り、かすれた声でしゃべりだした。


「サガ…………きた」


「?」


「わたし……サガンから……きた」

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