5話
ホームルームが終わると、僕は速攻教室を飛び出した。
目指すは私立病院。
昨夜から、居ても立っても居られない気持ちを必死に押し殺して、何とか今日一日をやり過ごしたのだ。
早く亜子さんに会いたかった。
走る事15分、私立病院が見えてきた。
僕は入口を抜けると、階段を2段飛ばしでかけ登って行く。
エレベーターを待つ時間さえ惜しかった。
1分1秒でも早く会いたい。
315号室にたどり着くと、亜子さんはいつもの様に笑顔で僕を迎えてくれた。
「あら、今日は随分と早いのね。息なんか切らしちゃって、犬にでも追いかけられたの?」
クスクスと目を細めて笑う亜子さんが、冷蔵庫からお茶を出してくれる。
僕はそれを一気に飲み干すと、亜子さんの手をとり思いの丈をぶつける。
「亜子さん、この間の続きになっちゃうけど、お祭りに一緒に行ってくれないか!無理は百も承知だ。けど、僕は亜子さんと一緒に行きたい!」
僕の突然の行動に、さすがの亜子さんも少しびっくりしていた。
「私も一緒に行きたいわ。楽しみにしてたもん。けど、先生が許可してくれなければ、ここから出るのは難しいわ。」
先日と同じ悲し横顔だった。
いつもの僕だったらここで引き下がっていただろう。
けど、このままでは終われないんだ。
「亜子さん、先生に外出許可取れるか聞いてみようよ!僕も一緒に行くから!ダメかな?」
ため息一つついて、負けたと言わんばかりに亜子さんに笑顔が戻った。
「もぅ!今日はいつもと違って強引ね。わかった、先生に聞きに行ってみましょう!でも、もしも許可が下りなかった時はもう我儘言っちゃ駄目よ!」
やった!
後は担当の先生の許可だな。
何としてでも首を縦に振らしてやる!
僕はそう意気込みながら、亜子さんと先生の所へ向かった。
先生はすぐに見つかった。
中央のエレベーターで一階に降りると、売店からちょうど出てきたところに遭遇した。
どうやらこれから食事らしい。パンと牛乳を手に持っていた。
「あ、先生ちょっといいですか?」
亜子さんが声をかけると、先生は笑顔で振り返る。
「どうしたんだい亜子ちゃん?具合、悪い?」
亜子ちゃん、だと!?しかも笑顔で!
随分とさわやかなイケメンじゃないか!
クソッ!僕だったて先生位イケメンだったら、色々と苦労なんかしてないさ!
僕は瞬間湯沸かし器なみに沸騰しかかったが、グッと堪える。
ここで下手打ったら外出許可が下りないかもしれない。
「あの~、来週の土曜日外出したいんですけど・・・ダメでしょうか?」
亜子さんが恐る恐る尋ねる。
すると先生が亜子さんに言った。
「亜子ちゃん、ちょっと付いてきなさい。」
そう言うと僕らは第一診察室に通された。
多分、先生はこう言うんだ。
「外出なんかダメに決まっているじゃないか!何を考えているんだい!?そいつかい?君を唆したのは!?」
いざとなれば戦う覚悟はある。
亜子さんに暴言吐いたら飛びかかってやるんだ!
心の中でそう息巻いていた。
先生は椅子に座ると牛乳パックの口を開ける。牛乳をひと口のむと、机の上の小さな引き出しから紙を出した。
「はいこれ。ここに必要事項記入してね。土曜日って事はお祭りかい?いいね~若いって。」
僕らはキョトンとしてしまう。
こうもあっさり許可が下りるなんて思ってなかったから、少し拍子抜けだ。
「あの~こんなさっさり外出許可って下りるものなんですか?」
僕は先生に尋ねてみた。
すると先生は少し笑いながら答える。
「なんだい?外出許可出さない方が良かったかい?」
そんな筈ない!
僕は慌てて思いっきり首を横に振る。
「ところで君は?よく亜子ちゃんの所に顔出してるけど・・・ひょっとして亜子ちゃんの彼氏かい!?」
僕はその言葉にとても恥ずかしくなり一気に顔が赤くなってしまう。
「いや、あの、まだと言うか、将来的にはと言いますか・・・。」
そんな僕を見て先生は笑う。
「あはは。頑張りたまえ!ただし、あまり長々亜子ちゃんを連れまわして疲れさせない様に気をつけなきゃいけないよ。」
この先生いい人だ!
さすが僕が認めたイケメンだ。
「案ずるよりも生むがやすしだね。」
そう言うと亜子さんは笑顔で必要事項を記載していく。
記入し終わると、外出届を先生に出して僕らは診察室を後にし、315号室に戻った。
「なんだかあまりにもあっさり許可が下りてびっくりしたわ。色々と考えちゃった自分がバカみたい。」
亜子さんのその言葉に、僕も頷く。
「僕もだよ。ある程度の小言とお叱りは覚悟の上だったんだけどね・・・。聞いてみるもんだね。」
僕らは声をあげて笑った。
それから二人で、お祭り当日の話をした。
16時に病院へ迎えに来る事。お好み焼き・リンゴ飴・クレープは何があっても食べるとか。
他愛もない話に花を咲かせた。
気が付くと18時を少し回っていたので、僕は亜子さんに挨拶すると慌てて病室を飛び出す。
病院の入口付近で振り返り、亜子さんの病室を見上げると、亜子さんはいつもの様に手を振ってくれていた。
家に帰るといつもの様にお店を手伝い、お風呂掃除・夕飯・入浴をすますと部屋に戻る。
僕は携帯を取り出すと、高校4年生に電話をし、土曜日お祭りに誘えたことを話し、車を出してもらえるようお願いした。
彼は快くそれを承諾してくれた。
電話を切ると急に眠気が襲ってくる。
昨日は少し興奮していたからあまり眠れなかったけど、今日はぐっすり眠れそうだ。
部屋の電気を消すと、僕は小学生でも眠らないような時間に早々と眠りについた。




