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エルフ転生からのチート建国記  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:エルシエ建国編
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第八話:帰還

 馬の限界まで走ってから一泊し、とうとう村が見えるところまで来た。

 ここに来るまで兵士には一切出会わなかった。


「ルシエ、ストップ。馬を止めてくれ」


 俺は、村の手前で馬車を止めるように指示をした。


「どうしたのシリル?」

「少し荷物を整理するんだ」


 馬車の荷台にのってから魔力を集中させ、【輪廻回帰】の部分開放を行う。

 これは今の姿のまま、体の中身だけを書き換えることで過去の俺の技能を使う技だ。

 部分開放を行っている間は【輪廻回帰】の3倍~5倍の体内魔力オドを消費するせいで、制限時間が10分程度になってしまう。しかも、再現できる能力は数段落ち、一度使えば十二時間、【輪廻回帰】を使えないというデメリットは、完全開放と一緒だ。

 ルシエに姿が変わるところを見られたくない。そんなバカげた理由で効率が悪い部分開放を行使した。


「【アイテムボックス】」


 俺は補給基地から奪った食料を片っ端から取り出して綺麗に積み上げていく。

 一般的な馬車の積載容量は4t~5t。俺が奪った食料は3tなので十分積むことが出来た。


「ふう、これでよしと。ルシエ、出発してくれ……いや、ちょっと所要が出来た。ここで待っていてくれ」


 俺はそう言い残して、風の魔術まで使い、全力で移動し、丘の影に隠れ村から死角になっているポイントに身を隠す。


「【アイテムボックス】」


 そして、補給基地から奪った剣や鎧を全体量の半分ほどばら撒く。

 その作業が終了してから部分開放を解除。こんな魔力食いの術を垂れ流すわけにはいかない。

 五分ほどで切り上げたのに、急激な魔力の減少と倦怠感が体を襲う。どうやら、魔力が増えた量に比例して部分開放していたディートのレベルがあがり、消費する魔力まで上昇し持続性は上がらなかったようだ。

 疲れた顔を見せないように笑顔で隠して、ルシエの元に戻る。


「ごめんごめん、ちょっと大事なことを忘れていてね」


 ルシエの位置からだと鎧を俺が隠したのは見えていない。おそらくトイレにでも行ったと思っているだろう。


「それはいいけど、どうしてわざわざここで食糧を出したの? 村の倉庫で出さないと二度手間だよね?」

「ルシエはわかってないな。村に戻ると村長たちが駆け寄って来るだろ? 俺たちの無事を確認してから、次に馬車の荷台を覗き込む。そのとき中身が空だったらがっかりするじゃないか。それに、人によっては問答無用で暴言吐いたり、殴りかかってくる奴だっている」


 人はそういう生き物だ。

 それを理解した上で行動しなければ足元をすくわれる。相手の感情を考慮し先読みすることで余計な火種は防げるのだ。


「でも、村の倉庫に入れるの大変だよ」

「運ぶの俺じゃないからどうでもいいんだけどね」

「便利な魔術があるよね。それを使って一度収納して、倉庫でまた出そうよ」

「面白いことをいうなルシエは、こんな便利で不思議な魔術、一日にそう何度も使えるわけがないじゃないか。十二時間は使えないね」

「……やっぱりもったいないよ」


 ルシエは納得がいかない様子だ。


「それに、結局手伝わされることになると思うよ。私たち若いし体力あるし」

「それはないよ。断言できる」

「どうして?」

「村長たちは倉庫の中身を見せたくないんだよ。帝国からの物資とかしれっとした顔で目ぼしいものをネコババしているし。倉庫に入れる人間は村長の息がかかった奴だけだ。たぶん、今回運んで来た蜂蜜酒ミードとか真っ先にとられるだろうね」


 蜂蜜酒ミード等の一部の嗜好品は倉庫に入ることなく、村長たちの懐に収まるだろう。


「村長たちがそんなことするわけないじゃない!」

「そうか? 毎回、帝国からの物資が届いたときにやっていることだよ。俺たちに胡椒とか、酢とか、酒が渡されたことないだろ? 帝国の物資にはそう言うのも少しだけあるんだ」

「嘘」

「ほんと。ほら村長とその息子のたるんだ腹を見ればわかるだろ? この食糧不足のエルフの村で太れるのはそういうことをしている連中だけだよ」


 もっとも、俺はこの件で村長を責めるつもりはない。

 村長というのは責任が求められるし、一般人にはわからない重責もある。それなりの役得はあるべきだろう。

 それに、こういうことをやるように帝国の連中からそそのかされている。父はその提案を断り、戦いを選んだ。

 だが、今の村長である叔父は受け入れたのだ。

 トップが骨抜きだと支配しやすい。

 いくら、村人たちが苦しんでいようと、それを束ねるトップにいい思いをさせていれば、そいつが民を押さえつけ、そうそう反乱なんて起きない。


「シリルが、がんばってもってきた食料も、いいのを独り占めされちゃう。どうしよう止めないと」

「絶対にやめろ。この村で生きていけなくなる。それに俺たちは蜂蜜酒ミードを飲んだだろ。同類だ。俺たちが今回の件で頑張ったご褒美に蜂蜜酒ミードを飲んだように、村長たちは日頃頑張っている分をたまにこうして贅沢していると思えばいい」


 ルシエに蜂蜜酒ミードを飲ませた裏の理由がこれだ。

 今回の件で、ルシエが村長の着服に気付く可能性があった。正義感の強いルシエはそれを正そうとする。そうすれば悲惨な未来が待っている。


 だから、俺と一緒に共犯者になってもらった。

 ルシエ一人なら自分の罪を告白した上で村長の不正を指摘するが、俺まで巻き込むとなると口をつぐむしかない


「村長も、ちゃんと良識の範囲内で納めるぐらいの良心はもっているさ。心配はいらない」

「うん、納得できないけど理解はした」


 ルシエがぶすっと頬を膨らませる。


「ありがとうルシエ。俺もさ、良識の範囲を踏み越えたら、そのときは止めるから安心してほしい。だから、余計なことはしないでくれ」


 若干の不安はある。

 いつもの帝国の物資と違って次が来る保証がない。かつ積み荷はいつもより数段魅力的、それに俺がどれだけ盗んできたなんて誰も想像がついていない。

 不正がいくらでもし放題。そんな中、村長の自制心がどれだけ働くか……。こればかりは神に祈るしかない。


 最悪のケースを考えるなら、村長がこの馬車ごと奪って、帝国と反対方向にある村や都市に行き、荷物を売りさばいた金で新たな人生を構築するなんて考えだすことだ。

 村人200人の三か月の食料。それだけあれば一家族なら十年ぐらいは遊んで暮らせるだろう。


 ◇


 村にたどり着くと馬車を見た村人が大慌てで引っ込んで村中に声をかけて回った。

 中でも、村長をはじめとしたお偉いさんたちが急いで駆け寄ってくる。


「シリル、無事、盗めたのか?」

「もちろん、冬を乗り切れる分はあるよ。荷台を見てみるか?」


 俺がそう言うと、村長は馬車の荷台に顔を突っ込み、積まれているものを見てほくそ笑んだ。


「まさか、本当にやり遂げるとは……。ご苦労だった。馬車はこちらであずかろう、ゆっくり休むがいい。だが、鎧を貫ける武器のことも忘れるんじゃないぞ」


 そして、村長は自分の言うこと聞く連中を呼びはじめる。

 その頃には、一般の村人もぞろぞろと集まっていた。


「シリル、あらかじめいっとく。ごめん」


 御者を務めていたルシエがぼそりと呟く。


「みんな、シリルが食べ物をとってきてくれたよ!」


 そして声を張り上げてから、馬車の扉を開け荷台の中身が見えるようにした。


「ほら、珍しいものもいっぱいあるからみんな見て見て、ほらミードとか、牛で出来た干し肉とか、あとシリルが途中で狩ったシカとかも。ほらこっちに来て!」


 ルシエの言葉と手招きで遠目に見ていた村人が集まってくる。


「すごいよお姉ちゃん、こんなの見たことない」

「酒もあるじゃないか」

「あっ、お酢と胡椒まである。こんな贅沢品、帝国に支配されるようになってから初めてだ」

「それにこの量、これだけあれば冬を越せる」


 わいわいと周りが騒がしくなる。

 そしてその騒ぎを見てさらに人が集まるというループが始まる。

 俺とルシエは馬車から一歩離れたところに移動しその状況を見ていた。

 こうなれば、村長も好き勝手はできない。馬車の中身は村人たちが知ってしまった。

 きっと村長たちは面白くないだろう。

 俺は深いため息をついた。


「ルシエ、どうしてこんなことをしたんだ?」

「村の皆にシリルが頑張った成果をちゃんと知って欲しかったから。私はシリルの手柄を横取りされるのが嫌なの。それにこれは村の皆の分だから」


 悪気はないみたいだ。でも、あとでちゃんと怒らないと。そういう軽はずみなことがどういう結果を引き起こすかを。


「ルシエ、家に戻って話そう。少し説教するよ」

「……うん、覚悟はしてる」


 ルシエはごめんと言ってから行為に及んだ。悪いことをした自覚があるのだろう。


 ◇


 そのあと、村長から後は任せろという言葉に従い馬を置いてその場を去った。

 帰る途中に何人かの知り合いに良くやったと褒められたが、気持ちがいまいち盛り上がらない。


「ルシエ、正座」


 俺は、ルシエと俺が二人で住んでいる家に戻り次第そう言い放った。


「正座?」


 ルシエが聞きなれないこと言葉に首を傾げる。そう言えば、正座なんて文化はこっちにはなかったか。


「こうやるんだ」


 俺はそう言うなり、ルシエの膝の裏に力を入れバランスを崩し無理やり正座の恰好をさせる。


「床、冷たいし。この座り方、痛いよ」

「説教だから。わざとそうさせているんだ」


 涙目で正座するルシエを俺は見下ろしてきつい口調で言う。


「寝ちゃったときよりもひどくない?」

「あれは不可抗力のミスだけど、今回はわざとだからね」

「ごめんなさい。さっきも言ったけど、シリルの手柄が横取りされるみたいでいやだったし、村の皆のものを、村長たちが独占するのも許せなかったの」

「その気持ちはわかるけどね。そうさせることが俺の目的だったんだ」

「村長たちにいい思いをさせたかったっていうの?」

「そうなるな」


 俺の言葉にルシエは怪訝そうな顔をして抗議の視線を送ってくる。


「これから村のために色々と大きなことをするんだ。そのときに村長たちの許可が居る。だから、今のうちにゴマをすって取り入って、ある程度自由に動けるようにしたかったんだよ。村長のお墨付きがあれば、大抵のことはできるからな」


 今回の荷台の件ははじまりにすぎず、村長に気に入られれるために色々と考え、準備をしている。

 ただでさえ、あの村長は俺の父親の弟で、幼いころから優秀すぎる兄と比べられ、ひねくれているうえに、俺のことを目の上のたんこぶのように思っている。


 だからこそ、村長にいい思いをさせた上で俺の手柄が減るような流れは理想的だった。

 俺の言うことを聞いていれば、うまい餌にありつける。そう村長が判断するようになれば、なんでもやり放題。……それを目指していた。


「そんなの嫌だよ。シリルはみんなのために頑張るんだから胸を張って正々堂々してほしい。村長の陰に隠れてこそこそなんてシリルらしくないよ」

「俺らしくないか。もう、今回の件で村長の心証が最悪だから、別路線でいくしかなくなった。たぶん、そっちはルシエのいう俺らしい方法だよ」

「そっちの方向?」

「うん、村長の権力を振りかざしてじゃなくて、村人の一人一人に認めさせて、味方につけて、村長に俺の意見を無視させないようにする。そのために、ちょっとずつ、村の皆を幸せにしていくんだ」

「そんなことが出来るんだったら、そっちのほうが絶対いいよ」

「それはそうだけど、どうしても時間がかかる。その時間は今が惜しいんだ」


 人に認めさせることは難しい。村長に取り入る方向でまず検討したのはそのためだ。

 ただ、この村は問題だらけなので、村人たちに恩を売って味方につけることも不可能ではないだろう。

 さきほどからその計画を全力で練っているし、……一応だが、こうなったときの保険を馬車の荷物に仕込んでいる。


「やっぱり、この件は怒っているんだね」

「うん、すごく怒ってる。どうして俺が怒ってるかわかるかい?」

「私が、シリルの言うことを聞かなかったから」

「それもあるけど、一番は嘘をついたことだね。俺は、絶対に村長の邪魔をするなと言って、ルシエは頷いた。その信頼をルシエは裏切った」

「ごめんなさい」

「今回は、別の方法で取り返しがつく話だけど、状況によってはたったそれだけで全部が駄目になる。そのことはわかってほしい」


 きつい口調で言うとルシエが顔を伏せる。


「だから、納得していないときはちゃんと言ってほしい。それで俺と言い合いになっても構わない。だけど、黙って行動に移すのだけは止めてくれ、フォローのしようがなくなる。そんなことを繰り返せば、俺はルシエのことを信じることが出来なくなる」

「わかった。次からはちゃんと、最後まで話し合うね」

「そうしてくれ。本当に命に関わることだから。俺はルシエを失いたくないんだ」

「本当にごめんなさい。私、そこまで深く考えてなかった。村の皆に喜んでほしかったし、シリルはすごいんだって、皆に言いたくて……ごめん言い訳だ」


 ルシエがそれっきりしゅんとなる。

 次からは大丈夫だろう。反省しているのが表面的でないことが伝わってくる。

 だから、俺は少しだけ優しい顔をして口を開く。


「ルシエ、今回の件、怒ってるけど、俺のために行動してくれた気持ちは嬉しかったよ。あと、正座はもういい。ごめんね、辛かったよね?」


 感謝の言葉はそれは紛れもない本音。それだけを伝えておく。

 ルシエはもう一度、ごめんと言って立とうとするが足がもつれる。

 なれない正座はきつかったんだろう。よく、最後まで耐えれたものだ。

 そんなことを考えていると、


「痛い、足が痛いよ。それにすごく痺れる、もうだめ、私、二度と立てないかも」


 と本気で青ざめた顔で言ったので大慌てで駆け寄る。 

 俺は、あったかいお茶を用意しルシエに渡し、足をマッサージして血行を良くする。


「ごめん、ルシエ。少しやりすぎたかもしれない」

「ううん、ちゃんと怒ってくれて嬉しかった。まだ、私を信じてくれるってことだから」


 その言葉を聞いて、自然に笑みがこぼれる。

 ルシエの行動は、俺を困難な道に追いやった。

 だが、それでいいと思える。

 ただ、この村を救うだけじゃだめだ。俺はルシエがかっこいいと思える俺で居続け、なおかつ目的を達する。

 甘いと思う、青臭い理想、子供じみた考え、でもそれをするだけの力が俺にはある。ルシエが居るからそれができると信じられる。


 今後は、そんな俺であるための方法を考えよう。

 武器の作成と並行して、村の皆を味方につける。その道を選ぶことにもう迷いはなかった。


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