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エルフ転生からのチート建国記  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:エルシエ建国編
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第四話:肉体改造

「行ってくるよ。期待して待っていてくれ」


 俺は見送りに来てくれた人たちに別れの言葉をつげる。

 二十人程度が俺とルシエの見送りに来ていた。

 あと三か月で冬が来る。そうなるとまともな食料が手に入らず、備蓄の少ないエルフの村は干上がるだろう。補給基地の襲撃に村の命運がかかっている。


「戻って来なければ、おまえ達が兵士を殺して逃げたと言う。そうすれば、物資の支援は例年通り受けられるだろう。あの兵士たちが欲しかった三人のエルフは適切な人選をしてある。

 そもそも本当に二人でやるつもりか? どうせ無駄死にするんだ。余生をこの村ですごしたほうがいいんじゃないか? 村としても自分たちで犯人を捕まえた形のほうが望ましい」


 村長のニージェが俺たちを見ながら突き放すように言う。

 俺たちに監視をつけないのは期待や優しさじゃない。兵士を五人殺した俺が怖いからだ。俺を止めようとして、俺の力が自分達に向かうのを恐れている。


「死ぬつもりはないし、二人で十分だ。俺がたった一人で首輪付きでも五人を瞬殺したところを見ただろ?」

「だが、三百人は補給基地に居るんだぞ?」

「今回の目的は戦いじゃない。食料を奪ったらすぐに逃げるさ」

「忍び込んだとして、どうやって運ぶつもりだ? 一人では持ち運べる量なんてたかが知れてるだろ?」

「便利な魔術があるんだよ。それを使えば、いくらでも一人で持ちだせる。昨日、実際に使って、やつらの死体を持ち運んでる。基地の襲撃の際に捨ててくるつもりだ。時間稼ぎにはなるだろう」


 その言葉は嘘ではない。だが、今の俺には使えない。

 俺の固有魔術で呼べる過去の俺の中に、一人だけそういった便利魔術を使える奴がいる。


「そんなことが本当にできるのか?」


 村長は半信半疑だ。

 この場で実演すればいいのだろうが、固有魔術は燃費が悪い上に、制約がある。無駄遣いはできない。


「本当だ。というわけで、忍び込んで、その魔術で片っ端から食料かっぱらうだけだから、そこまで危険なことはしないさ」

「……いつのまにそんな魔術を」

「すごい! シリルはやる気ない顔して、みんなに秘密で魔術を特訓してたんだ」


 ニージェの引きつった顔と、ルシエの尊敬の眼差しを受けて胸が痛くなる。


「まっ、まあね」

「でも、問題は基地のどこに食料が保存されているかだね。あそこの基地、兵士がたくさんいるんだったら、きっと広いし探すのは大変かも」


 ルシエがすこしだけ不安そうな顔をした。


「そっちも大丈夫だよ。ちゃんと、人間の隊長から少し強引な手で聞き出したから、必要な情報は揃っている」


 俺は両目を潰すだけでわざわざ生かしておいた隊長を拷問にかけて徹底的に情報を聞き出している。この手の拷問をする機会も受ける機会も多かったから割と手慣れたものだ。

 もちろん、俺自身の経験じゃない。声から受け取った経験だ。


 税の着服や横流しをするような奴だから、あっさりと情報を吐くと思ったが、妙に強情だし、嘘やごまかしで乗り切ろうと頭を回すから手間が増えた。拷問なれしていない奴だと、先に音をあげるか、嘘の情報を掴まされていただろう。


 剣術の腕も一流、身体能力の強化なんて高等技術もでき、精神力も高く、機転も効く、いい人材だ。

 それだけに廃人になるまで追い込む必要があり、再利用できずに殺す羽目になったのは残念だ。


「そこまで……シリル、いったい何がそこまでおまえを変えた?」

「シリルは変わってないよ。昔の一生懸命で、なんでもできたシリルが帰って来ただけだよ」


 二人の言葉に返事はせず、ただ曖昧な微笑みで返す。

 二人とも正しいし、二人とも間違っている。

 そして、俺たちはエルフの村を出た。


 ◇


 馬車に揺られながら、俺は身体能力の強化に努めていた。

 俺の身体は、脳の処理能力も貧弱だが、何より身体能力が低い。

 せっかくすぐれた目があるのに、宝の持ち腐れになっている。


 今は魔術、近接戦闘ともに多大な制限がかかり、全力の三割も出せない状況だ。

 体内魔力オドを体に通す。体内の電気信号を強化、制御し、全身に流していく。全身の筋肉が俺の作った電気信号に反応し、体が跳ねるほど痙攣する。

 耐え難いほどの苦痛が発生し、筋肉は断裂していく。そして魔術の中断。


 荒い息を吐きながら、新たな術式の起動、自己治癒能力の促進で、通常24時間~48時間かかる筋肉の復元を瞬時に行う。

 さらに、タンパク質の補給のために兵士たちの馬車に大量にあった干し肉を貪り食う。


「ねえシリル、さっきから何やってるの? 急に全身びくんびくんってなって、そのあと気持ちよさそうな顔して、お肉一杯食べての繰り返しで、正直気持ち悪い」


 御者になり、馬を操っているルシエが、怪訝そうに荷台に居る俺に尋ねてきた。


「意図的に、筋肉の破壊と再構築を行うことによる、強制的な超回復の発生を利用した、短期間での筋力強化だ」

「ごめん、まったくわからない」

「魔術を使って筋トレしてるだけだよ。体をたくさん動かすと、次の日、体を動かす度に痛むようになったことはルシエにもあるだろ?」

「それ、ただの筋肉痛だよね?」

「そう、筋肉痛。あれの痛みは、筋肉が壊れたことが原因なんだ。それで壊れた筋肉は時間と共に回復していくんだけど、適度に壊れた筋肉は回復したときに前よりも強くなる」


 重要なのは適度にというところ。

 あまりに負荷をかけすぎ、必要以上に筋肉を傷つければ、逆効果だ。

 それに、回復しきっていないときに負荷をかけるのもまずい。


 だから、短期間の特訓で体を作るのは難しいが、俺の魔術を使った方法なら、通常の数百倍の効率で筋肉を付けられるし、強化する筋肉も選べ、無駄な個所に筋肉が付きすぎて動きを妨げることもない。


「びくんびくん、体を震わせるだけで強くなるって、なんかずるいね」

「そうだね。だけど、この魔術を使いこなすのは相当骨が折れるから、労力はとんとんだよ」


 体内の電気信号の制御には、非常に繊細な魔力操作が要求される。

 俺はこの方法を思いつき、実用するまでに三十年ぐらいの修業が必要だった。普通の人間なら素直に筋トレしたほうが早い。


「でも、それだと体力はつけられないよね」

「体力っていうのが心肺機能のことを言うんだったら、そっちは二十四時間鍛えてるかな。こんなふうにしてね」


 俺は、周囲の風のマナに働きかけて、常に発動している魔術の効果範囲をルシエまで広げる。


「何これ、息苦しい」


 ルシエは苦しそうに表情を歪める。

 それを確認してから、魔術の範囲を元に戻した。


「わざとそうして居るんだ。体力を鍛えるのに走るだろ? あれって結局、酸素……空気が足りない状況を作って、空気を取り入れる機能を鍛えているんだ。だから、こうして常に一生懸命空気を取り入れないといけない状況を作って肺と心臓を鍛えている」


 いわゆる高所トレーニング……酸素の希薄な2000~3000メートルの高所で行う訓練だ。持久力の強化に役立つ。


「他にも柔軟性をあげる魔術や、動体視力をあげる魔術なんかを常に発動させているんだ」

「すごい、もしかしてシリルって昔からサボっている振りしてこんな鍛え方していたの? だから、いつもだるそうにしてたんだね」

「……そうだね」


 ルシエの勘違いで評価が上がっているがあえて否定しない。


「でも、シリルって魔術が得意だよね。そっちを使って戦えるから、あんまり体を鍛える必要はないんじゃない?」

「それはないよ。最後にものを言うのは身体能力と、体力。結局、戦場では最後まで走れる奴が生き残る。魔術なんてただの道具だ。それをうまく使える体があって初めて活かすことができるんだ」

「もっともらしいけど、シリルだって戦場なんて知らないくせに」


 ルシエが俺の言ったことを冗談だと思って、茶化した口調でつぶやく。

 俺はそれに苦笑で返事をする。

 戦場なんて、何百回も経験している。


「シリル、お願いがあるの」

「なんだい?」

「私にもその魔術を教えて」

「無理だ。構成が複雑すぎる、制御に微調整が必要だし、素人が手を出すのは危険だ」


 通常魔術師というのは、決められた術式をなぞるだけ、制御だってかなりアバウトだ。だから、ある程度の訓練で使えてしまう。

 だが、これらの術式は非常に繊細だ。超一流の才能をもった魔術師が何十年もそれだけに注力して初めて使いこなせる。


「そう、ならその魔術を私に使ってくれない?」

「それは構わないけど、どうして」

「私も強くなりたいから。シリルと一緒に戦いたい」


 ルシエの声にこめられた感情は真剣で、ただの思い付きではなく、覚悟のある言葉だと伝わってきた。


「いいのか? 戦いは男に任せて、女は家を守ってくれればそれでいい。補給基地の襲撃だって馬を監視する担当が欲しかったから呼んだだけで、ルシエに戦わせるつもりはないよ」

「待っているだけの女なんてやだよ。家で待っていてシリルが死んだら、絶対一生後悔するもん。私は二人で生き残れるように隣で戦いたい」


 本当にルシエは強い子だ。

 昨日、兵士に殺されかけたばかりだというのに、もう前向きになっている。


「わかった。ルシエを鍛えよう。だけど、今回だけは馬と一緒にお留守番だ」

「一緒に行っちゃだめ?」

「ダメだ。今回の襲撃は、お荷物を抱えて成功させられるほど簡単じゃない。俺にルシエを守る余裕がないんだ」

「わかった」

「食い下がらないんだな」

「うん、私はシリルを助けるために一緒に戦いたいんだよ。子供みたいなわがままで困らせたくないの。でも、すぐに強くなって、一緒に戦えるようになるから」


 俺は微笑する。ルシエを守って良かった。


「なら、さっそく魔術をかける。前もって言っておくが死ぬほど痛いぞ?」

「……覚悟はできているよ」

「危ないから御者を代わろう」


 俺はルシエと御者を交代する。馬の手綱を預かりつつルシエの隣に座る。


「直接肌に触れる必要があるけど、大丈夫か? それも体の中心が好ましいから心臓の上に手を当てる」

「いいよ。だってシリルだし」


 俺は、ルシエの許可を得て、服の中に手を入れ、心臓の真上、左胸に優しく手を乗せる。魔術の根幹を司る魂は心臓に宿ると信じられている。だからこそ、彼女の体を使う魔術には必須の作業だった。……実は背中でもいいけど。


 ルシエの胸は柔らかく手が沈み込む。意外に大きい。Cカップはありそう。ルシエって着やせするんだな。てっきりBぐらいだと思ってた。

 俺の手が触れた瞬間、ルシエの身体がビクッと震えた。

 魔術の影響ではなく純粋な緊張。男に触れられることに慣れていないのだろう。


 下準備として魔術で作った電気信号を軽く流しルシエの身体の構造を解析する。

 伝達速度、反応速度、現在における筋肉の状態。全てが流れ込んでくる。

 それを元に、自分用の術式に変更を加える。


「いくよ。ルシエ」

「きて、シリル」


 そして魔術を発動させる。

 外部から電気信号を与えるのではなく、ルシエの脳に干渉してルシエの意志で筋肉を収縮させつつ、魔力を与えて彼女が自ら生み出した信号を強化。

 外部からの信号で同じことをするとルシエの綺麗な肌に焼け跡がつくぐらいの信号が必要になる。


「シリル、なに、これ、変」


 全身を震わせながら、顔を赤くしてルシエが声を漏らす。慣らしは終わったのでしだいに強くしていく。ルシエの身体が跳ねる。

 なんかエロい。男がやっても気持ち悪いだけなのに、美少女だとこうも違うのか。

 それを5分ほど、一定の間隔で続ける。


「はい、終わったよ」

「ん、……」


 ルシエが放心状態で息を漏らす。


「体を動かそうとしてみて」

「やってみ、痛っ」


 ルシエが筋肉を動かそうとして悲鳴を上げる。

 ちゃんと全身筋肉痛になっているようだ。筋肉の損傷具合も理想的。


「じゃあ、次は癒すよ」


 その言葉と同時に、ルシエの自己治癒力を強化して筋肉を強引に復元する。

 独特の感覚にルシエの表情が苦笑いになっていた。


「体はまだ痛むか?」

「ううん、全然平気」

「なら、良かった。これを1日3回、毎日やる。そうすれば、理想的な肉体に近づくから。一応言っておくけど、絶対に自分でやろうとするなよ?」

「わかったよ。やりたくてもやれないし」


 自己流でやられると、危険だし、かりにうまくいったとしても、無駄な筋肉がつく、ルシエの腹筋が割れたりしたら俺は泣く。


「それと、肉を食え」


 干し肉をルシエに押し付けた。


「なんで? お腹すいていないよ?」

「筋肉を回復させるのに、肉に含まれる栄養素を使うんだ。肉を食わないと、この魔術を使う意味があまりないんだ」

「いいのかな、貴重な食料を、使っちゃって」

「いいんだよ。強くなるために必要なことだ。それに強くなれば、作戦の成功率もあがって、村のみんなに食料を届けられる可能性があがる」

「わかった。食べるね」


 ルシエが硬い干し肉を唾液で柔らかくしながら少しずつ食べていく。

 小動物みたいで可愛い。


「あと、暇なときはあれを見ていろ。首を動かさずに眼球だけ動かすんだ」


 俺は、空に浮かんでいる黒い球を指さす。

 俺が動体視力を強化するために魔術で作った球だ。


「うっ、結構難しい」


 ルシエが唸る。

 黒い球は一定の距離を保ちながら、八の字を描いてそれなりのスピードで飛び回っている。

 ルシエの目はそれについて行ってない。


「難しかったら、強く睨み付けてみて、そしたら強制的に眼球に自分を追わせる呪いを、黒い球がかけてくれるから。『捕まえた』と言えば呪いが解除されるから、目が痛くなるまで続けるといい」

「あっ、楽、でもすっごく目が疲れるね」

「訓練だしね。でも、これを毎日やれば動体視力がかなり鍛えられるんだ。強くなりたいなら、最重要項目の一つだよ」

「シリルってどうしてこんなに強くなるために工夫しているの? 他の皆みたいに、森の中を走り回って、剣を素振りして、普通にしてても強くなるのに」

「時間がないからね。当たり前の方法で強くなるには、長い時間が必要だ。おれには他にもっとやりたいことがある。だから、こうやって魔術で済ませられるものは全部済ませて、あまった時間でやりたいことをするんだよ」


 人の一生は短い。俺はそれを嫌というほど知っている。

 たとえ、次があっても、今の時代の俺は一度きりだ。その一度きりの俺を悔いなく終わらせるためにはこういう反則技も必要だ。

 スポーツマンは筋力を維持するだけで三時間の訓練が必要だと言われている。そんな時間は俺にはない。


「やりたいこと……シリルは何がしたい?」

「そうだね、可愛いルシエといちゃつきたいな。俺たちの家に帰ってさ、美味しいものを一緒に食べて、笑い合って」

「もう、そんな冗談ばっかり言って。そんなのいつでもできるよ」


 ルシエが目では黒い球を追いながら頬を膨らます。


「冗談じゃないよ。本気で今の俺は、ルシエと一緒に幸せに暮らせるようになることがゴールだと思ってるんだ。

 そのためにも、村の皆が冬を越えられるだけの食料を確保して、村を襲いに来る帝国の兵士たちを撃退して、来年からは村単体で自給自足できる基盤を整えていく。他にも、俺が居なくても、いつでも村のみんなだけで兵士の大群を追い払えるようにしたいし、もっと村全体の生活水準もあげたい」


 課題をあげていくとこうなる。

 それを叶えるために細分化すると、もっとたくさんのことが必要になるだろう。

 これが、ルシエと二人で笑って暮らしていくための最低条件。

 だから、時間なんていくらあっても足りない。


「あたりまえが遠いね。人間に村が支配されてなかったら、今頃、普通に暮らしていて、結婚とかしてたのかな?」


 エルフの村では14才で結婚が可能になる。

 俺たちは二人とも14才。確かにそうなっていても不思議じゃない。


 だけど、今の村でそれは許されないだろう。俺はルシエのために兵士を殺し、帝国に喧嘩を売った。そんな俺が、ルシエと二人で当たり前の暮らしをすることはできない。


「ルシエが俺のプロポーズを受けいれてくれたらね。今から言っておくけど、この問題全部片付いたらプロポーズするよ。答えを考えておいてね」

「ちょっと、シリル、いきなりそんなこと言われても」

「言ったのはいきなりだけど考える時間はいくらでもあるだろ?」


 照れたり、怒ったり、表情がくるくる変わるルシエを見ながら、俺はそう言って、会話を打ち切り馬の操作に集中した。


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