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エルフ転生からのチート建国記  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:エルシエ建国編
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プロローグ:輪廻の魔術師

祝! エルフ転生発売! モンスター文庫から無事発売されました! 最新刊の四巻は2016/7/30に発売したよ

 俺は屋敷に設置した魔術用の工房で頭を抱えていた。

 大正元年の日本に生まれて六十年。死の間際にたってようやく気付いたことがある。

 魔術を極めるには、人生は短すぎる。


 ひたすら魔術に打ち込んできたが、自分は入口に足を踏み入れただけだ。まだまだやりたいことがある。

 今持っている技術を尽くせば、十年~二十年程度寿命を延ばすことは可能だろう。


「だが、それをしてどうなるというんだ?」


 そんなささやかな誤魔化しでは到底足りぬ。

 せめて、その十倍は欲しい。

 しかし、そんな力は自分にはない。老いて、朽ちていく体。鈍っていく思考。肉の器に縛られる自身がただただ恨めしい。


 なら、諦めるのか?

 否! 断じて否! 俺の魔術に対する探究心は全力で叫んでいた。

 もう少しで道が開ける。そんな確信があるのだ。


「そうか、これ以上、この体で生きていくことが出来ぬのなら、この体を捨ててしまえばいい」


 おそらく、今まで数百人以上魔術師たちがこの答えにたどり着いただろう。

 自らの魂を他の体に移すという発想。

 だが、それを実現できたものはいない。

 人の体を乗っ取るというのはことのほか難しい。魔術というのは意志の力だ。己のうちにかかる力がもっとも強い。ましてや自分を保とうとする無意識の願望は途方もない力だ。


 さらに魂と肉体の相性の問題がある。人の体は、魂に合わせて成長する。赤子の段階ですら遅いのだ。この世に発生した瞬間に、その魂の器として肉が出来上がるのだから。

 その瞬間を狙えばいいのだが、その段階の命はひどくもろい。乗っ取って即死するなんて笑えない。


 もっと、安全で確実な方法はないのか?

 この天才が、凡人と同じ発想で止まるのか?

 魔術とは魂の研究だ。故に、俺は魂について誰よりも知っているはずだ。

 そして、その答えは出た。


「輪廻転生」


 そう、魂は巡る。

 魂は死んで天に上り、やがて地に降り肉に宿る。この天に上り、地に降りてくる段階で魂は漂白され、記憶も意志も全てそぎ落とされると俺は推測している。


 だが、例外はある。強い想いはときとして、魂にしがみつき生まれ変わってなお生き続ける。まれに前世の記憶を思い出す人間が現れるのはそう言った理由だ。


 なら、それをすればいい。

 意図的に、けして魂から零れ落ちぬように、俺の記憶と意志を深く深く刻みつける。

 そうすれば、やがて輪廻し新たに生まれた際に、俺は俺として産まれるだろう。


 おそらく、やるなら今しかない。老いが、思考と、技術を奪う前に。

 失敗すれば、魂が砕け散り俺はただの生きた人形になるだろう。 

 たとえ成功しても、輪廻転生が存在するかの確証すらない。

 分が悪すぎる賭け。

 だが、


「やるしかないだろうな」


 俺にはその選択肢しかない。

 輝かしい未来が、俺の望む道がそこにあるのだ。なのにどうして躊躇うことがあるだろう。

 この道を放棄したとき、魔術師としての俺は死ぬ。


「解放、我が魂」


 魂を操る術式を繰るときに唱える俺の祝詞のりと


「体に宿りし記憶よ、想いよ! 我はその叫びを魂に刻み付ける。術式開始」


 本来、詠唱に意味はない。

 魔術とは魂と脳に魔術式を構築し、世界のルールを塗り替えることで発動する。


 だが、詠唱を口にすることで、想いに指向性が出来る。

 胸の奥が焼ける感覚。脳というパーツにただ存在していただけの情報が、もっと深く刻まれる。脳の情報は脳細胞が死ねば消え去るが、魂に刻み付ければ未来永劫消えないだろう。


 だが、これは魂を傷つけているのと一緒だ。加減を間違えば魂が砕けて俺は消える。

 転生すら許されない完全なる消滅だ。

 幾千、幾万、の命令式が走り続ける。青い、文字列のようなもの……俺のイメージが形となって具現し周囲をくるくると回り始める。

 口から血がこぼれた。魂の傷が肉体へフィードバックしたようだ。

 熱い、ただ熱い、俺と言う存在がどんどん、膨れ上がっていく感覚。

 どうして今まで肉の体に拘ったのだろう?


 魂を弄っていると心底そう思える。

 これこそが魔術師としての正しい姿だったのだ。

 毛穴という毛穴から血が噴き出す。初めてで加減がわからない。それでもけして失敗しないように、己の存在を刻み続けた。


 そしてついに体が限界を迎える。

 意志ではどうしようもない、物理的な限界。

 自分で作った血の海に沈みながら俺はにやけた笑みを浮かべていた。

 成功した。傷ついたが魂は無事だ。確かに俺は己を刻み付けた。

 このままでは確実に、今の俺は死を迎えるだろう。

 だが構わない。これで、俺の考えが間違っていないか確証が取れるのだから。


 ◇


 結果から言うと輪廻転生は成功した。

 一度目の転生は、西暦1972年のアメリカ。

 そこそこの中流家庭の二男として産まれた。

 俺が前世のことを思い出したのは十三の誕生日。どうやら、体が十分に育つまでは脳が魂の情報を受けいれないようだった。


 一度目の転生は、元の人生をなぞるようにして研究に打ち込んだ。

 だが、その人生でどうしようもない寂しさを覚えた。世界が魔術を捨てている。

 科学で世界の闇が照らされ、神秘の潜む場所がなくなった。魔術に出来て、化学で出来ないことが消えていった。

 例えば、燃やすこと全てに生涯を捧げて、様々な魔術道具を使っても魔術師はせいぜい、半径五十メートルを燃やすのが精いっぱいだ。だが、化学はその百倍も千倍も、誰でも使える道具で実現してしまう。


 俺はこの時点で、物理現象における魔術の可能性を捨ててただ精神と魂に注力するようになった。そこだけが魔術の聖域だと信じて。

 そして、五十年生き、新たに得たものを魂に刻んで自ら命を絶った。


 ◇


 二度目は、冗談のような世界だった。

 文明は、中世から近代に差しかかったぐらいだ。

 ゴブリンやオークと言ったモンスターが闊歩し、鎧を着た騎士が街を練り歩き、魔術が一般市民にすら使えて当たり前の世界だった。


 そう、時間ではなく、世界そのものが違う。

 俺は王家に仕える騎士の四男として産まれ、それなりに自由で裕福な暮らしが出来た。

 ここでは十四のときに前世の記憶が戻った。


 そこで気が付いたことがある。

 地球では、何かしらの影響で魔術に制限がかけられている。

 地球では体の外に出た瞬間霧散するはずの魔術が、いくら経っても形を保つ。魔術式を頭に浮かべたときに来るノイズがない。


 この世界は楽しかった。魔術が発展していて知らない情報がいくらでもあった。何よりも実戦の場で魔術を使用できた。

 この世界での俺は輝いていた。魔術は魂に宿る。劣悪な地球の環境で鍛え続けた俺の実力は高く、地位を高め、城に取り上げられ、宮廷魔術師の筆頭になった。


 ここの世界では、個人に依存した固有魔術と、誰でも使える汎用魔術があることを知ることができた。固有魔術は、女神によって与えられる。ファンタジー世界だけあってなんでもありだ。


 汎用魔術は、理屈があるが、固有魔術にはそれがない。俺自身、固有魔術は使うことができても理解は出来ていない。女神によれば人はそれぞれ、固有魔術に特化した魔術回路を持って生まれてくるらしい。汎用魔法はその空容量を利用した真似事にすぎないと。


 そして俺の固有魔術の正体は、自分が望む過去の自分を再現すること。これを使えば、たとえ年老いても全盛期の肉体で戦えたし、前世の俺すら呼び出すことが出来た。

 この世界の最期は、戦場での討ち死にだった。

 最後の気力でここでも魂に記憶を刻んだ。


 ◇


 それからも何度も転生した。平成になった日本、ファンタジーな世界、スチームパンクな世界、西暦2210年のフランス。魔術が自分のうちにしか働かない世界、どう考えてもゲームの中としか思えない世界など様々で合計15回繰り返した。毎回記憶を取り戻すのは13~15才。


 魔術は極まりつつあり、独学の限界を迎え生まれ変わった世界で初めて触れるものに頼らざるを得なくなった俺は、魔術以外の娯楽を求めるようになっていた。

 特に面白かったのは西暦2210年のフランスだ。VRMMOというものが流行っていたのだ。

 他にもこの世界はVR技術を使って、体感時間を引き延ばすという技術が存在した。

 VRの世界にダイブしている間は一秒が1000秒になる。

 俺はその世界で、ひたすらレトロな日本産のアニメやゲームを楽しんだ。もともとの俺は日本生まれだし、一度は平成の日本に生まれてゲームも多少は触っていて懐かしさがあった。それを無限に近い時間で好きなだけ楽しめた。

 その世界では、魔術で得るものはないとひたすら娯楽を貪ったあと、老衰で死んだ。


 ◇


 転生回数が二十回を超えた頃、急にすべてが色あせて見えた。感動が、熱意が消えていく。

 そろそろ終わってもいいと思った。もう、研究は行き詰まり時間さえかければいいというものではなくなっていたのだ。

 これで最後にしようと決めた二十一週目、俺は一人の少女に出会った。


 その少女と出会ったのは、魔王によって支配され文明が荒廃した世界だ。

 少女は美しいハイ・エルフだった。美しい金髪と黒いローブをはためかせ、世界樹で出来た弓を片手に世界を滅ぼす存在に立ち向かっていた。


 どれだけ傷ついても、倒れても、何度も立ち上がり戦い続けた。

 そして、最終決戦。人間が生きていける最後の街が魔王に襲われた。

 少女は生き残った仲間たちと共に、絶望的な戦いに挑んだ。やけくそではなく、針の先ほどの勝利を信じて最善を尽くし足掻き抜く。一人、二人と、仲間が倒れていき、最後の一人になっても戦い続け、最後は魔王と相打ちになった。


 戦いが終わった後、彼女は自分の戦いを見守る民衆を振り返り、笑顔を浮かべてもう大丈夫と言って笑ったのだ。

 死んでもおかしくない傷を負って血を流し、仲間を失った悲しみに耐えながら。

 その少女を見て胸の鼓動が久しぶりに高鳴った。

 そう、俺は知ったんだ。悠久の時で、俺の魂は摩耗し、輝くことはない。だが、輝きを放つ人間を見ることで、俺自身が照らされる。

 その後、ハイ・エルフの少女は二度と魔王が復活しないように旅に出た。俺は、その少女と共に旅をして、やがて寿命で死んだ。


 この転生から俺は変わった。ただの娯楽を貪りながら、魔術を極めるのではなく、輝きを放つ人間を探し、そして傍らでその物語を見守るようになった。

 そして、俺は必要以上に、その時代の俺に干渉することをやめた。


 魂は巡り、31回目。運命の転生が始まる。


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