7-4:最初に手にしたもの
「人間、じゃない?」
言葉の意味が理解できないのか、それとも俺の言うことが信じられないのか?
姉弟二人が揃って同じようなことを呟いた。
「寿命はない。自分の体を好き勝手に弄くり回せる。極端な話、生命である必要もない。その気になれば無限コンテニューもできるし、やろうと思ったことならどんなふざけたことでもやりたい放題だ。これを人間と呼ぶなら空飛ぶスパゲッティモンスターだって人間と呼べる」
少々誇張した言い方をしているが、実際これはやろうと思えばやれる。イデアの領域――つまり「世界改変システム」の一部を手に入れたことにより、その能力をある程度再現可能になっており、それ単体の付加機能として自分を好きなように弄くり回すことは可能である。
但し、人間の精神にタコの体といった変身や有機物から無機物になったりした場合、どれほどの悪影響を及ぼすかは想像するだけでも嫌になる。恐らく俺はずっと人型を維持し続けることだろう。
「本当に永遠に、生き続けることができるの?」
俺が折角説明をしてやったのに反応するのはここだけというのはいただけない。姉のこの反応が少々気になるが、その問には首肯をもって答えてやる。
「姉さん、僕たちの永遠はあるんだよ!」
感極まった声で床を這いずる弟が声を上げた。だからその首をはねてみた。
「……リト?」
俺の行動が予想外過ぎたのか目の前に光景を頭が処理できずに呆然としている。手を振って水の剣を消すとライムを見て死体を指差す。それに頷いたライムは瞬時に弟君の死体を細切れにし、手をサッと振って綺麗サッパリに消し飛ばした。俺はそれを見てうんうんと満足気に頷く。
「リ、ト……?」
「姉弟で永遠でも誓い合ってたわけ? これで叶わなくなったね。おめでとう!」
これでお互い目的が潰されてイーブンになった。後は心からの謝罪と賠償で命だけは助けてやってもよいだろう。その旨を伝えたところ、姉君はゆっくりとこちらを向くと俺に襲いかかってくる。
「殺してやる! 殺してや――」
「じゃあ、殺すわ」
俺が指差すと飛びかかった彼女の周囲に無数の赤い玉が出現する。一瞬にして無数の線に囲まれた姉はその中に飛び込む形となり自ら細切れとなった。
「あー、美人だったし使い道はあったかなー? まあ、いいか。やることいっぱいあるし」
両手を頭の上に体を伸ばす。首を回すとコキコキと小気味の良い音が聞こえた。まずは宝物庫で「物質変換」の調査。それからライムの服を見繕ってお待ちかねのアレと行こう。数日やっていないだけで禁断症状が出かかっているのだから「日本の悪しき文化」などと揶揄されるのも頷ける。
「お父様、こちらはどうなさないますか?」
そう言って俺に抱きついてきたライムの豊かな胸の感触を味わっていると、宙ぶらりんで苦しそうにしている髭のことを思い出す。
「どーすっかなー……ぶっちゃけ変換しても足しにもならんし……」
かと言って殺してやると楽にしてやる気がしていまいちスカッとしない。
「あー、面倒臭いから手足切って放置にするか」
俺がそう言ってライムを撫でると赤い光が髭の両手足を切断。悲鳴をあげようにも呼吸すらまともにできない状態では声を上げることもできず、ジタバタと暴れて血を撒き散らすだけで終わる。
「さて、まずは宝物庫だ。俺の好みの結果になると良いんだが……」
そう言って歩き出すとライムが俺にくっつき、糸が切れたように空中に浮いていた髭がドサリと地面に落ちた。
「……許さん、貴様ら絶対に許さんぞぉぉぉ!」
背中から聞こえてくる声を無視して玉座の間を出ると、デビットがこちらを見ていたので宝物庫の場所を聞いてみた。結果は地下と塔の二箇所あるらしい。「検索」のカードを使ってみたところ三箇所あることが判明。使えない奴である。
まずは一番近い隠し部屋へと向かう。これは大きな部屋――恐らくあの髭の部屋にある隠し扉の先にある小さな一室である。隠し階段もあり、所謂「王家のみが知る隠し通路」になっているのだろう。そして肝心のお宝なのだが、どうやら逃げ出す時のことを考えていたのか量はあまり多くはなかった。
「金貨が10に宝石類がそこそこ……換金できる物もある程度置いているせいで宝物庫と勘違いしたかー」
箱に入った宝飾品を変換してみるが、結果は僅か30ポイント。金貨に至っては10ポイントにしかならなかった。これはどういうことかとその辺にあるものを適当に変換してみたところ、どれも似たりよったりな結果となる。
「うーむー……サンプルが足りないな。もうちょい色々やってみるか」
俺はそう言って部屋を出ると次は地下の宝物庫へと向かう。兵士を何人かポイントに変えてみたが、大体100を少し越えた辺りといまいち参考にならない。まだまだサンプルが足りないと思うべきか?
取り敢えず宝物庫を物色。守っていた兵士のポイントは102ポイントだった。何故あの大臣はあんなに安かったのだろうか?
ともあれ宝物庫の中を物色していると出てくるのは金目の物と各種資料。金貨や宝飾品を変換してみたがあまりポイントにはならない。そこであることを思い付いた。現在のポイントと再現による消費を見比べる。
「あー、そういうことね」
試しに「検索」のカードを「効果再現」で使用してみたところ、消費されたポイントは僅か30という結果に俺は納得がいった。どうやら使用ポイントと獲得ポイントが1/1000になっている模様。そして今の俺のポイント状況がこれ。
ガチャ
LvEX
62,345,666P
全機能解放済み
願いのオーブを交換するために千億ポイントを使用したため減ったのは良いが、桁がしっかりと減っている。600億から6000万という大幅な縮小は大きいが、全て1/1000ならば仕方がない。そう思った矢先、俺は思わず後のお楽しみにしていたガチャを一度だけ回そうとする。
「なんてこった……」
ガチャ、1回1ポイント――つまり値上がりである。しかも倍増している。そもそもポイントに関しては特に変更した覚えはない。となるとイデアもただでは領域をくれてやるつもりはなかったということだろうか?
「ま、これくらいで済んだと思えばまだマシか」
元よりコストパフォーマンスが壊れていた能力だ。そのコストが倍増したところで低コストであることには変わりはない。俺は手にした金目の物を片っ端からポイントに変えていく。結局のところは今まで通りということで良いのだから難しく考える必要はない。おまけに今では何でもポイントに変換可能なのだから、次の願いのオーブまでの道程は今までよりも近いものとなっている。
「さ、次へ行くか」
目ぼしい物を粗方ポイントに変えた俺は最後の宝物庫へと向かう。途中向かって来た兵士の一団の処理をライムに任せ、俺は意気揚々と塔にある宝物庫に足を踏み入れる。あまり広くはない――だが、一目見てここはポイントになるとわかった。
「おー、ないと思ったらこっちにあったか」
ここはマジックアイテムが保管されている場所だったからだ。明らかに普通の剣とは違う飾られた武具や装飾品に俺はニンマリと頬を緩ませた。さあ、ヒャッハータイムのお時間です。
ガチャ
LvEX
76,566,296P
全機能開放済み
宝物庫がさっぱりしたところでなんと1400万ポイントになった。帝国では600億――現価値で6000万は入ったが、国力を考えるなら中々の溜め込みようである。
「うむ、悪くはない」
俺は満足気に頷くと上機嫌にライムの胸を揉む。次はライムの服を調達する予定なのでサイズを確認するために必要なことである。そんなわけで次は衣装部屋へと移動を開始。「検索」に引っかかってくれて本当に良かった。焼いてしまっていたら別の場所で探さなくてはならず手間がかかるところだった。
そんな訳でやって来る兵士や騎士を蹂躙しつつ、城の中を我が物顔で闊歩する。兵士たちの会話からデビットはどうやら逃げ出したらしい。流石は感知能力の持ち主。巻き込まれないようすぐに逃げたのは賢明である。
「というわけでやって来ました衣装部屋。ライムに似合いそうな服を貰っていきましょうねー」
そう言って隅っこで怯えているメイド達を無視して物色開始。「それは姫様の……」とか言っているが、肝心の服はどれもサイズが合っていない。フリーサイズの物はないものかとメイドに尋ねるが何も答えない。
「あ、フリーサイズなんて言っても通じないか……」
俺への態度に目に見えて不機嫌になりだしたライムを宥めながら、メイド達に着れそうな服を見繕わせる。だが、メイド達は動かない。なのでここは「催眠」のカード効果を再現。一人入れば十分かと思ったが、念の為に二人でやらせる。一人残ったのでこちらは変換――121ポイントになった。法則がさっぱりわからない。
「ライム様のスタイルならばこちらが大変良くお似合いです」
「いえ、豊かな胸をしっかりと強調できるこちらが――」
魔法がかかっている物ならばサイズの調整は不要らしいが、それくらいの高級品数は少ないらしい。その代わりと言ってはなんだが、ここにいるメイドは針子としても働いているのでサイズ調整を承ると慎ましい胸を張ってやる気を見せてくれる。
「しまった。そうなると変換は早計だったなぁ……」
というわけでライム用のドレスを初め様々な服を調達。しばしその場に留まることになったが、急ピッチで仕上げてくれたのでそれほど時間は取られなかった。サイズ調整というより「着れない服を着ることができるようにする」という感じの少し弄る程度のだったのでこんなものだろう。
「あ、あとライム用のメイド服を用意して」
待ち時間の間に手の空いた一人に命令しておいたおかげで、ここを出る直前にメイド服を抱えたメイドが息を切らして戻ってくる。それを受け取り他にも使えそうな服がないか最後に確認。スカートやローブ、コートはサイズにそれほど左右されないだろうと適当に鞄に放り込む。これで城での目的は全て果たしたと思われる。
「よし、帰るか――って何処に帰るんだろうな!」
一人で言って一人で笑う。思えばずっと移動してばかりである。一息ついたら拠点を手に入れることも考えるのも悪くはない。俺はライムと共に堂々と城から歩いて出る。立ちはだかる者を皆殺しにし、城内を壊して突き進む。特に意味はなかったが、そういう気分だったので仕方がない。
「まずは落ち着けるところに行くか」
俺はライムにそう言うと抱きしめられて空を飛ぶ。城下町を飛び跳ね、城壁を飛び越えた先にある街道を抜け、小高い丘へとやって来た。悪くない場所だと俺はここで楽しみにしていたガチャを引く。
「さて、記念すべき新ガチャ一発目――」
俺は念じると現れたガチャ玉を手で受け止めた。銅――最低ランクのものだが、ライムはそれを見て頷く。つまりイデアの干渉はない。俺はライムに笑いかけ、中身を確認する。
「……はは、あの時と同じだ」
そう嬉しそうに笑う俺の手の中には、最初に引いた薄桃色の下着と同じものがあった。
(´・ω・`)次回、ライムドレスアップ(予定)