表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/114

7-3:厄災ですが、なにか?

 まずは失血死しないように足元で手足を穴だらけにした少年を回復してやる。銀以上の治癒系のカードは一枚も無いが、今の俺には容易いことだ。手をかざし「ヒール」のカードと同じ効果を発動させると、逆再生するかのように手足に空いた穴が塞がっていく。

「痛みが……ぎゃあ!」

「あ、ごめん。やっぱさっきのナシで」

 俺はそう言って少年の両足を焼き切った。俺は手から伸びた炎の剣を軽く振って消し、少年の傷口から血が流れていないことを確認すると満足そうに頷く。

「ああ、一応な。お前らって俺の目的を妨げた阿呆という扱いだから。簡単に死ねるとは思わない方がいい。若干一名やっちゃったけどな!」

 そう言って俺は笑う。

「あなたは一体何なのよ!?」

「厄災ですが、何か?」

 腕が治ったことで這いずって逃げる弟を助けようと姉が叫び、俺に向かって魔法の矢が――放たれることなく地面に叩きつけられた。

「あ、ごめん。言い忘れてた。俺の許可無く魔法使うとペナルティーあるから。気を付けてね?」

 笑う俺を睨みつける姉に弟が助けを求めるが、残念ながらそいつはしばらく動くことはできないだろう。何せ、さっきの一撃に相当量の魔力を込めたのだ。ペナルティーは使用した魔力の量に比例して大きくなる。ライムが敵に回るという最悪の事態を想定して作ったが、ちゃんと機能しているようで何よりである。

「ああ、ライムはちゃんと許可しているから自由に使えるぞ」

「はい、お父様」

 笑顔で答えるライムを撫でてやると、がっつり見える胸の谷間から服装の問題を思い出す。城で良さそうな物を物色する予定だったのを忘れていた。城を少々焼いてしまったのは失敗だったとカードの選択を間違えたと後悔する。

「貴様! それで勝った気になるのは早いぞ!」

「そう言えばまだいたんだったな。お前の処分はどうするか……」

 俺が髭に相応しい末路を考え始めたところ、ガチャガチャと音を立てて何者かがこちらに向かってやって来る。

「陛下、ご無事ですか!?」

 入ってきたのは如何にも騎士という格好の金髪のイケメン。

「おお、やはり一番に駆けつけるのはお主であったか! 其奴こそが王家を侮辱した大罪人――ええい、何故誰も来ぬ! 誰ぞ此奴の首を取れ!」

 現れたと思った騎士がフッと消えたと思えば、髭が未だに誰も駆けつけないことに苛立つ様を見せる。

この世界に召喚された者には意味不明な光景だろう。

「はっはっは! 面白いな、これ! しかし計算方式が変わったか? それとも算出方法か? まあ、可能性としては考えていたが……入手できるポイントが減ったのはどうにかしないといかんなぁ……」

 騎士一人を装備品ごと丸ごとポイントに変えてもたったの112Pにしかならない。ポイントは今後の活動にも大きく影響を与える。願いのオーブを交換したことで大半を失っている現状、効率良く稼ぐ手段を探す必要がある。

「何なんだ……これ?」

「お、知りたいか?」

 俺は親切にも扉の外のデビットの呟きを拾ってやる。本当のこと言うと喋りたくて仕方なかったので中々良いタイミングだ。後でジュースを奢ってやろう。

「これが、この世界の真実さ」

 ただ短くそう言うと倒れている兵士を何人かポイントに変換する。

「こいつらは――いや、この世界の住人はな、わかりやすく言えば『NPC』だ。ノンプレイヤーキャラ、この世界を改変したシステムが生み出した偽りの世界の住民。それがこいつらの正体だ。俺はそのシステム側になったんでな、こうやって自由にNPCを削除することができる。何せデータが消えてるからな、最初からいない扱いなのさ。だからこんな笑える反応をしてくれる」

 簡単な説明だが理解できたかな、と付け加え笑ってみせる。だが、異世界人である三人は何も言わない。

「おや、理解できない? それじゃもう少し喋るか――」

「何をわけのわからんことを! さっさとそいつを始末しろ! 何のために貴様を生かしてやっていると――」

「人が話してるだろ、遮んな」

 そう言って髭を真っ二つに両断してから後悔する。「あ、やっちまった」と思わず声が出てしまった。仕方なく死蔵している「蘇生」のカードを使用し、髭を生き返らせる。真っ二つでも3秒ルールでOKだ。

「ライム、これを喋れないようにしろ」

 言うや否や髭が喉を掻き毟りながら宙に浮く。「これでよろしいでしょうか?」と尋ねるライムをたっぷりと撫でてやる。

「さ、邪魔者は黙ったので続きだ。どうした? ああ、髭が生き返ったのは幻でも何でもないぞ。死んで間もないんだったら、これくらいは以前の俺でもできたことだ」

「お前、一体何があった?」

 デビットは俺の変わりっぷりに狼狽しているが、さっき説明したことの内容をまだ理解できていないようだ。なのでもう一度言ってやる。

「さっきも言っただろう。『システム側になった』と」

 もっとも、肝心な部分である「能力を一新した」という部分は教えてやらない。そこまで丁寧に教える義理はないからね。ちなみに俺が編集した能力はこのようになっている。


「仮想世界」

ガチャ:従来の物をベースに使いやすさを追求。100連ガチャも可能になった。回数制限は撤廃されたが101回目からは必要ポイントが増加し続ける。

効果再現:所持、未所持に関わりなくカードの効果をポイントを使用して再現できる。但し交換不可対象のカードの効果は再現できない。

等価交換:ガチャから入手可能な物だけではなく、手にした物もポイントを使用して購入できる。スキル「交換」をベースに作成された。

物質変換:イデアによって構築したあらゆる物質を「仮想世界」のエネルギー「ポイント」へと変換する。

ペナルティー:白石亮の知覚範囲内において許可なく魔法を使用した場合、その使用する魔力量に応じて重力を加算する。その際、魔法の行使で発生したエネルギーは全て重力に加えるものとする。


 残念なことに元々持っていたスキルは全て「仮想世界」を作成するためのリソースとなってもらったので、現在の俺の所持スキルはこれ一つとなる。とは言ってもリソース――つまりは領域さえあれば幾らでも拡張可能というおまけ付き。当然ながらポイントさえあれば願いのオーブは交換可能。まさに「世界」を手に入れるにはうってつけの能力である。

 だが、ここで懸念材料が生まれる。それが「魔王」というシステム側の修正プログラム。いや、ウイルスバスターとでも言うべき存在が、俺を排除するために強制的に動かされる可能性が考えられる。それ故に「ペナルティー」という能力も加えた。新たに誕生するという可能性もあるが、常に俺の傍にいるライムを優先して警戒するのは仕方のないことだった。

 どれだけライムが優秀であったとしても、世界を改変できるスペックを持つイデアに対してどこまで抵抗できるか、と考えればこの選択もやむを得ない。それくらいの警戒をしなくてはならないほど、敵は強大なのだ。

「さあ、このクソッタレな世界の真実の続きだ。この世界には元々人類は存在しなかった。だがそんな世界に追放された人間がいた。そいつらは自分達以外に人間が存在しないことを知ってこう考えた。『だったら人類を作ってしまえばよい』とな」

 ちゃんと話について来ることができているかどうかを、三人を見て確認する。どうやらここまでは大丈夫のようだ。

「そうして生み出されたのが『イデア』と呼ばれる完全な人類を創造することを目的としたシステム――これがここにいる人形共を作り、スキルを与えてこの世界を改変した異世界人が召喚される原因となった根源だ。『完全な人類』を創造する? どうやって? サンプルすらまともにないのに? だったら他から持ってくればいい。そうして生み出されたのが勇者召喚だ。人間を演じ続けるお人形共に、本物の人間を与えたのさ!」

 両手を広げ、オーバーアクション気味に笑顔で言うが、次の瞬間にはテンションを下げてトーンダウン。ふざけた調子から一点して真面目な口調で語る。

「……だが、作られたお人形は彼らを争いの道具として用いました。それこそ、使い捨ての道具として。結果、大量に召喚された異世界人の中から、この世界の枠組みから外れてしまった者が現れた。それが『厄災』――この世界のシステムに反旗を翻した者」

 ここで一旦話を止め、何処からともなく取り出したペットボトルからミネラルウォーターを一口飲む。

「今もこの世界には俺を含めて三人の厄災が存在する。だが、俺は他の二人のようにこの世界に対して復讐を誓ったわけではないし、他の召喚された異世界人に対して思うところが『ない』と言えば嘘になるが……そこまで気にしちゃいない。しかし、だ」

 俺は視線を這いずる少年に移すとそちらに向かって歩く。

「同郷という理由で殺された篠瀬葵に関しては問題がある。彼女の持つ『神眼』というスキルにはある特典があってな。先程言ったシステムに干渉が可能な権限があったんだ。これのあるなしで俺は勿論他の厄災の目的達成の道程が大きく変わる」

 そこで発言を一旦止め、這いずる少年を踏みつけると「やってくれたな」と声を低くして囁くように声を出した。

「あ、あんたは! 死んだ人間を生き返せるんだろ! だったら――」

「死んで間もないんだったら、と言っただろう? それにな、この世界で死んだ異世界人は例外なくシステムに取り込まれる。いや、この場合吸収されると言った方が良いのか?」

 三人の顔色が変わった。予想外というよりその可能性を認めなかった者と、そもそも考えつかなかった奴がいるようだ。

「『何で?』って顔するなよ。そもそもこの世界に呼び出された理由を考えろ。むしろそうなるのが当然なんだよ。あ、もしかしてお前らまだ『自分は元の世界に帰れる』と思ってない? 無駄無駄。取り込んで分析するために呼んだんだぞ? 帰すわけないだろー」

「待ってくれ! 帰還手段が見つかったら教えてくれる約束だろ!?」

「だからないって。あったとしても、それは葵ありきのものだからもう無理だ」

 食い下がろうとするデビットをバッサリ切り捨てて姉弟の方を見る。

「さて、これでお前らを俺が殺す理由がわかったかな?」

「待って! それだと私達が死んだら、そのシステムに取り込まれて――」

「そうだよ。でも変化なんてないし、俺には関係ないな」

「スキルを持ってるから役に……」

「立たない。そのスキルはどこのもの? 敵の作ったシステムの恩恵しか使えない味方とかいる意味あんの?」

「だったらそっちの――」

「ああ、ライムは『魔王』だよ。システムの一部を俺と同じように分捕って自分のものにしてる。さっき言ったように俺と同じ『システム側』の存在。次、同列に語ったら殺すからな」

 そうでなくとも殺すけどな、と付け加えて二人を生かすつもりがないことを改めて宣言。当然逃がすつもりもない。

「もう良いか? 俺もさ、お前ら相手に気晴らしをしてから次に行きたいんだ。無駄な抵抗は止めて、苦しんで、泣き喚いて、命乞いして俺を楽しませろ」

「お前……それでも人間かよ!」

 笑って死刑宣告したところ、実につまらないことを言うので「え、違うけど?」と人間であることを否定する。ちゃんと教えたはずなんだが、この少年には少々難しい話だったようだ。だからもう一度だけ教えてやる。俺が一体何者であるか、を――

「俺は厄災。人間なんて辞めちまったよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] えーとつまり、プレイヤー側から運営側になった、もしくは運営側から開発・デバッグツール をぶん取った、という解釈でよろしいか?
[一言] 2年近く放置してて素敵なくらいに更新されてた!生きててよかった!しかしまあ、厄災になった(ばかりだけど)割には思ってたより人(人形)死んでないのが残念。 おかえり!
[一言] 作者様の別作品から来ました。 一気読みしました。 続きをお待ちしております。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ